Episode1:歌に想いをのせて-I
彼女に告白しよう。
俺がそう思ったのは9月の風の強い日だった。
高校に入学してもう約1年と半年が流れた。
あんなに嫌がりながら入学したが学校生活は楽しいものとなっている。
どうして嫌がってたかというと・・・
この学校は俺の第一志望じゃなかったからだった。
俺の実力では第一志望は無謀すぎた・・・
だから家の近くのこの学校にきた。
第一志望以外の高校なんてどこも一緒のように見えてたからだ。
しかし、今はそうなった事に感謝すらしている。
そのおかげで彼女に会えたんだから。
俺が初めて藤堂 夕子を見たのは入学式だった。
確実に一目ぼれだった。今、思い出しても間違いないと思う。
彼女には人を引き寄せる魅力みたいなのを俺は感じた。
入学式での席を見て彼女が自分と同じクラスだと知った。
心の中でガッツポーズをして楽しくないはずの入学式すらを、
嫌と感じることがなく終わりを向かえることができた。
今、思えば奇跡以外の何でもないような気がする。
「藤堂 夕子です。よろしくお願いします」
入学式の後の教室で俺たちは1人1人自己紹介をした。
彼女の声はとても綺麗で僕はさらに彼女に心を奪われた。
勿論、俺以外にも同じ様な奴はたくさんいた。
俺は入学から1週間もしない内に部活に入った。
中学からやっていたギターをするために軽音楽部へと入部した。
部活内のメンバーにはバンドを組んだりする人もいた。
俺も何度かいくつかのグループに誘われたが断った。
俺がしたいのはライブなんかじゃなかった。
ただ自分がギターを上手くなっていくのを感じたいだけだった。
部活ともなると機材も結構いいのがそろっていて、
練習は満足いくものばかりだった。
俺と彼女が始めて話したのは入学から3週間が経ったときだった。
あれは本当に偶然の出来事だった気がする。
中学時代からの友達の林 飛鳥が俺に話しかけてきた。
「なぁ、浩太。ちょっと来てくれ」
俺は言われるがままに飛鳥の後についていった。
「はい、こいつ軽音部だよ」
突然何を言うかと思えば目の前にはクラスメイトの女子がいた。
「えっと、秋月君・・・」
「何?」
彼女の名前は稲本 秋穂といった。
見るからに控えめでおとなしそうな性格の子だ。
「軽音部にさ・・・その・・・成太君っているでしょ」
「あ、うん」
「その、喋ったりする?」
「まぁ少しは・・・」
一体何が言いたいんだろう?
俺にはまったく理解が出来なかった。
「えっと・・・それでね・・・」
秋穂はなかなか続きを言ってはくれなかった。
どうやら照れているようだった。
なかなか話が進まないのを見かねたのか後ろの子が割り込んできた。
そう、この時に俺は初めて夕子と言葉を交わすことになった。
「秋穂はね、成太君の彼女なんだけどね」
そう言って彼女は事情を話していった。
5月の初旬に彼の誕生日がある。
初めてプレゼントをあげる機会で彼女は何をあげたらいいか分からない。
そこで軽音部である俺にさりげなく聞いてほしいと言う事だった。
「別に構わないけどさ・・・」
「本当?」
秋穂はねだるような目をしながら聞いてきた。
「うん。でもさ、こういうのって貰えれば何でも嬉しいもんだと思うけど」
「分かってるんだけど・・・」
「別にいいんだけどね。ちゃんと聞いておくよ」
そう言って俺は彼女の願いを聞く事になる。
その事で俺はとてつもない苦労をした。
今じゃ思い出したくもない・・・ぐらいにね・・・
何が良かったのかこの日から俺は夕子とよく話すようになった。
彼女は陸上部で文科系の部活の俺とは話が合わないか心配になった。
しかし、そんな事は全然なく彼女とはいろんな話で楽しめた。
何よりも彼女の良かったところは、どんな話でも楽しく聞いてくれることだった。
俺は基本的にギターの話をしていた。
フェンダーはどうだの、レスポールはやっぱりギブソンだとか。
彼女はこの話に興味も持ってくれてギターを弾いてるのを見てみたいといった。
結局、恥ずかしさとかが重なって見せるのは3ヵ月後になるのだけど。
彼女に弾いているのを見せるのを約束してから、
俺の練習は更に熱が入っていった。
練習時間は1,5倍ぐらいに増えたと思う。
とにかく一所懸命ただひたすらに練習していた。
そして約束から3ヶ月が経った。
俺と夕子は昼休みを利用して軽音楽部の部室にいた。
放課後だと他の部員もいて恥ずかしくて出来そうになかった。
昼休みでいいかと提案しても彼女は笑顔で頷いていた。
この日のために練習していた曲は2曲だった。
1曲は激しいロック、もう1曲はゆったりとしたバラード。
頑張ったおかげで失敗せずに上手く演奏できた。
「上手だったよ」
彼女はその一言だけ言った。
短い言葉だったけど俺はとても喜んだ。
この日から俺は1ヶ月に1回ぐらいのペースで彼女に演奏を聞かした。
彼女は毎回、楽しそうに聞いてくれていた。
時が経つにつれて俺は彼女も俺の事が好きなんじゃと、
淡い期待を抱いたりするようになった。
結局、それから長い間特に進展は無かった。
だけど今日・・・それが変わろうとしたんだ。
昼休み、俺は彼女にギターを聞かせていた。
いつもは褒めるだけの彼女が違うことを口にした。
「浩太は、自分で作詞したり作曲したりしないの?」
「出来ないこともないよ。でも、やった事はない」
「やってみたらいいのに」
「どうして?」
「作詞作曲ってかっこいいじゃない」
「確かにかっこいいね」
「歌で想いを伝えられたら特にね」
歌で想いを伝えられたらか・・・
「私だったら多分・・・泣いちゃうな」
「そういうもんなの?」
「そういうもんよ。私だけじゃなく女の子はね」
「ふ〜ん」
俺はこの時決心したんだ。
彼女に告白しよう。