魔杖カドゥケウス②
「・・・・さん」
「・・・」
「・・・アキラさん」
「・・・?」
「ササキアキラさん」
「はい!」
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもありません」
「そうですか? それでは、この会社を選んだ志望動機を聞かせてもらいます。1番端の方からお願いします」
そうだった・・・ 俺はこの会社の面接に来ていたんだった・・・ それなのに注意されるとは・・・ 他の人に差をつけられた気がする・・・。
それより・・・ この企業は何の職種だっけ? IT? 建設? TV? 製造? 何だっけ・・・?
これはヤバイな・・・ 度忘れしているようだ・・・ 俺の前に答える人の回答を聞いて思い出そう・・・。
「御社の制作したテレビ番組を見て・・・・・」
お! テレビ関係か?
「御社の建てたビルのデザインに・・・・・」
あれ? 建設・・・ か?
「御社の作るお菓子を子供の頃から・・・・・」
お菓子・・・ 製造?
「御社が家から近いから・・・・・」
家の近所・・・? って! そんな回答無いだろ!
「それでは、ササキアキラさん。お願いします」
「御社の多様な事業展開の・・・・・・」
うん。 なかなかイケる気がする回答だ。何の業種か結局判らなかったが、万能な回答だろう・・・。
「素晴らしい志望動機ですね! 特にアキラさんは良いですね」
おお! 好感触だ!
「でも、うちはメガネ屋しか、してないけどね!」
「は? ・・・いえ、すみません」
どういう事だ? 俺の前に答えた人は、バラバラな回答で一つもメガネの話なんかしていないぞ・・・?
つ 次の質問で挽回しないと・・・。
「では、次に出勤途中で会社用の携帯電話を忘れました。どうしますか? 1番端の方からお願いします」
これは・・・ 取りに帰るか? 会社に行って謝るかのどっちかだろう?
「家に電話して持ってきてもらいます」
まあ、持ってきてくれる人がいるなら、アリかな?
「もう一台もらいます」
え・・・?
「何処でも扉を使って、取りに帰ります」
は? ・・・どゆこと? ど○えモン?
「それでは、ササキアキラさん。お願いします」
「会社の方に連絡を入れて、取りに帰ります」
これなら大丈夫だろう・・・。
「素晴らしい回答ですね! 特にアキラさんは良いですね」
おお! 今回は好感触だ!
「でも、携帯の支給はしませんけどね」
じゃあ、なんで聞いたし!
・・・そんなこんなで、珍解答が続いたが、まともな事を言っていたのは俺だけだった。
「これで面接は終わります」
「「ありがとうございました」」
「それでは採用する人は・・・」
え? いきなり・・・?
「ササキさん以外の三人です」
「やったー!」
「ありがとう!」
「流石オレ!」
「え・・・」
「ササキさんも良かったんですけど、彼等の方が・・・」
「面接官さん、ありがとネ! お父さんに連絡しておくから!」
「よろしくね!」
「じゃあね~!」
「そういう訳だから、来年にまた来てね!」
完全に出来レースじゃないか! しかもコネ有りの人が既に決まっていたなんて! あんな回答で合格って! クソッ!!!
「・・・さん」
「!?」
「アキラさん」
「誰だ! こんな時に!」
「どうかしました? 大声で・・・」
「いえ・・・」
「アキラさん!」
「何だ! 一体誰だ!」
「おきろ~~~~~~!」
「痛~~~~~!」
突然俺の頭に衝撃が走った。まるで鈍器で突然殴られたような痛さだった・・・。
あまりの痛さに目をつぶっていたが、目を開けると・・・
豪華な装飾品が置かれている、大きな広間だった。所々焦げているようだが?
しかも、綺麗な女の人が、一杯いる・・・。空飛ぶクジラも・・・。
アレ? この女の人は、知っている人達だ・・・。
「しっかりしろ~~~!」
バシィ!!
「ぶはっ!」
今度は頬に痛みを感じた。どうやら平手打ちを喰らったようだった。
それもカーラに・・・。
「もう一回!」
「わ わ わ、もう大丈夫だ! 大丈夫! 正気に戻った!」
「チッ・・・」
今、舌打ちしなかったか・・・?
「良かった・・・ 正気に戻ったんですね!」
やっぱり気のせいだったんだろう・・・。笑顔でカーラが俺に話しかけてきた。
「一体、アレは何なんだ?」
「アレは、古代魔法の『心的外傷の瞳』です」
「心的外傷の・・・ 瞳?」
「はい、そうです。対象者の心のキズを掘り起こす魔法です」
「それでか・・・ 心的外傷=トラウマって事か・・・ 嫌な魔法だな」
「うなされていたんですが、そんなに酷い事だったんですか?」
「まあ・・・ そうだな・・・。って! それより防ぐ方法はあるのか?」
「見なかったら大丈夫です!」
「あっ そう・・・」
対処方法は簡単なんだから、最初に説明してくれよ・・・。
嫌な思い出が蘇ってしまったじゃないか・・・。
まあ、本当はもっと軽い内容だった気がするが、しばらく悪夢を見てどんどん内容が悪くなっていったからな・・・。
っと、それより戦闘はどうなったんだ?
俺の傍にはカーラとアイシャが居て、魔女の方を見るとレイが魔法を斬っているのが見えた。そして、俺の上にはマコちゃんが浮かんで、バリアを張っていた。だが、俺の後ろ側には結構深い傷を負ったアマネと、それを治療しているクリスが居た・・・。
「アマネ! 大丈夫か!? フルリカバリー!」
傷ついているアマネに回復魔法をかける。
「主様。ありがとうございます」
「いや・・・ そんな事より大丈夫か?」
「はい」
「アマネさんは、突然意識を失ったアキラさんを助けるのに、魔法の弾幕の中を駆け抜けて行きましたから・・・」
どうやら俺を助けるのに無茶をしたようだった・・・。
「ゴメンな・・・」
「いえ、主様を助けるためですから」
「・・・ありがとう」
そう言って、アマネをギュッ!っと抱きしめる。
「アキラさん・・・ あの魔女は、彼女達二人の力を使わないと倒せませんよ」
「分かってる・・・」
カーラの言葉の意味は分かるが、その力を使っていいのか、まだ決心が鈍っている・・・。
「大丈夫ですよ・・・ 二人ともアキラさんを信じていますから」
クリスとアイシャの方を見ていた俺に、カーラは優しく微笑みながら言った・・・。
「そうか・・・ それも占いか?」
「さあ、どうでしょう♪」
カーラの言葉を信じてみる事にしよう。
クリスとアイシャとは、旅をして信頼できる仲になっているし、二人の性格からしても人を差別したりするような、卑怯な性格をしていない事は分かっているからな・・・。
「レイ! アマネ! 全力で行くぞ! 力を貸してくれ!」
「「はい!」」
そう言って俺は傍に来た二人の手から、魔剣と神刀を受け取った・・・。




