歌に想いをのせて-III
「今日はどんな曲を聞かせてくれるの?」
目の前で座っている夕子がそう尋ねた。
俺は少しだけ口ごもりながら
「今日はさ、俺が作った歌なんだけどさ」
「へぇ。タイトルは?」
「タイトルは・・・」
歌詞が完成して2週間はずっと練習だった。
まずは完璧にギターの方をマスターしてから歌うようにしていった。
自分が作った曲というのもあり、2日も経たない内に弾けるようになった。
だけど、歌いながらというのは思ったよりも難しかった。
俺にとって弾き語りは初めてだからしょうがない事ではあるのだけど。
俺はとにかく一生懸命練習した。
俺の生涯で過去にもそして未来にもこれ程に頑張るのはないと思った。
とにかくそう思えるほどに俺は頑張った。
一日に何度も同じ曲を弾きギターの弦も2回切った。
それでも俺は諦めようとは一度も思わなかった。
それほどに彼女の事が好きなんだと再確認できた気がする。
そして2週間の激しい練習を重ねて俺は今、彼女の前にいる。
「タイトルは・・・」
「どうかしたの?」
言われてみればタイトルなんて考えてなかった。
「えっと・・・そう、君へ贈る歌」
「君へ贈る歌ねぇ。いいタイトルね」
「そうかな?」
「うん」
「じゃあ、いくよ?」
「うん」
俺の震える手で掴んだピックが弦に触れた。
心地よい音とはいえなかったけど俺の心には強く響いた。
君と出会って僕の世界に色がついた
白と黒の違いさえ分からなかったのに
君の見せるしぐさ全てに惹かれて
ずっと側にいたいと願った
時が経てば募る苦しさ
忘れたいと願うほどの切なさ
君はいつ気付いてくれるの?
「愛してる」
なんて簡単には言えないけど
今はきっと伝える時だから
「愛してる」
僕の胸に募る想い全て込めて
君に伝えよう
・・・・・・・
俺が歌い終わった後、静かだった。
こんな事は一度もなかったからなんとなく不気味だ。
俺たちは無言だった。
俺の顔は多分、真っ赤に違いない。
少し経って、彼女が口を開いた。
「これって・・・その、告白?」
「・・・うん」
俺は小さな声でそう言った。
「そう」
彼女はそう言うと黙ってしまった。
勿論、俺が喋れるはずもなく、時間だけが過ぎた。
5分ほど、経ってから再び彼女が口を開いた。
「・・・で・・いの?」
声が小さくてほとんど聞こえなかった。
「え?」
俺が聞き返すと彼女は今度は大きな声で言った。
「私でいいの?」
「夕子がいいから、歌ったんだ・・・」
「・・・嬉しいよ」
「え?」
「嬉しい・・・私もあなたが好きだったから」
「本当に?」
「うん・・・」
彼女は顔を真っ赤にしていた。
そして照れたような顔は世界中の誰よりも可愛いと思った。
彼女に思いを告げてから1ヶ月が経った。
1ヶ月も経てば付き合っているのがばれるのは当たり前だった。
信じられないのは告白の方法がばれていた事だ。
勿論、夕子が言いふらしたのだろう。
それが幸いしてか軽音楽部は恐ろしいほど人数が増えた。
「ねぇ、浩太」
学校からの帰り道、彼女が俺を呼びかけた。
「来週って私の誕生日でしょ」
「あぁ」
「また、歌作ってよ♪」
「・・・まじ?」
「うん」
「構わないけど」
「ありがとう」
彼女はとても嬉しそうだった。
それを見ると俺も嬉しくなった。
君が喜んでくれるなら俺はいくらでも歌うよ。
君へ贈る歌を。俺の想いをのせて。
やっと最初の物語が終わりました。短編とかいいつつ、3話にもなりました。基本的にこれからもこんな感じなんで、読んでくれる方はよろしくお願いします。