王都へ
「全員無事のようだな! これが魔獣か・・・・ でかいな・・・」
「このクジラは魔王の側近である、バリビュートに魔獣にされたようです。今は浄化して聖獣に戻ったはずですが・・・」
「ほ~ そうなのか。聖獣とはな・・・ 初めて見たぞ。それでそのバリビュートは倒したのか?」
「いえ、逃げられました」
「そうか、だが追い払っただけでも凄いもんだな!」
そう言ってバルガスと冒険者達は、珍しそうにクジラを見ている。
「アキラさん、この聖獣は動かないのですが大丈夫ですか?」
「どうだろうな? 俺も初めてだし、回復魔法でも掛けた方が良いかな?」
クリスは心配そうな顔で俺に言ってくるが、俺にもどうしたらいいのか分からない。
クジラは「スピースピー」と寝息を立てていて、生きてはいるのだが全然起きないな・・・。
「フルリカバリー」
「うわ!」
とりあえず回復魔法を掛けると、角が再生して長く伸びる。
角の近くにいた冒険者が驚いて尻餅を着いていた。
ゴメンよ! 俺もちょっとビックリしたんだ・・・。
角が再生したら、寝息が止まって目を開けた。
「キュイー!」
一声上げてから、ぴょんと跳ねて少し浮かんだ。
そして、俺の傍に来てスリスリとしてくるのだが・・・・。
「元に戻って嬉しいのかもしれないが、自分の大きさを考えてくれ・・・ 結構痛いぞ・・・」
「キュイ?」
小さく鳴くと、クジラの身体が白く光り輝く。
光が収まると小型犬ぐらいのサイズになったクジラが居た。
そして、俺に再度すり寄ってきた。
スベスベして肌触りが気持ちいい。夏には抱いて寝るとひんやりして、気持ちいいかもしれない。
それから、アマネ、レイ、クリス、アイシャとスリスリしていった。
女性陣は「可愛いですね!」とか言ってデレ度全開だ。
「驚いたな・・・ 小さくなれるのか・・・」
「そうですね・・・」
「それより、アキラ。あのクジラどうするんだ?」
「どうしようかな・・・?」
バルガスにどうするか聞かれるが、俺も迷っている。
ここに残して行くか、連れて行くか、自然?に還すか・・・。
「アキラさん! この『マコちゃん』を元の神殿に帰しましょう!」
「マコちゃん!?」
「はい、この子の名前です!」
おいおい! いきなり名前付けちゃったよ! クリスさん・・・ もしかして、真光だからマコか・・・ 安易ですよ・・・。
しかも、他の女性陣も「そうです! マコちゃんを連れて行きましょう!」とか言ってるし・・・。
「そうだな、そうするか・・・」
「大変だな・・・」
既に決定された提案に、俺は了承した。それを見て慰めてくれたバルガスだった。
「そういえば、どこに行けばいいんだ? アマネ分かるか?」
「すみません・・・ なにぶん昔の事なので、分かりません・・・」
「いや、別にいいんだがどうしようか?」
「アキラさん、王都の研究所に行けば何か分かるかもしれません!」
「そうか、じゃあ行ってみるか」
「では、私がご案内しますね!」
そう言ってクリスは胸を張っていた。
とりあえずの目的が決まったので、俺達はバルガス達と共に橋の町ブリッジへ戻って行った。
バルガスの宿に戻って、女性陣がマコちゃんと遊んでいるのを眺めていると、マイアとサーラが男の騎士団を率いてやって来た。
「クリスティーナ様! ご無事でなによりです!」
「みなさんご苦労さまです。今回もアキラさんとレイさんとアマネさんに助けてもらいましたから、大丈夫です」
「アキラ様、レイ様、アマネ様。何度もありがとうございます。ここから王都までは私達、騎士が護衛をしますので、クリスティーナ様とアイシャ様と一緒にゆっくりお進みください」
「いや・・・ それは遠慮したいな・・・」
そんな騎士に囲まれて仰々しく王都まで行っては、肩が凝るし注目を浴びて落ち着かない。
クリスの方を見ると、俺と同じように困った顔をしている。
「護衛は必要ありません」
「ですが、クリスティーナ様を護衛するのは騎士の務めですから」
「私は冒険者として旅をしているのです。今の立場で護衛は必要ありません。それにアイシャも傍にいます」
「そうですか・・・ 分かりました。では、私達は王都でお待ちしております」
そう言って騎士たちは宿から出て行く。
護衛をすると言っていたのだから、王都へ戻る途中にモンスターを、広範囲で狩りまくるのではないだろうか・・・。
クリスとアイシャはヤレヤレといった表情をしていた。
俺達は騎士達から少し遅れて宿を後にした。
橋を渡ってリステリア大陸に到着したが、全くモンスターに遭遇しなかった。そのため予定よりかなり早く橋を渡りきった。
王都までは3時間ほど歩くと到着するだろう。このまま行くと昼過ぎ頃かな?
王都まで歩いているが、モンスターが全く出現しなかった。
騎士たちが頑張ったのだろうか? そういえば橋の上でもモンスターが出なかったが、流石に騎士でも海の中のモンスターは狩れないから、運が良かっただけか?
それともマコちゃんこと聖獣の加護で、エンカウント無し効果があるのだろうか・・・。
俺はクリスの肩に乗っているクジラを見て、そう思うのであった。
そして、モンスターと遭遇する事無く王都へ辿り着いた。




