第55話 魔王の戦力
魔王が砦を取り返すために用意してくれるというのだから大部隊を期待していたのだが、三百しか用意されないと知ったアルシェスたちは内心失望していた。
「三百、ですか……」
軽く俯いているアルシェスは失望したことが顔に出ないよう気を付けながら呟いた。
「どうした、三百では不満か?」
アルシェスの反応を見て、何を考えているのか悟ったゼブルは低めの声で尋ねる。
「い、いえ、滅相もありません!」
ゼブルの声を聞いたアルシェスは機嫌を損ねてしまったかもしれないと感じ、顔を上げると慌てて首を横に振った。
折角戦力を用意してくれると言っているのに不満を露わにするような言動をするのは相手に対して失礼と言える。
もしここで不満を悟られてゼブルが機嫌を損ねるような事態になれば、戦力を用意してくれる話が無かったことになるかもしれない。いや、戦力増強の話が無くなるだけならまだいい方だ。
不機嫌になったゼブルが公国軍との戦いにこれ以上手を貸さない、などと言い出せば王国軍の戦力は大きく低下して再び不利になってしまう。現状でゼブルの助力を失うことは絶対に避けなければならなかった。
アルシェスが誤魔化そうとする後ろでは、ドザリックスとロズリングが緊張しながらゼブルを見ている。二人もゼブルが機嫌を損ねて協力を拒むことを恐れており、最悪の結果にならないことを心の底から祈っていた。
「正直に言え。俺は嘘をつかれるのが嫌いなんだ」
目を黄色く光らせながらゼブルは再び引き声を出す。
ゼブルは相手の立場や状況によって態度を変えたり、本心を隠したりする者を好んでいない。どんな相手、状況であっても自分の意思をハッキリと伝えられる強い精神と自信を持つ者こそ、ゼブルが興味を持つ存在だった。
アルシェスはゼブルの反応を見て一瞬固まる。声の低さから今のゼブルは少し機嫌を損ねていると感じ取り、これ以上本心を隠してはいけないと直感した。
「……正直に申しますと、もう少し多くの戦力をご用意してくださるかと思っておりました」
暗い顔をするアルシェスは感じていたことを正直に伝える。ゼブルからは正直に言えと言われたが、それでも不満を口にすれば機嫌を損ねてしまうかもしれないと予想していたため、アルシェスはゼブルの顔を見ることができずにいた。
本心を口にしたアルシェスをゼブルは無言で見つめる。表情に変化が無いため、アルシェスの発言で機嫌を悪くしたのかは分からなかった。
「まぁ、二万近くの敵がいる砦に攻め込むのに三百しか用意しないと言われば、納得できないのは当然だろうな」
少ないことは自覚していたようで、ゼブルはアルシェスの不満を否定したりせずに納得したような反応を見せる。
アルシェスは不機嫌になっていないという予想外の反応を見せたゼブルに驚き、目を軽く見開きながら顔を上げる。それと同時にゼブルも三百は少ないと分かっていたことを知り、心の中で呆れるのだった。
「あのぉ、ゼブル様? ただ数だけを伝えるのではなく、その部隊がどのように構成されているのかをお伝えすればよかったのでは?」
隣にいたティリアが苦笑いを浮かべながらゼブルの説明が大雑把だったことを指摘する。
確かに数だけではなく、どのような兵士で構成されているのかを細かく説明すれば、例え数が少なくてもアルシェスたちは不満を抱かず納得したかもしれない。
「ああぁ、そうだな。確かにもう少し細かく説明するべきだった」
ティリアの言うとおりだと、ゼブルはコクコクと頷きながら自分の説明の仕方が悪かったことを認めた。
「悪かったな、アルシェス王女。こっちの説明不足だった」
「い、いえ、そんな……」
魔王に謝罪される状況にアルシェスは困惑する。自分の過ちをすぐに認め、人間に謝罪するなどアルシェスが知っている魔王では考えられない行動だったので、ゼブルの言動に少し驚いていた。
「じゃあ、改めて俺が用意する部隊について説明させてもらう」
「は、ハイ」
返事をしたアルシェスは気持ちを切り替え、どんな部隊なのか想像しながらゼブルを見る。
ドザリックスとロズリングも増援部隊の戦力次第で作戦を変える必要があると考えているため、聞き漏らさないよう注意しながらゼブルの話に耳を傾けた。
「俺が用意する部隊は高い戦闘能力を持つ奴だけで構成されている。ソイツらは全員、英雄級の実力者が数人で挑んでもようやく倒せるほどの実力だ」
「え、英雄級が苦戦を強いられる……」
「そうだ。それだけの力を持った奴らなら、僅か三百でも二万の公国軍に余裕で勝てる」
アルシェスはゼブルの話を聞いて目を大きく見開く。
英雄級の実力者は戦いの才能がある者、もしくは血の滲むような訓練を受けた者しか辿り着けない存在で常人が挑んでも勝つのはとても難しいと言われるほどの力を持っている。
そんな強者が数人で挑んでようやく倒せるほどの存在が三百もいれば、例え二万の大部隊が相手でも十分戦えるだろう。しかも公国兵の殆どは徴兵された者たちなので、正規の公国兵よりも弱い。負ける可能性は非常に低いと言っていい。
アルシェスが勝ち目があると感じる一方で、ドザリックスとロズリングはどこか疑うような表情を浮かべている。
英雄級の実力者が苦戦するほどの力を持った存在は上級モンスターのような滅多に人前には現れないような存在くらいだ。そのことを理解しているドザリックスとロズリングは強大な力を持つ存在だけで構成された部隊を用意すると言われても信じられなかった。
しかし、ゼブル自身がリントスジンを襲撃した九百の公国軍を簡単に壊滅させるほどの力を持っているため、そのゼブルが用意する部隊なのだから本当かもしれないという考えもある。
「ゼブル殿、その英雄級の実力者でも苦戦するほどの強者とは……やはり、モンスターなのですか?」
「勿論だ。公国軍は数で攻め込んでくる戦い方をするからな。大半は近距離戦を得意とするモンスターだ」
ゼブルの返事を聞いたアルシェスは「やはり」と言いたそうな表情を浮かべる。
魔王であるゼブルが用意する部隊なのだから、モンスターで構成されているかもしれないと予想していたため、ゼブルの答えを聞いてもアルシェスは驚かなかった。
「それで、結局どうするんだ? 俺が用意する部隊の戦力次第で砦を奪還するかどうか決めると言ってたが、取り返しに行くのか?」
部隊の説明をしたゼブルは話題を戻し、砦の奪還に向かうか改めて確認する。
アルシェスは目を閉じながら小さく俯き、しばらく考え込むと目を上げてゼブルを見た。
「ゼブル殿の部隊が加われば、公国軍に勝利することは可能だと私は考えております。ですから、私はすぐに砦の奪還に向かうべきだと思っています」
用意される部隊がどれほどの強さなのかは分からないが、ゼブルの説明と態度から相当の力を持っていると予想するアルシェスは公国軍に勝てると感じ、砦を奪還を進言する。
ゼブルはアルシェスの答えを聞くと小さく笑う。自分が用意した部隊の構成や力を説明すればアルシェスが砦の奪還を進言するだろうと考えていたため、予想どおりの状況になったことで気分を良くしていた。
「ベルージャス候、ロズリング団長、貴方たちはどう考えている?」
アルシェスは振り返ってドザリックスとロズリングの方を向いて声をかける。
ドザリックスとロズリングはアルシェスと目が合うと、どうするべきか難しい顔をしながら考え込む。
ゼブルが用意する部隊の正確な力は分からないが、ここまでの話の内容や流れ、アルシェスが信用している点から、もしかすると二万の公国軍に勝てるかもしれないと感じ始めていた。
しばらく考え込んだ後、ドザリックスとロズリングは何かを決意したような表情を浮かべてアルシェスの方を向く。
「……ゼブル殿のご説明と現状、そして砦にいる公国軍の戦力から考え、砦を奪還するなら今しかないと判断しました」
「と言うことは……」
ドザリックスはアルシェスを見ながら小さく頷いた。
「明日砦に向かい、早急に奪還するべきでしょう」
「私も同意見です」
ゼブルが用意した部隊に賭けてみるのもいいかもしれない、そう判断したドザリックスとロズリングは砦を奪還することを決意する。
アルシェスは二人が自分と同じ考えだと知ると、真剣な表情を浮かべてゼブルの方を向いた。
「全員が砦の奪還を決意しました。ゼブル殿、改めてお願いいたします。奪われた砦を取り戻すため、お力をお貸しください」
「ああ、勿論だ」
自身が支配するモンスターたちの力をアルシェスたち王国の人間や公国軍に見せつけるため、ゼブルは手加減せずに公国軍を倒すつもりでいた。
「では、砦の奪還作戦が決定しましたので、次に奪還のために動かす我が軍の戦力について検討させていただきます」
セプティロン王国の砦を取り返すのに王国軍が動かないわけにはいかない。ロズリングは机に広げられている地図を見ながら砦に向かわせる王国軍の部隊について話し始める。
アルシェスとドザリックスも同じように地図を見ながらどれほどの戦力を送るか考えた。
現在リントスジンにいる王国軍の戦力は百二十ほどだが、数時間前の公国軍との戦いで負傷者が出てしまい、全力で戦える者は少なくなっている。更にリントスジンを防衛や前の戦いで出た公国兵たちの死体の片づけに回す人員を考えると、砦には僅かな戦力しか送れない。
本当なら僅かな力を分断したりせず、全てリントスジンの防衛として配備するべきだろう。
だが、ゼブルが部隊を用意してくれているのに王国軍が最前線に出さず、都市の防衛に就くことなどできないため、アルシェスたちは可能な限り砦の奪還に戦力を回そうと思っていた。
「我が軍の現状とリントスジンの防衛を考えると、砦に向かわせられる戦力は多くて二十前後です。……僅かな戦力しか動かせませんが、どうかご了承ください」
ロズリングはゼブルの方を向き、少しの戦力しか用意できないことに対して申し訳なさそうな顔をする。
「別に構わない。もともと砦の奪還は俺の部隊だけでやるつもりでいたからな」
「そ、そうですか……」
数が少なくても不満を見せないゼブルを見て、ロズリングは安心したのか静かに息を吐いた。
ゼブルの用意した部隊なら、王国軍が共闘しなくても問題無く砦にいる公国軍を倒すことができる。ただ、王国軍にはゼブルが用意した部隊の強さを理解してもらうため、砦を奪還するところを目撃してもらわないといけない。
そのため、王国軍の戦力が少なくても問題は無く、不要な状況であってもゼブルは王国軍を砦の奪還作戦に参加させるつもりでいた。
「因みに同行する我が軍の編成や人材について、何かご希望はありますか?」
「そうだな……なら、アルシェス王女を作戦に参加させてほしい」
指名されたアルシェスは意外そうな表情を浮かべてゼブルの方を向く。
アルシェスだけでなく、ティリアやドザリックス、ロズリングもアルシェスを奪還作戦に参加させるという希望を聞いて一斉にゼブルに注目した。
「アルシェス王女にはセプティロン王国の王族として、俺の部隊が砦を奪還するところを間近で見てもらう。戦い終わった後にオルジムス王やミュリンクスにいる貴族たちに説明してもらうためにな」
ゼブル自身の力や支配するモンスターたちの力をセプティロン王国の国民たちに知らせるなら、国王であるフォルテドルや重役の貴族たちに説明し、それを国中に広めてもらうのが一番だろう。
フォルテドルたちに知らせ、信用してもらうのなら王女であるアルシェスに説明してもらった方がいいと考えたゼブルはアルシェスを同行させ、戦いの全てを見てもらおうと考えたのだ。
ゼブルの狙いに気付いたティリアは納得した反応を見せる。ただ、王女であるアルシェスを二万の敵がいる砦の奪還に同行させるのには少し抵抗があったため、万が一アルシェスが自分たちに同行し、彼女の身に危険が生じたら自分が守ると決意する。
「どうだ、アルシェス王女。危険な砦に向かうのが嫌だと言うなら無理強いはしないぞ?」
「……いえ、同行させていただきます」
アルシェスの返事にドザリックスとロズリングは軽く目を見開く。
ティリアはアルシェスが同行を希望するだろうと予想していたため、返事を聞いても驚かなかった。
「私自身もゼブル殿や配下のモンスターたちの力を自身の目で確かめたいと思っていました。ですから、同行してほしいというのは願ってもないことです」
「そうか、なら決まりだな」
自分の望んだとおりの展開になったことでゼブルは機嫌の良さそうな口調で呟く。
ティリアはゼブルの反応を見て、まるで子供のようだと感じながら苦笑いを浮かべた。
それからゼブルたちは出発の時刻や王国軍の編成や指揮を取る者、砦までの道のりや時間などを細かく話し合った。
――――――
翌日、太陽が昇って明るくなると大勢の騎士と兵士が東門からリントスジンの外に出る。理由は勿論、昨日の戦闘で死亡した公国兵たちの死体を片付けるためだ。
一晩放置したことで死体の腐敗は進んでおり、東門を開けた瞬間に腐敗臭が都市内に流れ込んできた。
騎士たちはその強烈な臭いに耐えながら東門を潜り、死体を一つずつ丁寧に処理していく。処理する者の中には人手不足を補うために参加した一般人も何人かおり、彼らも表情を歪めながら騎士たちの手伝いをしている。
腐敗臭と損傷の酷い死体、そして東門の前を埋め尽くすほどの量に騎士たちは不快感を感じながら一つずつ死体を一ヵ所に集めていく。
死体処理に慣れていない一般人の中には気分を悪くし、城壁にもたれながら休んでいる者もいた。
騎士たちは不快感に耐えながら死体を処理していくが、周りにはまだ大量の死体が転がっている。しかも東門から遠く離れた場所にも沢山の死体があるため、全てを片付けるには二、三日はかかるだろう。
数日も腐敗臭に耐えながら死体を片付けなくてはならない現状に騎士たちは気を重くしていた。
東門から少し離れ所にはゼブルたちの姿があった。ゼブルの周りにはティリア、シムス、アリスが立っており、正面にはアルシェスと彼女と共に砦へ向かう王国軍の騎士たちが隊列を組んで立っている。
ゼブルたちがいる辺りには死体は一つも無いため、緑色の平原を見ることができる。だがそれでも微かに腐敗臭が風に乗ってくるため、臭いを嗅いだティリアやアルシェスたちは僅かに表情を歪めた。
砦の奪還作戦にはアルシェス以外に第三騎士団の第四小隊長のハリス・ラーナモと第四小隊に所属している騎士が十人。そして第三騎士団の遊撃隊員である若い男の騎士と女騎士が五人ずつ。合計二十二人が参加している。騎士たちの後ろでは移動手段である馬が同じ数だけ待機してた。
今回の作戦に参加している部隊は第三騎士団の騎士で構成されているため、指揮は第三騎士団の小隊長であるハリスが執ることになっている。
アルシェスも団員のことを何も知らない自分よりもハリスの方が適任だと判断し、部隊の士気をハリスに任せることにした。
「全員揃ってるようだな」
「ハイ、いつでも出発できます」
返事をしたアルシェスを見た後、ゼブルは集まっているハリスたちに視線を向ける。
ゼブルに見られたことでハリスや騎士たちは緊張し、目を見開いたり小さく震えたりしながらゼブルを見つめた。
集まっている騎士の大半は昨日の防衛戦で東門に配置されていた者で、ゼブルの実力と公国兵たちが惨殺される光景を目撃している。そのため、強大な力を持つゼブルを前に恐怖と不気味さを感じていた。
部隊の指揮を執るハリスもゼブルが公国兵を蹴散らす姿を目の当たりにしていたため、ゼブルの恐ろしさを理解している。今回の作戦でゼブルの機嫌を損ねるような言動をしないよう気を付けなくてはならないと心の中で自分に言い聞かせ続けていた。
「準備が整ったわけだし、早速移動する。……と、言いたいところだが、出発は俺の部隊が合流してからだ」
「ゼブル殿の部隊……確か転移魔法ですぐにこちらに呼び出せると聞きましたが……」
「ああ、向こうでは既に俺の部下が部隊の編成を終えている。今すぐにでも呼び出せるが、どうする?」
「是非、お願いします」
アルシェスが迷うことなく部隊を呼んでほしいと頼むと、ゼブルは右手を右側頭部にそっと当てて連絡を発動させる。
「テオフォルス、聞こえるか?」
(ハイ、魔王様)
ゼブルの頭の中にテオフォルスの声が響いた。
「待たせたな。セミラミスと一緒に部隊を連れてリントスジンへ来い」
(分かりました。すぐ向かいます)
連絡を待ち望んでいたのか、ゼブルからの呼び出しを受けたテオフォルスは少し明るい口調で返事をした。
「俺たちは今、リントスジンの東門の外側にいる。正確な位置は分かってるな? そこに転移門を開いて部隊と一緒に来るんだ」
(ハッ!)
テオフォルスが返事をするとゼブルは連絡を解除してテオフォルスたちが転移してくるのを待つ。すると、ゼブルたちの右側に大きな紫色の半円状の靄が出現し、ゼブルとティリア、魔将軍たちは一斉に靄の方を向いた。
突然現れた大きな靄にハリスや騎士たちは驚愕する。
ただ、アルシェスは以前同じものを見たことがあるため、ハリスたちのように驚いてはいない。同時にこれから何が起こるのか察し、無言で靄を見つめていた。
ゼブルたちが注目していると、靄の中からテオフォルスとセミラミスが姿を現し、ゼブルを見つけると小さく笑いながらゼブルの方へ歩いて行く。
「ボス、待ちくたびれたぞ。いつまで経っても連絡がないから、あたしらのこと忘れたのかと思ったよ」
「そんなわけねぇだろう」
歩いてくるセミラミスを見てゼブルは軽く肩を竦めながら答える。
セミラミスは自分が戦う機会が訪れて気分を良くしているのか、ゼブルの前まで来るとニッと笑いながら両手を腰に当てた。
テオフォルスもセミラミスの隣で立ち止まり、ゼブルに軽く頭を下げて挨拶する。
「魔王様、ご命令どおり公国軍を倒すための部隊を用意しました。彼らなら例え四万近くの相手だろうと問題無く殲滅させることができます」
「そうか。なら早速見せてもらおうか」
「かしこまりました」
返事をしたテオフォルスは振り返り、靄の扉を見つめながら右手を上げて何かに合図を出す。その直後、靄の扉の中から大勢の昆虫族モンスターが隊列を組みながら姿を現した。
アルシェスやハリスたちは突然現れたモンスターの群れを見て驚きのあまり目を見開く。
遠くで公国兵の死体の処理をしていた者たちも作業を中断し、驚きながら靄から出てくるモンスターたちを見つめている。
昆虫族モンスターたちは隊列を崩すことなく、静かにゼブルたちの前に並ぶ。やがて全ての昆虫族モンスターが出てくると靄の扉は収縮して消滅する。
現れた昆虫族モンスターは全部で四種類おり、数はゼブルが宣言したとおり三百体。昆虫族モンスターたちは下顎を小さく動かしながら命令されるのを待っていた。
四種類の内、一体は身長170cmほどで鎧のような青銅色の甲殻と鋭い赤い目、触角を持った人型のモンスターで赤いマントと柄の長いランスを装備している。
数は百体でゼブルがトリュポスでフォルテドルと会談を行った際、儀仗兵としてフォルテドルたちを出迎えた昆虫族モンスターと同じ存在だった。
二体目は身長160cm強、濃い橙色の顔に丸みのある黄色い目と鋭い下顎を持ち、長めの触角を二本生やした人型の昆虫族モンスター。
フード付きの砂色のローブを着ているので顔以外は見えず、背中には黒い厨子を背負っている。数は五十体で外見からして魔導士系のモンスターのようだ。
三体目は二本足で立つ3m弱で黄色い目と太い腕、短い足を持ち、深緑の甲殻で覆われ、頭部からは太い一本角が生やしたモンスター、タンクビートルだった。
数は百体でその大きな体と数は王国軍の騎士たちに威圧感を与えている。
そして四体目は体長4m程で八本の肢を持った濃い茶色の体をした蜘蛛のモンスターだった。
顔には八つの黒い目、鋭い牙が付いた上顎と下顎を持ち、腹部には昆虫族モンスターには似合わない細長い砲身が付いた灰色の砲塔がついている。数は五十体でタンクビートルのように大きな体で威圧感を漂わせていた。
目の前に並ぶ見たことの無いモンスターの大群に騎士たちは固まっている。
アルシェスとハンスも微量の汗を流しながら無言でモンスターたちを見つめていた。
「どうだ? これが俺の用意した部隊だ」
ゼブルに声をかけられたアルシェスとハリスは我に返ってゼブルの方を向く。
「す、凄い部隊です。これなら公国軍も敵ではありません……」
苦笑いを浮かべるアルシェスはゼブルが用意した部隊を称賛する。
最初はどんな部隊を用意するのか分からなかったが、目の前にいる昆虫族モンスターたちを見た瞬間、アルシェスは砦にいる公国軍を圧倒できるかもしれないと感じるようになった。
ゼブルはアルシェスや他の騎士たちの反応を見て、昆虫族モンスターたちを恐れているとすぐに理解する。アルシェスたちが配下のモンスターたちの恐ろしさを知ったことで、セプティロン王国に新国家の軍事力の高さを分からせることができたとゼブルは気分を良くしていた。
「さて、無事に合流できたことだし、砦の奪還に向かうか」
「は、ハイ」
返事をしたアルシェスはハリスの方を向き、出発することを目で伝えた。
ハリスはアルシェスの目を見て彼女の意思を感じ取ると、昆虫族モンスターたちを見て固まっている騎士たちに指示を出す。
移動すると知らされた騎士たちは我に返ると昆虫族モンスターたちを警戒しながら全員馬に乗る。
アルシェスとハンスも自分の馬に乗って出発する準備を済ませた。
全員が馬に乗るのを見たゼブルは待機していた蜘蛛のモンスターを二体、自分の所まで来させる。
ゼブルは蜘蛛のモンスターの一体にティリア、テオフォルスと共に乗った。砦まで徒歩で移動するつもりの無いゼブルは蜘蛛のモンスターに乗って移動することにしたのだ。
もう一体にはセミラミス、シムス、アリス、そしてダイナが乗り、全員が乗るとゼブルは砦がある方角を向く。
「それじゃあ、出発だ」
呟いたゼブルは乗っている蜘蛛のモンスターに指示を出して移動を始める。
セミラミスたちが乗る蜘蛛のモンスターや昆虫族モンスターたち、そしてアルシェスたちもゼブルに続いて砦に向かう。
ゼブルたちが移動する姿を死体処理をしていた者たちは愕然としながら見つめ続けていた。




