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真・恋姫†無双〜後漢最後の皇帝   作者: フィフスエマナ
第二章 伝えられなかった真名
16/31

十常侍との邂逅

連続投稿になります。

元は、この次の話と一つの話しだったのですが、予想よりも長くなってしまいましたので分割しました。そのため、少し短くなっています。

いよいよ、後宮の外に出ることになった要達です。

要は澪に連れられて、後宮から本殿宮までの長い廊下を歩いていた。


初めて歩くその廊下の床は、細かい刺繍が入った絨毯のようなものが敷き詰められていた。要が履いている靴は全体が絹で出来ており、その柔らかな靴の裏ごしに更に柔らかい、その絨毯のような感触を感じることができたのだった。


ふと、足の感触を楽しむのを止めて目を上げると、その目線の先には50メートルぐらいの間隔で禁軍兵が直立不動で立っている。しかも、見慣れた女性ではなく久々の男性だった。何気に、この転生先で要が男を見るのは実に三年ぶりぐらいだったのだ。最初に見たのは忘れもしないあの事件の時だった。次に見たのは二歳になるかならないかの時に、この世界の父親である霊帝が初めて訪ねてきたのである。


しかし、要が見たこの世界の自分の父は単なる酔っ払ったデブオヤジだった。そして、一言二言、何かをぼそぼそと話すと要に興味を失ったみたいですぐに部屋から出て行ってしまったのだった。それ以来、霊帝は要に会いに来ることはなかった。そのため、要は霊帝のことを父親だとは思ってはいなかった。それ以来ぶりに男性を見たのである。


ちょうど、兵士の前を通り過ぎようとした時に、直立不動のまま軽く要に対して会釈をしたため、要も反射的に会釈を返したら兵士は大層驚いてしまった。


「皇子、皇帝の御子は一般兵士に挨拶を返さなくてもいいんっすよ〜」


す一緒に歩いてる澪が苦笑しながら小さな声で話してくれたのであった。


(たしか、何かで教えてもらったような)

「……コク…」


とりあえず頷いておいた。それを確認すると、澪は驚いていた兵士に軽く頷いたのであった。その後は兵士の会釈に会釈を返さすことなく、本宮殿に向かってしばらく歩いていた。すると目の前に一際・・・いや、それ以上に大きな閉じられた門があった。門の両脇にいる兵士が要達の姿を確認すると、門をゆっくり開けたのであった。そして、門の先には行き止まりが見えないほど、遥か先まで廊下が伸びていた。


その門を通り抜けた瞬間、要の世界が一転した。その煌びやかな世界に。かつて後宮ですら十分贅の極みの結晶であったが、この本宮殿はそれを遥かに凌駕しているのだった。その、広さ、大きさ、高さ、施されえた彫刻や絵画、そこら辺に無造作に置かれている調度品に至るまで後宮のそれとは全然違ったのである。そう、すべて超一流であった。これこそ四百年近く続く漢帝国が誇る本宮殿の姿であった。初めて本宮殿を訪れた者でこの豪華絢爛な姿に驚かない者は誰一人としていなかった。そのため、皇帝に初めて謁見に来た諸侯などは早めに到着して謁見に遅れないようにするのが常識でだった。


要もまたその本宮殿の豪華絢爛な姿に魅入られた一人であった。先程からずっと立ち止まりその本宮殿の姿を呆然と見つめていた。澪は要の行動を最初から予想していたように優しく微笑んで見ていた。しかし、それは横から突然話しかけられた声により遮られたのだった。


その声がした方に要は顔を向けると、声をかけたのであろう人物と、その横にもう一人いたのだった。声をかけたと思われる人物は、背はそんなに高くなく中肉中背といった風貌であった。着ている服は見るからに上質な絹で編みこまれた服を重ね着していた。そして、顔は丸々としていたが、愛想の良さそうな表情をしてその口元にはうっすら笑みを浮かべていた。


もう、一人の人物は逆に背が高く痩せてほっそりとしていた。着ている服は中肉中背の人物と同じく上質な絹で出来た服をこちらも重ね着している。ただ、中肉中背と違い顔は無表情でかなり冷たい目をして要を見下していた。だが、この二人の表情は相反しているが、その視線はどちらも何とも言い様のない気持ち悪さを含んでいたため、要は思わず澪の方を見ようとした。


しかし、横にいる澪と後ろにいる冬史を含めすべての者達が、その人物に対して膝を折り臣下の礼を尽していた。ただ、横にある澪の顔には何とも言えないような表情が浮かべられていた。どうやら、この二人はかなり偉い人物達であったようだ。それを証明するようにこの二人は要に膝を折ることはなかったのだった。すると、おもむろに中肉中背の方が話しかけてきたのだった。


「お初に御目にかかります劉協皇子」


まるで演技でもしているが如く、恭しく頭を下げたきた。その姿にどんな反応をしてらいいか考えあぐねていると中肉中背は笑みを浮かべたまま話を続けてきた。


「これは驚かせてしまって申し訳ありません。私の名は張譲と申します。こちらにいる者は段珪と申します」


すると段珪と呼ばれた背の高い人物も要に頭を下げてきた。ただ、その姿はどこか無機質であった。


(だんけんはないけど、ちょうじょう?…………何処かで……聞い覚えが………誰だっけ…)


聞き覚えのある名を聞いて少し考えたが、すぐに思い出せなくて、とりあえず中肉中背に軽く頷いたのだった。 それを見た中肉中背の男は笑みを強めて続けた。


「我らは、皇帝陛下から十常侍を拝命しおります」

「………?じゅうじょうじ?」

「はい、皇帝陛下の傍に控えていて様々な取次ぎを行う役目にてございます。不詳にも宦官の中では大長秋に次ぐ地位でございます」

(だいちょうしゅう?いや、分からないな。でも、かんがんは聞いたことが…)


また、聞き覚えのある言葉を聞いた要は、記憶の海の奥底から何かを手繰り寄せようとしていた。そんな要にお構いなしに中肉中背は続けた。


「殿下がもう少し大きくなられましたら、何かと宮中でお会いする機会があるかと存じます。お見知り置きのほどを………殿下?」

(…ちょうじょう?……じゅうじょうじ?……高い地位………かんがん…………ッ!!)


要はようやく記憶の海から手繰り寄せることに成功したのだった。そう、後漢末期に政を私物化して漢帝国を疲弊させて、滅亡の淵に導いた存在。その諸悪の根源とも言える………宦官で集められた集団、十常侍。それに気づき改めて二人を見ると、先程感じた気持ち悪さの理由がようやく分かった。


それは自分を見ている視線が、全身を嘗め回すぐらいに纏わりついてくるからだった。その気持ち悪さに更に悪寒を感じて思わず後ずさりかけたのだった。そんな、要の表情を見たのか更に視線を強めていった中肉中背…、張譲はほくそ笑みながら話しかけてきたのだ。


「おや?皇子、如何しましたかな?」

「………」


纏わりつく視線に絡み捕られて何も言えないでいた。まさに蛇に睨まれた蛙の状態であった。だが、後ろから突然、助け船が出されたのであった。


「張譲様、段珪様。劉協皇子は今日、初めて後宮の外に出られましたため、少しお疲れになっております」


その言葉でようやく動けるようになった要が咄嗟に後ろを振り向くと、そこには冬史が方膝をついたまま顔を上げて話していた。ただ、その顔は後宮で要に一度も見せたことのない真剣な顔で、その目には強い意思が宿っていた。そして、要を見ることなく、張譲と段珪を見据えたまま話を続けたのだった。


「もし、皇子にお急ぎの用事がなければ、外に控えている馬車にお連れしてお休みをさせたいのですが、お許し頂けますでしょうか………、よろしいでしょうか?」


少し目を細めながら冬史は張譲と段珪に申し出た。その話し方は丁寧だがどこか断れない雰囲気があった。そのまま、冬史はじっと張譲を見据えていた。少しの沈黙の後、張譲がさも忘れてたという素振りで答えたのであった。


「おぉ〜、そうだった!殿下は初めて後宮から出られたのであったな。それだったらお疲れでも致し方ないな。引き留めて悪かったな皇甫嵩。殿下にも失礼をしました」


全身でわざとらしい表現をして、道を開けて先に向かうように促した張譲であった。また、段珪も何も言わずそれに従ったのだった。


「張譲様、ありがとうございます。それでは失礼します!」


それを見た冬史は張譲に方膝をついたまま礼をいい、ゆっくり立ち上がった。そして、自分と同じように方膝をついている澪や周りにいる者達に立ち上がり先に進むように促したのだった。


「公偉、先に向かうぞ」

「は、はいっす!」


張譲と段珪の前で膝をついて固まっていた澪は突然、字を呼ばれてたため驚いて少し上擦った声で返事をしてしまったのだった。冬史の声でようやく冷静さを取り戻した澪は立ち上がり、袖を掴んできた要の手を確認して、その手を握り要に頷いて先に足を進めたのであった。


「道中気をつけてな。くれぐれも殿下にお怪我のないようにな」

「はっ!では、失礼します」


一同の最後尾が目の前を通り過ぎたのを確認した冬史は、最後に張譲と段珪に軽く会釈して踵を返して先に進んだ列に続いたのだった。そんな列を見送っていた張譲と段珪は列がだいぶ離れると誰にも聞こえないように小さな声で話しだしたのだ。


「ふっ、董太后の飼い犬の分際でわしに指図するとは生意気な!」

「まぁまぁ、張譲殿。落ち着かれよ」


そこには先程までの愛想のよい表情はなく、あからさまに不機嫌の声を出す張譲がいた。それに対して、段珪は相変わらず無表情な感じで諭したのだった。


「まったく気分が悪いわ!………しかし、劉協皇子は聞いていたよりも大人しかったな。段珪はどう見る?」

「そうですな……、たしかに噂で聞いていたよりずいぶん大人しいですね。噂では癇癪を度々、起こすとのことでしたが。………寧ろ、あのおどおどした感じが皇子の本性かもしれませんね」

「だろうな。五歳にもなって警護の女の袖を掴まなければまともに歩けないなどとは、全く情けない!」

「ええ、諸侯の子ですら一人で歩けますからね。これが諸侯に知れれは………皇族を貶める行為ですね」

「だが、あれの方が操り易かったのではと、わしは後悔してるわ」

「たしかに劉弁皇子よりも御し易そうですね。最近、何やら何皇后も不穏な動きを見せていますからね」


張譲の質問に答えながら、王美人毒殺後から従順だった何皇后が、ここ最近は不穏な動きを見せる始めたことを思い出した段珪であった。


「たしかにあの女狐も怪しいかもしれんな。では、計画を変更して同時進行で進めるか?」


段珪の話を聞き張譲も、自分達の思い通りに動かなくなり始めた何皇后を思い出して苦々しく答えていた。


「はい、もしも何皇后が駄目なら劉弁皇子と共に消えてもらいましょう………。勿論、先に董太后とあの飼い犬の事を何皇后に焚きつけて、消させてからですけどね。その後、太后殺しの罪を償ってもらいましょう」

「そうだな、董太后と飼い犬がいなくなれば劉協皇子などすぐ手に入るからな。となると、劉協皇子の養子の話はひとまず中止にするか?」

「ええ。ただ、われわれが掌を返したらさすがに董太后も怪しむでしょうね。われらから切り出した話しですからね。ですので、董太后が手を回しそうな者達に先に手を回して養子に反対をさせましょう。そして私達は養子に賛成する。これでいきましょう」

「あぁ」


二人は十常侍内で進行中である計画の変更を確認していた。ただ、計画変更したのにも関わらず、その顔は余裕の表情を浮かべていた。何故なら、どちらに転んでも自分達の支配は揺るがないものであったからだ。そして、二人は皇帝の玉座に向かい軽い足取りで歩き出したのだった。


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