第37話 水龍の神殿
ダンジョンの攻略へ向かいます。
饅頭を食べなら神殿までの山道を進んでいるが、一つの誤算があった・・・。
割と、喉が渇くのだ!
しかし、飲み物を買っていないし、山道を登って少し汗を掻くと水分が欲しくなる。
だが、町に戻るのもなんだかメンドクサイし、ダンジョンに入ってすぐに戻るのも何か恥ずかしいな。「あの人何か忘れ物? ちゃんと準備しようね!」とか「もしかしてダンジョンにビビってる?」なんて思われそうで・・・。
そうだ! 神殿には饅頭の材料になる水があるはずだ。
それなら飲み水になるだろう。
俺は少し登る速さを上げて進んで行く。
10分程登ると、少し開けた場所に出た。
そこには小さな手水舎のような建物が建っており、一人の女性が水を汲んでいた。
よく見ると饅頭屋の制服を着ている。
「こんにちは!」
「え!? あ・・・ こんにちは。 えっと アキラさんとレイさんですよね?」
「はいそうです。ここで水を汲んでたんですか?」
「はい ここにはモンスターが出ないので、安全に水を汲む事ができるんです」
「そうなんですか。ここの水は飲んでもいいですか?」
「はい 大丈夫ですよ。神殿で清められているので、神殿に入る前に飲んで身体を清めて入るのが良いと言われています」
「そうなんですか?」
「はい。ただ昔の言い伝えなので、今ではあまりする人は居ませんね」
「それでも昔から伝わっているのは、何か意味があるかもしれないですね。それに少し喉も渇いているので、水が欲しかったんですよ」
「そうなのですか。この水はそのまま飲んでも美味しいので、ぜひ飲んでみてください」
「それではいただきます。そういえば飲み方に作法とか無いんですか?」
「いえ、特に無いと思います」
「そうですか」
日本の神社では右手に柄杓を持って、左手から洗うとか作法があったのだが、無いのなら気楽でいいな。
俺とレイは水を掬って飲んでみた。
「ん!? うまいな・・・・」
「はい! こんなにおいしい水は初めてです!」
水は適度に冷えていて、なんとも言えない旨味のような物を感じる。水分が身体中に染み渡る感覚が心地良い。これは確かに清められそうだ・・・。
「おいしいでしょう? 私もいつもここに来ると飲んでいるんですよ」
「こんなに美味いなら町まで引いたりはしないんですか?」
「昔にそう言った方がいて、水路を造ったのですが町まで行くと、ただの水になったらしいです。しかも、この汲んだ水をそのまま置いておくと半日程で、ただの水に戻ります。でも饅頭とか料理に加工すると、このおいしさが残るのでそうやって使ってます」
「そうですか・・・ それは不思議な水ですね」
「はい。なのでちょっと不便ですが、ここに毎日水を汲みに来ています」
「それはご苦労様です」
「いえ これもおいしい饅頭を作るためですから! っと、そろそろ戻ります。それでは、アキラさん レイさんお気を付けて。失礼します」
「ありがとう!」
「はい! ありがとうございます!」
そう言って店員の女性は町へと戻って行った。
俺とレイは喉が潤ったので、神殿へ向かう事にした。
道を登り切った所には大きな湖が広がっていた。
水は透き通っていてかなり深い所まで見える。ただ、底は相当深いらしく見えなかった。
神殿は湖の真ん中ぐらいにあり、そこまでは橋が架かっている。
神殿の構造は1階に祭壇などがある。神聖な場所になっているらしく、そこには敵が出現しない。
ダンジョンとなっているのは地下部分になっている。地下10階までの構造で水棲系の敵が多く出現する。
出現するのは、以前のドルフィン号でもいた、『半漁人』『魚人』と今回からの『大マリモ』『水トカゲ』の4匹だ。
半漁人と魚人は持っている武器が剣になったのと、少し能力値が高いだけで以前の敵と殆ど変らない。
大マリモはその名の通り、大きいマリモだ。運動会の大玉ぐらいの大きさがあって、転がり攻撃をしてくる。しかも、攻撃を受けると麻痺する事がある。厄介な敵だが遠距離攻撃を持っていないので、魔法で攻撃すれば問題無い。
水トカゲはワニだ。そのままワニの形をしている。攻撃は噛みつきと尻尾と口からの水弾の3つになっている。水弾に気を付けながら魔法で攻撃すれば問題ないだろう。
俺とレイは橋を渡って神殿へ向かう。
途中で水の中を覗き込むと、大きな丸い物や魚に手足が生えた影が見えた。どう考えてもモンスターだよな・・・。
上の方には普通の魚であるイワナやヤマメが泳いでいた。塩焼きがうまそうだ。
しばらく歩いて神殿へ到着した。
神殿でまずする事は、隠し部屋にある『龍波の杖』を手に入れるために、1階にある祭壇に水龍饅頭を供える事だ。
1階の広さは200メートル四方で下に行くほど広くなっている。地下10階になると2000メートル四方のピラミッド構造になっている。もちろんダンジョンの構造はなんとなく覚えているので、無駄な部屋に行くことは無いと思う・・・。
1階は敵が出ないので、どんどん進んで行く。入口を入って左周りで四隅にある祭壇へ向かう。
一つ目の祭壇には龍の像が置いてあり、その前に何かを置く台がある。
「祭壇に1個ずつ饅頭を供えていくぞ」
「はい わかりました・・・ え!? そこに供えるのですか?」
「ああ そうだ」
俺が饅頭を置いたのは、台の上では無く龍の口の中だった。
「き 消えた・・・」
饅頭を置くとすぐに饅頭が消えて、龍の目が光った。
これで一つ目は完了だ。
本来のお供え物は台に置くのが普通だろう。ただ、このゲームでは饅頭は口の中らしい。
食べ物は口に入れるのが普通だし、そういう事なんだろう。たぶん・・・・。
「次の祭壇へ行くか」
「はい!」
四隅の祭壇に饅頭を供えて、最後に中央にある祭壇へ饅頭を供えた。
「よし! これで1階は終わりだ。下へ進むか」
「次は何階になるんですか?」
「次は7階と10階だな。途中で何個か宝箱を回収してから向かおうか」
「はい! わかりました!」
そう言って地下へ向かう階段を降りて行く。
美味しい物は龍も食べたいですよね?




