第30話 ルスンまでの道のり
新しい仲間と旅に出ます!
見渡しのいい草原を歩いている。
ルスンまでの街道があるので、迷う事は無いだろう。
見渡しがいいので敵が近付いてきても、すぐに分かるから接近される前に魔法で倒すことで安全に進んでいる。
この草原に出現するのは『ベアウルフ』『ドラゴンベビー』『ロックゴーレム』の三体だ。
ベアウルフは熊のような体格のオオカミで2~5匹の群れで行動する。動きが素早く数が多いので注意が必要だが、俺は数体をまとめて、魔法で倒していくから問題無い。
ドラゴンベビーは牛サイズのドラゴンで、実は赤ちゃんでは無く成体らしい。大きいドラゴンの小さい版だから、赤ちゃんと勘違いされてこの名前ということだ。ドラゴンらしく炎を吐いてくるが、魔法で簡単に倒せるので、こいつも問題無い。
ロックゴーレムは人が近付くまで、普通の岩と殆ど見分けがつかない厄介な敵で、体が岩なだけあって防御力が高い。俺が見るとすぐに正体が分かるので、遠くからの魔法で楽勝だ。
俺は『マズートの指輪』を左手に装備しているので、敵が現れたら左手を敵に向けて魔法を唱えるだけの簡単なお仕事です。
俺の視界に入った敵は全て倒していたので、他の三人はただ見ているだけになっている。
クリスとアイシャは最初の内は、俺がいきなり魔法を撃っていたので慌てて戦闘態勢に入っていたが、魔法の一撃で戦闘が終わってしまい唖然となっていた。
少し慣れてきた頃は、何か言いたそうな顔でこっちを見ている。何だろうか?
「あの~~ アキラさん? 私も敵と戦うの手伝いますよ・・・?」
「そうですよ! MPが切れたら大変ですから、私が剣で倒します!」
クリスが我慢できなくなって、アイシャもそれに続いて俺に言ってきた。
なるほど! 俺が魔法を使い過ぎているので心配だったのか!
でも、中級魔法を単発で使っているので、敵と敵の間のインターバルですぐに回復している。なのでMPの心配は全く無い。
だからと言ってクリスとアイシャに気を使われながら旅をするのも、何か嫌だしな・・・。
「あ~・・・ じゃあ、MPを少し温存するから、次から全員で戦うか?」
「はい! 私の魔法に任せてください!」
「この剣にかけて!」
「はい! ご主人様!」
全員が元気よく返事をした。
俺一人で戦った方が早いのにな・・・。チームワークは大変だ。
しばらく歩くと岩に擬態したロックゴーレムが見えた。
俺が注意しようとした時には、アイシャが一気に間合いを詰めて腰のムラマサで一閃した。どうやって見分けたのだろう? 俺には見ただけで敵の名前が分かる体質? があるが、それが無かったらただの岩にしか見えない。
「アイシャはロックゴーレムの見分けが付くのか?」
「そうですね。岩から気配がするので分かります」
「なるほど・・・」
言われてみればそうだな。俺は索敵の時は目視を重視していたが、気配を辿れば何となく分かる。一応、俺も剣聖のスキル持ちだしな。
次に現れたのはドラゴンベビーだった。俺がモンスターが来たと言うと
「アクアランス」
クリスが魔法を唱えて敵へ放つと、一撃で敵を貫いて倒した。杖の属性と同じ魔法なので攻撃力3倍の補正が効いている。
「バーストフレイム」
続けて現れたベアウルフの群れにクリスが放つが、俺とは違い一撃では倒せない。
敵が吹き飛ばされて広範囲に散らばってしまった。
「ここは私が行きます!」
クリスが一瞬戸惑った間に、レイが剣を抜いて飛び出した。
突出したレイに敵が群がる!
「あぶな・・・」
クリスとアイシャが叫ぼうとするが、レイは敵の突進や爪の攻撃を紙一重で避けながら、群れの中を走り抜けた。そして、その後ろにはベアウルフの死体が転がっている。
「す すごい・・・」
クリスとアイシャはレイの強さに驚いていた。話で聞くのと実際に見るのでは、感じ方が全く違うから仕方がないだろう。よく言う『百聞は一見にしかず』ってやつだな。
次は俺の番だ。と思っていると、ロックゴーレムが視界に入った。
皆がカッコよく決めていたので、俺もちょっといい所を見せてやりたい。
魔法で一杯倒していたが、遠くの方で着弾するので倒した実感があまり無かったしな。
「次は俺が行こう!」
ロックゴーレムとの間合いを一気に詰めるように近付いて、一瞬の間に九つの斬撃を叩き込む!
シュパパパパパ・・・・
細切れになったロックゴーレムが足元に転がる。流石に俺の心の師匠ひこさんが得意とした技だ。
あまりにも綺麗に決まったので、思わずスキルを習得したかとステータスを確認してしまった。
もちろんある訳は無いが、かなりオーバーキルだった気がしたが、まあいいだろう。
皆の方を見ると、クリスとアイシャが目を見開いていた。
「ア アキラさん・・・ 今のは・・・ どんな技なんですか?」
「え? ただ、9回斬っただけですよ」
「そ そうなんですか・・・・ きゅ 9回もですか・・・ はぁ~~」
アイシャには俺の斬撃が見えていなかったようだ。
まあ、ステータスMAXで剣聖のスキル持ちの俺が全力で剣を振ったのだから仕方が無いと思う。
ただ、アイシャは俺が今まで会った冒険者の中でダントツに強いと思う。バルガスも強かったが、年齢の衰えが見えていたしな。全盛期ならいい勝負かもしれないが、今ならアイシャだろう。
だがアイシャの方を見ると明らかにショックを受けて落ち込んでいる。
やり過ぎでした、ゴメンナサイ・・・。
「え~っと・・・ さっきの技で少し体力を使ったから、しばらく戦闘は任せていいか?」
「え! あっ はい! 分かりました。任せてください」
「はい! わかりました!」
「はい! ご主人様!」
俺の提案? にアイシャは少し気力を取り戻したようだ。
やっぱり、チームワークは難しいな・・・。
その後は特に問題無く進み、予定地点である林の少し手前で野営の準備をする。
まだ日が沈むまで時間があるが、林を抜ける前に夜になるので、安全を考えてこの草原でキャンプをする。
袋から昨日買った結界石を取り出して地面に突き刺す。
クリスタルが青白く光って、青白い膜がクリスタルの半径5メートル程を包み込む。
少し狭いかなと思っていたら、アイシャも結界石を出して俺が刺した横に突き刺した。
すると、青白い膜が10メートル程に広がった。
効果が重複するとは、これは知らなかったな。
知っていたらあと3つぐらい買っておいたのにな。
結界内にテントを準備している間に何度もモンスターが接近してきたが、こっちに気が付いていないようで、結界の横を通り過ぎていった。どういう風になっているのだろう? 見えないのかな? ただ、襲われない事は分かったので大丈夫だろう。
寝る場所の準備が終わったら、夕食の用意だ。もちろんキャンプと言えばカレーだろう。
俺は材料を切って、玉ねぎから炒めていく。十分に炒めたら他の材料も炒めて水を入れて煮込む。十分に火が通ったらカレールーを入れる。便利な事にこの世界にはカレールーがある。
しばらく煮込んで完成だ。
俺がカレーを作る間に、ご飯とサラダを女の子三人で楽しそうに作っていた。
全ての料理ができた頃には、辺りは真っ暗になっていた。
「いただきます!」
全員が食べ始める。
「やっぱりこういう場所で食べるカレーが一番うまいな!」
「そうですね! 私もきし・・・に入っ・・・。 いえ 以前冒険していた時に食べたカレーが忘れられません!」
「そ そうですね」
「はい! おいしいです!」
な~んかアイシャさんが口を滑らせたようだが・・・。クリスも何か焦ってたし・・・。
レイは気付いたのかどうか分からないが、いつも通りだ。
ここは気付かなかった振りをしておこうかな。
「まだまだカレーはあるから、沢山食べてくれ」
「はい!」
俺が気付いて無いよ! って素振りで話すと安心した様子で二人は返事をした。
食事が終わり寝る事になるが、もちろん見張りを交代でする。
もし、モンスターが入ってきたら対応ができずに、いつの間にか全滅してました。なんて事になったら笑えないからな・・・。
俺とアイシャ、レイとクリスのペアで交代しながら休む事にして、先にレイとクリスが寝る事になった。
「アキラさんはどうやって、その強さを手に入れたのですか?」
「え!? どうって言われても・・・ 世界を色々と冒険してかな~・・・」
アイシャの唐突な質問に俺は狼狽えてしまった。流石に課金しまくって、強さを金で買いました! とは言えないし、理解できないだろう。
「そうですか・・・ やはり広い世界を見る事が、強くなるために必要ですね」
「まあ そうですね・・・」
何か納得してくれたようだ。あれこれ言ってボロを出すと不味いので、このままで行こう!
「ところでアキラさんは、クリス様の事どう思いますか?」
「え!? 可愛いですよ!」
「いえ! そうでは無くて! お兄様のために勉強の旅をするということです!」
俺の返答が間違っていたようだ。だってそんな聞き方したら、そう思うじゃん! 紛らわしいな!
「今はそれでいいんじゃないですか? 旅を続けて世界を知れば、理由が変わるかもしれませんし、それは本人が決める事です。だから、理由が変わった事を問うのでは無く、それを認めてあげるのが良いと思います」
「そうですか・・・ なかなか難しいですね・・・」
「まあ 道を間違えた時は、引っ叩いてでも戻さないとダメですよ」
「いえ! 流石に叩くのは・・・」
「例えですよ! 例え! あと迷った時は一人で悩むより、誰かに相談した方が良いので、気の許せる仲間を何人か見つけて、相談するのが一番良いと思いますよ」
「気の許せる仲間ですか・・・ それも難しいですね・・・」
「そう難しく考えなくても、旅を続ければそういう人にも出会うでしょう。ただ、男の人は慎重に選ばないとダメですよ! 弱みに付け込んで言い寄って来るかもしれないですよ!」
「え! そうなのですか?」
「そう! 俺もそうかもしれませんよ~」
「え!? いえ・・・ アキラさんは違います!」
「あれ? そう? まあ、アイシャは少し固い所があるから、多少力を抜く事を覚えた方が良いかもしれないな」
「そうですか?」
「そうです!」
「はい! フフフフフ・・・」
「ハハハハハ・・・ アイシャは旅の間に、クリスばかりを見るのでは無く、クリスと一緒に同じ物を見ると良いかもしれないな」
「はい! 何となく分かったような気がします。アキラさんと話せて良かったです。ありがとうございました」
「俺の言う事が全て正しいわけじゃ無いけどね」
「はい・・・」
そう言って俺を見つめるアイシャの顔が少し赤い気がするが、たき火の明かりだろう・・・。
カレーだけじゃなく、外で食べるご飯って美味しいですね!




