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第1話 西條家の目覚め

「琥太郎!!琥太郎!!」


「お前は西條琥太郎だ。」


 誰かに呼びかけられる声がする。

 一人は若い男の子の声、もう一つの声は

 ……父さんか?


 だが、若い方の男のその妙に緊迫した呼び声に思わず疑問を抱かざるを得ない。

 その曖昧な声の元を頭の中で探しながら、徐々に脳を活性化させていく。

 また、夢か……最近、よく見るなぁこの夢。

 それに聞いたことがあるのは気のせいだろうか。

 俺はゆっくり体を起こして一階の台所へ向かう。

 一階は静寂に包まれていた。


 まぁ、そうだよな。

 父さんは仕事で帰ってこないし、母さんに関してはとっくに仕事に向かったから。

 だが、俺はそんな両親をとても誇りに思っている。

 父さんはほとんど家に帰ってこない。


 それでも帰ってくるたび、俺の頭を乱暴に撫でて言う。


「琥太郎、お前は俺よりいい男になれ」


 その言葉を思い出す。


 泰葉が味噌汁をすすって笑う。


 ……うん。


 この家、結構好きだ。

 最近、しみじみとそのことを感じさせられる。


「……お兄ちゃん?」


 明るく可愛らしい声の元に振り返ると金色の髪の少女がポツンと立っていた。


「泰葉か、丁度いいところに来た。今、ご飯作るから座って待ってて」

 

 泰葉は「ふぁあい」と力のない返事をすると食卓の椅子に腰掛ける。

 泰葉は寝癖のついた金髪を揺らしながら、眠そうに目をこすっている。

 ……朝から反則だろ、その顔。


「お兄ちゃん。そろそろ私がご飯作るよ?お兄ちゃんのご飯は世界一だけど私も作れるようになりたいし少しでも楽させたいもん」

 

 西條家では基本いつもの食事は俺が作るようになっている。

 最近、泰葉が隠れて料理の練習しているのも見ている。

 出来れば、俺もその練習に参加させてもらいたいくらいだ。

 だが、俺は泰葉の成長を陰ながら支えていこうと誓った。

 

「うーん、まぁ、それもそうだな。じゃあ、俺の弁当作ってよ。俺は泰葉が作った弁当食べたいな」

 

 高校入学から一週間。

 この学校生活に慣れていない。

 友達ゼロの俺にとって泰葉の弁当は少なくとも学校での楽しみになるだろう。


「ほい、朝ごはんだよ。ゆっくり食べな」

 

 今日の朝ごはんはシャケと味噌汁それにスクランブルエッグとご飯などよく食卓で見るような朝ごはんだ。

 最近、朝ごはんのレパートリーが少なくなってきている。

 うーむ、泰葉がより満足してくれるための献立を考えなければ。


「ありがとうお兄ちゃん!いただきます」

 

 手を合わせてまずシャケから口に運ぶ。


「うぅ、美味しいよお兄ちゃん」


 俺はその幸せそうに食べる泰葉の顔を眺めながら学校へ行く準備をする。


「ありがとうな泰葉。それじゃあ、お兄ちゃん行くからな。中学三年生なんだから遅刻しちゃダメだぞ」

 

 俺はバナナ一本掴んで学校へと向かう。

 うーむ、そろそろ一人ぐらい友達作りたいな。


 ……あざみ高校。都内ではなかなか高い偏差値に位置している。

 入学一週間ではあるもののクラスではある程度のグループが固まりつつあった。

 そんな場所にコミュ障の俺がノコノコと話しかけられるはずもなく。


 そんなことを考えていると……うん?

 なにか端でうずくまっている俺と同じ制服の男子が泣いている。

 制服は泥だらけ。

 目は真っ赤。

 しかも校門の陰。


 ……失恋だな。


 時間も押してるしここは心を無にして無視していくのが正解だろう。

 俺が男を素通りしようとした時。


「……うぉい、待ってくれよぉ。そこの人」


 マジか。

 てか、よく見たらこいつクラスメイトの確か...


「藤平慶賀だ。お前同じクラスの……なんだったけか?」


「西條琥太郎です。こんなとこで何しているの?学校遅刻しちゃうよ?」


 すると、藤平は俺の制服で涙を拭きながら、絶え絶えな声で言う。

 

「聞いてくれよぉ、琥太郎。俺、もうダメなんだよ」


 うわ、俺の制服で拭くなよ。

 しかし距離感バグってるなこの人。


「えぇと、なんでですか?」


「振られたんだよ」


「は?」


 思わず声が漏れ出てしまった。

 今、なんて言ったこの人。

 振られた?

 状況が全く理解ができない。


「だから、さっき学校で可愛いなと思ってた人に告白したら振られたんだよ!!」


「全く意味がわからないんだけど!?なんでこんな朝に告白してんの?絶対時間ミスってるでしょ!!」


「うわああああ、やめてくれ琥太郎もう、掘り返さないでくれええええ」


「確認までに聞きますけど、その子とは幼馴染なんですよね?」


 藤平は「ん?」と首を傾げる。

「幼馴染なんかじゃねーよ。クラス違うけど可愛いから告ったんだよ」


 あー、ダメだこの人もう関わるのをやめよう。


「そりゃそうだよな。俺、この方法で五十回以上は告って振られてるんだよなぁ」


 某バスケ漫画の赤髪の人みたいだ。

 流石に学習能力無さ過ぎだろこの人。


「とりあえず、行きましょ。学校遅刻しますよ」


「あぁ、そうだな琥太郎。ありがとな俺の相談相手になってくれて」

 

 別に乗るつもりはなかったが、まあいいか。

 ちょっと頭が悪いだけでいい奴そうだ。


「てか、琥太郎。チャイムまで一分前だけど間に合うか?」


「ぜっっったい無理」


***


「お前ら遅刻か。

二人とも後で職員室こい」


 担任は女教師の須田先生だ。

 はぁ、高校生では遅刻を一回もしない真面目な生徒になろうと思ったのに入学一週間もうその記録も打ち止めか。


 うん?

 なにか視線を感じる。

 あの子は確か、藍川さんだっけ?

 クラスでは一軍女子のはずだ。


 なんでこっち見てるんだろう。

 まさか、俺のことが好きだったりしてってそんな超展開があるのは恋愛ラノベだな。

 うーむ、タイトルはそうだな。


 「「クラスの一軍女子が俺をめちゃくちゃ見てくる件」」


 絶対売れないなこれ。

 そんな妄想を膨らませていると。

 その藍川さんがこっちに向かって歩いてくる。


「放課後旧校舎の空き教室に来て」

 それだけ言い捨てて元の席に戻ってしまった。

 え?

 まさか本当にあるのか?

 確か、あそこは暫く使われてなかったはず。

 まさか、こんなラブコメ展開があるのか!!


***


「ボドゲ部に入ってほしいの!」


「へ?」


「だーかーら、ボドゲ部入ってほしいの!!」


 まあ、そうだよな。

 うん。別に期待してないし。

 じゃ、帰ろう。


「ちょっと待ってって。お願い!!少しだけでいいから。そうじゃないと廃部になっちゃう」


 やはりそういう魂胆か。

 部員が足りないから俺に頼んでるってわけか。

 ……まあ、俺なんて都合いい要員だよな。

 勿論、俺は高校では部活に入っていないが俺には他にやることがあるので拒否させてもらおう。

 すると後ろから肩を掴まれ無理矢理教室に入らされる。

 

「なにするんですか」


 後ろからスラっとした体型の女性が俺の肩を掴んでいる。

 多分、先輩だろうリボンの色がちがう。


「お願い!!一回やってみて絶対楽しいから」


「西條くん。

一回だけだから本当にお願い」


 ぐぬぬ。ここまで懇願されると拒否できないな。


「わかりました。一回だけですよ」


「それじゃあ、カタンやりましょ。

西條くん。ルールわかる?」


「いや、わかんなーーあれ?」


 ……わかる。



 ……あれ?

 サイコロの確率。

 資源の流れ。

 勝ち筋。


 全部、頭の中に浮かんでくる。


 なんでだ?

 俺、カタンなんて一度もやったことないはずなのに。


「で?西條くんわかるのわからないのどっち?」


「わ、わかります」


「それじゃあ、やろっか」


 各々席に着く。

 

***


 港で資源を交換する。

 都市化。


「あっ、それ負け筋…」


 次のターン。

 勝利点は10になっていた。


「ぐにゃあああああ。負けたぁああああ」


 藍川さんが絶叫する。

 気づけば、勝利点は俺が10。


……終わっていた。


 藍川さんは魂が抜けたように椅子にもたれかかっていた。


「……負けた。私の方が歴が上なのに……」


 なんか見てるとこっちも悲しくなるな。


「たまたまですよ。先輩も上手かったです」


「いや、西條くんの戦略は凄かったよ。流石に度肝を抜かされたよ」


「それじゃ、俺はこの辺で」


「ボドゲ部に入るつもりはないか?出来れば君ほどの実力者が欲しいのだけれど」


「すみません。俺はボドゲ部に入るつもりはないです」


「わかった。そこまでいうのであれば仕方がない。

だが、またボドゲをやりたくなったらいつでも歓迎するぞ」


「えぇ、わかりました」


 俺は二人の女子生徒に見守られながら教室を後にする。


「……」


 ……なんだろう。


 ……この感覚。


 俺は、昔――

 誰かと、これをやっていた気がする。


 胸の奥が、少しだけ痛んだ。


 ……どうしてだろう。


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