このジャンクケルアックに炎の噴水を作ろうっ(レイモンド町長の言葉)
10
「シン、時速120キロで、でっかい奴がこっちに接近してるぜ。2分後には村の入り口に到着するな」
「ビル、ニック、すぐに準備をしろ。俺はストームサーペントの背後から撃つ。奴さんはフードのせいで背後が死角になってるからな」
シンが絶縁性のセラミック弾を用意する。
「しかし、何で旧文明の連中は、時速120キロで動き回って100万ボルトの放電をする25メートルの毒蛇なんて作ったんだろうな。
頭がイカレてやがるぜ」
狙撃ライフルのボルトを引き、セラミック弾を装填しながらシンが言う。
ニックが触手で、バルカン砲を軽々と持ち上げると器用に構えた。
「別にバイオ発電機を作ること自体は俺も文句はねえけどよ、なんでわざわざそいつに毒の牙やら放電やら凶暴性まで与えたんだろうな。
敵国を焦土にでもしたかったのかね。でもよ、焦土にした後、そのストームサーペントをどうする気だったんだ。駆除するのも手間が掛かりすぎると思うけど」
と、こぼすビル。
「ビル、恐らくは当時の旧文明の上層部は酒の飲みすぎで、脳みそがグダグダに酔っ払っちまって、そこまで頭が回らなかったんだろうよ」
ニックがビルに言う。
「あるいは旧文明のエリートや研究者ってのは、レイモンドやパーシーのようなバカばっかりだったのかもな。
挙句はテメエの作ったクリーチャーに丸焼きにされるなんざ、ギャグにもならねえよ。と、ニック、狙うのはあくまでも頭にしろよ。
腹の部分は発電器官がある。下手すりゃショートして辺りに被害が出るかもしれねえ。
以前、馬鹿なハンターどもが、ストームサーペントの発電器官に何発もロケットランチャーを打ち込んで一緒に吹っ飛んでたぜ」
ケラケラ笑いながらビルがニックに教えてやる。
「なんでわざわざバイオ発電機に衝撃与えて爆発させるような真似をしたんだ、そのハンター連中は。何か安物ドラッグでもやってたのかよ」
ニックが肩をすくめる。
「さあな、半径100メートルが蓄積されてた電力で吹き飛んでたが、ありゃ悲惨だったぜ。辺り一面焦げてやんの」
と、ビルが漏らす。
「無知は罪って奴さ。ニック。あの馬鹿どもは、発電器官に圧力を加えると爆発するって単純な理由すら思いつかなかった。それだけだ。
と、そろそろ来るぞ。構えろ。それとパーシー、お前はその小型発電機を持って母親の注意を引きつけろ」
シンがパーシーに指示する。
「ああ、わかったぜっ、この珍しいアホアホネズミをもって、走り回ってりゃいいんだなっ!」
パーシーが村の空き地まで一直線に駆けていく。
「それじゃあ、ビル、ニック、とっととストームサーペントの脳幹をぶっ壊すぞ」
「ああっ、まかせときなっ」
母親のストームサーペントが、我が子を奪い返しにやってきた。
その巨体に似合わず、静かに、しかし確実にパーシーの背後を追跡する。
ニックが触手を4本地面にぶっ刺して体を固定すると、残り四本で構えたバルカン砲の弾丸をぶちまけた。
ストームサーペントの硬い鱗が、火花を飛ばしてはじけ飛ぶ。
怒り狂うストームサーペント──シンがその隙をついて光学迷彩で周囲に溶け込むと、素早く死角に回り込む。
「これでチェックメイトだ」
引き金を引く。
シンの放ったセラミック弾が、ストームサーペントの脳幹を撃ち抜いた。
振り返れば呆気ない幕切れともいえるだろう。
ストームサーペントの巨体が、慣性に従って崩れ落ちる。
「これで当分は村の防御柵やエネルギーは安泰だな、シン。おまけに肉も食い放題だ」
「そうだな、ニック。さてと、それじゃあ早速解体といくか。こいつの肉を食いながら、バイオエタノールをしこたま飲むのも悪くねえだろう」
周囲に立ち込める砂塵とバルカン砲の硝煙──シンは素早くストームサーペントを高周波ナイフで切り裂いていく。
鱗の隙間にナイフを突き刺し、発電器官の丁寧にかつ迅速に取り出す。
惚れ惚れするような腕前だ。
その日の夜、ラストホープでは宴会が始まった。
焼いた蛇の肉を食い、酒を飲んで浮かれる村人たち。
それはつかの間の幸せであり、平穏だった。
そこへパーシーがまた何かを拾って持ってきた。
「おい、シンっ、穴を掘ってたらこんなもんが出て来たぜっ」
泥にまみれたパーシーが両手に握っていたのは、ロナルド・ドゥオーキンの<法の帝国>だった。
「ひでえオチがついたな、シン」
「そうだな、ビル。この東荒野であれだけ無意味な書物もないぞ」
11
その日、ジャンクケルアックの町長であるレイモンドは、また新しい何かプランを考えていた。
レイモンドの脳みそは、放射能で溶けかけたナメクジよりも酷く、ストーブに放り込んで燃えたスポンジの燃えカスよりもスカスカな密度を保っている。
「聞いてほしい、シン、タックスマン、私はこのジャンクケルアックの寒い夜を乗り切る良い計画を考えた。町に噴水を作り、そこにバイオ燃料を噴出させて火をつけるんだ」
「要するにジャンクケルアックをでっかい火葬場にするってことか、レイモンド」
シンが呆れた声で言う。
「中々面白そうな計画だね、レイモンド。でも、それだったらその燃料を必要な分だけ無料で人々に配給したほうがいいと思うよ。民家に引火しても困るし」
レイモンドに進言してやるタックスマン──このバイオボーグには知性も理性もある。
ただ、レイダーやクリーチャーを生きたままバイオ燃料にしているだけだ。
それでもこの東荒野では、タックスマンはまだ倫理観を持ち合わせている。
困っている人々に高品質のバイオ燃料を無料で配っていくその姿は、東荒野では聖人の部類と呼んでも差し支えない。
貧しい人々をバイオ燃料で助けてやりたいという善意と慈愛の持ち主だ。
レイダーやクリーチャーが燃料精製プラントに放り込まれて、生きたまま燃料にされていく断末魔の悲鳴は、その過程と結果に過ぎない。
だが、レイモンドは子供が駄々をこねるように嫌がった。
「嫌だっ、私はこのジャンクケルアックの噴水が、炎の柱を噴き上げるのを見たいんだァっッ!」
「いつも思うんだが、あんたが町長で、良くこのジャンクケルアックは滅びないもんだな」
シンがどうしようもない愚物のアホを見るような冷ややかな視線をレイモンドに向けり。
単細胞生物のアメーバだって、こんな馬鹿なことを実行しようとは思わないだろう。
「うーん、それだったら広場に精製プラントを設置して、バイオ燃料を作る過程で発生する余剰な揮発ガスを利用して噴水に炎の柱を吹かせるのはどうだい?」
タックスマンがレイモンドに提案してやる。
「悪くない提案だな。流石はタックスマン、資源を有効活用して、かつレイモンドの願望も叶えてやれるな」
茶々を入れるビル。
燃料のロスはゼロだし、排ガスの臭気に悩まされることもなくなる。
魅力的な提案ではある。
「俺もタックスマンの意見に賛成だ、レイモンド。あのクズの外道のレイダーや厄介なクリーチャーを燃料にしながら、ガスの処分もできて一石二鳥だ。
ただ、防火設備はしっかりさせてもらうぞ。ジャンクケルアックが火の海になるのはごめんだからな」
「ついでに火炎放射器として利用すればレイダーやクリーチャー対策にもなるぜ。疫病の原因になる汚物や腐敗物を燃やすのに利用してもいいしな」
ビルが付け加える。
こうしてジャンクケルアックに火柱を上げる噴水が設置されることになった。
レイモンドが執務室に置かれたウイスキー風味のエタノールの瓶を掴み、4人分のグラスに注ぐ。
「では皆で乾杯といこうじゃないか」
レイモンドがエタノールを注いだグラスを高々と掲げた。
その液体は琥珀色などという上等なものではなく、数百年間淀んだ沼の濁った色合いと放射性物質にも似た青白い怪しげな光を放っている。
「それじゃあいっぱい頂こうかな、レイモンド」
タックスマンがそのやばそうな液体を嬉々として飲み始めた。
「俺の分もよかったら飲むといい」
シンがタックスマンに液体の詰まったグラスを渡してやる。
「わお、ありがとう、シン。それじゃあ遠慮なく貰うよ」
タックスマンが二杯目のその毒々しい見た目の液体を飲み干していく。




