地獄の門番
瘴気が集まりモンスターになったためか、霧が薄くなり視界が開けてきた。
そして目の前には3階建てのビルほどある大きな獣が唸り声を上げていた。
3つの大きな頭を持った犬のモンスターで、地獄の門番などの二つ名で呼ばれる有名なモンスター『ケルベロス』だった。
某悪魔合体ゲームでは序盤で仲間になって、頼りがいのある仲魔。
そして某魔法少女では関西弁を話す、ぬいぐるみのようなカワイイ守護者として・・・。
ただ残念ながら、このゲームでは魔王城の門番として配置された中ボスになっている。
残念ながら仲間になる事は無い・・・。
しかもケルベロスは強力なモンスターで、3つある頭からそれぞれ違った属性のブレスを放つ。
使われるのは『獄炎』『獄氷』『獄雷』の3種類だ。
動きも体の大きさの割に素早く、更にスキルの一つである『俊足』を使われると、簡単に背後に回られて爪や牙の攻撃を受けてしまう。
なによりも厄介な攻撃が、体力が減少すると使う『遠吠え(強)』だろう。
3つの頭で同時に遠吠えをして自身の攻撃力と素早さと防御力をアップさせて、尚且つプレイヤー側にも確率でスタン効果を与える。なるべくなら使われる前に倒したい厄介な攻撃になっている。
俺は名包丁の1振りを装備して、レイは炎の魔剣を、アマネは水の神刀を、カーラは魔杖を、クリスはリリアが使っていた杖を、アイシャは名包丁のもう1振りを、マコちゃんは空に浮かんで全体を見渡せる位置に、リリアは何やら禍々しい杖を構えて、両脇にはメイド2人と犬1匹のそれぞれが戦闘態勢に入った。
俺達が戦闘態勢に入ると同時にケルベロスが炎のブレス『獄炎』を放つ。
3階程の高い場所から広範囲になって迫りくる炎の壁にはかなりの恐怖感に襲われる。
「主様! 私が!」
「任せた!」
アマネが前に出て巨大なブレスを斬り払う。
剣閃によって切り開かれた炎の隙間に見えたのは魔瘴石だけだった・・・。
そして、視界の端を横切る黒い影・・・。
慌てて影を目で追うと、クリス達に迫るケルベロスの姿が見えた。
「ウォーターウォール!」
「キュイ!」
ガギィィーン!
水で造られたとは思わない程の堅い音が響き、クリスの展開する水の壁が、ケルベロスの爪攻撃を防ぐ。
俺達から少し離れてリリアとカーラを守っていたクリス達には、ケルベロスの動きが見えており、すでに迎撃の準備に入っていた。
この防御を見て今まで確信はなかったが、やはりマコちゃんが仲間になってから、クリスの魔法がかなり強くなっていたと思う。
魔女の城にいた魔動メイドとかにも十分通用していたし、何より今の攻撃を防ぐ程の力を持っていなかったはずだ。
俺と出会った時には中級の冒険者ぐらいの強さしかなく、上級ダンジョンに入るのは到底無理なレベルだった。
まあ、俺達といて強敵の戦闘でレベルアップした可能性もあるが、それにしては成長速度が速すぎる気がする。
考えられるのはマコちゃんに能力強化の補助効果があるのだろう。しかも、かなり強力な・・・。
だが、この状況ではかなりありがたい事だ。
これ程素早く動ける敵の攻撃を防げると、俺達の立ち回りが楽になる。
ただ、完全に任せると思わぬ攻撃で危険な状況になりかねないので注意はしておく。
「ハッ!」
爪攻撃を水の壁に弾かれて、怯んだケルベロスにアイシャは斬り込む。
切れ味の鋭い包丁はケルベロスの左足を大きく切り裂く。
「ギャワン!」
攻撃を受けて痛そうな声を上げて、足から血を流しながら後ろに飛び退き距離を空ける。
どうやらアイシャもクリス同様に能力値が、かなり上がっているように感じた。
この結論からすると、マコちゃんって実はスゴイ? って事になる。
まあこの状況では、かなり助かっているのでありがたい。
ケルベロスにできた隙を見逃さずに、レイは魔剣の炎を放つ。
真ん中の頭に向かって飛んでいく白い炎に、ケルベロスは反応して獄炎を放つ。
見た目では炎の壁に吸い込まれて消えてしまったように見えたが、そんな温い炎で防げるほど魔剣の力は易しくない。
ボシュ・・・
ドゥーン・・・
何かが弾ける音にすぐ後に、大きな物が倒れる音が響いてきた。
その正体はもちろんケルベロスだった。
真ん中の頭の半分を吹き飛ばされて、地面に倒れ込む地獄の門番。
ピクリとも動かないその様子は・・・。
「やったか・・・?」
などとフラグを建ててみるが、ただ言ってみたかっただけなので、戦闘態勢を維持したまま様子を窺う。
油断はしませんよ、流石に・・・。
案の定やって無いケルベロスは苦しそうに立ち上がる。
頭の半分無くなった姿を見ていると、かなりグロい・・・。
あの状態で生きているのが不思議だが、よくあるモンスターの核を壊さないと倒せない! みたいな感じか?




