マコちゃんの新居
研究所に着いた俺達は受付の女性に話しかけた。
「すみません。アキラと言いますが、クリスさんを呼んでもらえますか?」
「はい・・・ 伺っています。少しお待ちください・・・」
何だか少し疲れているようだが、そんなにここは忙しいのか?
少しの間待っているとクリスとアイシャとマコちゃんとレジオスと他五人がやって来た。
俺達の近くまで来た八人と一匹は、受付の女性と同じように疲れの色が見えていた。
マコちゃんに至ってはクリスの肩の上で寝ている状態だった。
「何だか疲れているようだが、大丈夫か? そんなに調べるのが大変だったのか?」
「いえ、調べるのはすぐに終わったのですが、少し夜中に騒ぎ過ぎてしまって・・・」
「少し・・・ ね・・・」
「・・・はい」
少しでは無い気がするが、そこには触れない方が良いだろうな・・・。
アイシャに至っては、俺が頼んでいたのを守りきれなかったので、ばつが悪そうな顔をしていた。
「それで何か分かったのか?」
「そうですね。マコちゃんが本来居た場所はラフェルカ大陸にあった神殿らしいです。でも現在では砂に沈んでいるようで、辿り着くのはまず無理という事でした」
「そうか・・・ 確かにあそこは、大陸の殆どが砂漠だからな・・・」
「ですが、マコちゃんが王都の東側にある四神の神殿に行きたいと言っていたので、そこにこれから行ってみようと思います」
「四神の神殿? あそこは神殿と言っても、何も無いんじゃないか?」
「でも、マコちゃんが行きたいと言っていたので、何かあるのかもしれません」
「それもそうだな~。一回行ってみるか!」
「はい! それで・・・ 今回の調査に協力してくれた五人を、一緒に連れて行きたいのですが大丈夫ですか?」
「俺は別に構わないぞ。クリスがいいなら大丈夫だ。あそこならモンスターも居ないしな」
そうして俺達は四神の神殿へ向かう事にした。
研究所を出ると馬車が2台停まっていてこれに乗って行くようだ。
馬車には研究員とレジオスの六人と俺達五人と一匹で別れて乗る事になった。
馬車に乗る時にアイシャに、夜更かしの事は気にして無いと伝えたら「すみません・・・」と言った後にいつも通りの顔になった。
いつまでも落ち込んでいても仕方が無いし、皆が騒いでいるのに自分達だけ寝るのは、KYになりそうだしな・・・。
「ここから神殿までの間に少し寝ていたらどうだ?」
「いえ、大丈夫です」
「そうか?」
「はい」
と言っていたクリスとアイシャだったが、走り出して5分もしない内に寝息を立てていた。
可愛いクリスと綺麗なアイシャの寝顔は、見ていて良いもんだが、流石にジロジロ見ると失礼だと思ったので、窓から外を眺める事にした。レイとアマネも二人を起こさないように、静かに会話をしたり俺と同じように外を眺めていた。
窓からは建物が徐々に少なくなっていき、自然が多くなり遠くの方に湖が見えるようになってきた。
そして、公園の入口の様な場所に停車した。
「クリスさん、アイシャさん着きましたよ」
「ん~~~・・・ え・・・ あ! レイさん、すみません!」
クリスとアイシャを起こすのはレイに任したが、二人の寝起きの仕草がまた可愛かった。
良い物が見れたなと思って外に出ると、もう一台の馬車からは誰も降りてきていなかった。
「クリス様、私が起こしてきます」
「お願いします」
アイシャがそう言って馬車に向かい、扉を開けるとクリスとアイシャと同じ様に、寝ていたようだった。
「みなさん! 起きてください! 到着しましたよ!」
「「え!」」
六人の驚く声が重なり思わず吹き出しそうになった。
「すまない、すまない、あまりにも馬車の揺れが気持ち良くてな」
「すみません」
レジオスを筆頭に謝りながら皆が降りてきた。
よほど昨日は盛り上がっていたのだろうな・・・。
だが、全員が30分程寝た事で、かなりスッキリした顔になっている。なのでこれから先は大丈夫だろう。
全員が馬車を降りて、湖の方へ歩いて行く。
湖の畔まで辿り着くと、神殿と呼ばれているが特に何も無い事がよく分かる。
湖の真ん中に小さな島の様に祭壇があるだけで、他の神殿部分は水の底に沈んでいた。
水の透明度が高いので覗き込むと、石で造られた建物などが見える。
「とりあえず、船に乗ってあの祭壇まで行くか」
「そうですね・・・」
「キュ キュイ!」
マコちゃんが俺とクリスの前に飛び出して、船で行く事を制止しているようだった。
「どうしたんだ? あそこじゃ無いのか?」
「キュイ キュイ キューイ!」
「自分に任せろ。って事か?」
「キュイ!」
前のヒレを自分の胸に当てて、任せろと言わんばかりにジェスチャーをして、湖の中央にある祭壇へと飛んで行った。
少し遠くてよく見えないが、何かを祭壇でしているようだ・・・。
ゴゴゴゴゴ・・・・・
ザッパァーーー!
突然の地鳴りがしたかと思うと、俺達がいる目の前で湖が真っ二つに割れていく・・・。
まるで、モーゼの十戒のようだった。
なかなか凝った仕掛けだな~ と思って見ていたが、ふとクリスや研究者達を見て見ると、全員が口を開けたまま固まっていた。流石に自分たちの近くにある遺跡だから、調べ尽くしたと思っていた神殿にこんな仕掛けがあるとは思わないだろう・・・。驚きの様子が、彼女達の表情からよく分かる光景だった。
湖の底を歩けるようになったので、俺達はゆっくりと足場を確かめるように降りて行った。
水が引いたと言っても流石にぬかるんでいるようだから、コケると泥だらけだろうな。
水の壁に挟まれた道を真っ直ぐに進んで、中央にある祭壇の下まで着いた。
祭壇は円形になっていて、水に沈んでいた所は全て石の壁になっている。壁の四方には四神の象徴である鳥や龍などが彫られていた。
「キュ~イ!」
「これはマコちゃんが、やったのか?」
「キュイ!」
「それは凄いな!」
「凄いです! マコちゃん!」
「おおう・・・」
祭壇の下で壁に彫られた彫刻を見ていたら、マコちゃんが俺の元に降りてきた。そこでマコちゃんを褒めていたら、クリスが感激した様子で俺とマコちゃんの間に急に入ってきて、俺を押し出してしまった。
「マコちゃん次は何をするのですか?」
目をキラキラさせて、クリスは次に起こる事をワクワクしながら問いかけていた。
「キュイ!」
ガガガガ・・・・・
マコちゃんの掛け声で、祭壇の下の壁が開いて中入れるようになった。
中に入ると部屋の四隅に四神の像があり、その中央には石の玉が安置されていた。
マコちゃんがふわふわと飛んで中央の玉にトンと触れると、玉が輝きだして目が開けられない程の光を放つ。
光が収まり目を開けると、玉が宙に浮いており、水晶の様に透き通っていた。
全員が何が起こったか分からずに呆然としていたが、マコちゃんが俺の元に飛んで来た。
「キュ キュ キュキュイ!」
「え!?」
「キュイ キュイ!」
「え~と・・・ これで終わりって事か?」
「キュイ!」
マコちゃんの様子から察すると、この神殿でする事は終わったらしい・・・。
「え~と・・・。 アキラさん・・・ どういう事でしょうか?」
「ん~・・・ 多分・・・ この神殿は、マコちゃんの物になったんじゃないかな?」
「え!? そ そんな事が? そうなのですか、マコちゃん?」
「キュイ!」
マコちゃんにクリスが問いかけるが、その通りと言わんばかりの返事だった。
「な なるほど・・・」
なんだか、無理やり納得しようとしているクリスだったが、他の研究者を見ると同じような顔をしていた。
「まあ、詳しい事は分からんが、ここがマコちゃんの新しい家って事でいいんだよな?」
「キュイ!」
「マコちゃんがこう言ったから、それでいいんじゃないか?」
「そうですね!」
「はい!」
俺がそう言うと、レイとアマネが元気よく賛成してくれたので「じゃあ、それでいいか・・・」という雰囲気になっていった・・・。




