じじいと薬師
ワシはジュウゾウに別れを告げると詳解された薬屋に足を運ぶ
魔法は外科の様な物の治療には強いが病気にはあまり効果がなく、もっぱら薬や祈祷に頼るのが一般的らしい
神の居る世界じゃから祈祷もそれなりに効果が有るのかと思いきや、そういうのは薬の方が安く済むほど金が掛かるとかで野良の祈祷師はほぼ胡散臭い何からしいのぅ
民間利用法なんてそんなもんじゃが
やはりと言うか、日本から来た素人がにわか知識で生薬の知識をひけらかした事で逆に研究が遅れたなんて笑えない話も有ると聞く
ジュウゾウみたいなのは兎も角として素人が訳知り顔で首を突っ込むのは良くないのぅ
薬屋に着くと先ず目についたのは赤い看板に金色の文字で漢法と漢字で書かれた看板じゃった
多分漢方と間違えとるんじゃろうな
中に入ると間違った世界観の中国と言った風の内装で透明なビンの中に高そうな薬の材料と思われる物が入っている
はて、透明なガラスなんぞこっちに来て一度も見た事が無いが、これも異世界由来かのぅ?
「近付くな、割れたらどうする?」
ワシがビンを眺めていると
男がワシを一喝する
「すみません、珍しくてつい」
ワシはそう言うとピンから放れる
まあ、知らないければ子供がイタズラしとる様にも見えるし仕方かあるまい
「この店にはブレイドディアの角は置いてますか?」
ワシは男にたずねる
言うて売る程持っとるがのぅ
それを聞いた男は顎に手をやり言う
「父ちゃんか母ちゃんが病気なのか?誰に聞いたか知らんがそんな高価なもん子共には買えんからこっちにしなさい」
男がそういうと袋を差し出してくる
「貧血に効く俺様自慢の調合薬だ、良く効くぞ」
この短い会話で幾つか解った事がある
ブレイドディアの角は貧血に効果かある事と高価な生薬である事、そして目の前の男が善人であるという事じゃ
「どちらかと言うとそれを売りたくてですね」
ワシは小さく切ったサンプルを男に渡す
「ブレイドディアの角をか?」
疑いながらも男は差し出された角を鑑定する
「げっ、間違いない…しかもこんな上物見た事が無いぞ」
ワシらには解らんがそんなに良い物なのじゃろうか?
「同じ重さの金と交換しよう、これ俺様のところで買い取って良いんだよな?」
はて、ブレイドディアの角の相場はもう少し安かった様な
「それはサンプルですのでそのままお持ちください、私たちは肉を取る為に狩って居まして角や毛皮はあまり必要では無いので売り手を探していただけですので」
ジョンやパーパスに立派な角を飾りにでもして贈ったら残りは本当に需要が無いからのぅ
とは言えじゃ
「失礼ですけどそれでは赤字なのでは?」
実際に同じ重さと金では買値の方が下手をしたら高くなるでのぅ
「ガキが要らねぇ心配すんな、こう見えて俺様は調合師だ、価値は俺様が何倍にもしてやるよ」
余程腕に自信があるのか男はカッカと笑って見せる
「沢山有るとなるとアレもこれも作れるな、捨てる様なクズ集めりゃここの連中の為の安い薬も作れるぞ…」
ブツブツと独り言を呟く
その口の悪さからは想像も出来ない様な善人である
なる程、ジュウゾウの推薦も頷けるという物じゃな
そして男はおもむろに一冊の本を開きページの何枚かをワシに見せる
茸やら木の書かれたページじゃな
「この辺りはおまえの言うブレイドディアやヘビーボアも好んで食べるが、俺らにとっても貴重な薬の材料になる、もしも有ったら一緒に売ってはくれないか?」
茸は知らんが木はたくさん有った気がするのぅ
「解りました、では此方からも一つ頼みが有るのですが…」
ワシはここでも物々交換を頼んだ
オニ達は外傷は高い自己回復の高さで問題は無いようじゃが長いこと風雨に晒されとった連中のあの死にそうな表情を見るに病気には必ずしも強いとは言えんからのぅ
ワシはここに来た経緯を男に伝え、村で扱える扱いやすい薬を見繕って欲しいとお願いした
「けっ、ガキかと思えば貴族様かよ…」
貴族お嫌いかのぅ?
「心配すんな、前の領主も今の領主もお前もあのクソ忌々しい代官とじゃ比較にならねぇいい奴らだからちゃんと取引はしてやるから」
なる程のぅ
ジョンが王位に就いて空位になっていた何年かここを統治しておった連中がダメ過ぎたという事じゃな、そりゃジュウゾウも腐るわい
「申し訳ありません、父に頼みすぐに調査して必ず相応の処分を下すと約束します」
ワシは男に頭を下げる
「さっきも言ったろ、ガキが要らねえ心配すんな」
男はそう言うとやや乱暴にワシの頭に手を置きやや乱暴に撫でる
お貴族様と知っても態度が変わらぬ豪胆さは嫌いではないがのぅ




