番外編 そのじゅうに。
河原に着くと、あいつは既にいた。
姿が見えると、あたしはあいつに向かって手を大きく振る。すると、あいつの方からも手を振り返してくれた。
それを見て、嬉しくなったあたしはあいつの元へと一直線にダッシュした。
「今日は随分早かったじゃないの!」
「……まぁな。たまたまだ」
そう言いながら、そっぽを向いた。
……あたしが言うのもなんだけど、こいつって素直じゃないわよね。
その後、いつものようにあたし達は草の上に二人並んで座り、たわいのない話をし始めた。
あたし達には友達と呼べる存在がいなかった。
けれど、話し相手ならいた。
あたしにとって、それがこいつで、こいつにとってはあたしがそうなのだった。
あたしはこいつの名前も知らない。
こいつもあたしの名前を知らない。
互いに知らないことだらけで、分からないことだらけだった。
それでもあたし達は会話をし続けた。
どこに住んでいるだとか、名前は何なのかとか、どうしてあたしと会話をしてくれるのとかは会話の中で一度も聞いたことがなかった。
あたしと会話をしてくれている。
それだけでよかった。
それだけであたしは救われていた。
多分それは、こいつがあたしと似ていたからだろう。
こいつも……話し相手が、自分と似た存在と一緒にいたかったのだろうとあたしは勝手に思った。
「それで昨日は結局、手伝いが出来なくてね……今日、やる羽目になっちゃったのよ」
「……それは大変だな」
「本当、うちのお母さんは怖いんだから……」
「それなら、サボって逃げればいいんじゃないか?」
「駄目よ。そうすると、更に怒るんだから」
「そうか……」
今日も会話は日が暮れるまで続いた。
最後は互いに挨拶し、別々に帰路につく。これもいつも通りのことだった。
明日はこいつとどんな話が出来るだろうとあたしは心を膨らませながら、帰り道を歩いた。
……ああ、そういえば今日、あいつは変なこと言ってたわね。
──いつまでも変わらないものなどありやしない、だったかしら。
あれはどういう意味なのかしらね?




