第16話 雨上がり
イカの焼ける匂いは、お腹が空きますね!
ダイオウイカは美味しく無いそうですが・・・。
クラーケンの倒し方だが、まずは足を全部破壊する。そうすると頭を出すので、そこを攻撃して倒す。
言葉にすると簡単だが、問題は再生能力だ。足を破壊するのに時間が掛かると、最初に壊した足が再生してしまう。そうすると何時まで経っても頭が出てこない。こうなるとこっちの体力が先に尽きて負けてしまう。
俺とレイの攻撃力ならやれそうだが、今の装備では一撃で足を斬れないだろう。そうなると他の冒険者を頼ることになるが、彼らでは足を破壊する事すら無理かもしれない。遠距離攻撃で一気に倒したいが、船に近すぎる・・・。もし船を壊してしまったら、そこで終わってしまう。どうするか・・・。
とりあえず、どんどん斬っていくか・・・。
「レイ! 炎を使って戦ってくれ! ただし船に燃え移らないように注意してくれ!」
「わかりました!」
まあ、雨が降って燃えにくくなっているはずだから大丈夫だと思うが、一応な・・・。
今、船に張り付いている足は10本だ。戦いの状況は戦士三人が足1本と戦い、魔法使い四人で足2本、僧侶は補助、俺とレイは残る7本・・・。って多くね!?
俺が足を斬るのに4回必要で、レイは6回、戦士と魔法使いはいくら攻撃しても倒せない。
いくら俺とレイが5本まで減らしても、最初に倒した足が復活して再度襲ってくる。
これはダメだ・・・。
作戦変更!
「おい! ちょっとその杖を貸してくれ!」
「は!? そんなことできるか! 邪魔しないでくれ!」
だよな~・・・ いきなり知らないヤツが来て武器を貸してくれって言ってもダメだよな~・・・。
ここは・・・ ジャキィン! 剣を構えて、殺してでも奪い・・・。
「な なにをする きさまー!」なんて事をするわけにもいかないな。
魔剣を使うか!? いやあれは人前で同化するところを見られたく無い・・・。 レイの事を奇異の目で見られる可能性が高い。それはダメだ!
多少の被害は我慢するか!
「レイ! この剣で戦ってくれ! 少々船が燃えるのは仕方無い! とりあえず浮かんでいたらいい!」
「わかりました!」
レイに魔剣を渡す。
レイは炎を纏わせる。色は白だった。だが、収束した炎ではないので全力では無い。
まあ、全力を出されたら木製の船なんて一瞬で炭になりそうだしな・・・。
ジュッ!
剣の一振りで足が焼けて無くなる。
いける!
レイが3本目を倒したところだった・・・。
ザッッパァー!
海面から更に足が5本と触腕が2本出てきた。
「おい! イカの足は10本だろ!」
思わず叫んでしまった。
「今度こそ終わりだ・・・」
「・・・」
冒険者の全員が戦意喪失していた。
これはダメだ! 魔剣を使っても間に合わないだろう・・・。時間が掛かると船が沈められてしまう!
最後の手段だ!
「杖を借りる!」
俺は魔法使いから杖を強引に取り上げるが、魔法使いは反応できない。
レイは足をどんどん斬っているが、再生速度の方が早く数に押されはじめていた。
他の冒険者は甲板の真ん中に、集まってきていた。恐怖から後ずさりしているようだ。
これは都合がいい!
「レイ! 一旦下がって皆を守ってくれ! 今から大きな魔法を使う!」
「ま 魔法ですか!? わかりました!」
全員が足から離れたのを確認して、船の周囲にいる敵を思い浮かべる。
そして・・・ 杖に魔力を全力で込める!
「サンダァー! ストォーム!」
船の上空に雷雲が現れ、海に向かって無数の稲妻が落ちる。
あまりの轟音と光で、目の前が真っ白になり、耳が痛くなる。
雷系上級全体魔法『サンダーストーム』だ
魔法の現象が収まると、触腕以外の足が全て無くなっていた。
意外としぶといな!
「サンダーランス」
雷の槍を飛ばし一撃ずつで仕留める。
足を全て倒した後は・・・
ザッパーン!
本体である頭が出てきた。
すでに再生が始まっているようで、頭の横に出した足が少しずつ元に戻っている。
やらせるか!
「サンダーバレット」
バスッ!バスッ!バスッ!バスッ!・・・・
俺の周りに現れた無数の雷の弾はクラーケンの頭を貫いていく。
雷系上級単体魔法『サンダーバレット』一発の威力は低いがMPの続く限り連射ができる。もちろんMPが豊富な俺は1万発撃っても余裕だ。
とりあえず千発ほど打ち込んでおいた。
ジュワァー・・・・・
クラーケンが消滅していく。
船の周りにも敵は居なくなった。多分、俺の全体魔法で死んだのだろう。
「ご主人様! お疲れ様です!」
「ああ ありがとう」
とりあえずの危機は去ったが、なんか最初から魔法が使えれば、すぐに終わっていた気がするな・・・。
これは絶対に次の町で杖を買おう!
俺はそう心に強く決めた。
「これ 杖をありがとう、強引に奪ってすまなかったな、助かったよ!」
「あぁ・・・。あんたか・・・。た 倒したのか?」
「ああ そうだな。あんたの杖のおかげだ」
「そうか・・・ 俺たちは助かったのか・・・」
俺が魔法使いに杖を返しにいくと、クラーケン倒した事が信じられなかったのだろう。助かったと聞いてその場にへたり込んだ。
他の冒険者たちも同じようにへたり込んでいる。
しばらくすると雨が弱くなってきていた。
「ああ! あの時は杖を貸せなくてすまなかった・・・」
「気にしないでくれ、いきなり杖を貸せと言っても誰も信じないだろうし。杖を用意できなかった俺も悪いのさ・・・」
「そ そうか・・・ すまなかった」
魔法使いは少し元気になってきたようだ。思い出したかのように謝罪を述べる。流石にまだ立つのは無理そうだが。
まあ、本来なら初期で杖は手に入らないし、一応買おうとはしたんだが、売り切れだったんだよな~。
そういうイベントか?
「ア アキラさんどうなったんですか? 倒したんですか?」
「あぁ マゼットさん、とりあえず今回襲ってきたモンスターは倒しました」
「そ そうなんですか? あの伝説のクラーケンを?」
「そうですね、かなり手ごわかったのですが、なんとか倒しました」
「そうですか! 本当に! ありがとうございます!」
「いやいや 気にしないでください。それよりも、あの冒険者たちを船室で休ませてあげてください。だいぶ疲れているようです」
「わかりました! すぐに手配します。アキラさんも休まれてはどうでしょう?」
「いや 俺はまだ大丈夫なのでしばらく甲板にいます。まだモンスターが襲ってくるかもしれないですから」
「本当にすみません」
「レイは少し休んできたらどうだ?」
「いえ 一緒にいます!」
「そうか じゃあしばらく二人で待機だな」
「はい!」
俺とマゼットが話している間に雨が上がり、東の空が明るくなってきていた。
冒険者たちは船員に肩をかしてもらって、船室へ連れて行かれた。身体の傷は俺が魔法で回復していたが、ショックから立ち直るのに少し時間がいりそうだ。
夜が明けると天気は快晴になっていた。
気が付くと何事もなかったかのように、イルカの群れが船に併走している。
明るくなって周囲の監視ができるようになると、俺とレイは船員に監視を任して休憩することにした。
とりあえず、風呂に入ってから朝飯だな。
二人で風呂に入るが、流石に今は性欲より食欲だった。
食堂に行って朝飯を注文した。
すると、「船を守ってくれた英雄に!」と物凄い量が出てきた。また、これですか・・・。
俺が頑張って食べきるために料理と戦っていると、冒険者たちが俺の元へやってきた。もしかして、こっちもですか・・・。
船旅はそろそろ終わりです。




