表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/49

第3話:スパルタ×ポーランドの翼とナポレオンの近衛 〜最強騎兵フサリアと皇帝の銃剣〜

 古今東西の英雄たちが暴れ回り、ペルシア軍の前衛は壊滅状態にあった。


 だが、敵は腐っても百万の大軍である。

 前線が崩れても、後方から無限に兵が湧いてくる。


「しぶといな。蟻の巣をつついたようだ」

 レオニダスは、折れた槍を捨て、ペルシア兵から奪った曲刀シミターを振るいながら毒づいた。


 スパルタ兵たちの疲労も色濃くなっている。

 いくら援軍が強力でも、広大な戦場をカバーしきることはできない。


 その時。

 戦場に奇妙な「音」が響き始めた。


 ヒュオオオオオオォォォ……。

 風鳴りのような、あるいは巨大な猛禽類が急降下してくるような音。


 それは、テルモピュライの背後にある山脈の方角から聞こえてきた。

 ペルシア兵たちが、不安げに空を見上げる。


「なんだ? 嵐か?」

「いや、違う。……山が動いているぞ!」

 山ではない。


 山肌を覆い尽くす「鋼鉄の雪崩」が、重力を加速に変えて落ちてくるのだ。

 その背には、純白の巨大な翼。


 レオニダスは、その音を聞いてニヤリと笑った。

 かつてウィーンの丘で聞いた、あの死の旋律だ。


「来るぞ! 道を開けろ! 止まれない連中のお通りだ!」

 空に亀裂が走り、そこから数千の騎兵が飛び出した。


 ポーランド・リトアニア共和国国王、ヤン3世ソビエスキが、サーベルを掲げて先頭を駆ける。


「我らは神の金槌なり! 異教徒を粉砕せよ!」

 有翼重騎兵、フサリア。


 背中に鷲の羽で作られた翼を背負い、体長5メートルを超える超長槍コピアを構えた、17世紀最強の騎兵隊。


 彼らはウィーンの丘を駆け下りた勢いそのままに、時空を超えてテルモピュライの平原へとなだれ込んだ。


 ズドォォォォォン!!

 激突。


 それは戦闘というより、交通事故の連鎖だった。

 ペルシア軍の左翼、軽装騎兵や歩兵の集団に、フサリアが突き刺さる。


 コピアの長さは、ペルシア軍の槍の倍以上。

 敵の武器が届く遥か手前で、ペルシア兵は串刺しになり、あるいは馬ごと吹き飛ばされた。 


「な、なんだあいつらは!? 背中に羽が生えているぞ!」

「悪魔だ! 空から悪魔が降ってきた!」

 ペルシア兵にとって、その姿は恐怖の具現化だった。


 風を切る翼の音が、死神の鎌の音のように響く。

 フサリアは止まらない。


 槍が折れればサーベルを抜き、重装甲の馬体で敵陣を踏み荒らす。

 ソビエスキ王は、乱戦の中でレオニダスを見つけた。


「おお! 赤き岩よ! また会ったな!」

 王は馬を寄せ、豪快に笑った。


「ウィーンでは世話になった! 今度は我らが道を切り開く番だ!」

 レオニダスは、返り血を拭って応えた。


「待ちくたびれたぞ、鳥男。相変わらず派手な登場だ」


「ハハハ! 地味な戦いは性に合わんのでな!」

 ソビエスキは、眼前に広がるペルシア軍の海を見て、舌なめずりをした。


「オスマン・トルコよりも多いな。……素晴らしい。これなら突き放題だ!」

 彼は再び号令をかけた。


「全軍、旋回! 敵の中央を食い破れ!」

 フサリアが美しい弧を描いて方向転換し、今度はペルシア本陣へ向けて加速する。

 その破壊力は、戦場の物理法則を書き換えるほどだった。


 フサリアが左翼を蹂躙する一方、戦場の右翼にも新たな亀裂が生じた。

 そこから漂ってきたのは、湿った泥の匂いと、硝煙の香り。


 そして、整然とした軍靴の足音。

 ザッ、ザッ、ザッ。


 現れたのは、紺色の軍服に白いズボン、そして背の高い熊皮帽を被った歩兵集団だった。

 ナポレオンの老近衛隊オールド・ガード

 彼らはワーテルローの泥沼から、そのままこの砂漠へ行進してきたのだ。


「総員、着剣!」

 連隊長カンブロンヌの号令。


 チャキッ!

 数千の金属音が一つに揃う。


 マスケット銃の先に、銃剣が装着される。

 彼らの目の前には、ペルシア軍の別働隊が迫っていた。

 数千のペルシア兵が、奇妙な服装の敵を見て嘲笑う。


「なんだあの帽子は? 道化か?」

「弓矢で射殺せ!」

 だが、近衛隊は動じない。眉一つ動かさない。


方陣カレ!」

 瞬時に四角形の陣形を組み、全方位に銃口を向ける。


 近代戦術の極致。


「撃て(フー)!」

 ズドン! ズドン! ズドン!


 一斉射撃。

 轟音と共に白煙が上がり、不死隊の最前列が薙ぎ払われるように倒れ伏す。


 鉛の弾丸は、ペルシアの藤の盾や鱗鎧を紙のように貫通した。


「なっ……雷か!?」


「妖術だ! 筒から火が出たぞ!」

 未知の攻撃にパニックになる不死隊。


 だが、近衛隊の手は止まらない。

 熟練の手つきで弾薬を装填し、第二射、第三射を放つ。


 近づく者は撃たれ、生き残った者も銃剣の壁に阻まれる。

 レオニダスは、その光景を見てニヤリとした。


「相変わらず、行儀のいい連中だ」

 彼は、カンブロンヌの元へ走った。


「よう、帽子男。生きていたか」

 カンブロンヌは、煤けた顔で敬礼した。


「貴公こそ。……ここはワーテルローより暑いが、敵の質は落ちるな」

 彼は、逃げ惑うペルシア兵を冷ややかに見つめた。


「規律がない。皇帝陛下ナポレオンが見れば、あくびをされるだろう」

 その時、後方の小高い丘の上に、一人の男の幻影が現れた。


 小柄な体に、二角帽子。腕を組んで戦場を見下ろす、軍神の姿。

 ナポレオン・ボナパルト。

 その威圧感は近衛隊の士気を極限まで高めた。


「皇帝が見ているぞ!」


「ヴィヴ・ランペルール(皇帝万歳)!」

 近衛隊が鬨の声を上げ、前進を開始する。


 銃撃と銃剣突撃の波状攻撃。

 近代最強の歩兵が、古代最強の軍団を圧倒していく。


 だが、ペルシア軍も馬鹿ではない。

 「あの筒は、撃った後に隙ができるぞ!」


 指揮官が叫ぶ。

 装填の隙を狙って、ペルシアの騎兵隊が突っ込んでくる。

 銃剣だけでは、騎兵の質量を受け止めるのは難しい。


「チッ……リロードが間に合わん!」

 カンブロンヌが舌打ちした時。


 近衛隊の前に、赤い壁が割り込んだ。

 スパルタ兵だ。

 彼らは近衛隊の方陣の隙間に入り込み、盾を構えた。


「装填しろ! その間は俺たちが支える!」

 レオニダスが叫ぶ。


 ドガァァン!

 ペルシア騎兵がスパルタの盾に激突する。


 「ぐぬぅッ!」

 スパルタ兵が踏ん張り、馬を止める。

 その背後で、近衛兵が落ち着いて弾を込める。


「装填完了!」


「盾を開け!」

 スパルタ兵が盾を開く。


 至近距離からの射撃。

 ズドン!

 騎兵の顔面が吹き飛ぶ。


「ハハハ! これだ! これこそ最強の陣形だ!」

 カンブロンヌが狂喜する。

 スパルタの防御力と、近衛隊の火力。


 数千年の時を超えた、歩兵戦術の究極合体ハイブリッド

 レオニダスも笑った。


「時代が変わっても、やることは同じだな。友を守り、敵を殺す!」

 銃声と金属音が交錯する。

 右翼のペルシア軍は、この「動く要塞」によって完全に粉砕された。


 戦場は、ペルシア軍にとっての処刑場と化していた。

 左翼からはフサリアの衝撃。

 右翼からは近衛隊の銃撃。

 中央からは赤備えと豪傑たちの突破。

 クセルクセスは、唇を噛み切らんばかりに震えていた。


「ありえぬ……余の軍は百万だぞ!? なぜたった数万の敵に蹂躙されているのだ!」

 側近の魔術師が、青ざめた顔で進言した。


「王よ……あれは人間ではありません。時空を超えて集まった、戦いの悪魔たちです。通常の兵器では勝てません」


「ならばどうする! 余に退けと言うのか!」

「いいえ……彼らに対抗できるのは、同じく『ことわり』の外にある力のみ」

 魔術師は、不気味な呪文を唱え始めた。


 ペルシア軍の奥深く、禁断の檻が解かれる。

 そこには、この世界には存在しないはずの、異界の怪物が封印されていた。

 歴史の修正力が緩んだことで、魔界の扉までもが開きかけていたのだ。


 ズズズズズ……。

 戦場の中央、大地が割れ、巨大な影が這い出してくる。

 おぞましく不定形の、闇の眷属。


 レオニダスは、その気配に気づいた。

 背筋が粟立つ感覚。

 異世界で戦った、あの「魔王」に近い気配。


「……おいおい。歴史の勉強会にしては、ゲストが豪華すぎるぞ」

 レオニダスは苦笑したが、目は笑っていなかった。


 物理攻撃が効きにくい相手。

 銃も槍も、すり抜けるかもしれない。


 だが、空の亀裂はまだ閉じていなかった。

 そこから、キラキラと輝く光の粉が降り注ぐ。

 そして、鈴を転がすような可憐な声と、勇ましい号令が聞こえてきた。


「魔法には魔法を! ですよね、教官!」

 レオニダスは、空を見上げてニカっと笑った。


「待っていたぞ、出来の悪い弟子よ!」

 魔法と剣と、スパルタ教育の成果が、闇の怪物を迎え撃つ。

 グランドフィナーレは、さらに混沌と熱狂の渦へ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ