マコちゃんの魔法
日が昇って少し経った頃に目を覚ました。
俺の両隣にはレイとアマネが眠っている。
俺達の部屋のベッドはかなり大きく三人で寝ていても、全然余裕があるほどのサイズだ。
ベッドの上でゴロゴロしていると、二人が目を覚ましたので、身支度を整えて1階へ降りて行った。
リビングの扉の前でキッチンの方を見ると、物音が聞こえてくるのでルーシーとミラが朝食の準備をしてくれているようだった。
「アキラ様、レイ様、アマネ様、おはようございます」
「おはよう、ミラ」
「ミラさん、おはようございます」
「おはようございます」
リビングに入る前にダイニングから出てきたミラと、挨拶を交わしてから部屋に入って行った。
リビングへ入ってしばらくするとクリスとアイシャとマコちゃんが、その後にライアス一家が、最後にカーラが起きてきて、少し話をしていると朝食の時間となった。
昨日と同じように美味しい食事に舌鼓を打ちながら、正午の少し前までゆっくりと過ごした。
「アキラ様、そろそろお時間です」
「あ! もうそんな時間か・・・」
準備は昨日の内に終わっているので、防具を装備して馬車を待つだけだ。
それぞれが部屋に行って着替えを済ませて玄関に降りてきた。
クリスとアイシャはいつもの装備で、俺達はこの街で購入したドラゴン一式になっている。カーラはレイが最初着ていた服と同じような、占い師の恰好をしていた。占いの時に着ればいいのに、今着るのか・・・。
「ん? ちょっと待てよ・・・ カーラさんは、ソーン村で占いをしていた事ないかな?」
「ありますよ。え~と・・・・・・ 確か・・・ 3か月前まで、1年ほど占いをしてました」
「その恰好ですよね?」
「そうですね、その間に新米冒険者さんのお手伝いもしてました」
「なるほど・・・」
「何かありました?」
「ああ、いや、どこかの冒険者がそんな事を言っていたから・・・・」
「そう・・・ ですか?」
なるほど、どうやらゲーム開始時の占い師はカーラのようだな。しかしゲーム中に、この街で会った事はないのだが・・・・ そこまで重要キャラでは無いという事なのか? まあいいか、今ではゲームとはかなり違ってきているから、俺にも展開が読めないから、そこまで気にしても仕方が無い。
「アキラ様、馬車が到着しました」
「それじゃあ、行くか!」
「「はい」」
俺の号令に全員が答えた。
「ライアスさん、行ってきます。もう少しゆっくりしていってください」
「いや、家主が居ない時にそんな事はできないよ。まあ、管理は彼女達に任せておけば問題無いから、安心して、冒険をして来たらいいさ」
「はい、薬草などの栽培の準備も済ませておきますので、この家の事は心配なさらず、無事にお帰りください」
「ルーシーとミラの事は信頼しているから、心配はしていないですよ」
「ありがとうございます」
「あの! ルーシーさん」
「はい、カーラさん。何でしょうか?」
「庭に生えている草で、赤い花と紫の葉の草は残しておいてください。それは珍しい薬草なので、後で役に立つはずです」
「そうなのですか? 私は見た事が無いのですが・・・」
「帰ってから詳しくお話しますので、お願いします」
「他の草は大丈夫ですか?」
「他のはただの雑草のようなので大丈夫です」
「わかりました。お任せください」
珍しい薬草なんかあったのか? 道具として手に持つと何か分かるが、生えている状態だとただの草にしか見えないからな・・・。まあ、よく分からないが栽培は急ぎでは無いしいいか。
一時の別れの挨拶を交わして俺達は、馬車に乗ってこの街の東の『ムート山脈』を目指した。
ムート山脈の麓には馬車で3時間ほど走って到着した。
特に問題無く、モンスターの襲撃も無かった。
俺達を降ろした馬車は帰ってもらった。このまま居てもモンスターに狙われるだけだし、いつ戻ってくるか分からないから、帰りは徒歩で帰る事にした。少し苦戦しても、クリスの調査には間に合うはずだ。
山の麓から少し登った所にある、山小屋が今日の宿となる。
山小屋までは岩がゴロゴロと転がっている、山道を登っていかなければならない。
当然山道にはモンスターも出現する。山小屋までは『ロックゴーレム』『ファイヤーカー』『ボンバーロック』『アースリザード』の4匹が出現する。
ロックゴーレムとファイヤーカーは以前のモンスターと同じで、ボンバーロックは大玉転がしの大玉程の大きさで、ある程度攻撃をすると自爆して、止めを刺すと自爆する。厄介なモンスターになっている。まあ、爆○岩って感じだな。流石に呪文ではないから、即死はしないが爆発範囲が広いので結構なダメージを負う事がある。なので接近戦は極力しないように戦闘をしなくてはならない。
アースリザードは大型犬程の大きさだが、普段は地面に潜っていてどこにいるか見つける事が困難になっている。そして、人が通り過ぎた後に背後からガブッ! と急所に噛みついて致命傷を負わせる厄介なモンスターになっている。
そこで、山小屋までは俺が先頭、2番目がクリス、3番目がレイ、4番目がカーラ、5番目がアイシャ、最後がアマネの順番で、分担して周囲を警戒しながら登る事にした。
基本的に俺が敵を見つけて倒す。背後などの不意打ちには俺以外が注意をして、全員で対処する。上空のファイヤーカーは無視して、中央にいるレイがその様子を警戒するといったフォーメーションで進んで、カーラは戦闘が苦手らしいので戦闘には参加しない事にした。
作戦が決まって登り始めると、ロックゴーレムが居たが俺の魔法でさっさっと倒しておく。しばらく進むと上空にファイヤーカーが集まって来るが、作戦通りに無視して進んで行く。更に進んで行くと俺の右前方の壁にアースリザードの名前が見えた。どうやら壁の中に潜んでいるようだった。壁の中にいると分からないかと思ったが、そうでも無いようだった。
俺は先制攻撃でファイヤーランスを3本壁に突き刺した。3秒ほどすると、炎で焼かれて瀕死のアースリザードが壁から現れて俺に向かって来たので、止めの一撃のファイヤーランスを放って撃退する。
特に問題無く山道を2/3程進んだ頃だった。
「順調に進んでいますね」
「そうだな、モンスターの数もそんなに多くないし予定より早く着けるかもな」
「それは、アキラさんのお蔭です。まさか、アースリザードが潜んでいる場所が分かるなんて、聞いた事がありませんから」
「まあ、俺も何となく分かる程度だから、警戒はしておいてくれ」
実際は完璧に見えているのだが、説明するにもどう説明していいのか分からない・・・。正直に言える訳ないしな・・・。
「それにしても、ボンバーロックは一回も出てこないな?」
「そうですね、ここでは一番厄介なモンスターなので、出てこないに越した事は無いのですが・・・」
「それもそうだな」
「ご主人様! 上のモンスターの様子が少しおかしいです!」
「え!」
レイの声で上空を飛んでいるファイヤーカーを見上げると、さっきまでと少し様子が違っているようだった。カーカーと旋回して飛んでいたのが、ガーガーと怒っているように不規則な飛び方をしている。
「そろそろ倒した方が良さそうだな・・・」
「そうです・・・・ な なんですか! あれは!」
「!?」
クリスが驚いて見ている方を見ると、10羽ほどのファイヤーカーがボンバーロックを足で掴んで飛んでいるのだ。しかも、こっちへ向かって・・・。
そんな爆撃機みたいな真似をするのか!?
「とりあえず、魔法で一掃する!」
俺は龍波の杖を袋から取り出してタイダルウェイブを使おうとする。
「キューイ!」
「何ですか? マコちゃん?」
「キュイ! キュイ! キュイ!」
「え~と・・・・・・ 私に任せて。って事ですか?」
「キュイ!」
通訳をしてくれたクリスは俺の方を向いて「どうします?」と言う目で見ている。
マコちゃんの突然の提案に俺は心配になるが、妙に自信満々で胸を張っているマコちゃんが少し頼もしく見えた。
「じゃあ、マコちゃん頼んだ!」
「キュイ!」
マコちゃんが気合を入れて少し高く浮き上がる。
「キュ~~~~~~~~~~!」
一際大きな叫び声をあげて、本来の大きさに戻る。そして、俺達の周りを回転しながら昇っていく。マコちゃんが通った跡には水の壁ができる。マコちゃんは雲の上まで昇ってから「キュ~~~~!」と咆哮を上げながら降下してくる。マコちゃんが水の壁に当たると、水の壁から無数の龍が全方位に飛んで行き、それに合わせて巨大な水の壁から水が津波のように流れていった。
「・・・・・・・・・・」
俺達は呆然としていた。
浮いているのはマコちゃんだけとなった空を眺めて・・・・。
「・・・・・・え~と、マコちゃんはタイダルウェイブが使えるのか?」
「キュイ!」
「他の殲滅魔法も?」
「キュ~イ キュイ」
「この魔法だけ?」
「キュイ!」
「なるほど・・・ もしかして前に、俺が使った時に覚えたのか?」
「キュイ!」
「確かマコちゃんを助ける時に使ったが・・・・ あ! そうか!」
「どういう事ですか?」
「確かマコちゃんに使った時に、杖から出た龍が津波を起こさずに、マコちゃんの中に入って行ったからじゃないか?」
「そういえば・・・ そうですね!」
「え~と・・・・ どういう事なんでしょうか?」
俺とクリスは何となく分かったが、他のレイとアマネとアイシャは困った顔をしていた。カーラは興味深そうにマコちゃんを眺めている。
「えっと・・・・ マコちゃんを浄化するために、魔法を使ったのだが、魔法の素となる龍がマコちゃんに入って直接浄化をした。それで、直接入る事でマコちゃんの中に魔法の知識というか仕組みも残していったのだろう。だから、マコちゃんが使えるようになったのだと思う」
「なるほど・・・」
三人は難しい顔をしているが、分かったのだろうか・・・。
「まあ、マコちゃんが凄い魔法を覚えて、使えるようになったって事でいいんじゃないか?」
「そうですね!」
そんなに難しく考えても仕方ないからこれでいいだろう・・・。
などと少し驚く事があったが、無事に山小屋へ到着する事が出来た。
モンスターはマコちゃんによって一掃されていたので、途中からただの登山になっていた。




