表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第3章  救済の魔蟲
60/61

第59話  証明のための作戦


 公国軍に奪われていた砦を取り返すことに成功し、アルシェスたち王国の人間たちはとりあえず安心する。

 たが、やらなければならないことが沢山あるため、取り返した後に休むことはできなかった。

 まず捕らわれていた捕虜の安否と砦の周辺、砦内に残っている物資を確認し、王国軍が砦を取り戻したことを証明するためにダーバイア公国の国旗を取り外してセプティロン王国の国旗を取り付ける。他にも公国兵たちの死体の処理、生き残りがいないかを調べたりもした。

 砦の外に配置されていた公国兵の中には生き残りはいなかったが、砦内にいた者の中には運よく生き残っている者がいた。と言っても数えるほどしかおらず、殆どの公国騎士、兵士は蜂導師が放った蜂の群れに襲われて命を落としている。

 公国兵の中には建物の中に逃げ込んで蜂に襲われずに済んだ者もおり、気付かない内に王国軍に砦を奪い返されたこと、五千近くいた仲間の殆どが戦死したことを知って驚愕する。

 王国騎士たちは敵とは言え、生き残った者を見殺しにしようとは思っておらず、蜂に刺されながらも生き延びた者たちを手当てして何とか救おうとしていた。

 しかし、蜂に刺された時に毒に体を侵されてしまっており、生き残った者の大半は手当ての甲斐無く息絶えてしまった。

 結局、砦を奪還する際の戦闘で生き残ることができた公国軍の騎士や兵士は僅か十一人だった。


「……以上が砦内と周辺の状況です」


 砦内で最も大きな建物の中にある会議室で、王国騎士が手元の羊皮紙に書かれてある文章を読み上げる。

 王国騎士の前では大きな机を囲むようにゼブルとティリア、魔将軍たち、そしてアルシェスとハリスが立っており、全員が王国騎士に注目しながら話を聞いていた。

 砦を取り戻してから二時間が経過し、ゼブルたちは今後の行動について話し合うために会議室で話し合いをしていた。そんな時に王国騎士が現状報告をするためにゼブルたちの下を訪れたのだ。


「まさか、砦の食料や水、武具などが殆どが無くなっているとは……」

「生き残った公国の騎士によると、食料はこの数日の間に砦に駐留していた兵士や騎士たちが消費し、武器や防具は必要な分だけ残して公国側の砦に回したとのことです」

「クッ、例え砦を奪還できても食料や物資が無ければまともに戦えない。何とか物資の補給をしなくては……」


 まだ公国側の砦には二万近くの敵がいるため、彼らと戦うには大量の食糧や武具が必要になる。

 アルシェスは自分たちが全力で戦うためにも、まずは公国軍によって失った物資を補給するべきだと考えた。


「……シーナモ隊長、リントスジンに砦奪還の報告をするための使者はまだ出ていなかったな?」

「ハイ、現在準備中でもう間もなく出発するはずです」


 ハリスの話を聞いたアルシェスは安心したかのように軽く息を吐き、報告に来た王国騎士の方を向く。


「リントスジンに向かう者に食料と物資の補給も要請するよう伝えておいてくれ。今のままでは戦うどころか砦で生活するのも難しいからな」

「ハッ!」


 使者がすぐにリントスジンへ向かうと聞いた王国騎士は急いで知らせるため、早足で会議室を後にする。

 アルシェスは騎士の後ろ姿を見ながらできるだけ早く物資が届いてほしいと祈るのだった。


「アルシェス王女、補給部隊がリントスジンから砦に到着するまでどのくらい掛かる?」


 物資がいつ到着するのか気になるゼブルはアルシェスに尋ねる。

 声をかけられたアルシェスに一瞬驚いたような反応を見せてからゼブルの方を向いた。


「そう、ですね……砦とリントスジンの距離、こちらに回す物資と戦力を準備する時間を考えると……早くても二日は掛かると思います」

「二日か……意外と時間が掛かるようだな」


 ゼブルは到着予定時間を聞くと僅かに低い声で呟く。

 普通なら二日と聞けばそれほど長くないと思えるが、最前線では二日は時間が掛かりすぎだと感じられる。

 王国側の砦と公国側の砦との間は双方が目視できるほどの距離なため、その気になれば一日も掛からずに相手の砦に攻撃を仕掛けることが可能だ。だから現状では二日は長すぎと言えるだろう。

 しかも二日と言うのは最短時間であるため、砦に戦力や物資が到着するのに二日以上掛かる可能性もある。つまり王国軍は補給部隊や増援が来る前に公国軍の攻撃を受けるかもしれないということだ。


「た、確かに現状で二日は時間が掛かりすぎだと思います。ですが、使者がリントスジンに着く時間や必要な物を準備する時間を考えると、どうしても二日以上かかってしまうのです」


 アルシェスも今の状態で二日は長すぎだと理解している。だが短時間で効率よく準備を済ませる方法が無いため、時間が掛かるとしても待つしかないと考えていた。


「……まぁ、万が一補給部隊が来る前に公国軍が仕掛けて来たとしても、俺たちが対処するから問題無いんだがな」


 ゼブルの言葉にアルシェスとハリスは思わずゼブルの方を向く。

 先程まで部屋に緊迫した空気が漂っていたのに、ゼブルの何気ない一言でそれが壊されたため、アルシェスとハリスは目を丸くしていた。


「ぜ、ゼブル殿、公国軍が攻めてきた際も共闘していただけるのですか?」

「当たり前だろう。そういう約束だからな」

「それは、そうですが……」


 約束を守って最後まで公国軍と戦おうとするゼブルを見ながらアルシェスは複雑な気分になる。

 敵を容赦なく惨殺し、戦場を地獄に変えるほど冷酷なのに、時々見せる義理堅さや人間らしさを前にアルシェスはますますゼブルの本性が分からなくなっていた。


「ち、因みに公国軍が攻めてきた際はどのように迎撃なさるおつもりですか? やはり、同行させた昆虫族モンスターたちに相手をさせるのでしょうか?」


 少し緊張した様子を見せるハリスがゼブルに声を掛ける。

 王国側の砦にいた約二万の公国軍を倒した昆虫族モンスターなら、同等の戦力を持つ公国側の砦の公国軍も難なく倒せるとハリスは確信しており、昆虫族モンスターで迎撃するのではと予想していた。


「いや、モンスターたちは使わない。……俺と魔将軍で相手をする」

「えっ……つ、つまり、ゼブル殿とそちらにいる四人だけで戦うということですか?」

「そうだ」


 ゼブルの予想外に返答にハリスは驚き、ゼブルの近くで待機している魔将軍たちに視線を向けた。

 シムスは驚くハリスを見て、自分たちでは二万の敵に勝てないと思っていると感じたのか、若干不機嫌そうな顔でハリスを見つめる。

 テオフォルスとアリスは気にしていないのか、表情を変えず無言でハリスを見ていた。

 セミラミスは人間に期待されていないと知って機嫌を悪くし、僅かに目を鋭くしながらハリスを睨んだ。


「リントスジンでの戦いで既に理解していると思うが、俺と魔将軍の力は外にいる昆虫族モンスターたちよりも遥かに上だ。俺たちだけでも余裕で蹴散らせる」


 自分たちは必ず勝つと確信しているゼブルを見てハリスは再び驚きの反応を見せる。

 ゼブルの言うとおり、リントスジンでゼブルたちの力が強いことは理解した。だが、今度の敵はリントスジンに攻め込んできた部隊よりも遥かに数が多い。ゼブルたちでも勝つのは無理なのではとハリスは予想していたのだ。


「で、ですが、リントスジンに攻めて来た公国軍は九百ほど、敵側の砦には二万の戦力がいるのです。いくら、ゼブル殿や魔将軍の方々でも……」

「おいテメェ、ボスが勝てるっつてるのに信じられねぇのかよ」


 ハリスの態度を見て、セミラミスが低い声を出す。

 先程のハリスの驚き方を見て自分たちでは二万の公国軍に勝てないと思われていると感じ、不機嫌になっているところにゼブルの言葉が信じられないような反応を見せたため、セミラミスはますます機嫌を悪くしたようだ。


「い、いえ! 決してそのようなことは……」


 セミラミスの声と険しい表情に恐怖を感じたハリスは首を横に振る。

 ここまでの魔将軍の発言と態度から、ハリスもセミラミスが魔将軍の中で一番気が短く、怒らせてはいけない存在だと理解している。そのセミラミスが機嫌を悪くしているのを見て、ハリスはマズい状況になってしまったかもと危機感を感じた。

 アルシェスもセミラミスが不機嫌になったのを見て、このままだとゼブルたちの力を借りられなくなるかもと予想し、セミラミスの機嫌を直すために声を掛けようとする。


「落ち着け、セミラミス。些細なことでいちいち目くじらを立てるな」


 アルシェスが喋る前にゼブルがセミラミスを止める。

 ゼブルが止めたことでセミラミスは少し不満そうな顔をしながらも大人しくなった。そのおかげか、部屋に漂っていた張り詰めた空気も少しだけ和らいだ。


「確かにリントスジンに攻めて来た奴らと砦にいる奴らとでは数が全く違う。だが、それでも問題なく勝てる。俺たちと公国軍にはそれだけ力の差があるんだ」

「ほ、本当に可能なのですか?」

「ああ」


 即答するゼブルをハリスは表情を固めたまま見つめる。

 普通の人間が言えばただの強がりと思われるだろうが、リントスジンでの戦闘や砦を奪還した昆虫族モンスターたちの力を考えると本当に二万の敵が相手でも数人で勝てるのではとハリスは感じ始めていた。


「……では、公国軍が砦に攻め込んできた際はゼブル殿たちにお任せしてよろしいのですね?」


 アルシェスは再確認するかのようにゼブルに尋ねる。


「ああ。……場合によっては俺たちの方から公国軍に仕掛けることになるかもしれないが、その時も俺たちが動くから安心しろ」

「わ、分かりました……」

「あと、アンタたちは手を出すな? 魔王である俺と魔将軍たちの強さを見せるためにも、俺たちの力だけで公国軍を倒す必要がある。アンタたちは後方で俺たちの戦いを見ていろ」

「ハイ……」


 ゼブルの顔を見たアルシェスは小さく頷きながら返事をする。表情こそ変わらないが、ゼブルの態度と口調から自分たちが共に戦うことを迷惑に思っているとアルシェスは直感していた。

 もし従わなければゼブルの怒りを買うことになるかもしれない。アルシェスはゼブルの機嫌を損ねないよう、それ以上何も言わずに素直に従うことにした。


「証明すると言えば、今回の戦闘で捕らえた公国軍の者たちはどうされますか?」


 次の戦いがゼブルたちだけで戦うことが決まると、アルシェスは捕虜となった公国軍の生き残りについて尋ねる。


「我々が砦を奪還したことで彼らもゼブル殿の配下であるモンスターたちの力、つまりゼブル殿が新しく建国する国の軍事力を理解したことになります。その情報を公国に広めるため、私は捕虜を解放して公国側の砦へ向かわせるべきだと思っているのですが……」

「いや、まだだ。連中を解放するのは公国の砦にいる奴らを片付けてからだ」

「なぜですか?」

「捕虜たちが知ったのは新しくできる国の軍事力だけであって、俺や魔将軍たちの強さは理解していない。俺が魔王であることを証明するため、本気で世界を征服しようとしていることを証明するためにも捕虜たちには俺と魔将軍の実力も知ってもらう必要がある」


 新国家だけでなく、自身の恐ろしさも分からせるため、捕虜に自分たちが戦う姿を見せようとしていると知り、アルシェスは捕虜を解放しない理由に納得する。

 確かに配下であるモンスターの実力だけを広めても、大陸に住む人々がゼブルの強さや恐ろしさを理解せず、魔王としても認めないだろう。

 だがゼブルが強大な力を持っていることを証明できればダーバイア公国だけでなく、他の国もゼブルを魔王として認めるはずだ。


「では、公国軍の捕虜には私たちと共にゼブル殿たちが戦う姿を見てもらうということですね?」

「そういうことだ。俺たちの姿が良く見えるよう、特等席を用意してやってくれ」

「わ、分かりました」


 まるで捕虜に演劇か何かを見せようとしているゼブルを見て、アルシェスは若干戸惑っている様子で頷く。

 魔将軍たちがゼブルの冗談交じりの発言を面白く思ったのか小さく笑っている。

 ティリアは何となくゼブルの考えていることを察し、魔将軍につられるように苦笑いを浮かべていた。


「ところで、公国軍の捕虜は今どうしてる?」


 力を見せる相手のことが気になったのか、ゼブルは公国軍の生き残りについてアルシェスに尋ねた。


「捕虜は砦内の牢に入れています。ゼブル殿のモンスターの力と蜂の大群に襲われたことに恐怖しているのか、全員が大人しくしています」

「そうか。……捕虜の中に部隊長のような位の高い奴はいるか?」

「ええ、この砦にいた公国軍の指揮官が生き残っており、他の捕虜と共に牢に入っています」


 公国軍の指揮官が生き残っていると聞いたゼブルは反応する。

 蜂導師たちには“指揮官と思われる人物”は殺さないようにとだけ指示していたため、ゼブルは指揮官は生き残らないだろうと予想していた。

 しかし、指揮官が生き残っていると聞き、意外に思いながらも自分は運が良いと感じていた。


「その指揮官、此処に連れて来れるか? 一度どんな奴が会ってみたいんだが……」

「あ、ハイ、少々お待ちください……」


 アルシェスはハリスの方を向き、捕らえた公国軍の指揮官を連れて来るよう目で指示する。

 ハリスはアルシェスが考えを悟り、静かに会議室から出ていく。

 ゼブルはハリスが退室したのを見届けると、生き残った指揮官がどんな人物なのか想像しながら待った。

 しばらくすると、会議室の扉が開いてハリスが戻ってくる。その後ろには三十代後半ぐらいで後ろ髪を束ねた金髪の男がおり、二人の王国騎士に挟まれながら部屋に入って来た。男は顔や腕の一部は小さく腫れており、傷の手当てを受けて形跡がある。

 状況と男の姿から、ゼブルは目の前にいる金髪の男が公国軍の指揮官で間違いないと確信する。

 金髪の男は警戒する様子で室内を見回す。そんな中、部屋の奥に人型の甲虫の姿をした生物がいるのに気付いて大きく目を見開いた。


「ゼブル殿、公国軍の指揮官を連れてきました」

「ああ、ご苦労さん」


 ハリスは一礼すると金髪の男から離れ、アルシェスの隣に移動してそのまま待機する。

 金髪の男は王国の騎士と甲虫の生物が会話する光景を見て、甲虫の生物が会話できるだけの知能を持っていると知って更に驚き、甲虫の生物に視線を向ける。


「さてと、とりあえず初めましてと言っておこうか」


 ゼブルが金髪の男に挨拶をすると、突然声を掛けられたことに驚いた金髪の男は目を見開く。


「俺の名はゼブルと言う。お前の名前を教えてくれるか?」

「……マルドギードと申す」


 公国軍の指揮官が名乗るとゼブルはゆっくりと歩き出し、マルドギードの目の前までやってくると無言で見つめる。

 目の前まで近づいたゼブルと名乗る異形にマルドギードは不気味さを感じる。

 現状からゼブルが王国軍の仲間で、自分たちを襲撃した昆虫族モンスターたちの上に立つ存在だとマルドギードは予想し、自身の立場を悪くしないよう注意しながら少しでも敵の情報を手に入れようと考えていた。


「既に理解していると思うが、俺はセプティロン王国と協力関係にある。理由は王国領に攻め込んできたお前たち公国軍を倒すためだ」

「……色々と気になることはあるのだが、まず聞かせてほしい。何故貴公は王国に協力しているのだ?」

「取引をしたんだ。公国軍の撃退に協力する変わりに俺の国の属国になれとな。王国はそれを受け入れて属国となり、俺は属国を守るために力を貸している」

「属国? 貴公の国? ……ゼブル殿、貴公はさっきから何を言っているのだ。そもそも貴公は何者なのだ?」


 ゼブルの言っていることがまったく理解できないマルドギードは僅かに声に力を入れながら尋ねる。

 混乱しかかるマルドギードの反応がおかしいのか、ゼブルは小さく鼻で笑った。


「俺か? ……俺は魔王だ」

「は? ま、魔王?」


 魔王がどのような存在なのかはダーバイア公国の民たちも当然理解している。そのため、話を聞いた直後のマルドギードは目の前の異形は何を言っているのだと耳を疑った。


「ゼブル殿、貴公は魔王がどのような存在なのか分かっているのか?」

「勿論だ。二百年前に魔王がこの世界に現れて以来、大陸に住む全ての生物から悪の権化として忌み嫌われる存在だってな」


 この世界で魔王がどのように見られているのか理解していながら名乗るなんて、まともな思考を持つ者のやることではない。そう考えているマルドギードは目の前にいる甲虫の異形は普通じゃないと改めて悟った。

 ただ、今はゼブルが魔王を名乗っている点は大して重要ではない。最も大切なのはゼブルの狙いと今後王国軍がどう動くかを確認することだった。


「……此度は貴公が私に会いたいと言っているので呼ばれたわけだが、私に何か用があるのか?」


 僅かに目を鋭くするマルドギードはゼブルに尋ねた。ゼブルが何者かまだハッキリしていないが、敵であることは間違いないので、今まで以上に警戒心を強くする。


「そんなに警戒するな。お前たちの今後について簡単に説明するだけだ。あと、蜂の群れに襲われて生き残ることができた敵指揮官がどんな奴なのか確かめたかったっていうのもあるか」


 ゼブルの言葉を聞いた瞬間、マルドギードの表情が僅かに変わった。

 今自分たちは王国軍の捕虜として捕らわれているため、今後のことを説明すると言われたことで自分や他の捕虜が拷問を受けたり、砦を襲った昆虫族モンスターの餌にされるのではと想像して微量の汗を流す。


「……公国軍の情報を得るため、拷問にでも掛ける気か?」


 恐れていることを悟られれば自分たちに都合の悪い状況を作られるかもしれないと考えたマルドギードは恐怖していることを悟られないよう、表情を変えずにゼブルに問いかける。


「安心しろ、お前たちの身の安全は保障する。ただ、俺たちがお前たちの仲間を倒すところを見てほしいだけだ」

「何っ、どういうことだ?」

「公国側の砦にいる奴らは俺たちが王国側の砦を奪還したことにすぐに気付くだろう。そうなればもう一度砦を手に入れるために攻め込んでくるはずだ」


 マルドギードはゼブルの話を聞いて「間違い無い」と心の中で呟く。

 自分たちがいる砦はセプティロン王国との戦争に勝つためには必要不可欠な場所だ。効率よく王国領を侵攻するためにも仲間たちは間違いなく砦を襲撃するとマルドギードは確信していた。


「もし公国軍が攻め込んで来たら、当然俺たちは迎撃する。お前と他の捕虜には俺たちが公国軍を返り討ちにする姿をその目に焼き付けてもらう」

「……本気で勝てると思っているのか? 我が国の砦にはまだ二万もの大部隊がいるのだぞ。一方で貴公らの戦力は三百程度。どう考えても勝つのは無理だ」


 戦力差から絶対にゼブルたちに勝ち目はない。そう考えるマルドギードは目を閉じながらそっぽを向いた。

 挑発的な態度を取るマルドギードを見たゼブルは再び鼻を鳴らした。


「その三百程度の部隊がこの砦にいた二万弱の公国軍を壊滅させたのを忘れたか?」

「……ッ!」


 ゼブルの小馬鹿にするような口調にマルドギードは目を開いて僅かに顔を歪める。

 自分が指揮していた部隊も公国側の砦にいる部隊と同戦力だったため、その部隊が僅かな敵に壊滅させられたことを指摘されて悔しさが込み上がってきた。

 だが、ゼブルたちが二万近くの部隊を壊滅させ、砦を取り返したのは事実だ。そのため、公国側の砦にいる部隊も三百ほどの敵を相手に負けるかもしれないと考えてしまう。


「確かに私の部隊は壊滅した。……だが、我が国の砦には騎馬団が駐留している。彼らなら貴公らの部隊にも勝てる」

「ほぉ、ダーバイアが誇る精鋭部隊か」


 公国軍最高の戦力と言われているダーバイア騎馬団が砦にいると聞かされ、ゼブルが興味のありそうな反応をする。

 会話を聞いていたティリアや魔将軍は意外そうな表情を浮かべながらマルドギードを見ていた。

 一方でアルシェスとハリスは今回の戦いにダーバイア騎馬団が参加していたと知って驚きの反応を見せている。

 これまでダーバイア公国はダーバイア騎馬団は戦争に参加させず、通常の騎士や兵士だけで挑んできたため、切り札である騎馬団を使ってくると聞いて公国側も本気を出しているのだとアルシェスとハリスは悟った。


「我が国が誇る騎馬団の前には貴公の支配するモンスターも無力だ。そして戦力では公国軍が圧倒的に上、貴公らに勝ち目はない」

「……フフフフッ」


 力強く公国軍の勝利を宣言するマルドギードを見て、ゼブルは軽く下を向きながら笑い出す。


「何がおかしいのだ?」


 真剣に語っているのに突然笑うゼブルを見て、マルドギードは僅かに気分を悪くしながら声をかける。

 ゼブルは顔を上げると笑いながらマルドギードを見つめる。


「悪い悪い。次の戦いでその精鋭と言われた騎馬団がどうなるか想像すると、つい笑っちまってな」

「それは、どういう意味かな?」


 何を言いたいのか分からないマルドギードをゼブルを睨みながら尋ねた。

 ゼブルは笑うのをやめるとマルドギードを見ながら目を薄っすらと黄色く光らせる。


「残念だが、お前が自慢する騎馬団では俺たちには勝てない。と言うか、ろくに活躍もできずに壊滅するだろう」

「なっ、何を馬鹿なことを……ふざけたこと言うのはやめてもらいたい」

「こっちはふざけてるつもりはない」


 ゼブルの言葉にマルドギードは思わず口を閉じる。目の前に立っている魔王を名乗る存在は本気でダーバイア騎馬団を壊滅させるつもりでいると、黄色く光る目を見て感じ取った。

 だが、例えゼブルが本気だとしても、ダーバイア公国でも最強と言われている部隊が負けるなんて思えなかった。


「……騎馬団は、必ず勝つ。勝って再びこの砦を公国軍の物とする」

「フッ、だったら次の戦いで確認することだな。俺の言ったことが真実か否かをな」


 自信に満ちた口調で語るゼブルをマルドギードは無言で見つめる。その目にはダーバイア騎馬団が負けるなどあり得ない、騎馬団が勝利してゼブルの鼻をあかしてやるという意思が宿っていた。


「アルシェス王女、もう十分だ。戻してくれ」

「は、ハイ、分かりました……お前たち、彼を連れていけ」


 マルドギードを牢へ戻すよう言われたアルシェスは近くで待機している王国騎士たちに指示を出す。

 王国騎士たちは無言でアルシェスに敬礼するとマルドギードを連れていく。

 騎士たちに連れられる際、マルドギードはダーバイア騎馬団を倒すと宣言したゼブルを睨み続けていた。


「公国軍の精鋭部隊、どれほどの実力なのか、今から楽しみだ」


 マルドギードたちが退室するとゼブルは小さく笑いながら呟く。

 公国軍が勝つと信じているマルドギードの前でダーバイア騎馬団と大勢の公国兵を倒し、どれだけ甘い考え方をしていたか思い知らせてやろうとゼブルは思っていた。

 ゼブルにとってダーバイア公国最強と言われているダーバイア騎馬団も脅威ではない。寧ろ自分の強さを証明するための生贄でしかないのだ。


「あのぉ、ゼブル殿。我が軍の今後の方針について確認したいのですが、よろしいでしょうか?」


 アルシェスが声をかけると、ゼブルはまだ会議の途中であることを思い出してフッと顔を上げる。


「ああぁ、悪かった。……それじゃあ、会議を続けるか」


 残りの公国軍との戦いに備え、ゼブルたちは話し合いを再開した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ