お前のツラが俺の嫌いな上司に似ているっっ!(クリーチャーを撲殺するカズマの叫び)
23
「ええと、これは・・・・・・」
カズマがスクラップアーマーを見やりながら訪ねる。
「こいつは通称スクラップアーマー、ゴミ山から漁ってきたパーツで作ったバトルスーツさ。あんたでもこのスクラップアーマーを装着すれば、多少はマシになるだろう」
ビルが告げる。
スクラップアーマーは、拾ってきた金属片やら廃材やらを溶接しまくった継ぎ接ぎだらけのまさにジャンクなアーマーだ。
錆びた鉄板にクリーチャーの健でつなぎ合わせ、金網を被せて補強した実にイーストウエストランドらしいゴミ溜めの集合物といえる。
金属の塊だって、この歩く鉄の棺桶に比べればまだマシだろう。
肩や膝から突き出たスパイク、背中には燃料用タンクが備えられている。
この燃料用タンクに少しでも火が付けば、スクラップアーマーは装着者ごと爆発して火だるまだ。
工場用ヘルメットと溶接マスクを改造した頭部パーツ、胴体部分はドラム缶をぶった切って、加工したものだ。
腕と脚は鉄筋スティックで補強されており、全体的に煤けていて、鉄錆の匂いがする。
外見もそうだが、中身もガラクタそのものだ。
ちなみに最大出力は2馬力まで出せるが、最小出力は0・8馬力に抑えることができる。
「とりあえず、こいつを動かせるようになるんだな。じゃねえと、レイダーやクリーチャー、カニバリストどもに襲われるだけだ」
電子ボングを吹かしながらシンがいう。
「もっとマシなものはないのかな・・・・・・?」
シンに聞いてみるカズマ、もっと上等なアーマーはいくらでもあるが、あんたにその価値があるのかというビル。
「まずはスクラップアーマーを扱えるようになってから言えよ。1・3馬力から動かしてみな」
倉庫を出てから、カズマがスクラップアーマーを操作訓練をはじめる。
操作自体は自分の肉体の延長のように動く。
腕を動かしたり、歩いたりは、ブレインインターフェースが補助してくれる。
装着者の微弱な脳波信号から、どこを動かしたいかをセンサーが読み取ってくれるのだ。
ただ、センサーはあくまでもジャンクパーツの流用品だ。
コスト面も考えて、修理もろくにしていない。
当然、タイムラグは発生するし、動きが鈍ったりする。
あくまでもガラクタはガラクタ、スクラップはスクラップ、見た目も性能もゴミだ。
「次は武器の扱い方だな。槍や弓を使えるようになりゃ、弾薬消費もせず、音を立てずに狩ることができるぞ。ただ、最初は鈍器とかもっと単純な武器のほうがいいだろうな。
そこらの鉄パイプでぶん殴る練習をしてみろ」
電子ボングにリキッドを注入しながら、シンが転がった錆びた鉄パイプを顎でしゃくる。
カズマがスクラップアーマーの無骨な手で、鉄パイプを掴んだ。
ゆっくりと拾い上げる。
「頑張れよ、カズマ。レイダーの晩飯になりたくなきゃな」
声を掛けるビル、カズマが1・8メートルの鉄パイプを何度か振り回した。
「それじゃあ、そこの木にぶら下がったサンドバッグを鉄パイプで引っ叩いてみろ」
カズマがシンに言われたとおりに、サンドバッグを両手で握りしめた鉄パイプでぶん殴った。
ドスンという鈍い音が響き、300キロの重量を持つクリーチャーのレザー製サンドバッグが揺れる。
叩くと同時に腕から頭に衝撃が走り、三半規管がシェイクされた。
悪酔いしたような感覚だ。
カズマが頭を振る。
「腕だけじゃなくて、腰を捻って殴れ。腰を回転させながら引っ叩くんだ。足のつま先を真っすぐにせず、内側、外側に向けてみろ。腰を使って殴りやすくなるぞ」
シンが前方に出たカズマの足のつま先を指で指す。
「踏み込んだ足と軸足を意識して使ってみろ。さっきよりも動きは良くなるはずだ」
カズマが再び、サンドバッグを殴りつける。
腰の回転力と遠心力を使って、サンドバッグを打ち抜くようなイメージだ。
すると、サンドバッグが更に甲高く鳴り響き、グーンとのけぞった。
「おおっ、さっきよりもずっと高い威力が出たっ」
喜ぶカズマにシンが言う。
「よし、その調子だ。カズマ、あんた、飲み込みは悪くないな」
24
それから数日後、カズマとシンは地上にある村や町、あるいは廃墟に直接繋がっている地下世界に来ていた。
通称ブラックドームだ。
人によってはクン=ヤンだとかンカイと呼んだりもしているが、そんなことは些細なもんだ。
ブラックドームの表面層は、元々は旧文明時代のショッピングモールや地下街、地下鉄網だった場所だ。
人々が往来し、様々な製品が並び、無意味な消費に明け暮れるというような大変賑わっていた時代もあったが、現在ではただの廃墟になっていた。
亀裂のはしった天井からは、不気味な緑色の粘液がしたたり落ち、柱や壁には発光する菌類が群生している。
傷跡が残るフロアに散乱するのは、得体の知れない生物の骨や殻だ。
スクラップアーマーを装着したカズマが、周囲を見回す。
一歩進むたびにスクラップアーマーの関節部分が、ギギィッと耳障りな金属音を立てた。
ゴゴゴッと振動音を発する劣化したサーボモーター、ステルス性は皆無だ。
近くのクリーチャーにここにランチが歩いてるぞと教えてやる親切な設計とも言えるだろう。
「それじゃあ、早速クリーチャーを狩って実戦経験を積むぞ、カズマ。安心しろ、失敗しても食われるだけだ」
「く、食われてたまるか・・・・・っ」
ビルの言葉にカズマが緊張したのか、顔をしかめ、汗を流しながら鉄パイプを構える。
早速スクラップアマーの騒がしい音に引き寄せられ、柱の陰から人型のクリーチャーが姿を見せた。
歯を剥き出しにし、近づいてくる。
カズマの身体が無意識に震えだした。
やはり怖かった。
当たり前だろう。
生まれてこの方、喧嘩には無縁な人生を送ってきた。
スポーツだってまともにしたこともない。
それが突然、クリーチャーと殺し合いを演じなければならなくなった。
(クソッ、なんで俺が化け物とタイマン張らなきゃなんねえんだよ・・・・・・っ)
見かねたシンが、両腕を突き出してカズマに迫るクリーチャーの両膝頭を不可視の超細ワイヤーで切断する。
両脚が転がった。
クリーチャーが地面に崩れ落ちた。
「さあ、トドメをさせ、カズマ。こいつに食われたくなきゃな」
シンの指先からは、金属水素製のワイヤーが伸びていた。
そのシンの言葉にハッとなったカズマが、鉄パイプを振り上げる。
そのまま鉄パイプの先端を振り下ろし、青黒いクリーチャーの顔面に叩きつけた。
「お前のツラが俺の嫌いな上司に似ているっっ!」
叫びながら再び鉄パイプを振り上げ、振り下ろす。
カズマはその動作を何度も繰り返した。
返り血で顎の辺りを濡れる。
クリーチャーの顔面や頭部がすっかりひっしゃげて陥没し、血や脳漿が飛び散っても構わずカズマは殴り続けた。
それは安月給で嫌な上司にこき使われてきた社畜特有の鬱憤を晴らす魂の儀式だった。
相当ストレスが溜まっていたのだろう。
カズマの殴打は執拗だった。
「そいつ、もうくたばってるぜ、カズマ」
ビルがカズマに声を掛ける。
我に返ったカズマが、肩で息をしながら手をとめた。
「今の動きは悪くなかったぞ、カズマ。お前の中に眠る生存本能が、少しばかり目覚めたようだな。この東荒野じゃ執念も憎悪も狂気も全ては生きるための原動力だ。
それじゃあ、資源を回収するか」
クリーチャーの亡骸を見下ろし、シンが告げた。




