魔杖カドゥケウス①
俺達が転送された場所は・・・
「あれ? ここは同じ所ですか? 転送されたようでしたが・・・」
クリスは辺りを見回していた。
「いえ、同じように見えますが、ここは少し空間を隔てた場所になりますよ♪」
「カーラさん! 一体どういう事ですか!」
「アキラさん・・・ そんなに怒らないでください。ここは貴方の望む場所ですよ♪」
そう言ってカーラは玉座の方を指差した。
そこにあったのは、豪華な装飾が施された杖を持った一つの石像が立っていた。
恐らくあれが転送される前にカーラが言っていた、魔杖カドゥケウスなのだろう・・・。
確かにここは俺達三人の望む場所だったが、一つの問題があった。
ここに来たメンバーは俺とレイとアマネ、そしてクリスとアイシャとマコちゃんとカーラだった。カーラは何か関係者っぽい事を言っていたので良いとしても、クリスとアイシャとマコちゃんはちょっと遠慮して欲しかった・・・。
何故なら前回のガーディアンと戦闘した時には、魔剣レーヴァテインの全力を使って何とか勝った感じが強い。なので今回もレイとアマネの全力で戦わないと勝てないかもしれない。そうなると、クリスとアイシャに魔武器の秘密と、レイとアイシャが人とは違う存在という事がばれてしまうだろう・・・。
そうなった時に今までと同じ関係でいられるとは思えない・・・。
もしかしたら、俺達とはもう関わりを持たなくなるかもしれないだろう・・・。
「アキラさん」
「何だい、クリスさん・・・」
「いくつか・・・ 聞きたい事がありますが、あの杖を手に入れてからですね?」
「そうだな・・・ ただ、あの杖を守るガーディアンは、さっきのボスより遥かに強いと思う。だから、全力で防御に徹してくれ」
「そんなに強いのですか?」
「ああ・・・ 前に同じようなガーディアンと戦った時には、かなり危なかったからな・・・」
「・・・アキラさんがそう言うのなら、そうなのでしょう。私たちは足手まといにならない様に全力を尽くしましょう」
「はい、クリス様・・・」
「キュイ!」
「は~い♪」
「いや・・・ カーラさん。アンタは大丈夫なんじゃないのか?」
「失礼ですね! 私も彼女にとっては、攻撃対象ですから守ってくださいよ~!」
「そうなの? てっきりアッチ側のセリフだったから、大丈夫かと思ったけど?」
「もう・・・ 私が死ぬと、あの杖が壊れてゲームオーバーになりますよ・・・」
「え!? ちょっ! それって・・・」
「アキラさん、来ますよ!」
カーラがそう言うと、石像の瞳が輝きだした・・・。
『神の力の一端を求めし者よ! 力を求めるならば証を見せよ! 強き力を! 強き心を!』
以前聞いた事のあるセリフを、石像が言い放った。
多分ゲームでよくあるテンプレなのだろう・・・。
石像は瞳の光が収まった後、まるで本物の人間のような姿になった。
髪は金色で瞳はネコのようだった。衣服はカーラが占いをして時のような典型的な魔法使いの恰好をしていた。
「アキラさん! 彼女はこの世界のほぼ全ての魔法を使います。特に防ぎ難い精神魔法に気を付けてください!」
「わかった!」
そう言って、一気に魔女の懐に入る。魔法使いなだけあって動きは、やや鈍い・・・
ギィィィン!
俺の放った居合抜きが当たる直前に、防御膜が現れて甲高い音を立てた・・・。
「完全に防いだ!? クソッ・・・ サンダーバレット!」
ポヒュポヒュポヒュ・・・
続いて至近距離で放った魔法も、何かのシールドに阻まれて消えていった・・・。
「ちょ! それ反則だろ!」
思わず大きな声を上げてしまった。
「アキラさん! 彼女は、ほぼ完全な魔法と物理のシールドを持ってます!」
「今、確かめたよ!」
俺の全力の居合抜きと、至近距離で放った上級雷魔法を完全に防がれたのだ。物理ではこれ以上の攻撃はアマネの力を使った攻撃しかない。魔法はさっき手に入れた杖の魔法が、現状では最強の魔法になっている。
ただ、アマネは俺より能力値が低いので、魔女の魔法が邪魔をして魔女の傍まで接近できていない。どうやら避けるだけて精一杯のようだった。まあ、避けれるだけで凄い事なのだが・・・。
魔女の魔法は激しく、クリスとアイシャとカーラは、マコちゃんが造るシールドに入り、レイが魔法を斬り落として直撃を防いでいた。
俺は仕方なく紅炎の杖を手に持って魔法を唱える。
初めての殲滅魔法を、ボス戦で使うのか・・・。
効果を確認してからが良かったが、そんな事を言っている状況でも無い。
『バーストフレア!』
杖の魔石が紅く輝き先端から赤い小さな玉が生まれ、次第に大きくなり色も紅から白っぽくなっていく。そしてバスケットボールほどの大きさになった時には小型の太陽の様な姿だった。玉からは立ち上るプロミネンスがいくつも見えた。小型太陽が安定すると、杖から離れて魔女の方へ飛んでいく。魔女と俺の中間程まで進むと、小型太陽の周りに更に小さな太陽が無数に出現し、一気に弾け飛んだ。一瞬にして俺の目の前は爆炎に包まれて、特殊な魔法で保護されていた玉座の間にある調度品を溶かしてしまった。ただ、俺達の方には全く熱が伝わる事が無いようで、全然熱くなかった。
「やった・・・ か?」
あまりに派手な魔法が目の前に展開されて、思わずつぶやいてしまった。
この状況で一番言ってはいけないセリフを・・・。
その瞬間に目の前にあった凄まじい炎が、巨大な竜巻に飲み込まれていくのが見えた。
「アキラさん! 『カオストルネード』です!」
カーラの声が聞えた。
カオストルネードはバーストフレアなどと同じ殲滅魔法になっている。全ての物を巻き上げて混沌に飛ばしてしまう魔法だ。
その竜巻によって、俺の放った魔法は全て飲み込まれてしまった。そして、完全に炎を飲み込んだ竜巻は消えていった。どうやら完全に相殺して両方の魔法が消滅したようだった。
一瞬の出来事だったが、あまりの事で俺の注意が魔女から逸れた・・・。
「アキラさん! 精神魔法が来ます!」
カーラの声に反応して魔女の方を見ると、黒い玉が浮いていた。
その玉は、俺の方を向いたあと、瞼を開けるように開き、俺を見た!
「アキラさん! それ見ちゃダメ!!」
カーラの叫び声が聞こえたが、俺の意識は暗い闇に落ちていった・・・




