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真・恋姫†無双〜後漢最後の皇帝   作者: フィフスエマナ
第二章 伝えられなかった真名
28/31

約束

お待たせしました。


いよいよ、第二章の最終話です。


お楽しみ下さい。

孫堅と祭に見送られ、要たちは県を発って、来たときに利用した船着き場を目指していた。


少しだけ進んだ時、澪は遠くの河原に佇む人影に気付いた。馬に歩みを止めるようにと手綱で指示しながら、そっと要の耳元にその人影のことを伝えた。要はハッとして反射的にその人影を目で追い、目を見開いた。その人影は見覚えがあるからだった。

すぐに澪の腕の中から無理矢理体をねじりながら抜け出して、馬の背から飛び降りた。高さがあり危険なため澪が制止したが、要の耳には全く聞こえてなかった。

バランスを崩しながら何とか着地したが、全身を駆け抜ける着地の衝撃が昨日負った傷に響いて一瞬、息が詰まった。だが、顔をしかめながら何とか立ち上がり、ふらふらとした足取りで人影に向かった歩き出したのだった。

そのおぼつかない足取りを心配して、澪は冬史を見たが、冬史は何も言わず首を横に振るだけであった。そして、澪も冬史と同じく要の後ろ姿を優しい眼差しで見ることにしたのだった。


(ふふ、変われば変わるものっすね)


澪は少しだけ口元に笑みを浮かべ、要が向かう先………蓮華の小さな背中を見つめていた。




蓮華は河原を見ながらずっと考えていた。

昨日、助けを求めた時、運良く最初に会ったのが祭と姉たちであった。そして、幼い蓮華の必死の訴えを何一つ疑うことなく信じてくれたのだった。その結果、事態は予想以上に早く動き出して、賊の被害が県の中まで及ぶことはなかった。また、蓮華が一番気がかりであった要の安否も、母から散々怒られた後、教えられたのだ。それを聞いた瞬間、張りつめていた緊張は一気に抜け、蓮華はその場にへたりこんでしまったのだった。


朝、起きた時にはすでに母や姉たちの姿はなく、賊の後始末で詰め所内は慌しい雰囲気に包まれていた。昨日、会えず仕舞いだった要の居場所を何人かの兵士に聞いてみたが、不思議なことに誰一人として居場所はおろか、要自体のことを知らなかった。姉たちなら知ってるだろうと考え、居場所を聞いたが、返ってきたのは朝早く捕縛した賊たちを連れて長沙に向かって、戻ってくるのは夕方とのことだった。ならば母や祭にと考えたが、こちらは誰も居場所すら知らなかった。そのため、蓮華は街中を歩いて要を探すことに決めたのだった。


昨日、要が付けてきた場所など色々と探し回ったが、見つけることはできなかった。また、通りを歩く人たちにも聞いてみたが、誰も知っている者はいなかった。

それでも探すべく歩き回っていたが、自分のお腹が鳴る音でかなり時間が経っていることに気付いた時、すでに足取りに力はなく途方に暮れていたのだ。

少し休もうと思い、河原近くまで行き、手頃な大きさの石に腰を下ろしたのだった。目の先には昨日襲われた場所があり、その遥か先には警戒にあたっている兵士の姿が映っていた。

賊の死体はすでに河原にはなかったが、討伐の激しさを表すように辺りの岩や石などに血の後が赤黒くついていて、風にのって血の匂いが辺り一帯に漂っていた。


だが、蓮華にはそんなことよりも要のことが気がかりだった。母はたしかに無事だと教えてくれたが、他の大人たちは誰も知らなかった。そして、自分で探し回ってもそれは同じであった。

蓮華は考えれば考えるほどよく分からなくなった。もしかしたら、母は自分を気遣って嘘を教えたのではないか、と疑い始めた蓮華の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


ふと、蓮華の耳に風にのって自分の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。


「仲謀ーーー」


次の瞬間、蓮華の耳にははっきりと聞こえていた。咄嗟に声のした方を振り返り目を大きく開けた。


「伯和?」


目の端から一滴の涙が頬を伝った。

その目には母以外で誰も知らなくて、探し回っても見つけれなかった要の駆けてくる姿が映っていた。気付いた時には、蓮華も要の元に全力で駆け出していた。


「伯和ーー!無事だったのね。良かった、本当に良かった」

「うん、お互い無事で本当に良かったね」


二人は再会の嬉しさを表すように、互いの手を掴んで上下に激しく振っていた。


「でも、お互い酷い顔だね」


自分と同じように頬は叩かれ腫れていて、瞼は泣きはらして腫れている蓮華の顔を見て要は笑った。


「ええ、おかあさまに沢山叱られちゃったから。伯和は?」


蓮華も屈託なく笑い返していた。


「僕は……」

「ごめんなさい、変なこと聞いて……」


昨日、要の口から心配してくれる家族がいないと聞いたことを思い出し、表情が暗くなりかけた。


「ううん、大丈夫。僕のことを心配してくれた家族に沢山叱ったかってもらったから」


その暗さを吹き飛ばすような笑顔を浮かべて要は答えた。


「家族?……そう、伯和にもいたんだね、家族。じゃあ、わたしたちは一緒ね」


その笑顔が嘘ではないと感じた蓮華の表情もすぐ明るくなった。


「うん、一緒だね。………あとね、仲謀にお別れを伝えに………」


少しだけ寂しそうに要は切り出したのだった。


「おわかれ?………そっか、伯和の家は襄陽だったわね。せっかく会えたのに……」


再会した喜びもつかの間だったため、蓮華もどこか寂しそうな表情になった。


「…ち……」

「ち?」


要は咄嗟に訂正しかけてが、冬史や孫堅とした約束が頭に過り本当のことを言えなかった。


「……ううん、そうだよ」


明るい表情とは裏腹に心が痛かった。


「私の家は長沙だから遠いね。また会えるよね?」

「………たぶん」


後宮に戻れば二度と会えなくなる、と確信していた要の返事は弱々しかった。

だが、その煮え切らない返事を聞いた蓮華は、呆れたような怒ったような顔をして要をねめつけた。


「なんで弱気なの!そこは、うんって言うところよ!!」

「ごめん」

「はぁ~~~、やっぱり伯和は軟弱者ね」 


蓮華は少しだけ何かを考えてから、自分の腰にある剣を鞘ごと手に取り、要の前に差し出した。


「いいわ、この剣を伯和に貸してあげるわ」

「えっ!? でも、この剣って仲謀のお母さんがくれた大事な剣なんでしょ?」


要は驚いて、蓮華の顔と剣を交互に見た。


「そうよ、おかあさまから貰った大事な剣だけど、伯和に貸してあげるわ。だから、これで毎日鍛練して今よりももっと強くなって、大きくなったら私に返しにきて」

「仲謀に返しに?」

「そうよ、そしたら伯和をわたしの家来にしてあげるわ」

「仲謀の家来に?」

「ええ、よく家来は家族だって、おかあさまが言ってるわ。だから伯和をわたしの最初の家族にしてあげる」

「家族に………いいの?」


要はきょとんとした顔で聞き返した。


「ええ、いいわよ。昨日、伯和はわたしを守ってくれたから………だから絶対に返しにきてね」

「うん、約束する。必ず返しに行くよ」

「約束よ」


差し出された剣を受取る要の顔は、先程と違い明るい表情だった。その顔を見て蓮華は満足そに頷いて剣を手渡した。要は受け取った剣が予想以上にずっしりと重たかったため、両手を抱えるように剣を持ち直していた。

その時、何かを思いついたように剣を自分に立てかけるようにして、胸元から翡翠の首飾りを取り出して半分に分けたのであった。


「仲謀、約束の印に僕の首飾りの半分を渡しておくよ」


蓮華の前に差し出されたのは、半分に分けた首飾りの片割れだった。


「でも、これは伯和のあかあさまの?」


差し出された首飾りを見て、蓮華は遠慮がちに要に確認した。


「うん、仲謀と同じで大事な物だよ。だから、僕も約束の印に首飾りを渡すから、いつか僕が剣を返しに来たら首飾りを返してよ」

「わかった、だいじに首飾りあずかってるわ。だから、わたしの元にきてね」

「うん、約束する!」


蓮華は首飾りを両手を包み込むように受け取って、要は約束を誓ったのだった。


「伯和様ーーー!そろそろ、お時間が」


二人が笑顔で約束を結んだ時、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえてきた。それを聞いた要は蓮華の目をもう一度見た。


「じゃあ、行くね」

「うん、気をつけてね」

「それじゃ、またね」

「ばいばい、伯和」


蓮華の見送りの言葉を聞いた要は立ち止まった。


「仲謀、違うよ。また会うのだから………またね、 だよ」


それを聞き、蓮華は満面の笑みを浮かべた。


「うん、わかった。またね、伯和……きっと」

「約束するよ。またね、仲謀」


蓮華にそう告げると、要は足早に冬史たちがいる方に歩いていったのであった。その姿を蓮華は見えなくなるまで、その場で見送り続けたのだった。


「伯和、行っちゃった……」


そして、県に戻りかけた時、重要なあることに気付いたのであった。


「あっ、伯和の姓聞きわすれちゃった。わたしの姓も伝えわすれちゃった、どうしよう………。そうだ!伯和の家は襄陽で商家をしてるっていってたわ。そうよ、だったら大きくなって伯和がこなければ、わたしの方から会いにいけばいいんだ。うん、そしたら伯和はきっとびっくりするわね」


(わたしもそれまで、おかあさまやおねえさまみたいに、立派な孫家の主にならないと………がんばるぞ!!)


蓮華はそう心に決めると、約束の印である首飾りを握りしめて県の方へ走り出したのだった。





要たちの見送りを終えた、孫堅と祭は詰め所の一室で椅子に腰を掛けていた。


「ね、要士は私が言った通りだったでしょ?」


少しだけ誇らしげに孫堅は祭に自慢していた。


「うむ、たしかに堅殿の言う通りじゃな。しかも、賢い御方じゃった」


たった数日で、ああまで様変わりした姿に祭は感嘆していた。また、それを当てた主の感の鋭さにも舌を巻いていた。


「じゃが、宮中では間違いなく仇になるじゃろな」


少しだけ祭の表情が翳った。孫堅もそれは一理あると思っていたが、


「そうよね、宮中にとってあんな考えをする要士はきっと邪魔でしかないわね。でも、あの子は教えた通り隠れて爪を磨くわよ」

「それは堅殿の感か?」


意味深な顔をする孫堅に祭は訊ねた。


「ええ、わたしの感よ。まぁ、それにあの二人もついてることだし、その上には董太后もいるから、きっと大丈夫よ」


孫堅は明るい声で答えた。


「それも、そうじゃな。………でも、本当にいいのか?もし、要士様が宮中で立とうとした時、堅殿が全力で助けるというのは」


祭からしたら、こちらの方が心配であった。


「ええ、本気よ。きっと、要士なら私の家族たちをとっても大事にしてくれるもの」


だが、孫堅は問題は何もないと言わんばかりに即答であった。


「……それに」

「なんじゃ?」

「ううん、何でもないわ」


思わず漏れてしまった声に祭が聞いてきたが、孫堅は苦笑しながら首を振ったのだった。


(それにね。翡翠からもお願いされたから) 


孫堅は翡翠からの手紙の最後の部分を思い出していた。


(お姉様にお願いがあります。もし、私の身に何かが起き、要士の傍にいれなくなった時、あの子がお姉様を頼ってきたら、どうか助けて頂けないでしょうか?)


そう綴られていたのだ。今まで一度も、頼みごとをしてこなかった、翡翠の最初で最後になってしまった頼みごとだった。


ただ、孫堅も事がことだけに、翡翠の頼みだけで無条件に助けるつもりなど毛頭なかった。助けようと心を決めたのは、やはり要の言葉によるものが大きかった。だが、少なからず翡翠の気持ちが自分の心に働きかけたのは事実であった。


顔を上げて祭を見る孫堅の表情は、そのことを心に決め真剣であった。


「その時がくれば全力で助けるわ。でも、この話しは絶対に他言無用よ。要士の真名やここにいたことも全部」

「そうじゃな。このことが宮中に伝われば、その牙は我等に向けられるからのう」

「ええ、奴等は腐りきってるから。でも、今から楽しみだわ。あの子が元服して立つ日が………」


そう答えると、孫堅は物思いに耽っていた。その姿を見た祭は嫌な予感が走った。きっと、とんでもないことを言うと確信して………。

その時、孫堅の表情が明るくなり、祭を見る目は輝いていた。


「そうよ!思いきって私の娘を要士に嫁がせようかしら。そう、孫家の血を劉家入れるのよ。ね、いいと思わない?」

「け、堅殿。それはちと……」


悪い予感が的中した祭は、顔を引き攣らせながらなだめようとした。


「祭、決めたわ。孫家の血を劉家に入れるわよ。私と要士が真名を交換した以上は出来る話よ!」


だが、手遅れだった。利かん坊の雪蓮の母は目の前の主だったと再認識した祭は、内心苦笑いしながら訊ねてみた。


「止めても無駄なようじゃな……。ちなみに誰を嫁がせるのじゃ。策殿か?」


少し考えて孫堅は答えた。


「う〜ん、年齢的にはすぐにでも縁談が出来そうだけど………あの子は駄目ね。母親の私が言うのも何だけど自由闊達すぎるわ。雪蓮が要士に嫁いだら、きっと何皇后以上になるわよ、私が保証するわ。そうね、一番いいのは……」


雪蓮の尻に敷かれた要の姿が目に浮かび二人は笑みを漏らした。


「一番いいのは、なんじゃ?」

「冥琳が一番適任だと思うんだけど……」


真面目で知勇を傲ることのない冥琳なら、ぴったりな相手だと孫堅は思っていた。祭も、その考えには納得とばかりに頷いた。


「たしかに冥琳なら宮中を掌握して、要士様を支えることが出来そうじゃな。ただ、それでは孫家の血を……」

「そうなのよね〜」


孫堅は困った顔で祭に相槌した。その時、部屋に近付く気配がして二人は扉の方に注目した。そして、扉が勢いよく開け放たれたのだった。


「母様、入るわよ」


雪蓮が怒りを隠そうともせずに、ずかずかと部屋に入ってきた。その片手には半べそをかいた蓮華の手が握られていた。


「どうしたの雪蓮?あら、蓮華も」


孫堅が面倒ごとは嫌だから、祭が聞いてと目で訴えた。やれやれと思いながら祭は雪蓮に話しかけたのだった。


「どうしたのじゃ、策殿。何やら腹を立ててるようじゃが」


それを皮切りに雪蓮は怒りをさらけ出した。


「当たり前よ!蓮華ったら、お母様から貰った剣をあげちゃったのよ!」

「なんと、堅殿が大切にしていた、あの名剣をか?」


その話しを聞いて祭は咄嗟に蓮華を見た。無論、その腰にはあるはずの剣がなかったため驚愕した。そう、蓮華が持っていた剣は孫堅が若い頃から使っていた名剣であった。現在、孫堅が愛用している剣は、太守就任の折に皇帝から賜った南海覇王と銘打たれた剣だった。この南海覇王はいずれ後を継ぐ、雪蓮に譲るつもりだったため、蓮華にはその剣を授けたのであった。


「そうよ、蓮華ったら。お母様が大事にしていた剣をあげたのよ。しかも、見ず知らずの子に!」

「………ちがう」


雪蓮の怒りがさらに強くなる中、蓮華がか細い声で反論した。


「何よ、言い訳するの?信じられない!!」


雪蓮が蓮華を睨みつけて一蹴した。


「雪蓮~、悪いけど少し静かにしててもらえる。蓮華、どういうことか話してもらえるわね?」


雪蓮に睨みつけられて、しゅんとしている蓮華を見て、孫堅は優しく話しかけた。


「………ごめんなさい、あかあさま。でも、あげてないです。いつか返しにくるって約束しました」

「約束?」

「はい、大きくなったら返しにくるって。だから約束の印に首飾りを………これです」


蓮華が胸元から布で包んだ首飾りの半分を、取り出して孫堅に見せようとした。


「あっ」

「母様の大切な剣と首飾りを交換って……」


だが、それを雪蓮が横から掠め取ってまじまじと見ていた。


「なによ、この首飾り!翡翠だけど半分じゃない!それと母様の大事な刀を交換って……蓮華ッ!!」


さらに雪蓮の怒りが強くなった。


「はい、はい、雪蓮はもう少し静かにしててね」

「母様ーー」


雪蓮をなだめながら、孫堅は雪蓮の手から首飾りを取上げた。


「わかったから。ちょっと首飾り見せてね………あら?」


たしかにその首飾りは半分であったが、見覚えがある首飾りだった。最初に見たのはもうずいぶんと昔で、次に見たのは昨日だった。


(これって、翡翠と木蓮が一緒に作った首飾りの片割れじゃない。そして、今は要士が……)


「どうしたのじゃ、堅殿?」


首飾りをじっと見たまま固まっている孫堅をいぶかしんで、祭が声をかけた。その声で孫堅は考えるのをやめて、蓮華に確認をした。


「ねぇ、蓮華。その子とどんな約束をしたの?お母様に聞かせてもらえる?」


蓮華は頷いて要との約束を話し出したのだった。


「………はい。その子が大きくなったら剣と首飾りをお互いに返して、わたしの家族にするって約束しました」

「家族?」

「はい、最初の家来にするって」

「あ〜、なるほどね。で、その子の姓は?」

「………」


その瞬間、蓮華は押し黙ってしまった。それを不思議そうに孫堅は訊ねた。


「どうしたの?」

「ごめんなさい、聞きわすれちゃいました。ただ、伯和という名で襄陽で商家を営んでる家の子です」

「姓も聞いてないなんて、信じられない!!………母様?祭?」


さすがに何処の誰だか分からない子に剣を渡したと知って、雪蓮は我慢の限界とばかりに声を荒げたが、母と祭の様子がおかしいことに気付いた。


「堅殿、まさか………」

「ええ、祭の想像通りよ……」


孫堅と祭はお互いの考えが同じであることを確認していた。そう、蓮華の約束の相手が皇帝の御子、要士であることを……


(どうやら、要士との縁は蓮華にあったみたいね)


孫堅がくすりと笑った。


「おかあさま?」


蓮華はその笑みの理由がわからずに不安そうに声をかけた。その声を聞いた孫堅は優しく答えたのだった。


「蓮華、その首飾り大切にしなさい」

「母様っ!!」


雪蓮の抗議の声を孫堅は顔を横に振って制した。


「いいのよ、雪蓮。きっと、その子は蓮華に剣を返しにくるわ。まぁ、家来は無理だけど、家族にだったらなれるわよ………(そう、本当の家族にね)」

「家来?家族?おかあさま?」


蓮華は言葉の意味が分からず、きょとんとした顔をして孫堅を見つめていた。


「堅殿?」


祭の声に孫堅は頷いた。


「ええ、きっといい家族になれるわ。だから、首飾りを大切にしておきなさいね」

「はい、おかあさま」


蓮華はよく分かってなかったが、要との約束を母親が認めてくれたことだけは分かっていた。だから、とっても嬉しかった。


「じゃあ、私たちも愛すべき家族が待っている長沙に帰りましょうか」


本当に嬉しそうに返事をした蓮華を見て、孫堅も嬉しそうにそう言ったのであった。


(要士のためにも蓮華をきっちり教育しなくちゃね)


孫堅はいずれ訪れる時のことを楽しみに思っていた。


だが、孫堅は知らなかった。


その時を目にする機会が永遠に訪れないことを………。





宮中のある部屋でのこと。


その部屋には十二人の人影があった。


「なに、賊はあっけなく撃退されただと?」

「先程、柴桑から使者がやってきてそう報告してきた」

「せっかく手を回して長沙に向かわしたのに………苦労が水の泡だな。我らとの繋がりは?」

「それなら、問題ない。一族郎党すべて物取りに見せかけて殺すように命令しておいた」

「ふ、ぬかりないな」

「しかし、やはり江東の虎は早急に排除した方がいいですな」

「あぁ、あれにこのまま力を持たせれば、後々まずいことになるかもしれんな」

「ええ、近隣諸侯に伝染すれば、我らの力が弱まる可能性もありますからね。どなたか何かいい案がある方はいますか?」

「たしか、劉表と孫堅は仲があまり良くなかったはずだ。それを利用してみてはどうか?」

「だが、仲が悪いとは言え、劉表はそこまで馬鹿ではないぞ。そうそう乗ってくるわけがない」

「まぁ、劉表自身が無理ならばその下の者を利用すれば問題ないでしょう。そうですね………」

「蔡瑁か黄祖辺りを焚きつけてみればどうだ?」

「蔡瑁は劉表に近すぎてすぐ感づかれるな。となると、江夏の黄祖の方がいいだろう。奴は欲深いしな」

「それはそうだな。では、黄祖を焚きつけて孫堅に当てるでいいな」

「ええ、わかりました。ですが、念のため何人かこちらの腕利きの者を忍び込ませておきましょう」

「それもそうだな。ふん、面白い虎狩りが見れるかもしれんな」

「あぁ、我々に靡かない猛獣は早く始末すべきだからな」


彼らは十常侍と呼ばれていた。


この翌年、孫堅は黄祖との小競り合いにより、落命してしまうのだった。


その結果が孫家にもたらしたのは、瓦解と離散であった。


そして、要と蓮華の約束行く末は………


第二章 完



ここまで読んで頂きましてありがとうございます。

雲行きが怪しい終り方ですが、これにて第二章は終了になります。


今の所の予定では全八章構成にするつもりです。

ただ、このペースですと、確実に百話を越えるので書ききれるか不安ですが、頑張ってまいりますので、気長にお付き合いお願いします。


また、次回投稿は私の勝手で申し訳ないですが、来年の一月末を予定しています。

その前にはご指摘が多かった、一章のセリフを変更する予定です。


あと、少しネタバレになりますが、

次の第三章は二章の三年後を描く予定です。

第三章の章タイトルは「天にまつわる出来事」です。


天といえば、天子、黄天、そして天の御使い、いよいよ時代が動きだします。


その時、要は………


お楽しみに!


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