まるで、紙芝居のように。
とても投稿が遅れてしまいました。
すみません!
これからも遅くなりそうですが……お付き合いいただけたら嬉しいです。
せめて一ヶ月に一話は……!!
長い長い廊下を歩いて、ちょっと息が上がったけど、辿り着いた部屋は案外狭かった。いや、本当は狭くないんだろうけれど……私の想像できる範囲での“ちょっと広い書斎”といった感じだった。とりあえず、さっきの体育館みたいな広さではない。
「これくらいの大きさの部屋がアリスは好きだったんですが……どうですか?」
「え? あー、うん。さっきよりは落ち着くかな?」
キョロキョロと辺りを見回す私を見て「それで落ち着いているんですか?」と笑いながら、ちょうど扉の正面にある、大きな窓を開けにいった。プリントとかが置いてあったら、綺麗に舞うだろう強風が一度だけ髪を巻き上げて扉をドンと鳴らす。
「女王様は、まだのようですね」
「着替えてるんだから、当たり前でしょ」
……結構長い間、歩いていた気がするけれど。それはきっと女王様も同じだろう。そういえば、女王様を一人にしていいのかな? あ、他の使用人とかがいるのか。でも誰にも会わなかったな……。
そんなことをぼんやりと考えていると、じっと私を見ているハクトと目が合った。
「何?」
「いえ……その服は、どうしようかと……」
視線が下へとずれるハクトを追うようにして、服を見る。水色のスカーフが巻かれた、白い半袖のセーラー服と紺色のスカート、指定の白い靴下にスニーカー。髪は下でひとつにまとめている、いつもの私の格好。
いつもの、私の格好。
「っあ」
「折角ですから前と同じようにワンピースを……、どうかしましたか? アリス」
スカートを掴んだまま固まった私を不審に思ったのか、ハクトが私を呼ぶ。コツコツとこちらへ近づいてくる足音を聞きながら、私は顔を上げずに口を開いた。
「か、帰らなきゃ、私は宿題を、ねぇカバンは? 落ちたのよ、何で生きてるの? 誰なの、なんなの、何で知らないの、知らないの? どうして、なに、ここは――――何処?」
何処、その呟きだけ嫌にハッキリと紡げた。それと同時に顔を上げて、目の前にいたハクトの瞳を見る。赤い瞳に自分が映っているのが見えるくらい、瞳だけを見つめた。奥に教室が、家が見えるんじゃないかと思うくらいに、その瞳は澄んでいたけれど、それでもやっぱり私しか映らない。
「それを説明するのが、今からなんじゃよ」
ハクトの背後から凛とした少女の声が響いて、私は瞳から、顔全体に視点を変えた。
そのままゆっくりと全体を見るようにしていくと、背後にある低い机の奥に置かれたソファに、前より装飾の取れたドレスを着た女王様が、紅茶を啜りながら横目でこちらを見ていた。
体をずらすと、机の上に色とりどりのお菓子の置かれたケーキスタンドや、紅茶が並べられているのが見えた。だけど、それを準備したであろう使用人の姿はない。そもそも準備をする音も、時間も無かったはずだ。
初めて向けたであろう、私の化物を見るような目が気に障ったのか、小さく舌打ちをして、女王様はクッキーを口の中に放った。
「白ウサギ。アリスを、私の向かいの席に座らせろ」
変に“アリス”を強めて、白く細い指でソファを指差す女王様に無言で礼をすると、ハクトは私の目の前で、両手を叩いた。――――いわゆる、猫騙し。
なんの脈絡もない行動に、呆然とする私にニコッと音がつきそうなほど明るい笑顔を向け、私の手を引いた。さっきの笑顔と比べなくても分かるほど、作られた笑み。
「さぁ、少し遅いですがお茶会をしましょう」
半ば強引に座らせられたソファはとても柔らかくて、正面で見た女王様は今までのが嘘だったかのように花の咲くような笑顔で、クリームを頬に付けながらケーキを頬張って、さっき噛み砕いていたクッキーを私に差し出した。
あまりにも速い切り替えが不気味で、今こうして柔らかい光を宿している瞳が、さっきまで鋭く冷たい瞳だったことが恐ろしかった。
流れで受け取ってしまったクッキーは、甘いはずなのに、なんの味もしなくて。
風が制服を揺らしたけれど、もう気にならなかった。
もしかしたら彼女たちも私も、紙芝居のように切り替わったのかもしれない。