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東荒野で一番信用できるものだって?それは強欲だよ(やり手の商人ブロンコの美学)

12



ジャンクケルアックの工房ニューバッドの作業台には、タンパク質と高密度カルシウムで構成された生体ショットガンが、ドカンと置かれていた。


ショットガンの粘膜嚢を念入りに調べていたシンが、内部に治療用のオイルを塗りこんでいく。


「これで大丈夫だ、サリー、あと半日くらいこいつを放っておけば、また元気に腐食性粘液をレイダーにぶちまくてくれるさ」


「ありがとうよ、シン、それじゃあ、約束のこいつを置いていくよ」


サリーがカラハリスイカの詰まった小型コンテナを置いていく。


上機嫌で帰っていくサリーを見送ると、シンは次の仕事の準備に入った。


「おい、ビル、次はワクチンを都市に運ぶぞ。今ならアルルカンのワクチン価格も高騰してるだろうな」


「普段の270%は相場が上がってるだろうな、シン。物資手形がたんまりだぜ。これもパンデミックのおかげだな」


「感染症って死神が熱心に仕事に取り組むほど、俺たちの懐が潤うんだから皮肉なもんだな、ビル。いかにも東荒野らしい」


ワクチンプレフィルドシリンジが収納された冷却ケースを眺めながら、シンが呟く。


「アルルカンの連中には、命を救う天使の慈悲に見えるだろうが、俺達には手形の引換券ってわけだな、このワクチンも」


「そういう事だな、ビルよ。金持ちだろうが貧乏人だろうが、今のアルルカンじゃ、こいつを欲しがる奴は腐るほどいるだろうぜ」


シンが冷却ケースをロックすると、愛用のバギーに乗り込み、目的地の都市部、アルルカンへと向かった。



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かつての文明の残骸、裂けたアスファルトと、倒壊した高層ビルの廃墟群、シンはバギーを走らせた。


バイオクリーチャーやレイダーに注意しながらだ。


バギーの走行音を聞き付けた飢えたクリーチャーが、姿を見せるのはよくあることだ。


勿論、こいつらは立派な資源になる。


「ビル、クリーチャーのいるポイントを記録しておけよ。あとで資源回収するためにな」


「おうっ、座標データはきっちり記録するぜっ、俺に任せておきなっ」


シンがわざとらしくエンジン音を吹かせる。


だが、生憎とクリーチャーどもは姿を現さなかった。


どうやら昼寝でもしているようだ。



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拍子抜けするほど何事もなくアルルカンへと到着した。


検問所の衛兵に袖の下を渡し、外壁に囲まれた東荒野の要塞都市へと足を踏み入れる。


シンは安物の合成葉巻をくゆらせながら、依頼人のブロンコの待つ邸宅へと向かった。


ブロンコはやり手の商人で、抜け目のない野郎だった。


典型的な東荒野の商人って奴だ。


何度も取引をしているが、とにかく金に細かく、あくどく相手の足元を見てくる。


つまりこの東荒野では、信用できる商売人といわけだ。


ケチで強欲なブロンコは、絶対に自分の利益を裏切らない。


理想や信頼、思いやり──そんなあやふやなものは東荒野じゃゴミ同然だ。


どんな資源にも劣る廃棄物。


友情や愛情を口にする奴は、この東荒野じゃ詐欺師と名乗っているようなものだ。


例外はタックスマンのような狂人だけだろう。


その点、ブロンコは自らの強欲さと利益においては、むかつくまでに誰よりも誠実な奴だ。


自分の母親を1リットルの飲料水と引き換えにするそのあくどさは、むしろブロンコの美学さえ感じるほどだ。


装甲扉を潜り抜け、シンがブロンコの応接室へと案内される。


クリーチャーのレザー製のソファに深々と腰を下ろし、ブロンコがシンに飲み物を進めてくる。


「やあ、シン、私にいつも素晴らしい利益をもたらしてくれる愛しい人よ。まずは水でもいかがかな。純粋な水だよ。勿論、特別にタダだ。

君にはその資格があるからね。心配なら毒見役に飲ませても構わないよ。何、代わりはいくらでもいる」


強欲に突き出た腹を揺らし、カイゼル髭を指先で撫でつけながら、ブロンコが水を持ってくるよう給仕に命じる。


給仕が運んできたのは、透き通った透明な液体だった。


「高純度のH2Oだな、シン。ブロンコの奴、俺はこれだけ羽振りが良いんだぜって見せつけてやがんのか」


ビルがつまらなさそうに呟いた。


悪趣味な総金歯を剥き出し、脂ぎった顔に笑みを張り付かせ、ブロンコが身を乗り出す。


「それではビジネスの話をしようじゃないか、シン」


ブロンコがシンの前で揉み手する。


シンが神経系に直結した生体スキャンに改造した舌先で液体を調査する。


スキャンが安全だと告げた。


「毒も化学汚染もない清潔で純粋な水だな、ブロンコ。こいつ一杯の為に喜んで殺し合いをおっぱじめる連中が、スラムじゃゴロゴロしてるぜ、腐るくらいな」


ビルがケラケラ笑いながら言った。


「ビル、私を何だと思っているんだね。わざわざ金の卵を産むガチョウを殺す愚者はいないよ。

それでワクチンのことだが、現在アルルカンでは需要と供給のバランスによって、絶賛高騰中だ。

愚かな商人たちは少しでも値切ろうと商売相手を騙そうとしているようだが、そんな目先の利益に私は捕らわれない。

その場限りの利益は得られても、その後の利益は見込めなくなるからね。

だから私は正直に話す。何故ならば私がワクチンを値切ろうと嘘をつけば、シン、君はとっとと私の商売敵にそのワクチンを持っていくだろうからね」


どこか芝居がかった大仰な口調でブロンコが捲し立てた。


「単純に嘘をついた場合のコストとデメリットを天秤にかけたって話だろ。で、正直に取引したほうがメリットがあると踏んだ。それだけの話だ」


「うむ、話が早くて助かるよ、ビル。それでシン、これは提案だが、ワクチンを全部引き取る代わりに当初の25%の価格を上乗せしようじゃないか」


「あんたの事だからそれ以上に利益が見込める当てがあるんだろうな、ブロンコ。あんたのその強欲さと腹黒さと合理性は、吐き気がするほど信用できる。

いいだろう、売ってやるよ、あんたに」


「おお、素晴らしい。これで私は当初予定していた見込み利益より66・6%多く稼ぐことができる。絶望と快楽、この二つこそが商売の鍵だ。

今回は前者の絶望だが、それによって金持ち連中の金庫の中身を頂戴することができるよ」


「それじゃあ、取引成立だな、ブロンコ」


シンが一息に水を飲み干した。


ブロンコの唯一の取柄──それは自分の利益に対して、決して嘘をつかないってことだ。




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