第34話 一件落着
甘い物を食べて、お茶で一息。そういう時間を持つ余裕が大切ですね。
喫茶店でケーキを食べて会計を済ましていると、店員の一人がクリスとアイシャと話しているのが見えた。
店員が俺に気付くと笑顔で会釈をした。
クリスとアイシャも俺が見ている事に、気付いたようでこっちにやってきた。
「ケーキがおいしかったので、作り方を教えてもらってました」
「ケーキを自分で作るのか?」
「そうですね、家では結構作ってましたよ」
「そうなのか、今度機会があったら食べたいな」
「任せてください!」
店を出るまでの間、クリスと話していた店員はこっちを笑顔で見ていた。
「これからどうするかな? 神殿にお金を払って入ってもいいけど?」
「私はこの町の遺跡を少し調べたいのですが、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「では、向こうの方から見て行きましょう」
今日の予定が無くなったので、クリスの目的である遺跡調査に付き合うことにした。
町の中心部から離れた人気の少ない遺跡に俺達はやって来た。
クリスは袋からノートを取り出して古い建物の彫刻などを見ている。
「これは980年前の・・・」と何かブツブツと呟きながらノートに書き込んでいる姿を見ると、勉強熱心な娘だなと思う。
俺は学生時代にこんなに勉強した事あったかな・・・? ク クリスがなんだか眩しく見えてきた。
アイシャはクリスの邪魔にならない位置取りを心得ているようで、無言でクリスの傍に控えている。
俺とレイは慣れていないので、アイシャより更に離れて遺跡を眺めていた。
邪魔したら悪いからな。
1時間ほど経ったが、別に退屈はしていなかった。なんだか海外の遺跡巡りをしている気分で新鮮だったからだ。
クリスに続いて古い建物を見ていると、今いる建物の裏の方から話し声が聞こえてきた。
「・・・くいっているのだろうな」
「はい それはもちろん」
「くっくっくっ それならばいい。どんどん金が集まるからな」
「はい うまくいった時には、私にも・・・」
「わかっている しんぱ・・・ 誰だ!」
何か悪い企みが聞こえてきたので聞き耳を立てていたら、相手に気付かれてしまったようだ。
「え!? 何ですか?」
「誰だお前たちは!」
「私たちは王立研究所の研究員です。遺跡の調査をしていたのですが、何か?」
「王立研究所だと?」
「はい 何か問題でも?」
「今の話を聞いたか?」
「いえ 遺跡に集中していたので・・・ 人が居た事にも気付きませんでした」
「フン! ならいい! ここは私が管理している場所だ向こうへ行け!」
「貴方は?」
「私はアークダイ・カーン、この町を治めている者だ!」
「貴族様ですか、これは失礼しました。お邪魔のようなので向こうの遺跡へ行きます」
「わかったらいい。さっさと行け!」
話していた人物は金に汚いと噂の貴族アークダイと、ギルド長と一緒にいた男だった。
ギルドの男と共謀して、悪い事を企んでいたのか?
だが、この事実を掴んでも俺達にはどうしようも無いが、何とかしないと水龍饅頭が買えないしな~。
なんて事を考えていると、さっきとは違う遺跡に着いた。
「さっきの男がこの町で悪さをしている貴族か・・・。しかも一緒に居たのはギルドの男だった」
「そうですね・・・」
「はい・・・」
「そうです・・・」
「どうしような~・・・ いっその事、斬ったら解決するかな~」
「いえ! そんな暴力で解決してはいけません!」
「え!? アイシャがそれを言う?」
「さっきの出来事はは忘れてください・・・」
「まあ、いいけど。このままって訳にはいかないな・・・」
「そうですね・・・」
「とりあえず、一度宿に行きませんか?」
「遺跡調査はもういいのか?」
「はい そんな気分では、無くなりましたから・・・」
「そうだな・・・ 仕方ないな」
まだ昼過ぎだったが、俺達は昨日と同じ水の宿に向かった。
昨日と同じお金を払って、同じ部屋を取った。
案内してくれた従業員は昨日とは違う若い女性だったが、どこかで見た事があるような気がした。「どこかで会いました?」なんてナンパのセリフみたいな事は言えないので、そのまま彼女に案内される。
俺の部屋に四人集まって話をする。ライアス家の紋章を見せても効力があまり無さそうだとか。暗い夜道で斬りかかるのは、正義では無いと却下される。などいくつか案が出るが、結局結論は出なかった。
クリスとアイシャは自分たちの部屋へ戻って、夕食までは自由に過ごすことにした。
そろそろ日が暮れる時間になる頃に、扉の前に気配を感じた。
コンコン
「クリスです! ちょっとアイシャと一緒に、昼間のケーキ屋さんに行ってきます」
「ああ 分かった! 気を付けてな・・・」
「はい!」
そうだ! 昼間のケーキを食べた所の店員だ!
さっき案内してくれた従業員とケーキ屋の店員が同じ人だ! クリスとアイシャは直接話していたので気付かない訳が無い。その前にもどっかで見た気もするが・・・ いや、今はそれを気にしている場合では無い。
窓の外を見ると、クリスとアイシャと例の女性が三人で、ケーキ屋とは反対方向へ歩いて行った。
「レイ! クリス達を追うぞ! 何かをするつもりだ!」
「はい! わかりました!」
俺達は急いでクリス達が向かった方へ走って行った。
少し走るとクリス達の姿が見えた。気付かれないように後を付ける・・・。
「クリス達の事だから悪い事はしないと思うけど、無茶はしそうだな・・・ 悪い貴族をブッ飛ばすとか・・・」
「そうですね・・・ 少し様子が違っていましたからね」
「それにしても、もう一人の女性は誰なんだ?」
「確か・・・ ライアス様の所にいたメイドでは無いですか?」
「ああ! そうだ! クリス達と初めて会った時にいたメイドだ!」
「ご主人様・・・ 聞こえますよ?」
「ああ すまない・・・」
そうかあの女性はメイドにケーキ屋に宿屋にいたが、色々な所で潜入? とかまるで忍者みたいだな・・・。あ! 女性だからくノ一か。
ちょっと待てよ・・・。貴族に騎士に忍者ってメンバーは、どこかでいたような・・・?
「ご主人様! あそこに入って行きます!」
「え!?」
クリス達は大きな屋敷に、壁を乗り越えて侵入して行った。
俺達も少し間を空けて壁を乗り越える。壁の向こうに気配は無いから大丈夫だろう。
壁を乗り越えると、植木に隠れながら先へ進んで行った。
「見つけましたよ! アークダイ・カーンとエーチゴ!」
「なんだお前らは!」
「アナタ達は、貴族と副ギルド長という立場にありながら、この町の人や冒険者を苦しめる悪人です!」
「お前はさっきの学者ではないか! 学者風情が貴族の私に歯向かうとは無礼だぞ!」
「アナタ達は罪を認め、大人しく裁きを受けなさい!」
「うるさい小娘め! え~い出てこい! こいつらを捕まえろ!」
アークダイの号令で数十人の兵士が現れた・・・。
どっかで見た事があるな・・・。
しかも、ギルドの男は副ギルド長か・・・。官と民の癒着はダメだぞ!
「仕方がありません。 アイシャ! サーラ! 懲らしめてやりなさい!」
「「はい!」」
あ~・・・ あれだ・・・ この展開は、納豆の有名な地方のおじいちゃんだ・・・
昔にテレビでよく見た記憶がある。同じような展開だが、最後の〆でつい見入ってしまう番組だ。
っとそんな事を考えている場合では無い!
「レイ! クリス達を助けるぞ!」
「はい!」
俺とレイは剣を抜いて、クリス達に向かって走り出した。
「クリス! 助太刀する!」
「アキラさん! レイさん! どうして!?」
「気にするな、仲間だろ!」
「ありがとうございます! それと、殺さないでくださいね!」
「分かっている!」
俺とレイはすでに峰打ちで戦っている。
「アイシャ!」
「何ですかアキラさん?」
「そこの兵士はどさくさで斬るなよ・・・」
「え!? まさか・・・ そんな事しませんよ!」
アイシャは明らかに、昼間の神殿前にいた兵士に向かって一直線で進んでいた。
俺が注意をしなかったら、恐らく斬っていただろう・・・。恐ろしい娘・・・。
アイシャは俺の忠告通りに峰打ちで当身を入れていたが、他の人より多かった。骨の数本は確実に折れているようだった・・・。後で回復しといてやろう・・・。
人間の一般兵士は、俺達の敵では無い。魔物と違って、ちょっと叩くだけで痛みで動けなくなる。
あっさりと勝負が付いた。
「もういいですか・・・」
「はい! アナタ達は控えなさい! この紋章が見えませんか!」
アイシャが金属板を見せた。鷹と剣と盾が刻まれている。
「この御人は、現国王様のご息女、クリスティーナ・ウェリアード王女殿下です! 皆の者! 控えなさい!」
「王女殿下? あ! あの紋章は!? ははー・・・」
おおおーーー!この場面が実際に見られるとは! 何か興奮してくるな~! 拍手をして盛り上げたい所だが、流石にまずいよな・・・・。
部外者の俺は大人しくしとくか・・・。
「アークダイ! エーチゴ!アナタ達の罪状は明らかです。もう少ししたら我が騎士団が到着するので、それまで大人しくしていなさい!」
アークダイとエーチゴが崩れ落ちたら正面入り口から、銀色の鎧に身を包んだ騎士達が入ってきた。
なんて良いタイミングだ! 騎士達は悪者全員を縛って連行していく。
騎士団で一番豪華な鎧の人物がアイシャに跪いて報告をしていた。
「アイシャ様 罪人達は王国裁判所に連行します。明日には新しい領主様がお見えになりますので、今日はこの館で代理を務めてください」
「分かりました。それも私の仕事ですからね」
「はっ!」
この騎士の対応を見ているとアイシャは騎士の中でもかなりの位にあるようだ。
それにこの騎士達は全員女性だ。
「アキラさん レイさん驚かせてすみません」
「いや・・・ まあ・・・ 何かあるなとは思っていたからな~」
「そうですか・・・ 流石ですね! 改めて自己紹介させていただきます。私はクリスティーナ・ウェリアードです。一応王女ですね・・・。そして、こちらがアイシャ・ランペードです。私直属のワルキューレ騎士団の団長を務めてもらっています。最後に、こちらがサーラ・ライノットです。王国諜報部のエースです」
「アキラさん レイさん すみません。私達は身分を隠して旅をしなければならなかったので・・・」
「私の方は直接表に出る事は控えているので、すみません。監視するような態度を取ってしまって」
「いえいえ! 王女殿下と騎士団長様と諜報部のエース様にお会い出来ただけでも光栄です!」
俺はわざとらしく、仰々しくお辞儀をして言った。
クリスとアイシャとサーラは、吹きだして笑って。
三人が「アキラさんは意地悪ですね!」と笑顔で言っていた。
この対応からすると、いままで通りの接し方で大丈夫という事だな。
「アイシャ様、この方達は?」
「ああ! 紹介が遅れました。アキラさんとレイさんです。私達の旅の仲間で、ハーミット家の客人です」
「ハーミット家の! これは失礼しました。私は騎士団の副長を務めております、マイアと申します。よろしくお見知りおきをアキラ様 レイ様」
「そんなに畏まらなくてもいいですよ。俺達はただの冒険者なんだから、『様』とかもいらないし」
「いえ! ハーミット家のお客様に、そんな失礼な事はできません!」
え~と どうしような・・・。もうちょっと気楽に話しかけて欲しいのだがな。困った目線をアイシャに送ってみたら『分かりました!』と返事がきた気がした。
「マイア 大丈夫ですよ! アキラさんもレイさんも、冒険者の中でトップクラスの実力がありながら、その強さを驕らない器の大きな人達です。今回の旅でも私達の失敗をさりげなく助けてくれたり、何も言わずに解決しようとしたこの町の事も、全て分かったように手助けをしてくれて、更に私たちの身分を知っても今までと同じように仲間として接してくれる器の大きな方達です」
何か褒められ過ぎて、自分の事と思えないのだが・・・。アイシャの中で俺達の評価はそんなに高かったのか、知らなかったな・・・。
「わかりました! アキラさん レイさん この度はお助けいただいてありがとうございます」
「俺とレイは仲間を助けただけですよ」
「はい!」
俺とレイがそう言って、全員が笑顔になった。
これでこの町の問題は一件落着だな! メデタシ! メデタシ!
高貴な身分を隠して悪者退治! いつもの展開に安心感を覚えて、見てしまう! お茶の間のアイドル? 水戸○門!




