表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/49

第2話:スパルタ×三国志の豪傑と欧州の鉄槌王 〜張飛の大音声と獅子心王の戦斧〜


 真田幸村と島津義弘、そしてスパルタ軍による「赤のトライアングル」が、ペルシア軍を大いに食い破った頃。

 クセルクセス王は、黄金の玉座で頬杖をつき、冷ややかな視線を送っていた。


「……ほう。蛮族にしてはやるな」

 王の声には、まだ余裕があった。

 彼にとって一万の死傷など、指先のささくれ程度に過ぎない。


「だが、飽きた。戦車隊を出せ。象もだ。肉の壁ですり潰せ」

 クセルクセスの命令により、ペルシア軍の第二陣が動き出した。


 鎌付き戦車チャリオット五百台。

 そして、インドから連れてきた巨大な戦象三十頭。


 さらにその後ろには、地平線を黒く染めるほどの重装歩兵が控えている。

 レオニダスは、血濡れの槍を構え直し、舌打ちした。


「象か。懐かしいな。だが、あれは骨が折れる」

 幸村が馬を寄せる。


「でかいな! 日本の猪の比ではない! だがあの足、槍で突けば崩れそうだ!」

 義弘も火縄銃に弾を込める。


「鼻を撃ち抜けば暴れるじゃろう。だが、数が多すぎるわい」

 歩兵の壁と、騎兵の機動力だけでは、質量兵器である戦車と象、そして無限に湧き出る歩兵を止めるのは分が悪い。 


 物理的な「重し」が足りない。

 その時。


 戦場の上空に、二つ目の亀裂が走った。

 今度は、先ほどよりも低く、重苦しい音が響いた。


 ゴゴゴゴゴ……。

 そして、亀裂の向こうから、空気を震わす「大音声」が轟いた。


「我こそは燕人、張翼徳なりィィィッ!!」

 空が割れ、一人の騎馬武者が隕石のように落下してきた。


 漆黒の馬。身の丈八尺の巨漢。手には一丈八尺の蛇矛。

 三国志の豪傑、張飛だ。


 ドズゥゥン!!

 張飛は、ペルシア軍の戦車隊のど真ん中に着地した。

 その衝撃だけで、周囲の戦車が横転し、馬が吹き飛ぶ。


「ガハハハ! また会ったな赤鬼! 酒の礼をしに来たぜ!」

 張飛は、乱戦の中でレオニダスを見つけ、豪快に手を振った。

 そして、迫りくる戦象を見上げ、ニヤリと笑った。


「なんだありゃ? 南蛮の兵か? 図体ばかりデカくて鈍そうだ!」

 張飛は、大きく息を吸い込んだ。


 かつて長坂橋で、曹操軍十万を凍りつかせた、伝説の肺活量。


「退けェェェェェェッ!!」

 ビリビリビリッ!!


 物理的な衝撃波が発生した。

 空気の塊が、戦車の馬や象の鼓膜を直撃する。 


 「パオオォォッ!?」

 戦象が悲鳴を上げ、鼻を上げて後ずさる。


 敏感な象は、張飛の放つ「捕食者の覇気」に本能的な恐怖を感じ、制御不能に陥った。


「な、なんだあの男は!?」

 ペルシアの御者たちが手綱を引くが、馬も象も言うことを聞かない。


 そこへ、張飛が蛇矛を風車のようにブン回して突っ込んだ。

 彼に続くのは、精強無比な蜀漢の兵たちだ。


「どいたどいた! 雑魚に用はねぇ!」

 張飛は戦車の車輪を砕き、象の足を払い、戦場を一人で耕していく。

 レオニダスは笑った。


「相変わらずうるさい男だ。だが、最高の目覚まし時計だ」

 アステリオスも耳を塞ぎながら苦笑する。


「バックコーラスは不要のようですね」

 戦場が混乱する中、さらなる亀裂が開いた。


 今度は、冷たく湿った風が吹き荒れた。

 トゥール・ポワティエの森の匂いだ。


 霧の中から現れたのは、熊の毛皮を纏い、巨大な戦斧ウォーハンマーを担いだ巨漢たち。

 フランク王国の宮宰、カール・マルテル率いる重装歩兵団である。


「待たせたな、スパルタの友よ」

 カールは、無愛想な顔でレオニダスの隣に並んだ。


「お前たちが帰ったあと、森が静かすぎて退屈していたところだ」

 レオニダスは、カールのハンマーを見て頷いた。


「いいハンマーだ。ここには叩き甲斐のある『硬い殻』を持った連中が多いぞ」

 彼は、混乱から立ち直りつつあるペルシアの戦車隊を指差した。

 鎌のついた車輪が回転し、こちらへ突っ込んでくる。


「……ふん。馬止めか。我々の専門分野だな」

 カールは号令をかけた。


「フランクの戦士たちよ! 壁を作れ! 氷河のごとく!」


 ズシン!

 フランク兵たちが盾を構え、スパルタ兵の横に連結する。


 南の青銅と、北の鋼鉄。

 二つの最強歩兵が融合し、巨大な防波堤となった。

 戦車が突っ込んでくる。

 だが、カールは一歩前に出た。


 「粉砕クラッシュ!」

 バキィッ!


 大上段から振り下ろされたハンマーが、戦車の車軸を直撃した。

 鋼鉄の車軸が飴細工のようにひしゃげ、戦車が空中で回転して砕け散る。


「硬いな。だが、砕けないものはない」

 カールは次々と戦車を殴り壊していく。


 スパルタ兵が盾で受け止め、フランク兵が斧で叩き割る。

 単純にして最強のコンビネーション。


 ペルシア自慢の戦車隊は、ただのスクラップの山へと変わっていった。

 戦車と象が止められ、ペルシア軍の前線が停滞した。


 その膠着状態を打ち破るために現れたのが、三人目の男だった。


 灼熱の熱波と共に、空が割れる。

 アルスフの砂漠の風。


 白地に赤十字のサーコートを纏った騎士団が、騎馬のいななきと共に飛び出した。

 先頭を行くのは、金髪の王。

 リチャード獅子心王だ。


「デウス・ウルト(神がそれを望まれる)!!」

 リチャードは、着地と同時に突撃チャージを敢行した。


 十字軍の騎士たちが、張飛とカールが作った「敵陣のほころび」に、鋭い楔のように突き刺さる。


「よう、裸の騎士ナイト! また会ったな!」

 リチャードは、戦斧を振るいながらレオニダスに呼びかけた。


「相変わらず盾を捨てずに持っているようだな! 感心だ!」

 レオニダスは、走りながら答えた。


「当たり前だ! 盾は魂だと言ったろう!」

 二人は並走した。


 かつて砂漠で見せた、あの連携だ。

 リチャードが敵を散らし、レオニダスがトドメを刺す。

 真田幸村も、これに呼応した。


「南蛮の騎兵か! 速い! 負けてられん!」

 幸村がリチャードの反対側から突っ込む。


 東洋と西洋の騎兵が、ペルシア軍を挟み撃ちにする。

 島津義弘が、後方から援護射撃を行う。


 「撃てぇッ! 若者たちに後れを取るな!」

 銃弾が象の目を撃ち抜き、巨獣が悲鳴を上げて倒れる。


 全員が、前へ出る。全員が、友を守る。全員が、目の前の敵を殺すことを楽しんでいる。


 だが、敵の数は異常だった。

 斬っても、撃っても、殴っても、次から次へと新しい兵が湧いてくる。


 死体の山を乗り越え、戦車の残骸を押しのけ、ペルシア兵が波のように押し寄せる。

 クセルクセスは、玉座の上で冷ややかに笑っていた。


「強いな。個々の武勇は認めてやろう」

 彼はワインを一口啜った。


「だが、所詮は点だ。我は面である。百人倒せば千人送ろう。千人倒せば一万人送ろう。貴様らの腕が疲れ、武器が折れるまで、我が軍は止まらん」

 クセルクセスは、この最強の英雄たちを「数」という暴力で窒息させるつもりだ。


 泥沼の消耗戦。

 英雄たちの足元には、既にペルシア兵の死体が小山のように積み上がっていたが、敵の圧力は増すばかりだ。


「……しぶといな。さすがは世界帝国の王だ」

 簡単には終わらせてくれない。


 この分厚い人の壁をこじ開けるには、今の戦力だけでは足りない。

 もっと鋭く、もっと破壊的な「何か」が必要だ。


 レオニダスは、空を見上げた。

 亀裂はまだ閉じない。むしろ、広がっている。

 アテナの悲鳴が聞こえるようだ。


『まだ来るわよ! 次はもっと速いのが!』


「……まだ食い足りん奴らがいるようだな」

 レオニダスはニヤリと笑った。


 戦場の彼方から、新たな轟音が聞こえ始めていた。

 翼の羽ばたきのような音と、大地を揺るがす軍楽隊の太鼓の音。


 次は、翼を持った死神と、皇帝を守る最強の衛兵たちが、この泥沼を打破するために加わろうとしていた。


 グランドフィナーレ・第二話。

 戦いはまだ、序章に過ぎない。



 本日もお付き合いいただき、誠にありがとうございます。

 皆様の応援が、何よりの執筆の糧です。よろしければブックマークや評価で、応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ