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第4話:スパルタ×異世界の女騎士と魔法使いたち 〜ドラゴンの空爆と物理無効の破壊〜

テルモピュライの戦場は、混沌を極めていた。


 真田の赤備え、ナポレオンの近衛隊、フサリアの突撃。

 歴史最強の物理攻撃力が結集し、ペルシア軍を蹂躙していた――はずだった。


 だが、戦場の中央に現れた「それ」が、戦況を一変させた。

 大地が裂け、噴出した黒い泥。それが凝固し、多頭の蛇のような巨体となる。


 古代の呪術によって召喚された、闇のヒドラ。

 その体は実体を持たず、黒い霧のように揺らめいている。


「効かん! 銃弾がすり抜けるぞ!」

 老近衛隊のカンブロンヌが叫ぶ。

 一斉射撃の弾丸が、ヒドラの体を素通りし、背後の岩を砕くだけだ。


「斬れぬ! 雲を斬っているようだ!」

 真田幸村が十文字槍を振るうが、手応えがない。

 逆に、ヒドラの触手が実体化し、騎馬武者を薙ぎ払う。


 歴史上の兵器しか持たない英雄たちにとって、それは最悪の相性だった。


「おのれ……悪霊の類か!」

 島津義弘が歯噛みする。

 張飛が蛇矛を振り回すが、空を切るばかりでイライラと吠える。


「ええい、手応えがねぇ! 実体を見せろ!」

 レオニダスは、ヒドラの巨体を見上げ、冷や汗を流した。


「……あの魔王城の時と同じだ。物理が通じない相手か」

 アステリオスが盾を構えるが、不定形の影は盾の隙間から侵入してこようとする。


「王よ、これはいけません! 防ぎようがありません!」

 アテナの加護も、魔法的な攻撃の前では効果が薄い。

 このままでは、全時空の英雄たちが、たった一匹の怪物に全滅させられる。


 その時。

 上空の亀裂から、キラキラと輝く光の粉が降り注いだ。

 硝煙と血の匂いをかき消す、芳醇な花の香り。

 そして、鈴を転がすような詠唱の声が響き渡った。


『光よ、闇を穿て! 聖なるホーリー・ジャベリン!』

 閃光が走る。

 空から降り注いだ光の槍が、ヒドラの影を貫いた。


 「ギョオオオオォォッ!?」

 物理攻撃を無効化していた怪物が、初めて苦痛の悲鳴を上げ、その傷口から黒い煙を噴き出した。


「魔法か!?」

 レオニダスが空を見上げる。

 そこには、飛竜ワイバーンの背に乗った、懐かしい顔ぶれがあった。 


 空の亀裂から、異世界の軍勢が雪崩れ込んできた。

 先頭を切るのは、真紅のマントを纏い、巨大な円盾を背負った女戦士。

 元近衛騎士団長、セラフィナ・フォン・ラインハルト。


「お待たせしました、教官!」

 セラフィナはワイバーンから飛び降りた。


 高度数十メートルからの落下。

 だが、彼女は着地の瞬間、足元の岩盤を「身体強化フィジカル・ブースト」と「受け身」で粉砕し、無傷で立ち上がった。 

 その着地の衝撃波だけで、周囲のペルシア兵が吹き飛ぶ。


「弟子よ。随分と派手な登場だな」

 レオニダスはニヤリと笑った。


「遅刻だぞ。腕立て千回の刑だ」


「ふふっ。戦いが終わったら、喜んで!」

 セラフィナは愛剣『岩断』を抜き放った。


 刀身には、ドワーフのルーン文字と、エルフの付与魔法が輝いている。

 物理と魔法のハイブリッド。 


 彼女の背後には、異世界の仲間たちが続々と着地していた。

 案内役だったミナは、今は立派な大魔導師のローブを纏い、杖を構えている。 

「レオニダスさん! 援護します!」


 元魔王軍四天王、夢魔のリリスも、妖艶な翼を広げて舞い降りた。

「あらあら、随分とむさ苦しい所ね。私のフェロモンで戦場をピンク色に染めてあげるわ」


 さらに、ドワーフの重装歩兵団、エルフの弓兵隊、そしてリザードマンの戦士たちが続く。


 剣と魔法の世界(ファンタジー)が、史実の戦場に殴り込みをかけたのだ。


「な、なんだ奴らは!?」

 ペルシア軍はパニックに陥った。


 耳の長い種族、髭だらけの小人、空飛ぶトカゲ。

 見たこともない「異形」の軍団に、恐怖メーターが振り切れる。


「魔法部隊、斉射!」

 ミナの号令。


 ファイアボール、アイスランス、サンダーボルト。

 色とりどりの魔法が、ペルシア軍の頭上に降り注ぐ。

 盾も鎧も関係ない。爆発と雷撃が、古代の軍隊を吹き飛ばしていく。


「妖術だ! アフラ・マズダ(神)よ、お助けください!」

 ペルシア兵が祈るが、異世界の魔法は神の加護など貫通する。


 だが、最大の問題は中央のヒドラだ。

 魔法攻撃を受けてダメージは負っているものの、すぐに再生し、黒い触手を振り回して暴れている。


「物理が効かないなら、効くようにすればいい!」

 セラフィナが叫ぶ。

 彼女はレオニダスの前に立った。


「教官、背中をお願いします。私が『核』を露出させます!」


「任せろ。好きに暴れろ!」

 レオニダスが盾を構え、セラフィナの死角をカバーする。


 セラフィナは、ヒドラに向かって疾走した。

 触手が彼女を襲う。

 だが、彼女は魔法障壁マジックシールドを展開させ、アスピスで触手を殴りつけた。


 バォォォン!

 盾に込められた「破魔のエンチャント」が発動し、触手を霧散させる。


「魔法に頼るな、筋肉で使え!」

 かつてレオニダスに言われた教え。


 彼女はそれを、独自の解釈で昇華させていた。

 魔法を「飛び道具」として使うのではなく、筋肉の出力を上げる「爆薬」として使い、打撃の瞬間に炸裂させる。


 魔力放出打撃マナ・バースト

 セラフィナはヒドラの懐に潜り込んだ。  


 「シールド・バッシュ!」

 盾の一撃が、ヒドラの腹部に風穴を開ける。

 霧が晴れ、その奥に赤く輝く「魔石コア」が見えた。


「今だ! 今度はこっちの時間だ!」

 セラフィナが叫ぶ。

 レオニダスが踏み込んだ。


「でかした!」

 彼の槍には魔法はない。だが、アステリオスや他のスパルタ兵たちが、後ろからレオニダスの背中を押し、三百人分の運動エネルギーを一点に集中させる。

 人間列車。


 ズドォォォォォン!!

 青銅の槍が、露出した魔石を直撃した。

 魔法で装甲を剥がし、物理で核を砕く。

 ヒドラが断末魔を上げ、黒い霧となって爆散した。


 ヒドラの消滅により、戦場の空気は一変した。

 魔法と物理の融合。それがこの戦いの新たなスタンダードとなった。


「おい、髭の小さいの(ドワーフ)!」

 カール・マルテルが、ドワーフの戦士に声をかける。


「いい斧だな。どこの鍛冶屋だ?」


「はん! 人間の鈍らとは違うわい! 貸してやるから振ってみろ!」

 フランク族の巨漢と、ドワーフの頑固者が背中合わせに斧を振るう。


 エルフの弓兵隊は、島津の鉄砲隊と並んだ。

「耳の長いおなごよ、見たことない弓じゃな」

 島津義弘が笑う。


「あら、そのうるさい筒より、私の矢の方が速くてよ」

 エルフが魔法の矢を放ち、義弘が鉛玉を撃ち込む。


 魔法と火薬のクロスファイアが、ペルシア軍を蜂の巣にする。

 リチャード獅子心王は、ワイバーンを見て目を輝かせていた。


「竜か! 聖ゲオルギウスの伝説通りだ! 一度乗ってみたかった!」

 彼はワイバーンに飛び乗り、空からの突撃ダイブを敢行する。


「ヒャッハー! これが空の騎士道だ!」

 時代も種族も異なる戦士たちが、互いの強さを認め合い、笑いながら戦っている。


 それは、アテナが頭を抱えるほどにカオスで、しかし最高に痛快な光景だった。

 レオニダスは、セラフィナと並んで戦いながら尋ねた。


「どうだ、弟子よ。こちらの世界の空気は」


「臭いです。血と汗と、男臭い匂いしかしません」

 セラフィナは顔をしかめたが、その目は笑っていた。


「でも……懐かしい匂いです。これが、教官の生きた世界なのですね」


「ああ。クソったれだが、最高の職場だ」

 レオニダスは盾で敵を弾き飛ばした。


「ミナ! 右だ! 魔法で吹っ飛ばせ!」


「はい! ファイヤーボール!」

 ミナの魔法が、迫りくる戦車隊を爆破する。


 かつて守られるだけだった少女たちが、今は背中を預けられる戦友としてそこにいる。

 レオニダスは、胸の奥が熱くなるのを感じた。

 種を蒔いた覚えはないが、随分と立派な花が咲いたものだ。


 だが、ペルシア王クセルクセスも、ただでは終わらなかった。

 魔術師たちが召喚したのは、ヒドラだけではなかったのだ。 


 戦場の四隅から、どす黒いゲートが開く。

 そこから現れたのは、異世界の魔王軍の残党――ではなく、歴史の闇に葬られた「怨念」たちだった。


 ペルシア軍が過去に滅ぼしてきた数多の国々の、死霊兵士たち。

 さらに、ギリシャ神話の怪物たちまでもが、時空の歪みから実体化して現れた。  


「……おいおい。同窓会レユニオンは俺たちだけじゃないらしいぞ」

 アステリオスが、巨大な一つ目巨人を見て冷や汗を流す。 


 敵もまた、時空を超えた「悪役連合軍」を結成しつつあった。

 数は圧倒的に敵が多い。


 魔法部隊のMPも尽きかけている。

 再び、戦況が膠着しようとしていた。 


 その時。

 最後の亀裂が、天頂に走った。

 そこから響いてきたのは、蒸気の噴出音と、規則正しい機械の駆動音。


 そして、時代錯誤なほどに鮮烈な、一振りの「誠」の旗。


「待たせたな、スパルタの旦那」

 硝煙の匂いと共に現れたのは、洋装の侍たち。

 そして彼らが引きずってきたのは、この時代の人間が見たら腰を抜かすであろう、殺戮の回転機械ガトリングガンだった。


「魔法? 怪物? 関係ねぇな」

 土方歳三が、愛刀を抜き放ち、ニヒルに笑った。


「斬れば死ぬ。撃てば死ぬ。……喧嘩の作法を教えてやるよ」

 ファンタジーの次は、近代兵器の暴力。

 時代のクロスオーバーは、さらなる混沌へと加速する。




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