じじい怒る
爺さんの言うには息子も腕の立つ職人じゃが代官の依頼を断った事で逮捕されてしまったのだそうな
パーパスが就任した事で取り調べが有耶無耶になって解放されたのじゃが、執拗な取り調べで体調を崩した息子は未だ回復していないらしい
黒確定じゃな
ワシはドラゴンが斬れればそれで良いと気軽にこの世界で生き来たたが、どうにも始末に悪い腐っとるヤツというのが多すぎる気がするのぅ
斬っても解決しない様な話をワシに押し付けてくるのは一体誰なのかのぅ
「知らぬ事とはいえ申し訳ありませんでした、ご子息への補償は必ずさせて頂きます」
ワシは爺さんに頭を下げた
「役人は誰もワシらの言葉を信じてくれなかったが、あんたはそんな目に合わせた俺を信じてくれるのか?」
爺さんは包帯でぐるぐる巻きになったワシの頭を見ながら言う
当然じゃ
「家族に酷い事をされたのです、あなたの怒りは当然です」
ワシは爺さんを見据えそう言う
パーパスでもそうしたじゃろう
「本当はお願いしたい事が沢山ありましたが、あなたが納得出来る状態にして再度お願いに参ります」
ワシは再度頭を下げると爺さんに小袋を渡す
万病に
効くという魔法丹じゃ
「クスイさんの薬に比べたら見劣りするかも知れませんが、これをご子息に」
ワシはそう言うと工房を後にした
こっちに来て以来…いや、こんなに腹を立てたのは半世紀以上前の話じゃ
そのくらい怒っておる
ワシは怒りに任せてパーパスが居るであろう屋敷に向かった
はてさて、行って何とするかのぅ
子供の…いや、大人でもただの兵士崩れのワシで出来る事なんぞたかが知れとる
屋敷に戻ると家の者達はワシを見てギョっとする
忘れとったがワシ、血まみれで包帯ぐるぐる巻きじゃった
「父上は何れに?」
ワシの姿を見て駆け寄るメイドにワシは尋ねる
「ひっ…」
普段温厚なワシしか知らん若いメイドはワシの怒気にたじろぎ小さな悲鳴を漏らしてしまう
「すみません、少し取り乱してしまいました」
ワシは心配して駆け寄ってくれたメイドへの仕打ちに心から詫びを入れた
ワシの怒りは彼女には関係の無いところじゃ
「どうなされました、カタナ様?」
一人バタバタしているワシに声を掛ける男、執事のセバスチャンじゃ
今は多忙を極めるパーパスの片腕として同じ様に多忙な日々を過ごしておる
「セバスチャン、父上に早急に取り次いで欲しい」
ワシは冷静を装いパーパスへの面会を求めた
しかし、セバスチャンからの回答は残念ながら期待していた物とは異なった
「申し訳ありませんカタナ様、当主様は現在王都に居られます」
親子でこうも多忙で会えぬというのはお貴族様というのも難儀な物じゃのぅ
「それよりおのお姿は一体?」
セバスチャンの疑問も尤もなところじゃが、それは口が裂けても言えぬ
「戯れで怪我をしてしまい近くの町人に治療をして貰いました」
ワシは語らないという嘘を吐いた
決して褒められた話では無い
「左様でございますか」
何かを察したかセバスチャンは短くそう返す
しかし、幾ら有能と言っても執事でしかないこの男に言っても解決はせぬしどうした物かのぅ
ワシは自身の手札の無さに途方にくれるのじゃった




