アイシャの両親
乾杯が終わると、グラスは一旦下げられた。
料理が並べられたテーブルには、メイドや執事が沢山いて、参加者に取り分けたり、テーブルまで運んだりしていた。各テーブルは立って話しながら食べるための少し小さ目の物と、ゆっくり座れるような大き目の二種類が用意されていた。
先ほど運動をした俺はお腹が空いているので、料理を取りに行こうとしたら、ライアスに呼び止められた。
「アキラ殿。あっちの席で一緒に食べないか?」
ライアスの指差した方には、椅子がある落ち着いて食べるテーブルだった。
「じゃあ、適当に何か料理を取ってきます」
「ああ、ちょっとまってくれ」
そう言ったライアスは、近くにいた執事を呼び止める。
「すまないが、あそこのテーブルに料理を一通り準備してくれないか?」
「畏まりました」
言われた執事は、数人を集めて料理を準備し始めた。
俺達が席に着いて数分で、料理が運ばれてきて飲み物も目の前にあった。
なんて優秀な人達なんだ! 素直に感心してしまった。
いざ料理を食べようと思ったが、近付いてくる人影が二つ。
「すみません。ご一緒してもいいですか?」
「全然大丈夫だ」
やって来たのはクリスとアイシャだった。
少し前からこっちに来ていたのだが、他の貴族に話しかけられて足止めを食っていたようだった。
そして、ようやくたどり着いたのだった。
「「ありがとうございます」」
二人はお礼を言って席に着いた。
しかし、近くで見るとやっぱりこの二人は綺麗だな・・・。
クリスは真っ白いドレスで眼鏡を外していて、顔立ちの良さがよく分かり、薄いメイクも綺麗さを際立たせている。
アイシャはブルーをベースにしたドレスでスタイルの良さがよく分かる。薄いメイクで綺麗さが更に出ており、俺に向ける仕草が可愛らしい。さっきまで、結婚するとか騒いでいたので、少し意識して見てしまう。
クリスとアイシャも綺麗だが、レイとアマネが加わると美女が四人になって、何だか緊張してしまうな・・・。
少し落ち着くためにも料理を食べて、お酒でも飲んで感覚を鈍らせようかな・・・。
「アキラ殿、少しお話よろしいか?」
料理を食べようとナイフとフォークを持った時に後ろから声を掛けられた。
もう少しタイミングを計って欲しいものだ・・・。
「カイト殿、何か御用ですか?」
「バルサ様がお話があるそうです。少しあちらに来ていただきたい」
カイトの指した方向には小さなテーブルがあり、その傍にはバルサと奥さんが立っていた。
ここにはアイシャがいるので、聞かれたく無い話なのだろうか?
また、メンドクサイ事を言うんじゃないだろうか・・・。
「わかりました・・・。 レイとアマネはここで食事でもしていてくれ」
俺が立ち上がると、レイとアマネも付いて来ようとしたので制止しておいた。
俺だけの方が話しやすいだろうしな・・・。
「「はい・・・」」
「アキラ殿、頑張ってくれ」
「すみません・・・、父と母が・・・」
レイとアマネは俺の言う事に従って、席に座り直した。
ライアスは何か楽しそうにエールを送ってくる。ミラルダは『全くこの人は・・・』という顔でライアスを見ている。
アイシャは申し訳なさそうに俺に声を掛けてくれるが、クリスは何か言いたそうだが、我慢してますって顔を俺に向けている。
マリアはただ一人この状況が分からずに『?』が頭に浮かんでいるようだった。
一言を言いたい人が二人ほどいるが、とりあえずカイトに付いて行く事にした。さっさと終わらせて、ご飯を食べよう・・・。
「お連れしました」
「ありがとう」
カイトに連れられてバルサ夫婦がいるテーブルに着いた。
「わざわざ来てもらってすまない。あそこにはアイシャがいたのでな・・・」
「いえ、大丈夫ですよ」
「そう言ってもらえると助かる・・・。え~ 改めて自己紹介をさせてもらう、私がアイシャの父『バルサ・ランペード』、そしてこっちのが私の妻『ライラ・ランペード』、こっちがアイシャのいとこであり、騎士団長を務めている『カイト・ランペード』だ。よろしく頼む」
「冒険者をしている、アキラです。よろしくお願いします」
バルサの奥さんは、ライラ? って・・・ まさかね・・・。
「先ほどは失礼をした・・・。その・・・ 娘の事となると・・・ 少し・・・ その・・・」
「アナタ・・・ 私が先にお話してもよろしいですか?」
「!? た 頼む・・・」
しどろもどろになっていたバルサを遮って、ライラが話をするようだ。少しバルサが怯えているように見えるのは気のせいだろうか・・・。
「先ほどは、ここにいる二人が失礼をいたしました。ここに謝罪を申し上げます」
「いえ、気にしないでください」
「それと、私の故郷である港町を救って頂き感謝いたします」
「港町? ・・・もしかしてミスリア大陸の?」
「そうです。海路と陸路が強力なモンスターによって、塞がれそうになっていたと聞いています。その両方を退治したのが、アキラ殿と伺っています」
「まあ。通り道でしたので、たまたまです。それよりも、ライラさんがあの町の出身ということは・・・」
「はい、私は元から貴族ではありませんよ。冒険者として旅をしている途中で、この人に出会いまして・・・」
「そうですか・・・」
あまり詳しく聞く内容ではないな・・・。
「ところで・・・ アキラ殿は結婚を考えている人はいるのかしら?」
「え!?」
「おい! ライラ! その話は・・・」
「アナタは黙っていてください!」
「うぅ・・・・・」
何か言いかけたバルサは、ライラの一喝で黙らされた・・・。
「いえ・・・ いませんが・・・」
「そうですか! それは、それは・・・」
何か納得しているようだが・・・。
「それでは、アイシャの事はどう思っています?」
「え!? ・・・・立派だと思いますよ。クリスの護衛もちゃんとしていますし・・・」
どういう質問だ! どう思っているか? って、そんなの親の前で「綺麗ですよ」とか言いにくいだろ・・・。
「では、今日のアイシャはどうですか?」
今日のって言われても・・・。チラッとアイシャの方を見ると、やっぱり綺麗だな・・・。
ライラの方を見直すと、今までより真剣な眼差しを俺に向けていた。
「き キレイです・・・」
あまりの迫力に、一言を絞り出すのがやっとだった・・・。
コワイです・・・。
「そうですか! わかりました! ありがとうございます!」
ライラは急に機嫌が良くなったようで、嬉しそうにしている。何がわかったのだろうか・・・。
バルサとカイトもよく分かっていないようで『?』って顔をしている。
「アキラ殿、今日はありがとうございました。これからもアイシャと仲良くお願いします」
「はい、わかりました」
ライラはそう言って頭を下げる。俺は了承をするが、今までも仲良くしていたので、今まで通りで大丈夫だろう。
「・・・・ん! アキラ殿、これからもよろしく頼む」
「・・・アキラ殿、また手合わせをお願いしたい」
「わかりました。それでは失礼します」
ライラが話を終わらせたので、バルサとカイトは話しにくくなったようで、そのまま会話を終了させた・・・。不憫だな・・・。
俺もお腹が減って長話をする気が無いので、このタイミングで話を終わらして、レイ達がいるテーブルへ戻って行く。




