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この東荒野じゃ、あんたが一番人道的だな、タックスマン(ニックの皮肉)


15



捕まえた人間の皮を生きたまま剥いだり、古いタイヤをネックレスのように首にかけてから燃やしたり、

四肢をチェーンソーで斬り落として喜ぶのは、東荒野の典型的なレイダーの特徴だ。


さらってきた赤ん坊を生きたままわざと貪り食ったり、面白半分に捕虜を拷問する残虐なクズども。


この東荒野に散らばる汚物、お袋の腹に知性と理性と共感性を置き忘れて生まれて来た完璧な失敗作、それがレイダーだ。


レイダーにとって、他者の苦痛はただの娯楽の対象でしかない。


そんな東荒野で一番の嫌われ者達をこよなく愛する奇特な存在がいる。


そいつの名前はタックスマン、善意と狂気の副産物だ。


「ニック、歩くバイオ燃料の材料は見かけなかったかい?」


「生憎とレイダーもバイオクリーチャーも今日は村に近寄ってこねえな」


干し肉をガムのように噛んでいたニックが、タックスマンに答える。


「そうか、そりゃ残念だよ」


「そういやタックスマン、あんた、レイダーを生きたまま精製タンクに放り込むのは何故だい?」


「生きているほうが酵素が活性化するし、エネルギー損失も少ないからさ。

何より生前に生きたまま燃料になれば、神様もレイダー達を同情して大目に見てくれるはずだよ。

あの世に行く前にこの世で地獄の業火に燃やされたのかってね。

そしたら神様も休憩時間中に、地獄に落ちたレイダー達に気付けのバイオエタノールを振舞ってくれるはずさ」


「この東荒野じゃ、あんたが一番人道的だな、タックスマン。レイダーの為に地獄に落ちた後のろくでなしどもの面倒まで考えてやれるなんてよ」


干し肉の切れ端を口に放り込んだニックが、肩をすくませて言う。


「いやあ、そこまで褒められると何だか照れちゃうな。まあ、でもレイダーもバイオ燃料になればみんなの役に立つし、精製されている間に反省もできるだろう。

生きている間に苦しめば、死後は地獄の悪魔も少しは手加減してくれるだろうし」



「つまり、あんたの精製タンクは悪党を更生させる懺悔室でもあるわけだな」


「そういう事だね、ニック」


タックスマンが胸を張って言う。


その仕草にニックは、鼻を鳴らして触手を蠢かせて見せた。


シンが持ってきたバイオミニコンポのスイッチを入れ、ニックが曲をかける。


コンポが流すヴェラ・リンの<また会いましょう>を聴きながら、ニックとタックスマンは空を見上げた。


酔っ払った創造主の吐瀉物ともいうべき、このイーストウエストランドに愛のメロディが微かに響くその風景は、

つかの間の安寧と、粗末なロマンチズムと、不毛なまでの滑稽さを滲ませている。


透き通るようなヴェラの歌声とともに、衛星軌道兵器の残骸っぽい物体が流れ星のように横切っていく。


その残骸が、空を飛んでいたバイオクリーチャーにヒットした。


「あのクリーチャーも不運だな」


「そうだね」


挽き肉になったクリーチャーを回収しようと、ニックとタックスマンは落下地点へと足を運んだ。


今日の夕飯はこれで決まりだ。



16



その日、ジャンクケルアックの町長レイモンドはストリップを見物していた。


人生の真理、ないし、それに類する何かを見つける為とは本人の言葉だ。


場所はジャンクケルアックにある旧文明の雑居ビルを修復したストリップ劇場。


亀裂に合成強化パテを埋め込み、ワイヤーで固定した店内では、粘り気を帯びた生臭い雰囲気が漂っている。


客達の脂ぎった熱気と体臭が混ざり、発酵した生ゴミを思わせる欲望という名の悪臭が、鼻腔粘膜をぶん殴ってくる。


だが安物ドラッグとアルコールと放射能で脳神経が麻痺している客達は、全く気にする様子もなく元気に騒いでいた。


ストリッパーの一人が、四つに分かれたメロンズからオレンジ色の炎を噴きあがらせる。


火炎放射器を使ったラムシュタインのパフォーマンスのようだ。


火炎放射による熱風が客達の顔を撫であげ、髭や眉毛を若干焦がしているが、気にする奴はいなかった。


勿論、店内の酸素が減っていても気づく様子もない。


密閉に近い状態の空間で炎を使えば、どんどん酸素は消費されていく。


酸素濃度が低下していても炎を噴射し続けると、次に発生するのが一酸化炭素だ。


原因は不完全燃焼。


この無臭の気体を吸い続けると、ヘモグロビンと猛烈な勢いで結合していく。


一酸化炭素中毒は初期は、トリップしたような快感に包まれることがある。


だが、最後は人生の幕を閉じることになる。


顔を鮮やかに茹で上がったエビのように紅色に染めながらだ。


これが化学反応だ。


そしてレイモンドがストリップ劇場で手に入れたのは、人生の真理などではなく、ただのめまいと頭痛だった。


騒いでいた客の一人が、失禁しはじめる。


「何だっ、興奮してションベンしてんのかよ、こいつっっ」


失禁した客の隣にいた男が顔をしかめた。


ズボンのジッパーをずりおろしたもう一人の客が、俺のモジョが久しぶりにおっ起ったぞと叫ぶ。


極彩色のネオンがスライドする喧騒に包まれた店内は、もはや一種の集団自殺の祭壇と化していた。


だが、奇跡が起きた。


ストリップ劇場の壁目掛け、暴走した装甲車が突っ込んできて破壊したからだ。


こうして客もレイモンドも命拾いすることとなった。





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