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真・恋姫†無双〜後漢最後の皇帝   作者: フィフスエマナ
第一章 降りかかる運命
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駆けつける者、裏切る者

義真は後宮内を全力で走っていた。


本来、走るなどありえない場所でただひたすら目指している部屋に向かって。


そして、その顔はすごく焦っていた。


(くそッ!!)


先程聞いた話を思い出して毒気づいた。




先程、おしゃぶりを返しに引き返して少し歩いたところで、前方の薄暗い廊下の先より微かな女性の悲鳴が聞こえたのだ。


すぐに気を引き締め声がした方へ駆けつけて驚愕した。


男性兵が片手で女の口を塞ぎ、もう一つの手には抜き身をさらした剣が握られていたからだ。


(なんで、後宮内に男が?しかも、抜刀してるだと!)


「貴様、そこで何をしているー!」


疑問に思ったのが、すぐに声をあげてトンファーを両手にかまえ重心を下げて男の方へ猛然と走り出した。




突然現れた義真を見て男は驚いたが、すぐに捕まえていた女を義真の方へ突き飛ばして、女もろとも切り捨てるつもりで両手で剣を振り上げる。


義真は突き飛ばされて目の前に来た女を受け止めず、寸前のところで横にステップして躱して脇に着地した。そして、着地したのと同時に溜めた両足のバネを解き放って男に跳躍した。


男はまさかあの距離で躱されると思わず、一瞬だけ反応が遅れた。


義真にはそれで充分だった。


鋭い傷みと共に男が目にしたのは自分に迫りくる床だった。




義真は念のため警戒したが男が気を失っているのが分かると、トンファーを腰に掛け、拘束用の綱で男を縛りあげた。


そして、突き飛ばされた女の元に向かった。


「少し擦ったみたいだが大丈夫そうだな。他に…」

「皇甫嵩様、助けて下さい」


義真の話を遮り、女は矢継ぎ早に話し出したのだ。




女は翡翠付きの侍女で、今日はたまたま後宮の外であった用事に従事していた。そして、用事を終えて翡翠の部屋の近くまで戻った時に、遥かに前方に兵士の一団が見えていて怪訝に思っていると、あろうことかその一団は翡翠の部屋に入っていき直後に侍女長の声がしたがすぐ聞こえなくなったのだ。


女は怖くなって固まっていると、突然後から声をかけられて驚いて振り向くと先程の一団と同じ装いをした男がいた。


その瞬間、怖くなり女は脱兎のごとく走り出したのだ。

後ろから男の呼び止める叫び声が聞こえたが無視をして走った。

そして、走り出したまま翡翠の部屋を通り過ぎかけた時、見てしまったのだ。

扉から覗く入り口付近で侍女長と知り合いの侍女達が血塗れになって倒れている姿を…。




そのあとは恐怖で脇目もふらず長いこと走ったが、捕まってしまったのだ。

そして、殺される寸前で義真に助けられたのがいまだった。


それを聞き、すぐ女に董太后様の部屋に行き報告しろと指示して翡翠の部屋に駆け出したのである。




どれぐらい走っただろうか。

ようやく翡翠の部屋に差し掛かった時に、かつて賊討伐などで何度も嗅ぎなれた臭いが鼻につきさらに顔をしかめて全神経に緊張を走らせる。


そして、遠目ではるか先に見える翡翠の部屋の入口に立つ二人の兵士の姿が目に入った。


(ここも男の見張りか…、しかも兵装からして親衛隊(何皇后付き)の奴らか。ちっ、面倒だが正面から普通に行くしかないか…)


さすがに親衛隊に問答無用で攻撃すると後で大問題になると思い、ゆっくり歩きながら部屋の入口で止まった。




薄暗い廊下の先から、そんな義真が現れて入り口に立つ二人の兵はかなり警戒して手に持つ槍を握りなおす。


「失礼、ここは王美人様のお部屋かと思ったが、何故ゆえそこに立っている?」


「おまえみたいな宮殿警護の者に答える必要はない!即刻、立ち去れ!」


「はて?私は王美人様にお預りしたものを返しに来たのだが…取り次いでもらえるかな?」


「そんなものは聞いてないし、知るか!早く即刻立ち去れ、これ以上、立ち去らないなら親衛隊として…」



「それは私のセリフだ!」



埒があかない=部屋で問題あり。

そう判断して義真は素早く間合いを詰めて襲いかかった。


まさか親衛隊に襲いかかってくるとは思わなかった兵達は、慌てて手にした槍を構えるが、時すでに遅く槍の間合いではなく義真の間合いだった。


一人目の首に右手のトンファーを叩きつけ撃ち抜いた。

そして、撃ち抜いた勢いを利用して槍を構えた二人目の男の顔面にトンファーを投げつけた。男がそれを手で払った一瞬の間に男の下に潜り込み、左手にあるもう一つのトンファーを男の鳩尾に叩きつけた。トンファーを通してあばら骨の折れる音がした。

激痛のあまり気絶した二人を確認して、残りの拘束用の綱で縛り上げた。


それが済むと、すぐ投げたトンファーを回収して手に持ち直した。




血の臭いが漏れる扉の前で義真は一息入れて扉を開け放った。


そして濃厚な血の臭いが外に漏れだしたのである。


奥の部屋に続くその廊下の隅には一刻前まで普通に会話をしていた侍女や侍女長の事切れて血まみれの体が転がっていた。


廊下の脇の部屋に人の気配がないことを確認して、足を奥に進めた。


(すまないが、弔いは後でする)


途中、死体の脇を通る時に軽く頭を下げ奥の扉へ向かう。




そして、扉に近づくにつれて劉協皇子の泣き声が大きくなっていく。


扉の前で室内の様子を伺おうとした矢先に一際甲高く大きな泣き声がしたため、義真は室内の様子を伺うのをやめ、先程まで打撃用だったトンファーの握り手の部分にある鞘の留め金を外した。



鞘が床に落ちて乾いた音が響いた。


そして、義真の両手には後宮内で初めて晒された刃が握られていた。


少し握りなおした瞬間、よく手入れされた二つ抜き身の刃がきらりと光った。


思いっきり扉を足で蹴り放って開けた。


そして、目の前に広がる光景を見て久々に心の底から怒りを覚えるのだった。





木蓮は入ってきた親衛隊によってすぐに拘束されていた。


今は両脇にいる親衛隊に肩を押さえつけられている。

そして、肩の治療を終えた何皇后の前の床に頭を押えつけられていた。


「よもや、まさかわらわを殺そうとするとは…、あ〜、恐ろしいや」

「何皇后様、私は…」


「だまれ!貴様が何皇后様に刃を向けたらのは明白だ!」


見下して小ばかにするよな態度の何皇后に対して木蓮は咄嗟に釈明しようとしたが、何皇后の横にいる親衛隊の隊長が遮り、それと同時に木蓮の両脇にいる親衛隊の兵士がさらに腕に力を入れて両肩を押さえつける。


「貴様、なぜ何皇后様を誅しようとした!」

「あれは何皇后様が私の手を取り…」


「嘘をつくな!」

「嘘でありま…」


「この痴れ者め!」


隊長はそう言うと何回も木蓮の背中を棒で叩きつけた。


このやり取りが何度も繰り返され半刻が過ぎた頃、木蓮は何度も叩かれた背中の傷みで憔悴し始めていた。


隊長と木蓮のやり取りを楽しそうに見ていた、何皇后は隊長を手で制して下がらせた。



そして木蓮の前に行くと片膝をつき片手で木蓮の髪を鷲掴みにして顔を持ち上げた。


「下賤の者にしてはなかなか綺麗な顔立ちが台無しじゃのう」

「わ、わたしは…」

「いい加減、正直に申せばわらわも寛大じゃぞ」

「……ですから…」

「強情じゃのう」


息も切れ切れに話す木蓮の髪を鷲掴みにしていた手を勢いよく床に叩きつける。

その衝撃で木蓮の顔に痛みが走る。



何皇后は踵を返して少し歩いて、木蓮の方を振り返った。


そして、


「素直、申せばよいものを。誰ぞ庇っているのかのう…」


「おぉ〜、わらわは分かったぞ!おまえは王美人の指示でわらわを誅しようとしたのじゃろ?違うか?」


言葉を紡いだ。


「ち、違いま…」

「だまれ煩い!そうか、そうか、確かに日頃からおまえに指示できるのは王美人だけだったな」


木蓮は咄嗟に言葉を出しかけたが、それを何皇后が遮った。


「こいつは王美人の指示で動いていたと?何皇后様」


そして、さも驚いたと言ったわざとらしい感じで、隊長が何皇后に尋ねる。。


「そうじゃ、この医師の裏には王美人が控えているのじゃ」

「しかし、何故ゆえに何皇后様を?」

「大方、陛下の御子を産んでわらわの子から簒奪しようと画策したのじゃろ。お~、恐いのう?」

「な、なんと、その様なことを!」

「そうじゃ。だから陛下にどこぞの田舎の県令の娘など側室に迎えぬように反対したのじゃが…」

「しかし、いくら王美人の指示とはいえ、よもや人の命を救う医師が、それに反し人の命を誅するなど、こいつは医師の片隅にもおけませんな」

「そうじゃのう〜」


そこには、まるで安い三文芝居が繰り広げられていた。

そして、室内に二人の嘲笑が響いた。


勿論、木蓮は口を挟もうとしたが、それを見た両脇にいる兵が木蓮の頭を床に押さえつけて話せなくしていたのだ。


「では、すぐ王美人の部屋に兵を」

「ふむ、そうじゃのう」


「お待ちください、何皇后様!王美人様は関係ありません!」


隊長が何皇后に許可をもらい、部屋にいる兵達に命令しようとした時、両肩を押さえる力が緩んだ隙をみて木蓮は声を発した。




さすがに木蓮を押さえてた両脇の兵もしまったと顔をしかめたが、何皇后はご満悦だった。


「では、おまえ一人で画策したのかえ?」

「それも違います。何皇后様が私の手を掴み、ご自身で刺されました!」


木蓮は翡翠まで何皇后の手が延びるに怒りを覚え矢継ぎ早に話した。


「なるほどの〜、たしかそんな記憶もあったような…」


「何皇后様!」


とぼけるような何皇后に対して、形振り構わず木蓮は叫んだ。



しかし…、


「だが、ここにいる皆は見たのじゃぞ?わらわの血が滴る髪飾りを持ったおまえの姿を。しかも、おまえの主は王美人じゃ。どちらかが画策したのであろうと王美人の責任は免れることはなかろう」


何皇后はほくそ笑みながら言った。

それを聞いた木蓮はもはや何皇后が反論を聞く余地もないと確信して肩を落とした。



何皇后やその部屋にいる者達にとっては木蓮がいう実際の真実より、何皇后の妄想が真実であったのだ。


そして何皇后は続ける。


「皇后のわらわを誅した者の主…、王美人は側室であっても死罪を免れぬだろう。そして、産まれたばかりの王美人の子も禍根を起こさぬよう死罪になるじゃろうな」


「そ、そんな…、王美人様や劉協皇子は関係ありません!」

「戯れ言を。皇后を誅しようとした罪は主も含め一族郎党に及ぶ大罪じゃ!」


「……くっ…」


もはや聞く耳持たぬ何皇后に何も言えなくなりうなだれる木蓮であった。



そんな、木蓮に何皇后は近づき、そっと耳元で…、


「しかし、それでは同じ陛下の御子を持つわらわとしても、さすがに少し不敏じゃのう…」

「それでは…」


うなだれていた木蓮が顔をあげる。


「あぁ〜、そうじゃ!わらわも不敏じゃと思う。だから、おまえが王美人の名誉のために王美人を毒殺するのじゃ!」


遂に言いたいことを言い、何皇后の顔は満面の笑みを浮かべるのだった。


それとは対照的に木蓮の顔は真っ青になった。


「どうじゃ?」

「そんなこと、出来ません!」


反射的に言い返した木蓮であったが内心は焦っていた。



何皇后は今回と同じようなやり方で後宮にいる側室や侍女、女官達を何十人も無実の罪で死罪にしているのは有名な話しだった。


しかも、何皇后は宮中で絶対的な発言力をもつ十常侍とも繋がっている。そのため、何皇后の言は例え皇帝であれ退けることが不可能に近いことを後宮で暮らす者は皆知っていて暗黙の常識であった。



そんな考えを巡らしているのを見透かしたように、何皇后はそっと、


「のう、もはやおまえも主の王美人が助からぬことは分かるじゃろ?」

「………」

「だが、おまえが王美人を毒殺すれば王美人の名誉は守られ、その子と一族郎党は皆助かり、おまえは画策した主の名誉を守った漢の忠臣として称され死罪は免れ助かるじゃろう」


「………」


木蓮の頭の中で翡翠と産まれたばかりの伯和が助かる道をずっと思案していた。



しかし、無情にも時間は待ってくれず何皇后も同じであった。


「どうじゃ?」

「……は………は…い」


「ん?」


押し殺したような小さな声で呟いた。


そして…


「わかりました何皇后様。私が王美人様に毒を盛ります!」


決意を込めた顔で応じた木蓮を見て、何皇后はご満悦だった。


そんな木蓮の心には翡翠の顔がよぎった。


(貴女を裏切ることを許して…翡翠)


そう心の中で呟いた。

義真の武器を少し解説します。

彼女の持つ武器はトンファーです。

普段は皆様ご存知の状態のトンファーですが、捕縛以外の戦闘時には持ち手の横にある留め金を外して鞘を落として刃をさらして使います。

簡単なイメージはトンファーの手や腕があたる内側の以外はすべて刃物だと思って下さい。



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