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第7話:スパルタ×戦国の魔王・軍神と中華の皇帝 〜信長の三段撃ちと謙信の車懸り〜


 テルモピュライの狭い海岸線は、死体と残骸で埋め尽くされていた。


 「抜けない壁」によってペルシア軍の攻勢は止まった。そして、反転攻勢に出た連合軍の猛攻により、前線は押し戻されつつある。

 だが、レオニダスは眉をひそめていた。 


「……雑だ」

 彼は、味方の動きを見て呟いた。


 真田幸村は右へ突っ込み、リチャードは左へ駆ける。フサリアは中央を突き破り、異世界の魔法使いは後方で爆発を起こしている。 


 強い。個々は圧倒的に強い。

 だが、連携が取れていない。 

 このまま敵陣深くへ進めば、広大な平原で包囲され、各個撃破される恐れがある。


「指揮官が必要だ」

 レオニダスは言った。


「俺は槍を振るうのが性分だ。全体を見て、この滅茶苦茶な軍団を指揮する者が必要だ」


 その時。

 戦場を見下ろす小高い丘――かつてスパルタ軍が最後の陣を敷いた場所――に、新たな亀裂が走った。

 そこから現れたのは、軍隊ではなかった。  


 床几しょうぎ、軍配、采配、そして豪奢な天幕。

 戦場に似つかわしくない、優雅な「司令部」が忽然と出現したのだ。


 その中央に、四人の男が座っていた。

 それぞれが、一国、あるいは一大帝国を背負った覇者たちのオーラを纏っている。


「……ほう。ここが地獄の一丁目か」

 派手な南蛮マントを羽織り、膝を立てて座る男。織田信長。


「毘沙門天の加護あれ。……騒がしい戦場だ」

 白頭巾を被り、数珠を繰る男。上杉謙信。 


「無秩序だな。だが、素材は悪くない」

 黄金の龍の鎧をまとい、静かに戦局を見つめる男。唐の太宗・李世民。


「氷の上よりはマシだが、熱すぎるな」

 毛皮の帽子を被り、冷徹な眼差しを向ける男。アレクサンドル・ネフスキー。


 レオニダスは、彼らの姿を見てニヤリと笑った。

 本能寺、川中島、安市城、氷上の戦い。

 それぞれの時代で出会い、その「指揮能力」に舌を巻いた怪物たちが揃っている。


「指揮官たちのお出ましだ。……おい、言うことを聞けよ! ここからは『戦争』の時間だ!」


 丘の上の司令部。


 四人の天才たちは、言葉を交わさずとも、互いの力量を理解していた。

 彼らは眼下の戦場を一瞥しただけで、全ての状況を把握した。


 織田信長が、扇子で遠くを指差した。

 彼が指したのは、ペルシア軍の最後尾。黄金に輝く巨大な輿こし――クセルクセス王の本陣である。


「……気に食わん」

 信長は、不機嫌そうに吐き捨てた。


「あの金ピカの男。神王とやらを名乗っておるそうだが……余より目立ちおって。成金趣味が鼻につく」

 隣で、上杉謙信が軍配を弄びながら答える。


「同感だな、織田殿。神を騙る傲慢さ、正道にあらず。……だが、あの数は脅威だ。百万の兵が、恐怖によって統率されている」 


 李世民が、脳内に描いた戦場図を見ながら冷静に言った。 

「敵の弱点は『数』そのものだ。多すぎて身動きが取れていない。後ろがつかえて、前の兵が引けない状態だ。……包囲殲滅の好機だな」


 ネフスキーが頷く。

「我々の戦力は少ないが、質は高い。一点に集中させて穴を開け、そこから内部崩壊を誘発させるべきだ」


 四人の意見が一致した。

 信長が立ち上がり、全軍に響き渡る声で号令を発した。


「全軍、聞けぇッ! これより指揮は余が執る! 文句のある奴は前に出ろ! 斬る!」

 戦場の英雄たちが、一瞬手を止めて丘を見上げた。 


 土方歳三がニヤリと笑う。「へっ、あの大将なら任せても良さそうだ」


 リチャード王が肩をすくめる。「ふむ。仕方ない、従おう」

 信長は、レオニダスに向かって扇子を振った。


「おい、赤鬼の王よ! 貴様は中央で指揮を中継せよ! 余の手足となって動け!」


「人使いの荒い魔王だ。……だが、悪くない」

 レオニダスは槍を掲げ、了解の合図を送った。


「よし! まずはあの金ピカを焼くぞ! 全軍、陣形変更!」


 上杉謙信が前に出た。

「私が前線で動きを作ろう。……全軍、『車懸り』の陣へ移行せよ」

 車懸り。


 部隊を風車の羽根のように回転させ、次々と新しい兵力を敵にぶつける波状攻撃。

 第一刃:フサリア&真田赤備え(突撃)

 第二刃:ローマ軍団&スパルタ重装歩兵(粉砕・維持)

 第三刃:新選組&異世界戦士(掃討)

 第四刃:島津&ナポレオン近衛隊

 この四つの異種混合部隊が、巨大な車輪となって回転を始めたのだ。


「回せ! 止まるな! 敵に息をする暇を与えるな!」

 謙信の軍配が振られる。


 ドォォォォン!!

 まず、フサリアと真田隊がV字型に突っ込む。ペルシア軍の前衛を吹き飛ばし、敵陣を切り裂く。


 彼らが勢いを失う直前、左右に散開して離脱する。

 その隙間に、スパルタとローマの「鉄壁」が滑り込む。


「押し潰せ!」

 盾で敵をプレスし、陣地を確保する。


 さらに、その背後から新選組が飛び出し、混乱した敵を斬りまくる。


「チェストォォォ!」

「オラオラオラァ!」

 そして、彼らが引いた瞬間、後方から一斉射撃が炸裂する。


 ズドォォォン!!

 島津の火縄銃と、近衛隊のマスケット銃、そしてミナたちの魔法が、更地になった空間を火の海に変える。 

 これを、休むことなく繰り返す。


 突撃、確保、殲滅、射撃。

 回転する処刑機械。

 ペルシア軍は、反撃する間もなく、ただミンチにされていく。


「なんだこれは……!? 悪夢だ!」

 ペルシアの将軍が叫ぶ。 


 対応しようがない。騎兵対策をすれば歩兵に殴られ、歩兵対策をすれば撃たれる。

 軍神・上杉謙信が描く「戦の円舞曲」は、あまりにも完璧だった。


 敵の中央が崩れ始めた。

 だが、クセルクセスは予備兵力の「不死隊」五万を投入し、穴を埋めようとする。

 さらに、戦象部隊を突っ込ませ、回転を止めようとした。


「象か。力任せな手だ」

 李世民が、冷ややかな目で戦場を見つめた。


「地形を変えてやろう。……工兵隊、前へ!」

 李世民が指差したのは、異世界のドワーフたちと、ナポレオン軍の工兵、そしてローマ軍団の工兵たちだった。

 彼らは「土木作業」のスペシャリストだ。 


「山を築け! 安市城の再現だ!」

 李世民の指示で、魔法使いが大地を隆起させ、工兵たちが瞬く間に土嚢を積み上げる。


 戦場の中央に、巨大な「土の坂道スロープ」が出現した。

 突進してきた戦象は、急な坂道を登ることができず、足を止める。

 そこへ、信長が扇子を振るった。


「鉄砲隊、三段撃ち! 象の鼻を狙え!」

 土山の上に陣取ったのは、織田軍、島津軍、そして新政府軍の混成射撃部隊。


 彼らは高所から、動けない象を狙い撃ちにした。

 ダダダダッ! ズドン!

 ガトリング砲も加わり、鉛の雨が降り注ぐ。 


「パオオオォォッ!」

 戦象が狂乱し、暴れ回る。

 制御を失った象は、反転して味方のペルシア兵を踏み潰し始めた。


 「ぎゃあぁぁぁ!」

 「象が! 象がこっちに来るぞ!」

 李世民が築いた土山は、敵の進軍を阻む壁となり、同時に味方の最強の砲台となった。 


 かつて安市城で苦杯を舐めた戦術を、今度は味方として完璧に使いこなす。

 それが、天可汗てんかかんと呼ばれた男の器量だった。


 ペルシア軍の陣形は、完全に崩壊していた。

 右翼は潰走。左翼は象に踏み荒らされ、中央は回転する刃に削り取られている。


 クセルクセス王は、玉座の上で立ち尽くしていた。

 黄金の仮面の下で、顔が引きつっている。


(ありえぬ……余は神ぞ? 世界の王ぞ? それが、どこの馬の骨とも知れぬ蛮族どもに……!)

 彼が見たのは、丘の上で悠然と指揮を執る四人の男たち。


 そして、そのさらに上空。

 空の亀裂から、楽しげに戦場を見下ろす女神アテナの幻影。


「神……。あちらにも神がいるというのか……?」

 信長は、動揺するクセルクセスを見て、嗜虐的な笑みを浮かべた。


「見ろ。神王とやらがビビっておるわ。メッキが剥がれたな」

 ネフスキーが静かに言った。


「機は熟した。総攻撃の時間だ」

 四人の指揮官が、同時に立ち上がった。

 そして、最前線で戦うレオニダスに、最後の命令を下した。


「行け、レオニダス! 道は作った!」


「あの目障りな黄金の輿を、貴様の槍で串刺しにしてこい!」


 レオニダスは、全身に返り血を浴びながら、丘の上を振り返った。

 そして、槍を高く掲げた。


『了解だ、最高の司令官たちよ』

 レオニダスは、部下たちに向き直った。


 スパルタ兵三百人。

 彼らは傷だらけで、息も絶え絶えだった。だが、その目は獣のように輝いていた。


 異世界の仲間たち、歴史の英雄たちが切り開いてくれた、敵本陣への一本道。


「王のロイヤル・ロード」が、目の前に広がっている。


「総員、突撃チャージ!」

 レオニダスの咆哮。


 「ウー! ハー!」

 スパルタ軍が走り出した。


 その左右を、真田、フサリア、ローマ、異世界軍、今まで戦ってきた仲間たちが固める。

 全ての力が、一点――クセルクセスの首へと収束していく。


 戦術と武勇が融合し、不可能を可能にした瞬間。

 神王クセルクセスが、初めて「死の恐怖」を知る時が来た。




 本日もお付き合いいただき、誠にありがとうございます。

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