決着
「しょ 勝負あり! 勝者はアキラ!」
クラウスが勝者を宣言して、皆が動き出す。
実際には皆では無く、レイとアマネとアイシャとクリスだけなのだが・・・。
「ご主人様、流石です!」
「お見事です 主様」
「アキラさん お見事です!」
「流石です・・・」
四人は勝利を称えてくれているが、他の人は目が点になっていた。
「勝利宣言をしたのだが、 ・・・すまないが、何が起きたのか説明してくれるか?」
クラウスの困った声で振り返る。
戦いをしない人ばかりだから、動きを目で追えなかったのだろう。
「え~と・・・」
試合開始の掛け声と同時に二人が動く。
二人が一気に間合いを詰める! だが、俺の方が早い!
カイトは一瞬驚いた表情を見せるが、動きを止めて迎え打つ体勢に切り替える。
俺の動きが見えているようで、俺の動きに合わせて剣を振り下ろす。
アイシャよりかは速いが、俺に躱せない速さでは無く右側に避ける。
完全に躱し、カイトに剣を振ろうとした時、下から剣が上がってきた!
燕返し! だと・・・
だが、まだ遅い!
俺は上がってくるカイトの剣を、自分の剣で受け流しながら、振り上がる剣に自分の力を上乗せして、カイトの剣を上に弾き飛ばした。
そして、カイトの目の前に切っ先を向けて、カイトの言葉を待つ。
「ま まいった・・・」
コーン! ガシャ・・・
カイトの宣言が終わると、弾き飛ばした剣がカイトの後ろに落ちてきた。
「・・・と、いった感じです」
「なるほど・・・ あの一瞬でそんな攻防が・・・」
「お見事ですね」
「アキラ殿の本気の剣を見たのは初めてだが、やはり凄い物だな・・・。対するカイト殿も騎士団長の名に恥じない剣技のようだ。私達の目で追う事が出来ない速さの攻防を繰り広げるとは、二人とも見事としか言いようがない」
「まさかカイトが負けるとは・・・。だが、アキラ殿の力を認めざるをえない・・・。アイシャを嫁に・・・ クッ・・・・」
王と王妃とライアスは素直に勝利を称えてくれるが、バルサは認めたいけど、認めたくないような葛藤をして、複雑な表情をしている。
バルサよ俺は結婚する気はないから、大丈夫だぞ・・・。
「アキラ殿、今回は私の完敗です。貴方の戦い方は魔法剣士と聞いていましたので、剣術では私の方が勝っていると思っていましたが、私の思い上がりでした。アキラ殿にはアイシャを任せても安心です。どうかよろしくお願いします」
ちょっと待て! アンタには勝負の前に結婚しないと言ったはずだ!
なんだかこのまま行くと止めれなくなりそうだな・・・。
「アイシャ・・・ 頼む・・・」
「はい・・・ この度は私の事でお騒がせしました。ですが、アキラ様と結婚はしません。私は騎士となった時の誓いを誇りに思い生きています。クリスティーナ様を命ある限りお守りするのが、私の使命です。確かにアキラ様との旅は楽しい物でした。その事で誤解を生んだかもしれませんが、私は誓いに生きるつもりです」
「フム・・・ やはりその決意は変わらぬか・・・。まあ、今はいいだろう・・・」
「クラウス様・・・」
クラウスはボソっとつぶやき、何か諦めた表情をして、それを見つめる王妃の眼差しは少し寂しげだった。
俺はその時に何と言っていたか聞き取れなかったが、ライアスが後で教えてくれた。どうやらアイシャの決意を知っていて、クリスの作戦をベースにして、バルサにも結婚の覚悟を与えて、俺とカイトを巻き込んで一計を案じたようだ。そして、アイシャにはクリスを守るだけでは無く、結婚して家庭を築く道もあると教えたかったようだが、今回は失敗したようだった。
しかし、それにしても話をややこしくした上に、自分が楽しんで悪乗りしたのが失敗の原因では無いのだろうか・・・。
「わかった、アイシャの決意は受け取った。勝者アキラ殿が権利をアイシャに譲り、アイシャがその意思を示した。それにより今回はこの結果に異議を唱える事は許されぬ」
「ハッ!」
カイトは騎士の礼をし、他の貴族は一礼をする。
これで今回のゴタゴタは終わったようだった。
「なんだか疲れたな・・・」
「お疲れ様です、ご主人様!」
「主様、お疲れ様です」
「ありがとう」
レイとアマネの所に戻って、正直な感想を述べると二人は労ってくれた。
「それでは、そろそろ宴の準備が整ったようだ。皆の者は案内に従って会場へ向かってくれ」
クラウスの指示によりメイドが案内をするべく俺達の下へやってきた。
会場へ向かう途中に外を見ると、日が暮れて暗くなっていた。結婚騒動や決闘でいつの間にか時間が経っていたようだ。気持ちが落ち着いたらお腹も空いてきたしな。
「アキラ様はこちらの部屋で、お着替えをお願いします」
「え? 着替え?」
「はい、どうぞこちらです。レイ様とアマネ様はあちらの部屋です」
「「は はい」」
俺達は着替えをするために別々の部屋に案内された。
流石に冒険者の恰好で、宴に参加するのはマズイのだろう。
部屋の中にある服は、燕尾服のようだった。
執事が控えており、着替えを手伝ってくれた。
そして、髪型のセットも終わり鏡を見ると・・・
・・・・・誰? 全然見慣れない恰好で、思わず笑いが込み上がってきそうだった。
だが、ここには着替えやセットをしてくれた執事がいるので、失礼にならないように頑張って堪える。
全然違う事を考えて鏡の自分を見ないようにして、気持ちを落ち着ける。
「アキラ様、どうでしょうか?」
「大丈夫です・・・」
「はい、ありがとうございます」
俺の精一杯の冷静を装った返事に納得してくれたようだった。
「レイ様とアマネ様の、お着替えが済むまでお茶をどうぞ」
執事の言われた方には既にお茶の準備がされており、カップからは湯気が立っていた。
「ありがとう」
入れられたのは少し甘めの紅茶で、空腹のお腹に染み渡る。
紅茶の良い香りが鼻を抜けて、気持ちが落ち着いて行くのが分かる。
コンコン
丁度お茶を一杯飲んだ所で、扉をノックする音がした。
「アキラ様。レイ様とアマネ様のお着替えが終わったそうです」
「わかりました」
執事がレイとアマネの準備が終わったと伝えてくれたようだ。
準備が終わったとの事なので、ここは男である俺が迎えに行かなければならないようだ。
レイ達と一緒に行ったメイドに案内されながら、レイとアマネが着替えていた部屋に向かう。
コンコン
「はい?」
「アキラ様がお見えです」
「どうぞ」
二人がいる部屋に入ると、ドレスアップした美女二人が椅子に座っていた・・・。




