表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/49

第9話:スパルタ×王城の謁見 〜王座の豚と処刑の蹴り〜

 ドワーフの地下都市を後にし、数日の行軍を経て、レオニダス一行はついに人間の王都「グランド・ロイヤル」に到着した。


 巨大な城壁に囲まれた、白亜の美しい都。

 だが、その美しさは遠目だけのものでしかなかった。


 城門の前には、周辺の村々から逃げてきた避難民が溢れかえり、スラム街を形成している。

 衛兵たちは避難民を棒で殴りつけ、城内へ入ろうとする者を追い返していた。


 一方で、豪華な馬車に乗った貴族や富豪たちは、優先的に門を通過し、荷物を満載してどこかへ逃げ出そうとしている。 


「……臭うな」

 レオニダスは、鼻をつまんだ。


 スラムの悪臭ではない。都全体を覆う、退廃と腐敗の臭いだ。


「この国は死にかけている。魔王軍に殺される前にな」

 セラフィナが、悔しげに唇を噛んだ。 


「これが……私の守ろうとしていた国の姿か」

 彼女の真紅のマントが、風に揺れる。その顔には、かつての騎士団長としての苦悩ではなく、戦士としての怒りが宿っていた。


「行くぞ」

 レオニダスは歩き出した。 


「門番が邪魔をするなら通るだけだ。俺たちは『帰還英雄』らしいからな」

 彼らが近づくと、衛兵たちは槍を構えた。


「止まれ! 難民は入れん!」

 だが、先頭に立つセラフィナの顔を見て、衛兵は凍りついた。


「せ、セラフィナ団長!? 生きておられたのですか!」


「道を開けろ。王女殿下の御帰還だ」

 セラフィナの一喝と、背後に控える三百人の筋肉の城壁の威圧感に、衛兵たちは震え上がり、門を開放した。


 王城の謁見の間は、異様な熱気に包まれていた。

 戦意による熱気ではない。パニックと欲望の熱気だ。


「魔王軍の前衛が国境を越えただと!? なぜ防げなかった!」

「近衛騎士団は何をしている! 私の領地が焼かれてしまう!」

「とにかく、王家の財宝を運び出せ! 我々は隣国へ亡命する!」

 玉座には、肥え太った国王が震えながら座り込んでいる。


 その横で、狐のような顔をした宰相バルカスが、慇懃無礼な態度で指図していた。


「陛下、ご安心を。魔王軍にはすでに『手土産』の使者を送っております。この国を無血開城し、我々の地位と財産を保証してもらう手はずです」


「おお、さすがはバルカス! では、民はどうなる?」


「奴隷として差し出せばよろしいでしょう。魔族も労働力を欲しているはず」

 腐っている。


 国のトップたちが、自国民を売り渡す相談を堂々としているのだ。

 そこへ、轟音が響いた。


 ドガァァァン!!

 重厚な樫の扉が、蝶番ごと吹き飛び、豪快にひしゃげた。


 砂煙の中、入ってきたのは近衛兵ではない。

 真紅のマントをなびかせた、半裸の巨人たちだった。


「な、何奴だ!?」


「衛兵! 衛兵はおらんのか!」

 宰相バルカスが叫ぶが、誰も来ない。


 廊下には、気絶した衛兵たちが転がっていた。

 集団の中から、一人の女が進み出た。

 筋肉と意志の鎧を纏った、かつての騎士団長。


「お久しぶりです、宰相閣下。そして、父上」

 王女エレナが、セラフィナの横に立つ。

 その毅然とした姿に、貴族たちがざわめいた。


「し、死んだはずの第三王女!?」


「セラフィナも一緒か! 反逆者め、生きていたとは!」

 バルカス宰相は、すぐに表情を取り繕った。


「オオ、エレナ様! ご無事で何より! しかし、このような蛮族を引き連れて、王城に土足で上がるとは何事ですか!」

 レオニダスは、バルカスの言葉を聞き流し、謁見の間をぐるりと見回した。


 金銀財宝で飾られた柱。贅を尽くした絨毯。

 そして、外の惨状を知りながら、自分たちの逃走準備に忙しい豚ども。


「……黄金で飾られた豚小屋だ」

 レオニダスは吐き捨てた。


 彼は、部下のアステリオスに目配せした。

 アステリオスが、ドワーフ製の盾を床に叩きつける。


 ガンッ!!

 凄まじい音が響き、貴族たちが悲鳴を上げて縮み上がった。


「静かにしろ」

 レオニダスが、バルカスの前に立った。


 身長差は歴然。見下ろされる宰相は、蛇に睨まれた蛙のように硬直した。


「貴様がここのリーダーか?」


「わ、私は宰相バルカスだ! 貴様こそ何者だ!」


「スパルタ王、レオニダスだ」

 レオニダスは、バルカスの襟首を掴み上げ、その顔を間近で覗き込んだ。


「聞いたぞ。民を売って、自分たちだけ逃げるそうだな」


「そ、それは政治的判断だ! 無益な流血を避けるための……」


「流血?」

 レオニダスは笑った。


「安心しろ。流血なら、これからたっぷりと見せてやる」

 バルカスは真っ青になった。


「き、貴様、野蛮人め! ここは神聖な王城だぞ! 法がある! 秩序があるのだ!」


「法だと?」

 レオニダスは、バルカスをゴミのように放り捨てた。


 宰相は床を転がり、玉座の階段の下まで転落した。

 レオニダスは、階段をゆっくりと登った。


 玉座に座る国王の前に立つ。

 国王は、あまりの恐怖に失禁していた。


「王よ。民を守れぬ者に、その椅子に座る資格はない」

 レオニダスは、国王の王冠を指先で弾き飛ばした。

 カラン、と乾いた音がして、王冠が転がる。


「拾いに行け。それがお前の新しい仕事だ」

 国王は、這いつくばって逃げ出した。


 残されたのは、階段の下で震える宰相バルカスと、取り巻きの貴族たちだけ。

 バルカスは、半狂乱になって叫んだ。


「狂っている! 貴様らは狂っている! ここは文明国だ! 外交と交渉の場だ! 暴力で解決するなど、許されるはずがない!」

 レオニダスは、階段の上からバルカスを見下ろした。


 その瞳には、一切の慈悲がなかった。

 彼は静かに言った。


「外交? 交渉? ……寝言はあの世で言え」


「ま、待て! 話し合えばわか……」

 レオニダスは、右足を引いた。


 筋肉が収縮し、鋼鉄のバネのように力が溜め込まれる。

「ここはスパルタだ(ディス・イズ・スパルタ)!!」

 咆哮と共に、伝説の「前蹴り(フロンタル・キック)」が放たれた。


 狙いは、這い上がろうとしていたバルカスの胸板。

 ドゴォォォォッ!!

 人体を殴打した音とは思えない、重機が衝突したような衝撃音が響いた。


 スローモーションのように、バルカスの胸が陥没していく。

 肋骨が粉砕され、肺が潰れる感触が足裏に伝わる。

 宰相の体は、砲弾のように真後ろへ吹き飛んだ。


「ぎゃあぁぁぁぁぁッ!!」

 窓を突き破った、バルカスの断末魔が遠ざかっていく。

 彼は暗闇の底へと吸い込まれ、二度と戻ってこなかった。


 静寂。

 貴族たちは、口をパクパクさせて凍りついていた。


 国の最高権力者が、たった一蹴りで物理的に排除されたのだ。

 レオニダスは、足を戻し、貴族たちを睨め回した。


「他に、魔王軍へ『手土産』を持って行きたい奴はいるか?」

 誰も動かない。息をするのも忘れている。


「いないようだな。結構」

 レオニダスは、セラフィナとエレナ王女を手招きした。


「掃除は終わった。あとはお前たちの仕事だ」

 セラフィナは、震える足で階段を登り、玉座の前に立った。


 彼女はレオニダスに深く一礼し、そして貴族たちに向き直った。

 その背中には、真紅のマントが翻っている。


「聞きなさい!」

 セラフィナの声が、凛と響き渡った。


「国王と宰相は逃亡しました! これより、この国はエレナ女王陛下が統治します! 不服のある者は前に出なさい! 私の剣と、スパルタの盾が相手になります!」

 不服などあるわけがない。


 背景には、血に飢えた三百人の半裸の鬼神が控えているのだ。

 貴族たちは一斉に平伏した。


「は、ははーッ! 女王陛下万歳!」

 クーデターは、わずか数十分で完了した。


 流れた血は、悪徳宰相一人のものだけ。極めてフィジカルでクリーンな政権交代だった。

 城のバルコニーに、エレナ女王が立つ。


 その横には、近衛隊長に復帰したセラフィナ。

 そして、レオニダス率いるスパルタ兵団。


 広場を埋め尽くした民衆と兵士たちは、不安げに城を見上げていた。

 だが、レオニダスが前に出ると、空気が変わった。

 彼は槍を掲げ、腹の底から声を張り上げた。


「聞け、王都の民よ!」

 アテナの加護により、その声は広場の隅々まで届いた。


「お前たちの王は逃げた! 貴族も腐っていた! だが、絶望するにはまだ早い!」

 レオニダスは、自身の傷だらけの盾を叩いた。


「国を守るのは、王冠ではない! 石垣でもない! ここにいる、お前たち一人一人の『退かぬ心』だ!」


「壁が崩れれば、盾で塞げ! 盾が砕ければ、体で止めろ! それが俺たちの戦いだ!」


「俺たちはスパルタ! 死ぬまで戦い、死んでも戦う戦闘民族だ! 俺たちがここにいる限り、魔王軍など一歩も通さん! 共に戦う気概のある者は、武器を取れ!」


 一瞬の沈黙の後。


 「ウオォォォォッ!」

 地鳴りのような歓声が巻き起こった。


 絶望に沈んでいた民衆の目に、火が灯った。

 見捨てられたのではなかった。最強の援軍が来たのだ。


「セラフィナ。軍の指揮はお前が執れ」

 レオニダスは、隣の弟子に言った。


「俺たちは遊撃隊だ。好きに暴れさせてもらう」


「はい、教官!」

 セラフィナは敬礼した。その顔には、もう迷いはない。


 その夜、王都は祝祭のような騒ぎになった。

 逃げ出そうとしていた貴族たちの財産は没収され、軍資金と食料として分配された。


 兵士たちは錆びた剣を研ぎ、民衆はバリケードを作り始めた。

 レオニダスは、城壁の上で夜風に吹かれていた。


 遠くの空が、赤く染まっている。

 魔王軍の本隊が近づいているのだ。その数、百万とも言われる。


「……楽しみだ」

 レオニダスは、ドワーフに強化してもらった槍を握りしめた。


 政治の掃除は終わった。次はいよいよ、本職(戦争)の時間だ。


「王よ。魔王軍の中に、動く骨がいるとの情報です」

 アステリオスが報告に来る。


「骨か。粉々にして土に還してやろう」

 スパルタの王は笑った。


 異世界での戦いは、これからが本番だ。

 ダンジョン、ドラゴン、そして魔王。

 全ての「未知」を、筋肉と鉄の掟で粉砕する旅は続く。



 本日もお付き合いいただき、誠にありがとうございます。

 皆様の応援が、何よりの執筆の糧です。よろしければブックマークや評価で、応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ