第5話:スパルタ×新選組と維新の近代兵器 〜土方歳三の刀とガトリング砲の弾幕〜
異世界の魔法部隊とスパルタ兵の活躍により、ペルシア軍の召喚したヒドラは消滅した。
だが、戦場の混乱は収まるどころか、さらに加速していた。
時空の裂け目から溢れ出す「歴史の澱」――ミノタウロス、サイクロプス、そしてペルシアが征服してきた数多の部族の亡霊たちが、終わりのない波となって押し寄せてくる。
「キリがないぞ! 矢が尽きた!」
エルフの弓隊が悲鳴を上げる。
魔法部隊のミナも、杖を支えにして荒い息を吐いていた。
「まりょく……魔力が、もう……」
物理無効の怪物は倒したが、単純な「数」の暴力が連合軍を圧迫し始めていた。
剣と槍、そして魔法には限界がある。スタミナとマナというリソースが尽きれば、あとはすり潰されるだけだ。
クセルクセス王は、黄金の輿の上で狂喜していた。
「見ろ! 奴らの動きが鈍った! 所詮は人間、疲れを知らぬ我が軍団の敵ではない! 押し包め! 肉片一つ残すな!」
数十万の軍勢が、疲弊したレオニダスたちを包囲しようと動く。
絶体絶命。
その時だった。
戦場の上空、最も高い位置に走っていた亀裂が、爆発的に広がった。
ガシャッ、ガシャッ、ガシャッ。
「……なんだ、あの音は?」
アステリオスが空を見上げる。
亀裂から漂ってくるのは、鼻を突く硫黄の臭いと、鉄錆の臭い。
そして、見覚えのある「だんだら模様」の羽織。
ドスゥゥン!!
黒い鉄の塊が、戦場の丘の上に落下した。
車輪がついた、巨大な鉄の筒。
そして、その横には、洋装に身を包み、腰に日本刀を差した男たちが立っていた。
風になびく、赤地に金の文字。
『誠』
丘の上に現れたのは、新選組副長・土方歳三だった。
フロックコートを纏い、ブーツを履き、長い髪を風になびかせている。
その横には、斎藤一、永倉新八といった歴戦の隊士たち。
「……騒がしい所だ」
土方は、眼下に広がる神話的な大混戦を見下ろし、懐から煙草を取り出した。
マッチを擦り、火をつける。
紫煙を吐き出し、ニヒルに笑った。
「地獄の釜の底が抜けたかと思えば……随分と古臭い連中が暴れてやがる」
彼らの視線の先には、怪物に囲まれて苦戦するレオニダスたちがいる。
土方は、レオニダスの赤いマントを認め、目を細めた。
箱館の最期。ガトリング砲の弾幕を、その身を盾にして防いでくれた男。
あの時の借りを、忘れたわけではない。
「副長! 敵の数が多すぎます! どうしますか!」
隊士が叫ぶ。
土方は、吸いかけの煙草を弾き飛ばした。
そして、愛刀『和泉守兼定』を抜き放ち、切っ先をペルシア軍の大海に向けた。
「どうもこうもねぇ。喧嘩を売られたら買うのが新選組だ」
土方は、背後に据え付けられた「回転式多銃身機銃」を顎でしゃくった。
「それに、今回は『極上の土産』を持ってきている」
ガトリング砲の射手がハンドルを握る。
その横には、アームストロング砲の砲兵たちが装填を終えていた。
近代兵器。
刀の世界を終わらせた、鋼鉄の死神たち。
「準備はいいか、野郎ども!」
土方の号令が響く。
「時代遅れの連中に、文明の開化を教えてやれ! 撃てェェェッ!!」
ガァァァァァァァァッ!!
空気が引き裂かれるような音が、テルモピュライに轟いた。
ガトリング砲が火を噴く。
毎分数百発。
目にも止まらぬ速度で回転する銃身から、鉛の暴風雨が吐き出される。
それは、魔法でも、弓矢でもない。
純粋な物理法則による「質量の暴力」だった。
「ギョエェェ!?」
ペルシア軍の最前列にいたミノタウロスの群れが、一瞬にして肉塊へと変わった。
盾も、分厚い皮膚も、筋肉も関係ない。
鉛の弾丸は全てを貫通し、粉砕し、背後の兵士ごと薙ぎ払う。
「なんだ!? 何が起きている!?」
ペルシア兵たちは、自分たちが何によって殺されているのかさえ理解できなかった。
雷のような音と共に仲間が弾け飛び、血の霧となる。
見えない鎌で刈り取られる麦のように、軍団が消滅していく。
ズドォォォン!!
さらに、アームストロング砲が炸裂する。
着弾点に巨大なクレーターが生まれ、密集していた歩兵部隊が空高く吹き飛ぶ。
爆風と衝撃波。
古代の戦場には存在し得ない「爆発」という現象が、敵の戦意を根こそぎ折っていく。
「す、凄い……!」
異世界の女騎士セラフィナが、目を丸くして見上げていた。
「あれは魔法ですか!? 詠唱もなしに、あんな威力を!?」
レオニダスは、降り注ぐ薬莢の雨の中で笑った。
「魔法じゃない。あれは『科学』という名の、一番タチの悪いやつだ」
彼は、丘の上に立つ土方に向けて、槍を掲げた。
『遅かったな、侍』
土方もまた、硝煙の向こうから刀を掲げて応えた。
『待たせたな、王様』
圧倒的な火力制圧により、ペルシア軍の前線に巨大な穴が開いた。
土方は、その好機を逃さなかった。
「弾幕薄いぞ! 道は開いた! これより切り込みを行う!」
土方は馬を駆り、丘を駆け下りた。
それに続く新選組隊士たち。
彼らは銃を持たない。刀一本。
近代兵器で道をこじ開け、最後は己の肉体で敵を斬る。それが彼らの流儀だ。
「御用改めである! 手向かいする者は斬り捨てる!」
永倉新八が叫び、神道無念流の剛剣でサイクロプスの足を叩き斬る。
「悪・即・斬!」
斎藤一が、左片手突きの構えから、目にも止まらぬ速さで敵将の喉を貫く。
そして、土方歳三。
彼は戦場の只中、レオニダスの隣に馬を止めた。
馬から飛び降り、背中合わせに立つ。
「よう。元気そうじゃねぇか」
土方は、斬りかかってきたペルシア兵を、斬り伏せながら言った。
「顔色が悪いぞ。ちゃんと飯食ってるか?」
レオニダスは、盾で敵を殴り飛ばしながら答えた。
「ああ。最近はドラゴンの肉ばかりで胃がもたれていた所だ。お前の持ってきた『鉛の豆』は、随分と消化が悪そうだな」
「へっ。食あたりには気をつけるんだな」
二人は笑い合った。
背中には、絶対の信頼がある。
箱館で、死ぬまで背中を預け合った仲だ。言葉などいらない。
「行くぞ、土方! 敵の首を取りに!」
「おうよ! 新選組の最後の大仕事だ!」
スパルタのファランクスと、新選組の突撃隊が融合する。
盾で防ぎ、隙間から刀で斬る。
古代と近代、西洋と東洋の最強剣術が、ペルシア軍の中央を切り裂いていく。
だが、ペルシア軍も必死だった。
「怪物どもを盾にしろ! 」
巨獣たちが捨て身で突っ込んでくる。ガトリング砲の銃身が過熱し、回転が止まる。
近代兵器の弱点。補給とメンテナンスの限界。
「チッ、弾切れか!」
敵の波が、再び押し寄せてくる。
土方は、刀についた血を振るい、ニヤリと笑った。
「弾が尽きたら終わりか? 違うだろ」
彼は叫んだ。
「おい、お前ら! 銃剣はあるか! 弾がねぇなら棒にして叩け! 侍の魂を見せてみろ!」
彼らは銃剣を着剣し、あるいは銃床を棍棒代わりにして、斜面を駆け下りてきた。
レオニダスは、その光景を見て満足げに頷いた。
「いいぞ。結局、最後に頼れるのは自分の筋肉だけだ」
彼はアステリオスに合図した。
「……時代遅れも、悪くねぇな」
彼は刀を構え直し、敵の大将首を目指して走り出した。
その背中には、ボロボロになった「誠」の旗が、誇らしげにはためいていた。
銃声が止み、戦場は再び剣と槍の音に包まれる。
だが、ペルシア軍の戦意は、近代火力の洗礼を受けて粉々に砕かれていた。
勝利の天秤は、連合軍に傾きつつある。
しかし、クセルクセスの側近である魔術師たちが、最後の、そして最悪の召喚準備を始めていた。
歴史上の「英雄」に対抗できるのは、「英雄」だけ。
次に現れる敵は、ただの怪物ではない。
伝説の、英雄殺したちの顕現である。
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