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天国には行かなくて済んだみたいです。

口が悪すぎる気がするんだ、アリスちゃん……。

「アリス? アリスー? ……どうしよう死んだのかな」


 ()()()()()()のあと、私が最初に聞いた言葉は、そんな軽い雰囲気だった。

 さして困ってもいないような「どうしよう」という言葉。ていうか私が死んでも焦りもしねぇって、どんな性根の腐り方したんだ。あれか、私は虫けらと同じか? いや、それでも流石に人が死んだんだ焦れよ。ってまて。


「私、生きてるだろぉぉおおおおっっっ!!!!?」

「うわぁ、おはようございます……?」


 ものすごい勢いで起き上がり、ついでに叫んだせいか、かなり苦笑いしながらイケメンさんが……待て、違う。こいつ誘拐犯だ。私と心中しようとした人だ、いや生きてるぞ私おかしいだろマジか。不死ですか、どうせなら不老のほうが嬉しいです。いやだから違う!


「あのアリス、一人ツッコミって寂しいものだと僕は教わったのですが」

「黙れ」

「えぇー……」


 一言冷たく言い放つと、不満げな顔で誘拐犯は黙った。


「いや、誘拐犯って、そんな酷いですアリス」

「ココロ読むんじねぇ誘拐犯+コスプレイヤー変態ロリコン捕まれ畜生」

「悪化してますアリス。流石に泣きますよ?」


 苛立ちやらなんやらで罵倒する語数を増やすと、女々しくも顔を両手で覆うふりをしだした。そんなことで男が泣いてはいけません。かっこ悪い。


「間違ったことは言ってないです」

「いや、アリス幼女じゃないでしょう? ロリコンは違います」

「うわ、細か……」

「大事でしょう!!?」

「細かい男はモテません」

「細かい云々の前に、ロリコンはモテません」


 なんだろう漫才みたいになってないか? なに仲良く話してるんだろう。知らない人なのに。

 そんな私の心の中を、またしても読みとったのか少しだけ眉を下げて呟いた。


「……知らない人、ですか……?」

「え、えぇ……」


 露骨に、どんよりと暗い雰囲気になってしまった目の前の誘拐犯は、しゃがんで“の”の字を書き出した。うわぁ、本当にいるんだ。そんな反応をする人。


「そうですよね。昔の話ですもんね。覚えて無くて当然ですよね、てか僕が貴方を好きなだけで貴方が僕を好きだとは限らないですし、あぁ……片思いって切ないんですね、今知りました……」

「……あー、知り合いでしたっけ……?」


 そんな変人は知り合いにいないはずなのですが。というのは流石に口にしなかった。可哀想かもしれないし、誘拐犯を刺激しちゃいけない。

 ……なんて、さっきまで罵倒していた私が言う台詞じゃないけれど。


「覚えてないんですか……まぁ、えぇ気にしていても始まりませんし、仕方ないですよね……」


 気にしていても仕方ない、と言いながらも暗い笑顔で私を見ながら、ゆっくりとした動作で誘拐犯は私にお辞儀をした。


「お久しぶりです。アリス。……あぁ、いいえ始めまして、アリス。僕は白ウサギのハクトと申します。貴方との約束を叶え、貴方をここにお連れいたしました」


 ……初めてのくせに“約束”ですか? とか言いたかったけれど、自然と出てきた彼の「久しぶり」の言葉的に、本当に知り合いらしい、んだよね? 人を覚えるのは苦手だからなぁ……。

 遠い目をしながら、私は「ソウデスカ」と返した。苦々しい顔をした誘拐犯の顔はなんにせよカッコいいと思いました、まる。


「とりあえず……立ち話もなんなので、女王様のところに行きましょうか?」


 家に寄っていって、といわんばかりの軽さで“女王様”のところへ誘われてしまった。どうしよう、笑えない。誘拐をする人って、誘う規模も可笑しいのか? 

 ……あ、そういえば。


「急ぐといっていたところには行かなくていいの?」

「あ゛」


 うわ、もったいない美形なのに口を大きく開けるなんて阿呆以外のなんでもないわ。ていうか忘れてたんだ。自分が言ったこと。

 私が白い目で見つめると、アハハ……と言いながら、白ウサギ――――ハクトは頭をかいた。


「そうですね、急がないといけませんねー……でも……もう間に合いませんねー……」


 そのまま視線を空中に向け、うわごとの様に呟きだした。どうやら……相当ヤバイらしい。目が濁っている。そんなに大事な約束だったのだろうか。


「だ、大丈夫……?」


 声をかけると、異様なほどに明るい笑顔でハクトは返した。


「えぇ。僕へのお供え物は、アリスの手作りでお願いしますね」


 死ぬこと前提ですか。ていうか地味に面倒なお供え物だなオイ。


「……まぁ、冗談はそこまでにして――――お城に、行きましょうか」


 サラッと流され、私は家に帰る、ということを忘れたまんま誘拐犯にまんまと攫われていきましたとさ。めでたしめでたし。

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