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どう足掻いても結果は誘拐。

 ――――ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイッッッツツ!!!!


 運動不足なのか、いつも以上に縺れる足を懸命に動かしながら私は心の中で絶叫していた。

 考えが甘いよ私!! 男の人に追いかけっこで勝てるわけないじゃん!? しかも運動の成績二よりの三だよ? ……いや、五でも負けそうだけど。足長かったし。

 

 それなのに、いくら経っても私が捕まることはなかった。

 

 美形の青年に追いかけられる少女。

 ……あぁ、文章はいいなぁ。その文だけだったら私リア充じゃん、幸せじゃん。


「おや。笑っていらっしゃるとは意外でした」

「いやっ、笑いたくも、なるよねっ! この状況は」

「この状況、といいますと?」

「うん? 美形の変質者に追いかけ、られるって言う、体験したくもな、いっ可笑しなこ……っ」


 そこまで言ってフリーズした。あれ私今誰と話してるんだろう。てか何でそんな和やかなんだ。おかしいでしょ。口動かす暇があったら、足を動かしなさい私。


 そこまで自分に突っ込んでから、おそるおそる横を見ると、そこにはさっきと変わらない笑顔で私を見下ろす、なんとまぁ余裕綽々と言った感じのイケメンさんがいた。

 あーどうもー、思わずそんな言葉が口から漏れ、ついでにお辞儀をする (ちゃんと走ってますよ?)

 するとイケメンさんも「ご丁寧にどうも」とお辞儀をしてくれた。そのあとはお互い微笑みながらどこかへと走って――――「いけるかボケェェエエエエッッッ!!!!」


「ん? どうかしましたかアリス?」

「いやどうかしましたか? じゃねぇし。なに普通に私に話しかけてるんですか友達ですか私たちは違いますよね? 顔見知りですらないですよね。なんなんですか貴方は」

「あーアリス? 息が上がっているのに怒涛のツッコミありがとうございます。肺活量けっこうあるんですね? ですが、廊下が終わってしまいますよ?」

「いや、ありがとうじゃねぇし。って、ああああああっっ!!?」


 普通に返された。しかも前を見たら廊下が終わりだ。え? 何コレ死亡フラグ? それともゲームオーバー? あ、一緒か。


「それ、は、いやっ……だ!!」


 現実から逃げ出そうとする思考を振り払うように叫び、壁よりも手前にある階段へ逃げようと手すりを掴む。

 そしてそのまま減速ナシで身体を捻って跳んだはずなのに、目の前に何も掴んでいない手が見えるのはどうして? どうして、()()じゃなくて煤けた壁(うえ)が見えるの? 


「     」


 答えを出せない空っぽな脳内が、圧迫感で埋め尽くされた。











「もう大丈夫ですから、目を開けて下さい、アリス」


 状況が理解できないまま目を開くと、さっきまで私と和やかな会談もとい追いかけっこをしていた青年の顔があった。

 ただ、さっきの余裕そうな笑みではなくて、口元が少しだけ引きつった脱力した笑みだったのは新鮮だ。


「危ないですよ。何で貴女は()()()後先考えないんですかね」

「あー、どうもすみません……?」


 何かが引っかかったが、どうも頭が正常に機能していないらしい。気付いたらなんか謝ってた。

 するとニッコリと微笑んで (周りにキラキラが見える。嘘だけど) 彼は言った。


「良いんです。それがアリスのいいところですから」


 そう言いながら、彼は私を担ぎ上げ (何だっけ、なんか米俵を持ってくときみたいな) 階段を上った。

 ここは三階だから着く先は四階。つまりは学校の最上階だ。理科室とかがあるんだよなー、すっごい暑いけど。じゃなくて、


「……誘拐されてます? 私」


 そこでようやく頭が動いた。

 誘拐されてるよ私。何か普通に拉致されてるよ。しかも普通に会話しちゃってるよ。なんなの私タフだな本当。

 あいにく今の担がれ方では彼の顔は見れないが、機嫌がいいのだろう。軽やかな足取りで四階に着き、横にあった窓を勢いよく開け、足をかける。


 足をかける。窓に。窓枠に。かける。足。              え、なんで?





「さて少々遊びすぎましたので、急ぎますよアリス。口は閉じて置いて下さいね? 僕はアリスの死体を運びたくないので」


 かなりぶっ飛んだことを言われた……けど、なんでだろう理解できた。

 こいつ四階(ココ)から飛び降りる気だ。んで舌噛んで私が死ぬ心配をしたんだ。


 何で飛び降りるんですか。

 心中ですか? 道連れですよね? ねぇ?


「では、夢の国へ行きますよっ、と」


 混乱してきた私を余所に、青年はそう言うと、なんの躊躇いもなく窓縁を蹴り宙へ飛び出した。後ろ向きの私からは窓が、一瞬で灰色の壁に代わったように見えた。つまりは落ちてる。


 いやぁ、夢の国って天国のことなんだろうな。あっけない人生だったな、うん。


 灰色の壁と、落下についていけなくなった首が上を向いたことで見える赤く染まった空を見つめながら私は思った。

 現実味がないなぁ。なんだかなぁ……――――





















 「約束は守りましたからね」






 そう呟かれた言葉を私は知らない。

 だってね。……気絶、していたから。

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