第22話 荒野の戦い
今回は広範囲を走り回ります。
俺達がバザーの西側へ行こうとすると、霧が少し濃くなった気がした。
嫌な空気を感じて、荒野の方を見ると遠くで動く無数の影が見えた。
俺の目には『ロックスコーピオン』の群れが来ている事がわかった。
牛ぐらいの大きさで鋭いハサミと毒針が付いた尻尾を持っており、体は岩の様に硬いが衝撃には弱い。
「ロックスコーピオンが来ているぞ! 気を付けろ!」
俺は見張りをしていた冒険者に叫ぶ。
カン!カン!カン!カン!・・・・・・・
鐘の音が鳴るが、それはバザーの西側が速かった。
少し遅れて、俺達が居る東側も鐘を鳴らす。
「反対側もか! レイはこっちを頼む! 俺は向こうへ行く頼んだぞ! 尻尾の毒に注意してくれ!」
「はい! お任せください!」
俺は西側へ向かう前に、レイに解毒薬を渡し、ここに居る全員に補助魔法を掛けてから走る。
俺が辿り着いた時には戦闘が始まっていた。
敵は同じロックスコーピオンの群れだった。
戦闘は魔法使いが寄ってくる敵を魔法で攻撃して、倒しきれない敵を戦士が直接攻撃をしている。そして、僧侶が回復担当になっていた。ドルフィン号での戦闘とほぼ同じ方法だ。
俺は着いてからすぐに全員に補助魔法を掛けて最前線に向かった。
俺の戦い方は、右手に剣を持って、左手には盾ではなく杖を装備している。
攻撃など当たらなければどうという事は無い!
まずは近くにいる敵を殲滅にかかる。
そして、前線を押し上げるのが俺の役目だろう・・・。
『アクアニードル!』
水系中級魔法になる。先端を細くして貫通能力を上げているので、複数放つと敵を穴だらけにした。
近くに居る敵を片付けたら、次は遠くにいる敵だ!
『バーストフレイム!』
炎系爆裂魔法になる。1メートル程の火球を敵に放ち、着弾すると爆発して周囲の敵5~7匹を巻き込んで倒して行く。
戦いは殲滅戦になっているが、敵の数が多い。バーストフレイムを10数発撃ち込んで8割ほど敵を倒した所で東側へ向かう事にした。これだけの量を相手にするとなると、並みの冒険者ではキツイだろう・・・。
「すまない、俺は東側の敵へまわる! 後は任せていいか?」
「大丈夫だ、残りは俺達が倒す! 行ってくれ!」
近くに居た冒険者に声を掛けて、東へ向かって走り出した。
魔法中心の攻撃で敵の数は減らせるが、このままのペースで魔法を使い続けたら、いくら俺でもMPが尽きそうだな。などと考えて東へ向かって走っている途中に、タイミングよく商人が数人いた。
「おい! あんた達! マジックポーションをできるだけ集めて、戦闘している所へ運んでくれ! 敵の数が多すぎる!」
「わかった! 仲間にも頼んでみる。他には何か要るか?」
「敵は毒を使うから、解毒薬も頼む!」
俺は返事も聞かずに走り出した。後ろの方で「任せてくれ!」と言っているようだ。
走っていると、ふと南側からも、嫌な空気を感じて目を向けると・・・。
近付いてくるモンスターの群れ『アイアンスコーピオン』が30匹ほど見えた。ロックスコーピオンの上位種で防御力が格段に上がっており、魔法も雷系以外は効きにくい。
「まだ 居るのか!?」
俺は立ち止まって杖を構える。
「サンダーストーム! サンダーストーム!」
クラーケンに使った魔法を2発撃っておく。確実に倒しておかないと、ここは避難所に近い。
俺の魔法に気が付いた人が近くに寄ってきた。
「おい! どうしたんだ?」
「南からもモンスターが来ていた。 とりあえず魔法で倒したが、見張りを何人か付けてくれ! あと・・・ 北側もだ。俺は東側の応援に行ってくる。頼んだぞ!」
西と東から攻めてきて、時間差で南から・・・ となると北からも来そうだな。北は主力か?
だが、モンスターがこんな戦術を使うのか?
考えても今は答えは出ないな・・・。今は考えるより、敵を倒すのに集中しようか。
東側も速攻で倒して北へ向かった方が良さそうだ。
東側に到着すると、レイが白い炎を剣に纏わせて敵に向かって放っていた。収束された炎はレーザービームのように敵を貫いて7~8匹ほどを炭にしていく。
敵の残りは4 50匹ぐらいになっているが、炎を収束させて放つのは力をかなり使うのだろう、レイは肩で息をしていた。
「レイ! 後は俺に任せて、少し休んでくれ!」
「いえ まだ大丈夫です!」
「ダメだ今は休むんだ! まだ次が来る可能性がある!」
「え!? 分かりました、お願いします!」
体力の限界がくるまえに休まないと、回復するのに余計時間が掛かってしまう。もし次に敵の襲撃があったら防げないかもしれないからな。特に魔剣を使いたい時に、剣化できなかったら目も当てられないだろう・・・。
「バーストフレイム」
爆裂魔法を13発撃って、敵を全滅させる。流石にMPを使い過ぎだ。
「マジックポーションは、まだあるか?」
「ああ 飲んでくれ」
俺は近くの冒険者に尋ねると3本くれた。
一気に3本飲んで少しMPが回復する感じがした。マジックポーションは飲むとすぐにMPに変換されるので、腹が膨れる事はないのでありがたい。じゃないと回復より先に腹が一杯になったら、回復薬の意味がないからな。
だが、俺のMPを全快にする程の回復量は無い。爆裂魔法5発分のMPは回復したのでいいだろう。
「レイ 俺は北を見てくる。レイはここで待機してくれ」
「北ですか?」
「ああ 全方位で来そうな気がしてな。いなければそれでいい」
「分かりました!」
カン!カン!カン!カン!・・・・・・・
俺は北へ向かって走りだした時に、北から鐘の音が聞こえる。
しまった! もう来たか! 北は東西の距離よりも遠い。なので移動には時間が掛かる。
もう、スピードアップの魔法を掛けているので、これ以上は早く走れない。
北へ着いた時には戦闘が始まっていた。
モンスターはロックスコーピオンとアイアンスコーピオンの混成部隊だった。
そして前線を指揮しているのは、バルガスだ。
最初に東西へ襲撃があったので、北は手薄になっている。なので防衛している冒険者の数がかなり少ない。
バルガスは自分が最前線で壁になり、アイアンスコーピオンにサンダーランスを撃ち、ロックスコーピオンの足を斬って動きを止めて、そこに魔法使の魔法を撃つといった戦いをしていた。バルガスの負担は大きいが、少ない人数で戦うので仕方が無い。バルガスは魔法を使っているが杖を持っていない、多分杖の代替になるアイテムを装備しているのだろう。剣もフレイムソードを使っている所を見ると、現役時代は相当な実力者だったはずだ。だが、歳のせいで体がついてきていない。だんだん動きが鈍くなって肩で息をし始めている。
「バルガスさん、後は俺に任せてください!」
「すまない・・・ 頼んだ!」
俺は最前線のバルガスと交代するが、バルガスは返事をするのも辛そうだ。
まずは、サンダーストーム2連発でアイアンスコーピオンを一掃する!
そして残るロックスコーピオンをバーストフレイムを13発撃ち込んで殲滅した。
ヤバイMPの底が見えてきた。
「すまない、マジックポーションはあるか?」
「ああ これを飲んでくれ!」
俺は5本もらい一気に飲み干した。これで少しは持つだろう。
「バルガスさん、大丈夫ですか?」
「ああ すまない助かった・・・。アキラが北の防衛の指示を出したんだってな。おかげで敵の不意打ちを喰らわずにすんだ」
「西から東への移動中に、南から襲撃があったから、念のために頼んだんです」
「いい判断だ、あとはこれで終わっ・・・・・・」
バルガスとの会話中にレイのいる東側の空に白い炎が上がる。
レイの緊急信号だ・・・。
次回はボス戦突入です。




