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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第3章  救済の魔蟲
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第60話  公国軍の計略


 日が沈み、暗闇に包まれた大平原の東側には公国軍の砦が建っている。

 砦の外には中に入れない大勢の公国兵、それも徴兵された者たちがテントを張っている。公国兵の中にはテントで休んでいる者もいるが、大半は遠くにある王国側の砦を警戒していた。

 数時間前、公国軍は王国側の砦の方から騒音が聞こえてくることに気付き、確認のために数名の公国兵を送った。

 だが、砦をハッキリと確認できる所まで移動すると、砦にセプティロン王国の国旗が立てられているのを目に入り、砦が王国軍に奪い返されたことを知って慌てて公国側の砦に戻ったのだ。

 王国側の砦が奪還されたという知らせを受けた公国軍の司令官たちは王国軍が自分たちの砦を襲撃する可能性があると判断した。

 砦の外にいる者たちには王国側の砦の見張り、中にいる者たちには臨戦態勢に入るよう指示して王国軍がいつ攻めて来てもすぐに迎撃できるよう準備を進めているのだ。

 砦の中にいる大勢の公国騎士、兵士は王国側の砦を見張ったり、物資確認や精鋭部隊であるダーバイア騎馬団が使う馬の世話などをしている。

 公国騎士や兵士たちは二万近くの戦力がいたはずの砦が王国軍に奪い返されたことが未だに信じられず、どんな方法で勝ったのが疑問に思いながら作業を行っていた。

 疑問に思っているのは砦の外にいる公国兵たちも同じで、自分たちが想像もつかない方法で二万の部隊を倒したのかと、小さな不安を抱きながら王国側の砦を警戒している。

 公国側の砦の奥にある建物の一室では数人の公国騎士が大きな机を囲みながら真剣な表情を浮かべている。王国軍が自分たちの砦に攻め込んできた時に問題なく迎え撃てるよう作戦会議を行っていた。


「……では、お前は王国軍はこちらの戦力を上回っていると考えているのだな?」

「ハイ。王国側むこうの砦にいた戦力と公国側こちらの砦の戦力はほぼ同じです。その砦を奪い返したのですから、王国軍の戦力は二万五千以上だと私は考えております」


 若い公国騎士の話を聞いて、中年の公国騎士は無言で俯いた。

 中年の公国騎士は五十代前半ぐらいで身長は170cm強。肩まである濃い茶色の髪に同じ色の口髭を生やし、濃い黄色の目をしている。

 鉄色の全身甲冑フルプレートアーマーと黒いマントを装備しており、周りの公国騎士と比べると威厳が感じられるような雰囲気を漂わせていた。状況から中年の公国騎士が砦にいる公国軍の司令官のようだ。


「オルガロン殿、今の状態では王国領に侵攻することも、王国側の砦を落とすのも難しいです。本国に増援を要請するべきではないでしょうか?」


 若い公国騎士が中年の騎士をオルガロンと呼び、戦力増強を提案をする。敵が戦力を上回っている可能性が出た以上、自分たちも戦力を増やすと考えるのはおかしなことではなかった。


「確かにな。だが、敵の情報が少ない現状では増援を要請しても上が認める可能性は低い。もう少し敵の情報を集めてから要請を出すべきだろう」


 公国軍の戦力と戦況から今はまだ要請を出すべきではないとオルガロンは判断する。

 他の騎士たちもオルガロンの考えに賛成なのか無言で頷く。

 だが増援を要請するのは間違っていないと考えており、オルガロンや公国騎士たちは誰も増援要請に異議を上げたりしなかった。

 オルガロンは今回の戦争でセプティロン王国に侵攻する公国軍の司令官を務めており、同時にダーバイア騎馬団の団長兼一番隊の隊長でもある男だ。

 ダーバイア騎馬団の団長であることから騎士としての実力や指揮能力が高く、過去には何度も任務を成功させて公国に貢献してきた。その実績と実力から、公国軍の上層部はオルガロンを侵攻軍の司令官に任命したのだ。

 ただ、休戦協定が結ばれる前の戦いに参加しておらず、ダーバイア公国が協定を破った後に司令官に任命された。

 理由は公国側が一方的に協定を破った自分たちには勝つ以外に道は無いと考え、確実に勝つために指揮能力が高く、ダーバイア騎馬団の団長であるオルガロンを参加させるべきだと判断したからだ。

 司令官に任命された時のオルガロンは協定を破ったことが原因で司令官を任されたことに対し、若干複雑な気分になっていた。しかし自分はダーバイア公国に仕える騎士であるため、命令ならそれに従うだけだと自分に言い聞かせ、司令官としてセプティロン王国への侵攻の指揮を取っているのだ。


「それにしても、王国軍はどのようにして砦を奪い返したのでしょう。やはり数で押し切ったのでしょうか?」


 王国軍が砦を奪還した際の戦術について、一人の若い女騎士が難しい顔で呟く。

 女騎士は二十代半ばくらいで身長は165cmほど。濃い赤の短髪に橙色の目をした美女で白いサーコートを着ており、銀色の鎧と赤いマントを装備し、腰には細剣を納めている。

 赤い髪の女騎士はルラーナ。若くしてダーバイア騎馬団の四番隊隊長を任されている優秀な騎士だ。

 女でありながらも同年代の男の騎士たちと同等の実力と馬を操る技量を持ち合わせており、団長であるオルガロンからも高く評価されている。今回の戦争ではオルガロンと共に前線で戦う公国軍の主戦力として参加しており、最初に王国側の砦を制圧する際も戦いに加わっていた。


「間違いないと思うぞ。そうでなければ二万の部隊が駐留していた砦が奪われるわけがない」


 隣にいた公国騎士の一人が声をかけられたルラーナは表情を変えずに公国騎士の方を向く。


「だが、それなら奴らはどうやって二万の部隊を越える戦力を集めたのでしょう? もしかして、我が国と同じように徴兵令を出したのでは……」

「それは考え難い。セプティロンの王であるフォルテドルは国民を守ることを第一に考える人物だ。徴兵令を出して国民を戦場に出させるようなことはしないはずだ」

「では、王国軍は国中から戦力を集め、砦にいる部隊にぶつけたということですか?」

「徴兵令を出していないのなら、その可能性は高いだろう。……だが、そうなるとどうやって奴らは短い時間でそれだけ多くの戦力を集めたんだ?」


 どのようにして砦を奪い返せるだけの戦力を集めたのか、理解できないことが多すぎてルラーナたちは頭を悩ませる。

 この先、王国軍と戦おうにも敵の数や部隊がどのように編成しているのか分からなければ有利に戦うことはできない。今の公国軍は王国軍に対する情報が不足していた。


「とにかく、まずは王国軍の情報を集めなくてはならない。斥候に王国軍の様子を見に行かせるのだ」

「その点については問題ありません。既に優秀な者たちを送っておりますので、もう間もなく戻ってくると思われます」

「そうか。なら、その者たちが戻ったらもう一度作戦を練り直し、どれほどの戦力を要請するか判断するべき……」


 オルガロンが喋っていると、突然会議室の扉をノックする音が響き、オルガロンやルラーナたちは一斉に扉の方を向いた。


「失礼します。王国軍の砦の偵察に向かっていた者が戻ってきましたので、連れてまいりました」


 斥候が帰還したという知らせを聞いたオルガロンたちは反応する。

 情報を得てから作戦を練り直すことを話している最中に戻ってきたため、会議室にいた全員がいいタイミングだと感じていた。


「入れ」


 オルガロンが許可すると扉が開き、一人の公国兵が入室する。現状からオルガロンは目の前の公国兵が王国軍の砦を偵察しに向かった斥候で間違いないと判断する。

 公国兵は机の前まで移動するとオルガロンたちに軽く頭を下げた。


「セプティロン王国軍の砦の偵察を終え、ただいま帰還いたしました」

「ご苦労だった。……それで、王国軍の様子はどうだった?」

「ハッ、王国軍は近々こちらに攻撃を仕掛けるつもりらしく、砦からこちらの砦の様子を窺っております」

「やはりな。砦を取り戻したことで敵兵の士気は高まっているはずだ。勢いが治まる前にこちらの砦に攻め込もうとしているのだろう」


 報告を聞いて王国軍が攻め込んでくると確信するオルガロンが僅かに表情を鋭くする。

 最初は自分たちが王国側の砦に攻め込んだのに、今は自分たちの砦が攻め込まれると聞いたルラーナや他の公国騎士たちは若干悔しそうな表情を浮かべていた。


「……王国軍の戦力については何か分かったか?」

「戦力、ですか?」


 オルガロンの質問に公国兵は表情を曇らせながら小さく俯く。砦の様子を話していた時と違い、公国兵は何かに不安を感じているような顔をしていた。


「どうした? 敵戦力の情報は得られなかったのか?」

「い、いえ、そういう訳ではないのですが……」


 ハッキリと答えない公国兵をオルガロンは黙って見つめる。公国兵の態度から説明し難いことなのかと予想しながらオルガロンたちは公国兵が答えるのを待った。

 しばらくすると公国兵はオルガロンたちの方を向いて静かに口を開く。


「……砦を偵察した時に王国軍の中にモンスターがいるのを確認しました」

「何? モンスターだと?」


 予想外の言葉にオルガロンは目を細くしながら聞き返す。

 ルラーナたちも王国軍がモンスターと行動を共にしていると知って意外そうな反応を見せた。


「どういうことだ。王国軍はモンスターを手懐けて戦力として利用しているのか?」

「く、詳しくは分かりませんでしたが、モンスターたちが王国の騎士たちを襲っている様子は無く、騎士たちと共に砦の周囲を警戒しているような行動を取っていましたので、その可能性はあるかと……」


 報告の内容が信じられないオルガロンは驚いて目を大きく見開く。だがそれと同時に王国軍はモンスターの力を借りて砦を奪還したのだと知って厄介に思うのだった。

 ルラーナや他の公国騎士たちはモンスターを配下に置くという公国軍にできないことを王国軍が成功させたと知って内心驚く。

 もしかすると王国軍は軍事的には自分たちの上をいっているかもしれないと予想し、公国騎士たちは近くの仲間と小声で不安を言い始める。


「落ち着け」


 不安を露わにするルラーナたちを見て、オルガロンは僅かに力の入った声を出す。

 オルガロンの声を聞いたルラーナたちは会議中であること、自分たちが不安になっていたら軍の士気に影響が出てしまうことに気付いて気持ちを落ち着かせる。

 ルラーナたちが静かになったのを確認したオルガロンは詳しい話を聞くため、公国兵に視線を戻した。


「モンスターと一緒にいたと言っていたが、数がどれほどだった? モンスターの種類は?」

「も、申し訳ありません。監視塔にいる個体しか確認できなかったため、正確な数は確認できませんでした。ただ、監視塔にいる個体は槍を持った人型の昆虫族モンスターでした」

「昆虫族モンスターか……」


 呟くオルガロンは俯きながら難しい顔をする。数が分からないのは残念だが、モンスターの種族が分かっただけでも対抗策を考えることができるので良しとした。


「団長、詳しい情報を得るためにもう一度斥候を送りますか?」


 ルラーナは自分たちがより戦いやすくなるよう、再度偵察を行うことを提案した。

 他の公国騎士たちもまだ敵について何も分かっていないとの同じだと思っており、ルラーナの言うとおり再び斥候を送るべきだと考えながらオルガロンを見ている。


「……そうだな。増援要請や作戦をどうするか考えるためにもより詳しい情報を得る必要がある。もう一度斥候を送って情報収集をするべきだろう」


 オルガロンが斥候を送ることを認めると、公国騎士たちは早速斥候の編成や人員について話し合う。

 すぐに情報を手に入れたいため、この後すぐに派遣するべきだと考える公国騎士もいたが、今は夜で視界が悪い。そんな状態で派遣しても目の前にいる公国兵と同じような結果しか得られないだろう。

 話し合った結果、公国騎士たちは夜が明けてから斥候を派遣することにした。


「オルガロン殿、王国軍がモンスターを配下にしている件についてはいかがいたしましょう? 本国に報告のための使者を送りますか?」


 セプティロン王国がモンスターを配下に置いているという情報はダーバイア公国にとって重大なこと。

 公国騎士は今後のためにもダーバイア公国の軍上層部や貴族などに報告した方が良いと考え、オルガロンに尋ねた。


「報告はする。ただ、昆虫族モンスターがいるという情報だけでは意味が無い。報告は王国軍がどれほどの数、どんな種類のモンスターを手懐けているかなど、詳しい情報を手に入れてからの方がいいだろう」

「分かりました」


 いい加減な情報を伝えても上層部を混乱させるだけなので、正確な情報を多く集めてから知らせるべきだというオルガロンの考えは間違っていないと感じる公国騎士は異見を唱えることなく納得する。


「モンスターの数や種類は分からんが、王国軍がこちらの想像以上の戦力であることは間違いない。対抗するためにはこちらも戦力を増強して部隊を整える必要がある」


 現状と公国兵から聞かされた情報から、オルガロンは二万の戦力を持つ自分たちが不利であることを再確認するように語る。

 ルラーナたちも今の状態で戦っても自分たちが負けるかもしれないと予想しており、真剣な表情を浮かべながらオルガロンの話を聞いた。


「夜が明けたら増援要請の使者をヴァリンに向かわせろ。使者にはヴァリンで待機している戦力を可能な限り、こちらに派遣するよう要請しろと言っておくんだ」

「ハイ」


 ダーバイア公国の小都市であるヴァリンはセプティロン王国との戦争の際、王国軍の侵攻を防ぐ防衛拠点として利用される。

 ヴァリンには攻め込まれた際に迎撃するための戦力があるため、オルガロンはその戦力が合流すれば王国軍に対抗できると考えていたのだ。


「それから、念のために夜襲の警戒を強化しておけ。王国軍が夜中に仕掛けて来ないとは言い切れないからな」


 王国軍の士気を考えると夜襲を仕掛けてくる可能性は十分あるとオルガロンは判断し、ルラーナたちに油断しないよう忠告する。

 ルラーナたちもここまで聞いた情報から今夜にも王国軍が動くかもしれないと考えているため、オルガロンの忠告を聞いて表情を鋭くした。

 それからオルガロンたちは王国軍が攻めてきた際にどのように迎え撃つか、後方の戦力が合流したら王国側の砦に攻め込むかなど、王国軍とどのように戦うかを話し合った。


――――――


 夜が明け、太陽が大平原を照らす中、朝食を済ませた公国兵たちは王国軍を警戒しながら臨戦態勢に入るための作業をしている。

 砦にいる者たちは今日にでも王国軍が攻めてくるかもしれないと予想し、急いで戦いの用意をしていた。

 特に砦の外にいる者たちは戦いが始まれば真っ先に自分たちが戦うことになると確信しているため、念入りに武器の確認をしたり、無事に生き残れるよう天に祈ったりしている。

 幸い夜襲は無かったので公国軍は体力を温存することができた。しかし夜襲が無かった分、この後に戦闘が行われる可能性が高くなったので、全員が昨日以上に緊張している。

 砦の中ではオルガロンがルラーナと公国騎士を連れて砦内で作業する者たち見回っている。

 いつ戦いが始まるか分からない状況なため、オルガロンも万全の状態で戦えるよう部隊の状況を細かく確認をしておこうと考えていた。


「準備は問題なく進んでいるようだな」

「ハイ、もう間もなく全ての準備が完了すると思われます。騎馬団も何時でも出撃可能です」


 ルラーナから現状を聞いたオルガロンはこの調子なら王国軍が動く前に準備を終わらせることができる感じて少し安心する。

 戦力など敵の情報が少ない状況なのだから、オルガロンはせめて全力戦える状態にしておくべきだと思っていた。


「増援要請の使者はどうなっている?」

「既に砦を発ち、ヴァリンへ向かいました。早ければ二日後には増援を連れて戻ってくるはずです」

「そうか。では我々はそれまで砦を落とされないよう、全力で王国軍の相手をする。気を引き締めるよう皆に伝えておくのだ」

「ハイ!」


 オルガロンを見つめながらルラーナは力強く返事をした。

 砦には約二万の戦力があり、その中にはダーバイア公国の精鋭と言われている騎馬団もいる。ルラーナは仮に王国軍の方が戦力が多く、全戦力で攻め込んできたとしても砦を守り抜けると確信していた。


「オルガロン殿、敵砦の偵察に向かう斥候がまもなく出発します。最も優先して手に入れる情報ですが、敵戦力と配下のモンスターの種類でよろしかったですか?」


 公国騎士が確認するとオルガロンは公国騎士の方を向いて小さく頷く。


「そうだ。今重要なのは敵の戦力を把握することだ。敵戦力が分かれば、こちらも作戦を練りやすくなる。できるだけ細かく情報を手に入れるよう斥候に伝えるのだ」

「ハッ!」

「とは言え、情報よりも斥候を務める者たちの命の方が大切だ。危険な状況だと判断したら迷わずに戻れ、とも言って……」


 オルガロンが指示を出していると砦内に警鐘の音が響き、オルガロンは全てを言い終えることなく音が聞こえる方を向く。

 音は砦の西側にある監視塔から響き、砦内にいる者たちは驚きの表情を浮かべながら監視塔に注目する。現状から王国軍に何か動きがあったのだと全員が予想し、砦内は緊迫した空気に包まれた。

 

「王国軍が動き出したぞぉ!」


 監視塔の公国兵は砦内にいる者全員に聞こえるよう大きな声で知らせる。

 予想どおりの状況にオルガロンは表情を鋭くし、王国軍の情報を得る前に戦いが始まってしまったことを悔しく思うのだった。

 ルラーナや他の者たちも遂に王国軍との戦いが始まるのだと緊迫した表情を浮かべている。


「急いで全員に装備を整えるよう伝えろ! 敵の戦力がこちらを上回っている可能性がある以上、全ての戦力を前線に出して戦う必要がある。動ける者全員を出撃させるのだ!」

「は、ハイ!」


 公国騎士は返事をするとオルガロンに背を向け、走って他の公国騎士や兵士たちの下へ向かう。


「団長、全戦力を王国軍にぶつけてよろしいのですか? 一部は砦の防衛に残しておいた方が良いと思うのですが……」

「確かに防衛戦力を残しておくのも大事だろう。だが、敵の戦力が分からない以上、砦の守りに戦力を回し、迎撃部隊の戦力を減らすのは逆に危険だ。ここは全ての戦力で戦い、王国軍を砦に近づかせないようにするのが一番だろう」

「攻撃は最大の防御、というわけですか」


 ルラーナの言葉にオルガロンは小さく頷いた。

 オルガロンの言うとおり、敵の戦力が上である可能性が高い状況で自軍の戦力を減らすのは得策ではない。それなら全ての戦力を攻撃に使った方が勝率は高くなるとルラーナは感じて納得した。


「私たち騎馬団は開戦と同時に歩兵たちより先に王国軍に突撃する。そして歩兵が追いつくまでの間に少しでも王国側の戦力を削ぐ」

「ハイ」

「私たちがどれだけ王国側の戦力を削れるかで戦況は変わる。最初から全力で挑め?」

「勿論です」


 返事を聞いたオルガロンは砦の奥へ移動し、ダーバイア騎馬団の出撃準備に向かう。

 ルラーナも必ず王国軍に勝って見せると心の中で誓いながらオルガロンの後を追った。


――――――


 砦から西に少し移動した場所では砦の外にいた大勢の公国兵が隊列を組んで待機している。

 公国兵たちは皆緊張した様子で王国側の砦を見つめており、王国軍はどれほどの戦力なのか、どんな戦術を使ってくるのだろうと疑問を抱きながら小さな不安を感じていた。

 少し前に王国軍に動きがあることを知らせる警鐘の音を聞き、公国兵たちは公国騎士たちの指示に従って隊列を組み、王国軍を警戒しながら開戦の時を待った。

 待っている間、王国側の砦から王国軍の人間らしき人影が扉を開けて外に出てくる姿が確認でき、王国側も戦いの準備を進めているのだと公国兵たちは予想する。

 王国側の砦に二万の部隊が駐留していたことは公国兵たちも知っているため、二万の部隊を倒したほどの相手だから決して楽な戦いにはならないと全員が覚悟を決めていた。

 公国兵たちが王国側の砦を見ていると、公国側の砦の扉が開き、大勢の馬に乗った公国騎士が砦から出て来た。先頭には司令官であり、ダーバイア騎馬団の団長であるオルガロンと部隊長のルラーナの姿があり、馬に乗りながら隊列を組む公国兵たちの方へ移動する。

 砦から出て来た馬に乗る騎士たちこそがダーバイア公国の精鋭と言われているダーバイア騎馬団だ。公国軍の騎士の中でも優秀な者たちで編成されており、高い戦闘能力を持つ。

 更に馬に乗ることで歩兵とは比べ物にならない速さで移動し、敵に反撃や態勢を立て直す隙を与えないことから、公国軍で彼ら以上に白兵戦に優れている者たちは存在しないと言われるほどだ。

 今回の戦争でダーバイア騎馬団はオルガロンの一番隊とルラーナの四番隊、更に二つの部隊が参加しており、人数はオルガロンとルラーナのような隊長たちを含めて二百四十人となっている。

 二万人の部隊の中で二百四十人と言うのは少なすぎると感じられるかもしれない。

 だが二百四十の騎馬団員なら通常の歩兵、五百人が相手でも楽に勝利できるため、公国軍にとっては大きな戦力になる。

 二百四十の騎馬団員は隊列を組む公国兵たちの間を通り、部隊の最前列に移動する。前に出ると騎馬団員たちも馬に乗りながら隊列を組み、遠くにいる王国軍の砦を見つめた。


「……大きな動きは見せませんね」

「ああ、騎士が出てきたことで王国軍も砦の外に出るかと思っていたのだがな」

「もしかすると、こちらの戦力に驚いて怖気づいたのでしょうか?」

「その可能性は低い。連中は二万の部隊に勝利して砦を取り返したのだ。同等の戦力である私たちと戦うことを恐れるとは思えない」


 恐れていないのならどうして出てこないのか、ルラーナはオルガロンの隣で砦を見つめながら不思議に思う。

 王国軍の行動について考えていると、王国側の砦から何かの集団が出てくるのが見え、オルガロンたちは警戒しながら現れたものを確認する。

 現れたのは体長約3mはある深緑色の甲殻で覆われた二足歩行する昆虫族モンスターの群れで、隊列を組みながら王国側の砦の前に移動し、左右に分かれると横一列に並び、公国軍の砦の方を向きながら待機した。

 深緑色の昆虫族モンスターが待機すると、続けてランスを持った青銅色の人型の昆虫族モンスターの群れが同じように隊列を組みながら砦から出てくる。

 体の小さな人型の昆虫族モンスターたちは最初に出て来た深緑色の昆虫族モンスターたちと同じように砦の前で左右に分かれ、深緑色の昆虫族モンスターたちの前で並び、公国軍の方を向く。

 公国兵たちは砦から大量の昆虫族モンスターが現れたことに驚いてざわつきだす。

 王国軍の砦からモンスターの群れが出てきたことにも驚いたが、それ以上にモンスターが軍隊のように統率された行動を取っていることに衝撃を受けていた。

 勿論、司令官であるオルガロンやルラーナも目を見開いて驚いている。

 王国軍がモンスターを手懐けていることは知っていたが、ゴブリンのような下級モンスターとは明らかに雰囲気が違う存在を見て、驚きを隠せずにいた。


「だ、団長、あれが王国軍が手懐けたモンスター、なのでしょうか?」

「……ああ、間違いないだろうな」

「斥候の報告どおり昆虫族モンスターのようですが、あれはいったい何なのです? 私、あんなモンスター見たことがありません」


 ルラーナは自分の知らないモンスターを目にし、どれだけの強さでどんな能力を持ったモンスターなのか考える。

 隣ではオルガロンは昆虫族モンスターたちを見つめたまま微量の汗を流している。

 ダーバイア騎馬団の団長であることから、オルガロンも任務でモンスターとの戦闘経験あり、ある程度のモンスターの情報は理解している。

 しかし視界に映っている昆虫族モンスターのについては何も分からなかった。だが、それでも今まで戦ってきたどのモンスターより手強いのは間違いないと、オルガロンも本能で理解している。

 オルガロンたちが王国軍の戦力に驚いている中、新たに王国側の砦から数人の人影が出て来た。

 先頭には漆黒のプレートアーマーを装備した濃い緑色の甲殻に包まれ、頭部から前に向かって伸びる反りの入った二本の角、顔から同じように反りの入った角が一本生やした人型の昆虫族モンスターが歩いている。

 昆虫族モンスターの後ろには仲間と思われる者たちの姿がある。銀髪の美少女。金髪の美女。ウェアウルフのような亜人。真紅の髪の美少年。猫を連れた幼女が付き従うように歩いていた。

 そして、幼女の後ろには王国軍の騎士たちが若干緊張したような表情を浮かべながらついて行く姿があった。

 先頭の昆虫族モンスターは待機している深緑色の昆虫族モンスター、ランスを持った昆虫族モンスターたちの横を通過し、一番前までやって来ると立ち止まり、公国軍の方を向く。

 後をついてきた者たちも昆虫族モンスターの後ろで横に並びながら待機し、同じように隊列を組む公国軍に注目する。


「な、何だあの者たちは……」


 大量の昆虫族モンスターが現れた後に落ち着いた様子で前に出て、自分たちの方を向く者たちを見たオルガロンはすぐに只者ではないと悟った。

 特に先頭にいた人型の昆虫族モンスターはその雰囲気と状況から待機している昆虫族モンスターたちよりも上の存在であると確信し、他の昆虫族モンスターたちを統率している指揮官のような存在なのではないかと推測する。


「団長、あの先頭のモンスターは何者なのでしょう? 王国の騎士たちが同行していることから、彼らが手懐けているモンスターであることは間違いなさそうですが……」

「分からん。……ただ一つだけ言えることは、最初に出て来たモンスターたちとは何かが違うということだ」


 真剣な表情を浮かべながら語るオルガロンを見たルラーナは軽く目を見開き、王国軍の方を向きながら微量の汗を流す。


「団長、いかがいたしますか?」

「予定どおり最初に私たち騎馬団が突撃し、その後に残りの戦力を進軍させる。ただ、王国軍が僅かな戦力しか出してこないのが気になる。もしかしたら王国軍の別動隊が何処かに潜んでいるかもしれん」


 視界に映っている敵部隊が囮の可能性があると聞かされたルラーナは思わず反応し、目だけを動かして大平原を見回す。幸い視界には王国軍の別動隊が隠れていそうな場所は無かった。

 とは言え安心はできないため、オルガロンの言うとおり警戒した方がいいかもしれないとルラーナは考えていた。


「念のため、私たちが動いた後に周囲を警戒するよう後続部隊を指揮する者たちに伝えておけ」

「分かりました」


 ルラーナは馬を走らせ、後続部隊の指揮官の下へ向かう。

 残ったオルガロンは王国部隊と共にいる昆虫族モンスターたちがどれほどの力を持っているのか予想しながら警戒を続けた。


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