最低ランクの烙印
その日、俺ははっきりと思い知らされた。
――この世界での俺の価値は、限りなくゼロに近い。
「次、孤児の……番号七」
名前ではなく、番号で呼ばれた。
それだけで、胸の奥がひりつく。
俺は簡素な建物の中央に立たされ、周囲をぐるりと囲む大人たちの視線を浴びていた。
ここは村の集会所。
今日は、子供たちの魔力測定の日らしい。
水晶玉が台の上に置かれる。
「触れろ」
言われるまま、俺は小さな手を伸ばした。
冷たい感触が指先から伝わる。
一瞬の沈黙。
水晶玉は――
何も光らなかった。
「……反応なし、か」
測定官が興味なさそうに呟く。
「最低値だな」
「いや、最低値以下かもしれん」
「やはり孤児か……」
ひそひそと、遠慮のない声が飛ぶ。
胸が、ぎゅっと縮む。
前の世界でも、こんな視線を何度も浴びた。
評価されない原稿。
反応のない画面。
沈黙という名の否定。
――ああ、またか。
この世界でも、俺は“読む価値のない存在”らしい。
「次」
それだけで、俺の測定は終わった。
慰めも、説明もない。
集会所を出ると、昼の光がやけに眩しかった。
村の子供たちは、測定結果を自慢し合っている。
「俺、Bランクだった!」
「すげえじゃん!」
「将来は騎士様だな!」
その輪に、俺の居場所はない。
誰も俺を見ない。
見えないものとして扱われる感覚。
……慣れているはずだった。
孤児用の小屋に戻り、藁の寝台に腰を下ろす。
そこで、ようやく気づいた。
昨夜見た夢の感触が、まだ胸に残っている。
――俺が書いた、誰にも読まれなかった物語。
夢だったはずなのに、
思い出そうとすると、続きを正確に思い出せる。
「……気のせい、じゃないな」
試しに、俺は目を閉じた。
頭の中で、言葉を並べる。
物語の続きを、静かに、丁寧に。
その瞬間。
胸の奥が、かすかに熱を帯びた。
同時に、外から悲鳴が聞こえた。
「魔獣だ! 森から魔獣が出たぞ!」
村が、ざわめく。
俺は立ち上がる。
足が、少し震えている。
もし、もしもだ。
あの夢が、ただの夢じゃないなら。
あの物語が、この世界に干渉できるなら。
――俺は、また書いてしまうのだろうか。
評価されなくても。
役立たずと呼ばれても。
それでも俺は、
続きを書く人間だから。
俺は、扉を開けた。
この選択が、
俺の物語の始まりになるとも知らずに。
――最低ランクの烙印を押された俺が、世界に初めて“干渉”する。




