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山小屋

 山小屋へ到着した俺達は早速中へ入るために、扉を開けるがあまりの状況に呆然としてしまった。

 中では十人ほどの人が怪我をして、横になっているようだった。傷の手当てをしている人達も怪我を負っている。怪我の度合いも酷い人は全身が包帯で覆われていて、しかも血が滲んでいる人や、腕や足などの欠損がある人もいた。

 戦争映画などで見る、野戦病院のような状況だった。映像ではなく実際に見ると、凄い衝撃と恐怖感に襲われる・・・。咄嗟の事に、安心と平和の日本育ちの俺は、ここから逃げ出したい衝動に駆られるが、必死で抑え込む。

 今の俺には救う力があるはずだ! と心で叫ぶ! 


「す すまないが、あまっている傷薬か、回復魔法の余裕がある人はいないか?」

 手当てをしている一人の男が俺達に気付き、話しかけて来た。

 その口調はかなり逼迫した様子だった。

 無理もないだろう、この状況でゆっくりできる訳が無い。

 ただ、余裕があるかと聞いているのは、相手が冒険者で断られる可能性があるからだろう。もしかしたら俺達より前に来た冒険者に断られていたのかもしれない・・・。


「俺が回復しよう」

「すまない・・・」

 話し掛けて来た男は、神にでも祈るように感謝の言葉を述べた。


『フルリカバリー』

 横になっている重症者から、全快回復魔法をかけていく。

 幸い死亡者は居なかったようで、この山小屋にいる全員が回復した。

 失った部分も再生し、回復した皆が喜んでいた。

 何度も何度も感謝の言葉を受けて、皆が落ち着いてくるのをしばらく待っていた。



「一体なんでこんな状況になっていたんだ?」

 皆が落ち着いてきた頃を見計らって、声を掛けた。


「実は・・・・・・」

 怪我をした冒険者の中でベテランそうな男が話を始めた。

 どうやら、山道を登っていて、後半に差し掛かった所、俺達と同じように上空からボンバーロックの爆撃があった。今まではファイヤーカー無視して進む事が普通になっていたので、上空の監視をしていなかった所に奇襲されて、壊滅状態に追い込まれてしまった。何とか回復薬と回復魔法で山小屋まで辿り着いたが、途中で薬と魔法をほぼ使い切って、回復する術が無くなってしまいここで待機して、登って来る他の冒険者を待っていた。ただ、ここに辿り着いた冒険者は、全員ギリギリで到着したため、回復する事が出来ずにどんどん人数だけが増えていった。という事のようだ。


「なるほど・・・ 確かに、あの攻撃は厳しいな・・・。しかし、こんな事って今までもあったのか?」

「いや、こんな話は聞いた事も無いし、先週来た時は殆ど攻撃を喰らわずに往復できた場所だ」

 まあ、確かに魔女の城は上級レベルだが、この山道は中級レベルのダンジョンぐらいだから、そこまでの難しさは無いはずなんだよな・・・。


「それで、これからどうするんだ?」

「ああ、とりあえず一旦街へ戻るつもりだが、まだMPが回復していないし回復薬も切れているから、もう少ししてから、全員で下山するつもりなんだが・・・」

 言葉の最後の方が小さくなっていった。無理もないだろう、下山中に同じ状況になったら、怪我人を抱えて逃げる事は難しくなる。速度を落として怪我人を連れて行くと、敵の攻撃を余計に浴びてしまう。そうすると王都までの草原を突破する余力が無くなって、全滅する危険がある。そのため、怪我人が出たら囮としてその場に残して、先へ進まなければならないだろう・・・。

 俺達が魔女の城を攻略するまで待ってもらっても良いのだが、時間が経つと更に冒険者が登って来て、怪我人が増える事になるだろう。下手をすれば怪我では済まなく、死人が出る危険もある。


「ん~・・・ アンタ達明日の朝に下山しないか?」

「それは無理だ!」

「俺がある程度のモンスターを倒すから、大丈夫だと思うが? それに、この状況を早く冒険者ギルドに報告した方が良いだろう。このままだと、更に被害が広がりそうだ・・・」

「本当にそんな事が出来るのか?」

「ああ、任せてくれ。信用できなければ、俺達が帰って来るのを待ってから下山すればいい」

「帰ってくる? まさか・・・ この先へ進むのか?」

「それが目的だからな」

「そこまでの実力があるのか・・・。分かった、アンタを信じよう!」

 俺達の実力をある程度、把握した男は全員に明日の下山を告げて仕度を整えだした。

 冒険者達は山小屋の一角を俺達に提供してくれて、休息を取る事ができた。

 そして、夜が明けて出発の朝が来た。



「本当にいいのか? 回復薬までもらって・・・」

「ああ、この前買いすぎたからな。遠慮なく使ってくれ」

「すまない。恩に着る」

「さて・・・ 出発の前にモンスターを倒さないとな・・・」

「途中まで一緒に来てくれるのか?」

「いや、ちょっと大きな魔法で片付ける」

「魔法?」

「ああ、少し驚くだろうが、安心してくれ」

 そう言って俺は袋から、龍波の杖を取り出して魔法を唱える。

 巨大な津波は山を下り、敵を全て飲み込んで行った。しばらく見ていると山を下った津波は眼下に広がる草原も進んで行ったようだ。これならモンスターとエンカウントする危険がかなり少なくなっただろう。

 そう思い振り返ると、冒険者達は驚いた表情のまま固まっていた。

 うん、まあ、そうだろう・・・。クリスとアイシャも同じ顔をしていたからな・・・。


「これでかなりのモンスターを倒せたと思うが、用心して下山してくれ」

「ああ・・・ ありがとう・・・」

「あ~・・・ 少し落ち着いてから出発した方が良さそうだな・・・」

 5分程経って冒険者達が下山を開始するのを見送ってから、俺達も出発した。

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