魔瘴石
「ふぅ・・・」
小さくため息をついて、先ほどの出来事をなるべく思い出さないようにしていく・・・。
それから少しの間、元モンスターハウスで休憩を取った。
某不思議ダンジョンでは長時間滞在すると、強制的に次の階層へ移動させられるが、ここはそんなルールは存在しないのでゆっくりできる。
だからと言ってもそんなに長い時間居るつもりは無い。
今はメイドと犬が魔瘴石の場所を探すのに、周囲を歩いているのを見守っていた。
ただ大事な作業をしているのだが、どう見てもメイドが犬の散歩をしているようにしか見えない・・・。
ワン!
と鳴いたら、メイドが止まって確認する。
この作業を繰り返していた。
だが、俺は一つの方向が凄く気になっていた。
さっきまであった霧が、また少しずつ流れてきていた。
案の定、そこに散歩中のメイドさん達が行くと今までとは違う反応を示した。
「どうやら~ あっちみたいですね~」
「あ~ うん。でもあっちから、さっきの霧が出てきているから怪しくなかったか?」
「霧? ですか?」
「そう、あっちの方から流れているだろ?」
「いえ、何も見えませんが・・・?」
「え・・・?」
周りを見ると全員が、俺の方を見ていた
どうやら俺以外には霧が見えないようだった・・・。どういう事だ?
「なるほど~ アキラさんは~ 瘴気が見えるみたいですね~」
「え? 瘴気なの? あの霧? だってここに飛ばされた時にもあったよな?」
「特殊なモンスターが多くいる所には、霧のような物が見えるらしいですけど・・・ 私も見たのは初めてなので・・・」
「なるほど・・・ そうなのか・・・」
クリスが説明をしてくれるが、本か何かで知っただけで確証は無さそうだった。
まあ、魔瘴石の近くに行く事が殆ど無いから、正確な情報として伝わるのには無理がありそうだな・・・。
俺もゲームをプレイしていた時には、魔瘴石なんて物は無かったし、瘴気という言葉は出てきたが、誰も説明をしてくれなかった。
画面には霧っぽいのが普通に出ていたし・・・。
モンスターの名前が判ったりする、プレイヤー特権みたいな物かな・・・?
「それで瘴気が見えて何か有利な点ってあるのか?」
「モンスターが沢山いる所が分かるとか、魔瘴石がある方向が分かるとか・・・ ですかね?」
「モンスターと言っても特殊なのだろ? 魔瘴石も封印とか難しそうだし・・・ もしかして、あんまり役に立たない能力なのか?」
「・・・そうですね」
俺の特殊能力の、使い道の無さをあっさりと肯定したカーラだった・・・。
まぁ、いいけど・・・。
収穫? があった休憩をを終えて、俺達はメイドさん達が見つけた魔瘴石がある方へ向かう事にした。
魔瘴石へ近付くに連れて、俺以外の全員が霧を認識していった。
「だんだん霧が濃くなってきましたね・・・」
「はい・・・ これが瘴気なんですね・・・」
「そうですね~♪」
瘴気が濃くなっていくのを、目に見えて感じているクリスとアイシャは不安気な表情を浮かべていたが、この状況に慣れているのであろう、リリアは軽く返事をしていた。
レイとアマネとカーラは流石に歴戦? の貫禄だろうか、余裕のある表情をしていた。
霧の中をしばらく進むと開けた場所に出た。
霧の濃さはさっきまでと変わらず少し先が見にくいだけだが、肌に感じる空気が変わったのを感じた。
蜘蛛の巣を引っ掛けた時の様に、肌に張り付く様な不快感を全身で感じている。
そして、少し見にくい先にあるのは、大きな灯篭のような石で造られた人工物だった。
「あれが魔瘴石なのか?」
「はい~ そうです~」
リリアに問いかけると肯定の言葉が返ってきた。
返事を貰わなくても霧のような瘴気が、灯篭から溢れているので一目瞭然なのだが一応確認をしておく。
「みなさ~ん 頑張ってくださいね~」
封印の力を残すために今回の戦闘はリリア抜きで行う。
まあさっきの召喚魔法MPを使った影響が大きいのだが・・・。
ちなみにカーラも力の補充ができていないので、サポート程度の魔法しか使えない。
なので戦力になるのは、俺とレイとアマネとクリスとアイシャとマコちゃんの4人と1匹になっている。
人数的には少ないが、戦闘力としてはかなりの強さを持っているので、このメンバーで苦戦する事はまず無いだろう。
そうこうしている内に瘴気が集まり、モンスターが出現する。
さっきまで居たモンスターハウスの様に、質より量といった感じにザコモンスターが大量に出現するが、俺達の敵では無く、サクサクと片付けられていく。
殆どのモンスターを俺の全体魔法で片付けていたが、急にモンスターの出現が止まる。
全てのモンスターを退治して、封印のタイミングかと思ったが、漂っていた瘴気が一か所に集まるのが見えた。
そこを凝視すると、出現したのは今までよりも遥かに強力なモンスターが居た。
俺の目に映ったのは『ケルベロス』というモンスターだった。




