基準の分からない常識。
明けましておめでとうございます。
今年も、ちまちまと更新していけたらなと思います。
年が明けても、何年経っても成長しないアリスちゃんたち(色んな意味で)を、どうぞよろしくお願いします。
「ふっ……ふふっ、は、はは……っ、ごほっ」
ひとしきり……というか、声を上げて笑うのを抑えたせいで過呼吸寸前までなったあと、ズレた帽子を直して、彼は優雅に紅茶を飲んだ。
カップを持つ手が震えていた気がするけれど、少し噎せていた気がするけれど、とりあえず飲みきった。……やっぱり優雅じゃなかったかも。
チェシャはイスからずり落ちたのに、まだ笑い続けている。文字通り笑い転げたせいで、気づけば彼の近くに移動していた。
しかも彼と違って、少しも笑い声を押し殺すことなく、「あははははは」を繰り返している。……酸欠になればいいのに。ていうか、何でならないんだろう。
そんなチャシャのせいで、何回かつられて吹き出しそうになりながらも、なんとかそれを堪えた彼が、今度こそ優雅に紅茶を注ぎながら、私に微笑んだ。
「えぇっと、なんでしたっけ……そうそう。耳でしたね」
「っ、あはははっ、ひぃ、アリス、犬耳って! くま耳って!! こいつに!? うわぁぁあはははっ! きもい!! ひぃ、最高だよ……っ!!」
「熱湯ぶっかけて欲しいですか」
そう言いながら笑う姿は、女王様を思い出させた。
だけど、どうしても笑いは収まらないらしく、持ち上げたカップが震え、まだ湯気の立っている紅茶がパタパタと零れて、彼自身にかかる。そこがまたチェシャのツボにはまったらしく、更に声を上げて笑い出した。それに誘発されて、彼も堪えられなくなり、カップを握ったままテーブルに突っ伏してしまった。
……いい加減、笑いすぎではないだろうか。というか、笑いすぎだ。うん、ムカつく。私が笑われていて、しかも理由が分からなくて、完全に蚊帳の外なところが特に!
「ねぇ」
怒りで声が震えないように、そして低くならないよう、努めて明るくいつも通りの声で話す。
だけど、その必要はなかった。笑いすぎて苦しいのだろう、二人とも体を折り曲げて見向きもしない。
「苦しいなら、私が止めてあげようか?」
そう言いながら静かに席を立ち、紐の代わりに制服のスカーフを解いて、両手で引っ張る。何の音もしなかったはずなのに、同時に二人が顔を上げる。あんなに苦しそうに笑っていたのに、今は口を閉じて青ざめている。……笑いすぎて、気分が悪くなったのだろう。でも、大丈夫。それももうすぐ治るから。
最善策を見つけた私は、今までで一番気分が良かった。鼻歌でも歌っていしまいそうなほどに。元々あまり遠い距離にいたわけでもないから、すぐに彼らとの距離が狭まる。
暑くもないのに汗を流す二人の顔を交互に見ながら、優しく微笑む。何か言おうと口を動かしていた二人の動きが止まった。
「息の根を」
そう言い終るのと、彼らの両手が顔の横まで上がるのは、ほぼ同時だった。
本当なら勢いよく土下座でもしてもらいたいんだけれど、チェシャが正座を知らなかったんだから、どうせこれも知らないだろう。
まぁ、いい。
――――とりあえず、これでコイツらは黙った。
~裏側、こそこそ話~
「……ねぇ、アリスなんか怖くなってません?」
「……やっぱ思う? 無邪気さが消えた分倍増しで怖いよね」
スカーフで何をするか想像できた彼らも、なかなか怖いと思うんです。
あと書いた後に気づいたんですけど、スカーフ一枚じゃ足りないですよね……?