Episode2:三角関係-I
気付けば彼女に惹かれている自分がいた。
いつから想いを抱いたかは分からない。
ただ胸が高鳴って自分では制御ができない。
「玲奈、帰ろうぜ」
孝明がそう言った。
名前を呼ばれた玲奈は孝明の方を向いてにっこり微笑んだ。
それを見て俺の胸は何かに刺されたような痛みをしっかりと感じた。
「優、お前も一緒に帰らないか?」
孝明が俺の方に話をふってきた。
「いいよ、やめとく。二人の邪魔したくないしさ」
俺はなるべく明るく見えるように気をつけながらそう言った。
「お前までそんな事を言いやがって。」
「たまにはいいじゃん」
「ったく。じゃあ俺達はもう行くぜ」
「おぅ、また明日な」
「優、バイバイ」
「バイバイ、玲奈」
最後に玲奈にそう言って俺は歩いていく二人の後ろ姿を見送った。
俺と孝明と玲奈は産まれた頃からの幼なじみだ。
そしてその関係は途切れずに17歳になった今も続いている。
孝明は小さい頃から玲奈の事が好きだった。
俺はそれを知ってたし、いつもからかっていた。
それは俺が玲奈の事をまだ好きではなかったからしていたのだろう。
もしかしたら俺もその頃から玲奈の事が好きで気付いてなかっただけかもしれない。
今それを確かめる術はないのだけど。
孝明が玲奈に告白したのは3週間前だった。
偶然なのか巡り合わせなのかは分からない。
俺はその現場を見ていた。ただ1つ確かなのは玲奈が頷いたという事だ。
玲奈が承諾した瞬間に俺は2人との間に壁を感じた。
それは今まで感じた事のないものだった。
そして、その壁のせいで俺は自分が玲奈の事を好きだったのだと知ることになった。
何とも皮肉な話だと自分で思いもした。
俺は玲奈の事が好きだ。
間違いなく自信を持っていえることだ。
だからこそ辛い。
玲奈の事が気になるぐらいなら諦められたはず。
しかし、俺は玲奈への想いを確信している。
せめて二人が俺の幼なじみではなかったら・・・
そんな事を何度も考えてしまう。
二人が帰ってから20分して俺は一人で教室を出た。
一人で帰るのは既に慣れていた。
気を使わずに済むだけこっちの方がましだとも思ったりする。
家について携帯電話を見ると着信が一件あった。
マナーモードにしてなかったらしく気付かなかったようだ。
かけてきた相手は玲奈だった。
嬉しいような悲しいような複雑な思いで俺は玲奈にかけ直した。
「はい」
4コール目で玲奈は電話に出た。
「玲奈、何か用?」
「わざわざ電話してくれたんだ」
どことなく、玲奈の声は元気がない気がした。
「優、今から会える?」
「ごめん、今から会うのは無理なんだ」
「そうなの?用事でもあるの?」
「うん。そんなところ」
「そう、分かった。また今度話すね」
「電話じゃ駄目なの?」
「うん、会って話したいから」
「そう」
「うん、じゃあまたね」
「あぁ、じゃあな」
俺はそう言って、電話を切った。
「はぁ、嘘ついちまった・・・」
用事なんてホントはなかった・・・
ただ玲奈に会うのが辛かったから・・・
「なんか、今日は疲れたな」
俺はそう呟いてベッドの上に制服のまま突っ伏した。