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趣味の悪いB級映画の撮影かな、スプラッターものの(東荒野に出現したサラリーマンカズマの感想)


17



アルルカンの外壁周辺にはスラムが形成されてている。


そんなスラムの一角にある安っぽいモーテルの一室で、少しばかり休憩を取るシンとビル。


室内にはスプリングが壊れた薄汚れたベッドが置かれているだけだった。


他に調度品や家具はない。実にシンプルだ。


それでいて、ドアだけはやけに新しい。


「シン、また胸が張ってるんじゃねえのか?」


「ああ、処理しておかないとな。母乳が出るのも困りもんだ」


シンが高周波ナイフを取り出すと、胸元から突き出た自らのメロンズを切り落とす。


手際の良い処理だ。出血もほとんど見られない。


シンが切り落とした二つの胸部を小型の密封コンテナに放り込む。


「毎回膨らみかけのメロンズを切り落とすのは面倒だな」


「しょうがねえさ、ビル。髭剃りと思えばいい」


シンがブロンコから受け取った代金の一部を眺める。


それはクラウス・ノミのCDだった。


「クラウス・ノミか。悪くない報酬だな、ビル」


「ああ、早速このお宝を再生しようぜ」


ポータブルの再生デッキにCDを挿入する。


ノミのトータルイクリプス、その歌声は低い男の声とソプラノのファルセットを巧みに使い分けていた。


曲を聴きながらリラックスするように電子ボングを深く吸い込み、ゆっくりと吐き出すシン。


薄いコンクリート壁は、廊下から響くジャンキーどもの呻き声も筒抜けだ。


防音性は皆無、だが安モーテルに防音性なんぞを期待するほうが間違ってる。


「さてと、ビル、そろそろ俺達の物資を狙って、ゴロツキどもがやって来る頃じゃねえのか」


「だな。スラムのモーテルとくれば、押し込み強盗はセットみてえなもんだし」


廊下から、これ見よがしに聞こえてくる騒がしいブーツの音、わざとこっちに気配を知らせて恐怖を煽っているのか。


廊下の足音がドアの前で止まった。


その二秒後、ドアが思い切り蹴破られた。


薄い板に穴が開く。


ドアに仕掛けたワイヤーが容器のピンをはずした。


容器に詰まった幻覚ガスが噴出する。


三人組の強盗どもがモロにガスを浴びたせいで、半狂乱に陥る。


シンはとっととと始末をつけようと、三本の棒手裏剣を取り出した。


即効性の神経毒を先端にたっぷりと塗り込んだ手裏剣だ。


手首をスナップさせるシン──三人の首筋目掛け、同時に投擲する。


精密機械のような動きだ。


頸動脈に突き刺さった棒手裏剣の毒が素早く回る。


3人のゴロツキどもの身体が途端に崩れ落ちた。


もう瞬き一つしない。


くたばった。


それだけだ。


モーテルの床に転がった三人の死体をシンが見下ろしながら言う。


「さてと、それじゃあ資源の回収といくか。こいつらをバイオリアクターにぶち込んで燃料にする」




18



スラムの屋台で買ったクリーチャーの串焼きを食いながら、シンは市場を見て回った。


この串焼き肉の出所は不明だが、少なくとも食える代物ではある。


そして食えれば何でもいいのが東荒野だ。


レイダーの二の腕辺りの肉だろうが巨大なバイオ蜥蜴の肉だろうが、タンパク源として利用できればいい。


それで充分だ。


市場では板切れ一枚敷いて、そこに商品を置いただけの露天商がずらりと並んでいる。


威勢の良い掛け声とともに、必死で商売に精を出している商人達。


露天商の連中と客との値切り合戦は、市場では馴染みの風景になっている。


喧騒が包み込む市場に砂塵が舞った。


「ビル、何かめぼしい物はあるか」


「うんにゃ、特にはないな。今のところ」


色あせて穴が目立つビニールやら、クリーチャーの皮の切れ端を寄せ集めて繋ぎ合わせたシート。


そのシートを廃材で作った骨組みに被せただけの露店もある。


だが、ここじゃまだ上等な部類だ。


ろくに何も敷かずに、商品を地べたに置いただけで商売してるような奴らもいるからだ。



スラムの市場で売っている商品は良くも悪くも様々だ。


旧文明時代のガラクタやらクリーチャーの肉、栽培した野菜類、武器弾薬、ドラッグ、義体のジャンクパーツ、あげて言ったらキリがない。


「探してりゃ、意外な。掘り出し物が見つかるかもな、ビル。スラムの市場は文字通りの玉石混合だ」


電解液の漏れたコンデンサをいくつか購入しながら、シンが言う。


「だな。この前も面白そうな合成バイオ回路設計図があったしよ。まあ、切れっ端だったけどな」


鍋にオイル代わりの砂をぶち込んで、食材を炒めている屋台を通り過ぎる。


砂の熱伝導を利用した調理方法は、東荒野ではポピュラーだ。


「今日ははずれかもな。ロクなもんが見当たらねえ」


ビルが愚痴をこぼした。


二時間ほど市場をほっつき回った結果へと感想だ。


「まあ、こんな時もあるもんだ、ビル。最後はあの店を見て、それで何もなけりゃ切り上げて帰るとしよう」


照りつける黄色く輝く太陽は、相変わらずこの東荒野の大地を灼いていた。



19



タナカカズマ(田中一馬)は突然、この東荒野に出現した。


本当に訳が分からなかった。


カズマ本人取っては不運極まりないが、東荒野ではたまに発生する現象だ。


カズマは今年で31歳になる中小企業に勤めるサラリーマンだ。


ごく平凡的な生い立ちで、まともに喧嘩したことすらない。


つまり、この東荒野では一分も持たない存在だった。


右手にはコンビニ袋をぶら下げていた。


中身はチューハイ缶と安物の紙パック焼酎、それとおにぎりが三つだ。


安物のスーツはすっかりくたびれてはいたが、東荒野では上物だ。


ポリエステル100%の上下スーツは、カズマのいた文明世界では安月給サラリーマンたる社畜の象徴だったが、

この東荒野では高級品だった。


特に一度も人の血を吸った事がないというのが、大変好印象に映るだろう。


そんなカズマの目の前では、チェーンソーを薙ぎ払い、襲い掛かるレイダーの首を高速回転する刃で切り落とすパーシーの姿があった。


レイダーの肉は裂け、骨は砕け、大量の血しぶきを撒き散らしながら首が飛んでいく。


カズマは思った。


これ、映画撮影の現場かな、と。


それも趣味の悪いB級スプラッター映画の。


これは正常性バイアスの一種ともいえる反応だが、仕方がない面もあるだろう。


レイダーの返り血で染まったパーシーがカズマに気づくと、気さくに声を掛けた。


カズマが幸運だったのは、場所がラストホープの近くであり、この死神も面倒くさがって近寄ってこない、アホなラッキーマンことパーシーと知り合えたことだろう。




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