第2話:スパルタ×三国志の豪傑と欧州の鉄槌王 〜張飛の大音声と獅子心王の戦斧〜
真田幸村と島津義弘、そしてスパルタ軍による「赤のトライアングル」が、ペルシア軍を大いに食い破った頃。
クセルクセス王は、黄金の玉座で頬杖をつき、冷ややかな視線を送っていた。
「……ほう。蛮族にしてはやるな」
王の声には、まだ余裕があった。
彼にとって一万の死傷など、指先のささくれ程度に過ぎない。
「だが、飽きた。戦車隊を出せ。象もだ。肉の壁ですり潰せ」
クセルクセスの命令により、ペルシア軍の第二陣が動き出した。
鎌付き戦車五百台。
そして、インドから連れてきた巨大な戦象三十頭。
さらにその後ろには、地平線を黒く染めるほどの重装歩兵が控えている。
レオニダスは、血濡れの槍を構え直し、舌打ちした。
「象か。懐かしいな。だが、あれは骨が折れる」
幸村が馬を寄せる。
「でかいな! 日本の猪の比ではない! だがあの足、槍で突けば崩れそうだ!」
義弘も火縄銃に弾を込める。
「鼻を撃ち抜けば暴れるじゃろう。だが、数が多すぎるわい」
歩兵の壁と、騎兵の機動力だけでは、質量兵器である戦車と象、そして無限に湧き出る歩兵を止めるのは分が悪い。
物理的な「重し」が足りない。
その時。
戦場の上空に、二つ目の亀裂が走った。
今度は、先ほどよりも低く、重苦しい音が響いた。
ゴゴゴゴゴ……。
そして、亀裂の向こうから、空気を震わす「大音声」が轟いた。
「我こそは燕人、張翼徳なりィィィッ!!」
空が割れ、一人の騎馬武者が隕石のように落下してきた。
漆黒の馬。身の丈八尺の巨漢。手には一丈八尺の蛇矛。
三国志の豪傑、張飛だ。
ドズゥゥン!!
張飛は、ペルシア軍の戦車隊のど真ん中に着地した。
その衝撃だけで、周囲の戦車が横転し、馬が吹き飛ぶ。
「ガハハハ! また会ったな赤鬼! 酒の礼をしに来たぜ!」
張飛は、乱戦の中でレオニダスを見つけ、豪快に手を振った。
そして、迫りくる戦象を見上げ、ニヤリと笑った。
「なんだありゃ? 南蛮の兵か? 図体ばかりデカくて鈍そうだ!」
張飛は、大きく息を吸い込んだ。
かつて長坂橋で、曹操軍十万を凍りつかせた、伝説の肺活量。
「退けェェェェェェッ!!」
ビリビリビリッ!!
物理的な衝撃波が発生した。
空気の塊が、戦車の馬や象の鼓膜を直撃する。
「パオオォォッ!?」
戦象が悲鳴を上げ、鼻を上げて後ずさる。
敏感な象は、張飛の放つ「捕食者の覇気」に本能的な恐怖を感じ、制御不能に陥った。
「な、なんだあの男は!?」
ペルシアの御者たちが手綱を引くが、馬も象も言うことを聞かない。
そこへ、張飛が蛇矛を風車のようにブン回して突っ込んだ。
彼に続くのは、精強無比な蜀漢の兵たちだ。
「どいたどいた! 雑魚に用はねぇ!」
張飛は戦車の車輪を砕き、象の足を払い、戦場を一人で耕していく。
レオニダスは笑った。
「相変わらずうるさい男だ。だが、最高の目覚まし時計だ」
アステリオスも耳を塞ぎながら苦笑する。
「バックコーラスは不要のようですね」
戦場が混乱する中、さらなる亀裂が開いた。
今度は、冷たく湿った風が吹き荒れた。
トゥール・ポワティエの森の匂いだ。
霧の中から現れたのは、熊の毛皮を纏い、巨大な戦斧を担いだ巨漢たち。
フランク王国の宮宰、カール・マルテル率いる重装歩兵団である。
「待たせたな、スパルタの友よ」
カールは、無愛想な顔でレオニダスの隣に並んだ。
「お前たちが帰ったあと、森が静かすぎて退屈していたところだ」
レオニダスは、カールのハンマーを見て頷いた。
「いいハンマーだ。ここには叩き甲斐のある『硬い殻』を持った連中が多いぞ」
彼は、混乱から立ち直りつつあるペルシアの戦車隊を指差した。
鎌のついた車輪が回転し、こちらへ突っ込んでくる。
「……ふん。馬止めか。我々の専門分野だな」
カールは号令をかけた。
「フランクの戦士たちよ! 壁を作れ! 氷河のごとく!」
ズシン!
フランク兵たちが盾を構え、スパルタ兵の横に連結する。
南の青銅と、北の鋼鉄。
二つの最強歩兵が融合し、巨大な防波堤となった。
戦車が突っ込んでくる。
だが、カールは一歩前に出た。
「粉砕!」
バキィッ!
大上段から振り下ろされたハンマーが、戦車の車軸を直撃した。
鋼鉄の車軸が飴細工のようにひしゃげ、戦車が空中で回転して砕け散る。
「硬いな。だが、砕けないものはない」
カールは次々と戦車を殴り壊していく。
スパルタ兵が盾で受け止め、フランク兵が斧で叩き割る。
単純にして最強のコンビネーション。
ペルシア自慢の戦車隊は、ただのスクラップの山へと変わっていった。
戦車と象が止められ、ペルシア軍の前線が停滞した。
その膠着状態を打ち破るために現れたのが、三人目の男だった。
灼熱の熱波と共に、空が割れる。
アルスフの砂漠の風。
白地に赤十字のサーコートを纏った騎士団が、騎馬のいななきと共に飛び出した。
先頭を行くのは、金髪の王。
リチャード獅子心王だ。
「デウス・ウルト(神がそれを望まれる)!!」
リチャードは、着地と同時に突撃を敢行した。
十字軍の騎士たちが、張飛とカールが作った「敵陣のほころび」に、鋭い楔のように突き刺さる。
「よう、裸の騎士! また会ったな!」
リチャードは、戦斧を振るいながらレオニダスに呼びかけた。
「相変わらず盾を捨てずに持っているようだな! 感心だ!」
レオニダスは、走りながら答えた。
「当たり前だ! 盾は魂だと言ったろう!」
二人は並走した。
かつて砂漠で見せた、あの連携だ。
リチャードが敵を散らし、レオニダスがトドメを刺す。
真田幸村も、これに呼応した。
「南蛮の騎兵か! 速い! 負けてられん!」
幸村がリチャードの反対側から突っ込む。
東洋と西洋の騎兵が、ペルシア軍を挟み撃ちにする。
島津義弘が、後方から援護射撃を行う。
「撃てぇッ! 若者たちに後れを取るな!」
銃弾が象の目を撃ち抜き、巨獣が悲鳴を上げて倒れる。
全員が、前へ出る。全員が、友を守る。全員が、目の前の敵を殺すことを楽しんでいる。
だが、敵の数は異常だった。
斬っても、撃っても、殴っても、次から次へと新しい兵が湧いてくる。
死体の山を乗り越え、戦車の残骸を押しのけ、ペルシア兵が波のように押し寄せる。
クセルクセスは、玉座の上で冷ややかに笑っていた。
「強いな。個々の武勇は認めてやろう」
彼はワインを一口啜った。
「だが、所詮は点だ。我は面である。百人倒せば千人送ろう。千人倒せば一万人送ろう。貴様らの腕が疲れ、武器が折れるまで、我が軍は止まらん」
クセルクセスは、この最強の英雄たちを「数」という暴力で窒息させるつもりだ。
泥沼の消耗戦。
英雄たちの足元には、既にペルシア兵の死体が小山のように積み上がっていたが、敵の圧力は増すばかりだ。
「……しぶといな。さすがは世界帝国の王だ」
簡単には終わらせてくれない。
この分厚い人の壁をこじ開けるには、今の戦力だけでは足りない。
もっと鋭く、もっと破壊的な「何か」が必要だ。
レオニダスは、空を見上げた。
亀裂はまだ閉じない。むしろ、広がっている。
アテナの悲鳴が聞こえるようだ。
『まだ来るわよ! 次はもっと速いのが!』
「……まだ食い足りん奴らがいるようだな」
レオニダスはニヤリと笑った。
戦場の彼方から、新たな轟音が聞こえ始めていた。
翼の羽ばたきのような音と、大地を揺るがす軍楽隊の太鼓の音。
次は、翼を持った死神と、皇帝を守る最強の衛兵たちが、この泥沼を打破するために加わろうとしていた。
グランドフィナーレ・第二話。
戦いはまだ、序章に過ぎない。
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