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評価されなかった俺の物語が、異世界では世界を救うらしい  作者: 白紙


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4/8

代償は、静かに削られる

 魔獣騒ぎの翌朝、村は妙な静けさに包まれていた。


 被害は少なかった。

 死人も出なかった。

 それなのに、空気が重い。


「……お前、昨日のこと覚えてるか?」


 井戸の前で、見回りの男に声をかけられる。

 俺は、曖昧に頷いた。


「魔獣が、急に動かなくなっただろ」

「……偶然、じゃないですか」


 自分でも驚くほど、声がかすれていた。


 男は俺をじっと見つめ、やがて首を振る。


「まあいい。助かったのは事実だ」


 それ以上、何も言われなかった。

 責められもしない。

 褒められもしない。


 ――それが、逆に怖かった。


 孤児小屋に戻ると、身体の奥に違和感が残っている。

 熱が引いたあとのような、空洞。


 喉が、やけに渇く。


 水を飲もうとして、手が止まった。


「……?」


 木のコップに映る自分の顔。

 子供のはずなのに――一瞬だけ。


 少し、疲れた目をしていた。


 見間違いだ。

 そう思おうとした瞬間、頭痛が走る。


 ずきり、と。


 昨日、言葉を“書いた”瞬間と、同じ場所が痛んだ。


「……代償、か」


 誰に向けるでもなく呟く。


 夢の中の物語。

 結末を書き換えた、あの感触。


 力を使った実感よりも、

 “削られた感覚”のほうが、はっきり残っている。


 俺は藁の寝台に横になり、目を閉じた。


 思い出そうとする。

 前の世界で書いていた、あの小説の続きを。


 ――出てこない。


 登場人物の名前が、曖昧だ。

 設定も、ところどころ抜け落ちている。


「……冗談だろ」


 焦って、別の作品を思い浮かべる。

 短編。

 プロットだけのメモ。


 それも、ぼやけている。


 胸の奥が、冷たくなる。


 まさか。


 書くことで、

 “書いてきたもの”を失っている?


 否定したい。

 でも、身体は正直だった。


 あの力は、物語を糧に動く。

 そして、その代価は――


「……記憶、か」


 理解した瞬間、吐き気がした。


 俺にとって、物語は人生そのものだった。

 評価されなくても、

 読まれなくても、

 積み重ねてきた時間。


 それを削って、世界に干渉する。


 重すぎる。


 ――それでも。


 昨日の子供の「ありがとう」が、頭から離れない。


 評価じゃない。

 数字でもない。


 生きている人間から向けられた、たった一言。


 俺は、拳を握る。


「……全部を救うつもりはない」


 英雄になる気もない。

 正義を振りかざすつもりもない。


 ただ。


 書かれなかった結末の中から、

 自分で選ぶ。


 救うか、見捨てるか。

 書くか、書かないか。


 その責任を、引き受ける。


 窓の外で、鐘が鳴った。


 次は、どんな物語が呼んでいる?


 俺は、目を開ける。


 忘れてしまう前に。

 すべてが消える前に。


 ――まだ、書ける。


 ――この力は、使うほどに“俺自身”を物語に変えていく。

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