女難の始まり・・・
コンコン
ライアス達と話をしていると、扉をノックする音が聞こえた。
メイドの一人が扉を開けると、サーラが入って来た。
「アキラ様、レイ様、アマネ様、準備が整いましたので、ご案内いたします」
「ライアス様、ミラルダ様、マリア様はこちらへどうぞ」
俺達は案内されるままに、付いて行く。
広くて長い廊下を歩いて行くと、両脇に兵士が等間隔で立っていて、俺達が通ると敬礼をしていた。
何だか偉くなった気分になるが、兵士側に立ってみると「チッ 冒険者風情が!」とか思われていないか心配になりそうだ・・・。
廊下をしばらく歩くと、大きな扉の前が見えてきた。扉の前には兵士が二人立っており、俺達が扉の前まで来ると、敬礼をして大きな扉を開けた。
扉の奥には大きな部屋が広がっており、一番奥の少し高い位置には豪華な椅子が4つ並んでいて、一番豪華な椅子に王冠を被った人が座っていた。その右側には豪華なドレスを着ている女性が座り、その右に煌びやかなドレスを着たクリスが座り、その後ろには騎士甲冑を身に着けたアイシャの姿が見えた。
今まで一緒にいた二人の違った姿をみると、新鮮で二人の雰囲気と姿が一致して、見とれてしまう美しさがあった。
マコちゃんはアイシャの横でフワフワと浮かんでいた。遠目で見るとキリッと美しい女騎士の横に、白い風船が浮かんでいるようで、どことなくシュールな感じがしている。
王様の左側の椅子には誰も座っておらず、空席となっていた。多分、王子の椅子だと思うが不在なのだろうか?
「どうぞ、お進みください」
「ああ・・」
サーラに言われ、かなり緊張しながら玉座へ向かって歩き出す。
部屋に入ると、兵士では無く騎士が通路の両脇に立っていた。
更に進んで王の近くまでくると、ライアスや他の貴族であろう数人が立っているのが見えた。
ライアスの表情を見ると俺の緊張が分かっているようで、微笑ましい物を見る眼差しを俺に向けていた。
この世界に来て肉体的に強くなって、少し精神も鍛えられたと思うが、こんなに皆から注目を集めた事が無いし、なによりもこの世界の超VIPである王様と会うのだから緊張するのは当たり前だろう。頼むから、俺を見ないでくれ・・・。
しばらく進むと、立派な髭を生やしてモーツァルトの様な髪型としている凛々しいおじさんが、俺と王の間に立っていた。
「ここでお待ちを」
一言だけ言うと、王の方を向いて一礼をした後、ライアス達がいる場所へ歩いて行った。そして、一番前に並んだ。多分貴族の中で一番偉い人なんだろう・・・。
恰好からして偉い人順っぽいし・・・。ちなみにライアスは2列目に並んでいる。
王の前に立っている俺は、物凄い速さで思考を巡らせていた。
それは・・・、跪いて敬意を表するか、それともさっきのおじさんの様に立ったままの礼をするか・・・・。いくらクリスとアイシャと一緒に旅をして仲良くしているとはいえ、こういう場所では身分という厄介な物があるから、建前上敬意を払わなければならない。しかし、俺は一応冒険者であり、王国からの庇護を受けている訳では無い。役割としてはモンスターの討伐などの治安維持に協力しているようなものだ。立場を考えると仕事に対する報酬を払ってくれるお得意様って所か? 少し違う気もするが、まぁいいだろう。しかし、一緒に旅をしてきたクリスやアイシャの立場を考えると・・・ 親しき仲にも礼儀ありと言うしな・・・。どうするか・・・・・・。
「アキラ殿、そのままで結構だ」
俺が考えを巡らせる事、2秒ほどだろうか、心の葛藤を察したように王が声を掛けてきた。
「は!」
俺は立ったまま礼をし、レイとアマネもそれに続く。
「この度は我が王国の危機を救ってくれた事に感謝しよう。特に我が友である、ライアスの家族を助け、最愛の娘であるクリスティーナへの助力をしてくれた事を、一人の人間として感謝する」
「冒険者として、困っている人を助けるのは当然の事であります」
「フム・・・。他には悪名高い三悪士の一人であるバリビュートを退けて、聖域の守護獣を我が王都へ導いてくれた、正に古より伝わる勇者のような活躍ぶりに、我は答えなければならない」
「はぁ・・・」
確かに魔王を倒すと、肩書が勇者になる。無課金でも時間を掛けるか、課金者とパーティを組めば簡単に勇者になる事ができる。なので、俺にとってはそれほど珍しい事では無い。
「そこでだ、アキラ殿にはここを拠点に活躍して欲しいと思い、家を与えようと思う」
「家? ですか・・・?」
「そうだ、ライアス説明を頼む」
「は! 昨日アキラ殿とお会いした、あの屋敷です。一般区画にあるが、貴族が住んでも問題無いほどの良い建物で、庭なども広く手入れをすれば美しい屋敷になります」
「あの屋敷ですか・・・」
ライアスの言っている屋敷とは、もちろん元俺の家だ。
元々は俺の家だし、高い金を払ってまた手に入れる手間を省けるなら、今もらっておいた方がいいだろう。
「ありがたく頂戴いたします」
「お! そうか、そうか貰ってくれるか。それは助かる、我のヘソクリを使ったかいが・・・。ん~ ゴホゴホ。いや何でも無い・・・」
「はぁ・・・」
なるほど、王は小遣い制のようだな。少しずつ溜めたヘソクリを使ったのか・・・ ありがとう。
しかし、ヘソクリと聞いた時に王妃の目が鋭くなったのは気のせいでは無いだろう・・・。
後で追及されて、没収されるのだろう・・・。
「実はもう一つ貰って欲しいもの、があるのだが・・・」
「もう一つですか?」
「そうだ、実はそなたに好意を持っている女性がおってな・・・。その者を妻にもらって欲しいのだ」
「・・・・・・・・・・・は? ・・・・・・妻?」
何を突然言い出すんだこのオヤジは!
いきなり、結婚しろとは!
誰なんだ? もしかしてクリスか?
いやいや、そんな素振りは無かったはずだが・・・・。




