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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第3章  救済の魔蟲
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第45話  王たちの対談


 フォルテドルたちはゼブルの答えを聞いて一斉に反応する。

 魔王を名乗っているのだからこの世界の征服を狙っていることは予想していたが、実際に本人の口から聞かされると衝撃を受けてしまう。

 同時にゼブルも二百年前の魔王と同じなのだなとセプティロン王国側の全員が感じていた。


「勘違いしないよう先に言っておくが、俺は平和的なやり方で世界を征服するつもりでいる」

「は? 平和的なやり方?」


 魔王とは思えない発言にフォルテドルは思わず聞き返す。

 世界を支配しようとしているのに平和的なやり方をするというゼブルの矛盾してると言える考え方にフォルテドルだけでなく、アルシェスたちも目を丸くしていた。


「そうだ。戦争や脅迫と言った野蛮なやり方はせず、交渉や思想を広めたりなどして国や国民を手に入れる。それが俺のやり方だ」


 自分は思想型の魔王であると語るゼブルを見て、フォルテドルは本当に目の前にいるのは魔王なのかと疑問を抱く。

 伝承や書物では二百年前の魔王は力と恐怖で世界を支配しようとしていたため、ゼブルも同じ考え方をしているとフォルテドルは予想していた。

 だが実際は正反対の思考を持っていたため、二百年前の魔王と比べるとゼブルは魔王らしくないと感じている。

 しかし、会談に参加しなかった場合は相応の対処をするという半分脅迫とも言えるような行動を取っているため、平和的なやり方を望んでいると言われても完全には信用できない。

 真実かどうか判断するためにも、フォルテドルはもう少し情報を聞き出すことにした。


「……ゼブル殿、申し訳ないですが、貴方の言うことが信用できません」


 黙って会話を聞いていたアルシェスがゼブルを見つめながら発言する。

 許可を得ることなく突然喋った上にゼブルを信じていないとハッキリと語るアルシェスを見てフォルテドルは思わず目を見開く。

 フォルテドルだけでなく、ザルガートや秘書官、ティリアまでもが同じように驚きの表情を浮かべながらアルシェスを見つめていた。

 待機していた魔将軍たちは僅かに目を鋭くしながらアルシェスを見ている。そこの目には自分たちの主人に無礼な態度を負ったアルシェスに対する不満が宿っていた。

 しかし当のゼブルはアルシェスの発言に気分を悪くすような様子は見せておらず、落ち着いた態度を取っている。


「信用できないのは当然だな。俺はアンタたちからしてみればこの世界を脅かす魔王なんだから」


 魔王を名乗る以上、この世界の人間からすぐに信用されないのは当然のこと。だからゼブルはアルシェスから信用できないと言われても機嫌を悪くしたり、感情的になって言い返したりしなかったのだ。


「それもありますが、私は貴方が魔王であること以外にも信用できない理由があります」

「アルシェス、よさないか」

 

 仮にも会談相手であるゼブルに対して失礼は発言を続けるアルシェスを見て、フォルテドルも流石に止めに入る。

 相手は魔王を名乗っているため、これ以上無礼な言動を取って怒りを買えばセプティロン王国の存亡に関わることになりかねなかった。

 アルシェス自身も魔王を名乗る者の機嫌を損ねることがどれだけ危険な行為なのかは十分理解している。だがゼブルの発言の中でどうしても納得できない点があり、それが原因でアルシェスはゼブル発言を信じることができずにいた。


「別に構わないぞ、オルジムス王」


 ゼブルはアルシェスの発言や態度に機嫌を悪くすることなく、続けても問題ない態度を取る。

 フォルテドルはゼブルの反応を見て呆気にとられたような顔をした。てっきり機嫌を悪くしてセプティロン王国に敵対するかもしれないと予想していたため、ゼブルが機嫌を悪くしていないのを見て驚き、同時に最悪の結果にならずに済んで安心する。

 アルシェスは自分の発言でゼブルが気分を悪くしていないと知り、真剣な表情を浮かべてゼブルを見つめる。顔こそ落ち着いているよう見えるが、内心ではフォルテドルと同じように機嫌を悪くしていないことに安心していた。

 ゼブルの隣でやり取りを見ていたティリアはゼブルを見て内心ホッとする。姉のような存在であるアルシェスがゼブルの怒りを買い、とんでもない目に遭うかもと彼女も不安になっていたようだ。


「アルシェス王女、アンタは今俺が魔王であること以外にも信用できない理由があると言ったが、それが何なのか教えてくれるか?」


 いったいどんな理由で自分が信用できないのか気になるゼブルは改めてアルシェスに尋ねる。

 アルシェスは静かに短い深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、ゼブルを見つめながら口を開く。


「ゼブル殿は先程、野蛮なやり方は行わないと仰っていました。ですが、ティリアやフォリナス伯にしたことを考えるとどうしても信用できないのです」

「ティリアとフォリナス伯にしたことだと?」

「そうです。二人を洗脳して自身に従わせることは野蛮なやり方ではないのですか?」

「はぁ? 洗脳?」


 まったく予想もしていなかった言葉を聞いてゼブルは思わず聞き返す。

 ティリアも自分がゼブルに洗脳されていると語るアルシェスを見て目を丸くしていた。

 話を聞いていたフォルテドルはアルシェスがゼブルを信用していない理由を知って納得する。

 確かに自国の民を洗脳して従わせるのは野蛮なやり方と言えるため、平和的に世界征服をするというゼブルの言葉は信用できないと考えるだろう。

 しかし、会談前に話したようにティリアとレテノールが本当に洗脳されているかはまだ分からないため、フォルテドルは会談中に確かめるつもりでいた。にもかかわらず、確実に洗脳していると考えるアルシェスを見てフォルテドルは僅かに表情を歪ませる。

 アルシェスはフォルテドルたちと話した際は“洗脳されている可能性がある”と考えていたが、友人であり妹のような存在だあるティリアがゼブルを様付けで呼んだり、ゼブルの傍で控えている姿を見て“既に洗脳されている”と考えるようになっていたのだ。

 意味が分からずにいるゼブルは右隣で控えているティリアの方を向いて「どういうことだ?」と目で尋ねる。

 ティリアはゼブルの視線に気付くと「自分にも分かりません」と言いたそうに首を横に振った。

 何がどうなっているのかゼブルは考え込む。すると何かに気付いたゼブルは顔を上げてアルシェスの方を向いた。


「あー、アルシェス王女? 何か誤解してるようだが、俺はティリアやフォリナス伯を洗脳などしてないぞ。二人は自分の意思で俺に従っているんだ」

「なっ、何?」


 ゼブルの言葉にアルシェスは耳を疑う。

 フォルテドルたちも洗脳していないと聞かされ、目を見開いて驚いていた。


「そ、そんな馬鹿な、二人が進んで魔王の仲間になるなんて……」

「アルシェス殿下、本当です」


 俯きながら驚きの表情を浮かべるアルシェスにティリアはゼブルの言うことは事実だ伝える。

 アルシェスはティリアの言葉を聞くと顔を上げてティリアを見た。

 目の前にいるティリアは申し訳なさそうな表情を浮かべており、それを見たアルシェスは本当に洗脳されていないと悟る。

 魔法や技術スキルなどで他人を洗脳、魅了チャーム状態にした場合、洗脳した者が指示しない限り対象は行動も喋りもせず、与えられた命令の内容以外のことはしない。

 他にも魔法や技術スキルの種類にもよるが長時間操ることはできず、複雑な命令を熟すこともできないため、使い方が難しいと言われている。

 ティリアはゼブルが指示する前に自分から洗脳されていないことをアルシェスに伝えた。そのため、フォルテドルたちはティリアが自分の意思で行動していると知り、本当に洗脳されていないと悟った。


「ティリア、お前が自分の意思でゼブル殿に従っているということは、フォリナス伯も洗脳されておらず、自分の意思でゼブル殿の配下となったのか?」

「……ハイ」

「なぜだ! どうして魔王であるゼブル殿に……」


 アルシェスはティリアとレテノールが自ら人類の敵である魔王の配下となったことが受け止められず、若干興奮した様子で尋ねる。

 ティリアはアルシェスやフォルテドルたちに対して申し訳ない気持ちになり、若干暗い表情を浮かべながら俯く。


「ティリアは俺と取引をしたんだ。俺の協力者になるから望みをかなえてほしいと言う内容でな。フォリナス伯は俺と賭けをし、その賭けに負けて協力者となったんだ」


 答えられないティリアに代わってゼブルがフォルテドルたちに事情を説明した。


「取引とは、いったいどういうことだ? なぜティリアが貴殿と取引することになったのだ?」


 自分の国の民が魔王と取引しなくてはならない理由とは何なのか、フォルテドルはゼブルに尋ねた。

 もしかするとゼブルが何かを仕組み、ごく自然に取引に応じなければならない状況を作ったのではとフォルテドルは予想する。もしそうだとしたら、卑劣なやり方で仲間にしたと指摘し、ティリアとレテノールを解放するよう要求するつもりでいた。


「取引について詳しく話すのなら、まずは俺がこの世界に来た直後のこと、つまり俺がティリアに出会った時のことを話すべきだな」


 決して強制的に取引に応じさせたわけではないとフォルテドルたちに理解してもらうため、ゼブルは異世界に転移した日のことを説明することにした。

 勿論、教えてはならないことや教える必要の無い情報を話すつもりは一切ない。

 ゼブルはティリアが自分の協力者となった理由やそのきっかけをフォルテドルたちに一から順に語り始める。

 そこからゼブルは二十分近く掛け、ティリアとレテノールが協力者となった理由を説明した。


――――――


 話を聞き終えたフォルテドルたちは驚きの表情を浮かべる。

 ゼブルが盗賊に襲われていたティリアを助け、捕まった騎士たちを救うためにティリアが自信を報酬にしてゼブルに助けを求めたこと。レテノールがティリアを取り戻すために自身の全てを賭けてゼブルと勝負し、それに敗れてゼブルの協力者になったことなど、自分たちの知らない所で驚くべきやり取りがあったことに衝撃を受けていた。


「……と言うわけで、ティリアは仲間を助けるために自分から報酬になることを決め、俺の協力者となったんだ」

「仲間のために自分を報酬に……ティリア、本当なのか?」


 魔王であるゼブルの口から聞いても完全には信じられないアルシェスはティリアに直接確認する。

 ティリアはアルシェスやフォルテドルたちの方を向くと真剣な表情を浮かべて口を開く。


「ハイ、そのとおりです。あの状況ではトリュポスに救援を呼びに行く余裕も無く、私は盗賊に捕まったソフィア隊長たちを助けるため、ゼブル様と取引をしました」


 ゼブルが語ったことは全て真実であると語るティリアを見て、アルシェスは目を見開きながら固まる。

 友人が自分の意思で人類の敵である魔王の配下になったと聞かされたのだから無理もない。ましてやそれが妹のように親しい存在なら尚更だ。


「私はゼブル様の協力者となり、ゼブル様の目的のために協力することになりました。……ですが、私は後悔はしておりません。ゼブル様に助けを求めなければ、隊長たちも助かりませんでした。あの時の選択は間違ってはいないと私は思っております」


 迷いなどが一切感じられない目をするティリアを見て、フォルテドルたちは僅かに表情を曇らせる。

 フォルテドルとアルシェスには今のティリアは魔王であるゼブルに仕えることを誇らしく思っているように見えたため、セプティロン王国の王族としてはティリアが魔王に忠誠を誓うことに対して複雑な気分になっていた。


「フォリナス伯もティリアを取り戻すための勝負に敗北し、俺の協力者となった。最初は抵抗を感じていたようだったが、ティリアと会うことができると知ったら進んで協力するようになったよ」

「なっ、進んで協力を……フォリナス伯は何を考えているのだ。王国貴族でありながら、陛下を裏切るような行動を取るとは……」


 ザルガートは軽く俯きながらレテノールの行動を不愉快に思う。

 いくら賭けに負けたからとは言え、領地を自ら差し出し、セプティロン王国の貴族としての誇りを捨てて魔王に協力者になるなど、王国を守る騎士のザルガートにとっては許せない行動だった。


「よさないか、ザルガート」


 機嫌を悪くするザルガートにフォルテドルは声をかける。

 ザルガートは止められたことに驚きながらフォルテドルの方を向いた。


「陛下、しかしフォリナス伯は……」

「確かにフォリナス伯はこの国の貴族でありながら、魔王であるゼブル殿に忠誠を誓った。だが娘であるティリアを取り戻すために自身の全てを賭けてゼブル殿と勝負したのだ。一人の親としては間違った行動はしていないと私は思っている。その覚悟を否定するような発言をしてはならない」


 セプティロン王国に仕える領主、辺境伯としては問題ある行動と思われるかもしれないが、一人の人間、父親としては立派だとフォルテドルは考えている。

 そのため、賭けに負けて王国領の一部をゼブルに差し出し、国を裏切って忠誠を誓ったとしてもレテノールの行動の全てを否定するつもりは無かった。

 ザルガートはフォルテドルの言葉に若干不満そうにしながら黙り込む。

 娘を助けるために選択したことはザルガートも分かっている。だがそれでも王国の貴族でありながら、フォルテドルを裏切るような行動を取ったことにはやはり納得ができなかった。


「ゼブル殿、どんな事情があったにせよ、貴殿が我が国の騎士たちを救ってくれたことは事実だ。国を治める者として礼を言わせてもらう」

「別にいいさ。俺は俺の利益のためにソフィア隊長たちを助けたんだからな。……それにティリアやソフィア隊長たちはもうセプティロン王国の民じゃない。だから、アンタが礼を言う必要も無い」


 ゼブルの言葉にフォルテドルは小さく反応し、僅かに目を細くしながらゼブルを見つめる。


「ゼブル殿、我が国の民ではないと言うのはどういう意味かな?」

「言ったとおりだ。トリュポスに住むソフィア隊長たち……いや、フォリナス伯から譲ってもらった領地にいる全ての人間はセプティロン王国の人間ではないという意味だ」

「……申し訳ないのだが、私たちにも理解できるよう分かりやすく話していただけるか?」


 何だかとてつもなく嫌な予感がする、そう考えるフォルテドルはゼブルを見ながら微量の汗を流す。

 ゼブルの様子からセプティロン王国にとって都合の悪いことを企んでいる可能性が高い。そう感じながらフォルテドルはゼブルを見つめる。


「俺はフォリナス伯が治めていた領地に新しい国を創る」

「く、国ぃ!?」


 突然の建国宣言にフォルテドルは思わず力の入った声を出す。

 フォルテドルだけでなく、アルシェスやザルガートたちも信じられない発言をしたゼブルを見ながら驚愕していた。


「さっき俺はフォリナス伯の領地に拠点を造り、ある計画の準備を進めていると言ったな? その計画と言うのが新国家の建国だ」

「新国家……その国と言うのは当然、ゼブル殿が統治する国なのだな?」

「当然。建国した暁にはこのトリュポスを中心都市とする。つまり、トリュポスの住民は全員新国家の人間になる」

「だから我が国の民じゃない、と言うことか」


 ゼブルの言った言葉の意味をようやく理解したフォルテドルは納得する。だが同時に正当な手段で手に入れたわけではない領地を既に自分の物と考えている点から意外と図々しい性格をしていると感じていた。


「実は今回の会談にアンタを呼んだのは俺たちの今後を話し合う以外にも新国家を創ることをアンタたちに教えるためでもあったんだ」

「なぜ、私たちに?」

「フォリナス伯の領地は以前王国の領土だったわけだから、元々の持ち主であるアンタには教えておくのが筋だと思ったからだ」

「成る程、そういうことか……」


 図々しい思考の持ち主だが、最低限の律儀は持っているのかもしれないと感じたフォルテドルは少しだけゼブルの見方を変えた方がよいと考える。


「フォリナス伯から受け取った領地は既に俺の物となっている。そこを俺が統治する新国家の領土としても問題は無いだろう?」


 確認してくるゼブルをフォルテドルは無言で見つめる。

 本来なら馬車でアルシェスたちと話したようにレテノールの領地を返還するようゼブルに頼むべきなのだが、盗賊からティリアたちを助けたことやレテノールが自分の意思で領地を差し出したことを考えると変換してくれとは言いづらい。

 何よりも相手は魔王でこれから国家を建国しようとしている。そんな相手に領地の返還を求めたり、交渉をしても応じてくれるとは思えなかった。


「……確かに貴殿の領土に貴殿の国を創っても問題は無いだろう」


 ゼブルはフォルテドルの返事を聞くと小さく反応する。今のフォルテドルの発言はレテノールの領地がゼブルの所有地になることを認めたことを意味していた。


「意外だな。『正当な方法で手に入れたわけではない領地を魔王の所有地として認めるわけにはいかない』とか言うと思ってたんだが……」

「領主であるフォリナス伯が自分の意思で自身の領地を差し出した以上、正当な方法でないとしても認めるしかない。それに私も辺境のために魔王を名乗る者を敵に回すつもりはない」


 領地を取り返すのが難しい以上、フォルテドルにできることは大人しくレテノールの領地をゼブルに差し出すことだけだった。

 話し合いで取り返せないのなら力で取り返せばいいと思えるが、争いを好まないフォルテドルにその選択を選ぶ気は無い。何よりもゼブルとその配下と戦って勝つ自信はフォルテドルには無かった。

 英雄級の実力者でも倒せないモンスターを支配している存在となれば間違いなくセプティロン王国騎士団最強であるザルガートよりも実力は上だ。

 しかも目の前にいる魔王は人間や亜人ではなく、モンスターのような存在であるため、人間では対処できない強力な魔法や技術スキルを修得している可能性もある。

 そんな未知の力を持つ存在と領地を取り返すために戦っても勝てる確率は低く、セプティロン王国が甚大な被害を受ける可能性が高い。

 ゼブルを敵に回してセプティロン王国を窮地に立たせるくらいなら、南部の僅かな領土を差し出した方がいいとフォルテドルは考え、レテノールの領地を諦めて差し出すことにしたのだ。

 フォルテドルの考えを悟ったアルシェスやザルガート、秘書官は深刻な表情を浮かべる。

 できることならレテノールの領地を問題無く取り戻したかったが、現状から考えてそれは難しいと感じ、アルシェスたちもレテノールの領地を取り戻すことを諦めることにした。


「ゼブル殿、フォリナス伯の領地、我が国の南部を正式に貴殿の所有地として差し出す。……ただ、こちらにも一つ希望がある」

「何だ?」

「南部の民たち、つまり貴殿の新国家の民となる者たちを無下に扱わないと約束してほしい。貴殿の国の民になるとはいえ、元は我が国の民たちだ。その民たちが傷つけられ、苦しめられることは王として耐え難い。どうか南部の民たちを人道的に扱うことを保証してほしい」


 レテノールの領地を取り戻せないと言うことは民たちもゼブルの支配下に置かれるということになる。魔王の国の民になることが避けられないのなら、せめて彼らが安心して暮らせるようにしたいとフォルテドルは願い、ゼブルに民たちの身の安全を約束してほしいと願い出た。


「安心しろ、俺は魔王ではあるが悪魔じゃない。自分の国の民になる人間たちを奴隷ように扱う気は無い。建国後はトリュポスや周辺の村々の人間たちもこれまでどおりの暮らしをさせるつもりでいる」


 無下に扱う気は無いとゼブルから聞かされたフォルテドルは安心して表情を和らげる。

 てっきり魔王を名乗る存在であるため、人間や亜人を傷つけたりするのではと予想していたため、ゼブルの答えを聞いて安心すると同時に意外に感じていた。

 ゼブルは魔王として世界征服をするためには自分の新国家が強大な力を持つだけでなく、周囲に国として成り立っていると認めさせる必要があると考えている。

 国として認めさせるためにも民たちが不満や不安を感じることない環境を作るべきだと考えるゼブルはフォルテドルが言うように民を無下に扱わずに国を統治するつもりでいた。


「ただ、人間たちが反逆と言った明らかな敵対行動を取った際はそれ相応の対処を取るつもりだ」

「うむ、それに関しては国を治める者として当然の判断だ」


 国民を人道的に扱うことは大切だが、国の治安などを守ることも大切だ。一国を統治する者として、治安を乱す輩には処分を与えるのは当然のことなのでフォルテドルもゼブルが敵対者に手荒な対処をすると聞かされても反対しなかった。

 ただ、内心では些細なことで死刑にしたり、国外追放すると言った度を越した対処はしないでほしいと願っている。

 ティリアとレテノールがゼブルの配下となった件。レテノールの領地がゼブルの物となり、そこに新しい国が建国される件が片付き、フォルテドルは少しだけ肩の荷が下りたような気分になる。

 アルシェスたちもここまで問題無く会談を進めれていることに安心し、静かに息を吐いたりしながら気持ちを落ち着かせた。


「さて、他に何か話すことはあるか?」


 ゼブルが質問や確認することが無いか尋ねるとフォルテドルはフッと反応する。

 まだ会談の最中なのだから、全てが終わるまで気を抜いてはいけない。フォルテドルは自分に言い聞かせながらゼブルを見つめた。


「では、ゼブル殿が新国家を建国した後について聞きたいのだが、建国された後はどうするつもりだ?」

「最初に言ったように俺の目的は世界征服だ。建国後はこの大陸にある国家を時間を掛けながら一つずつ支配下に置いて行く。……勿論、セプティロンもな」


 ゼブルの言葉にフォルテドルやアルシェスたちは目を大きく見開く。

 会談が順調に進んでいたことでフォルテドルたちは和やかな気分になっていたが、今のゼブルの一言で再びフォルテドルたちの顔に緊張が走る。


「我が国を支配下に?」

「ああ。世界の全てを支配することが目的なんだ。セプティロンも支配の対象に入っているのは当然だ」

「ま、待ってほしい。我が国は貴殿と敵対する気は無い。私としては貴殿とはできるだけ友好的な関係を築きたいのだ。だから――」

「同盟を組めと?」


 言おうとしていたいことを先に言うゼブルにフォルテドルは思わず表情を歪めて口を閉じる。

 アルシェスたちはフォルテドルが魔王を名乗る者と同盟を組もうとしていたいのを知って驚きの反応を見せる。

 この世界にとって魔王は忌むべき存在。その魔王と友好的な関係を持つのはともかく、協力関係となる同盟を組むのは悪い選択と言えるだろう。

 しかし未知の力を持つゼブルを相手に敵対するような行動を取るのはあまりにも危険と言える。

 アルシェスたちはフォルテドルがセプティロン王国とその国民を守るために同盟を考えていると気付くとフォルテドルの発言を否定することなく、黙ってゼブルとのやり取りを見守った。

 フォルテドルの反応を見たゼブルは同盟を組もうというのは図星だと知り、呆れたような様子で溜め息をついた。


「先に言っておくが、俺はアンタらと同盟を組むつもりはない」

「……理由を聞いても?」

「俺は自分よりも弱い相手と同盟を組む気は無い。組むのは自分と同等の強さか才覚を持つ相手だけだ。自分よりも弱い連中がいる国とは友好的な関係を持つつもりではいるが、全て属国として支配下に置く」

「属国……」

「そもそもこの世界の人間にとって魔王はこの世界に災いをもたらす邪悪な存在として見られている。その魔王を名乗る俺と同盟を組むのは色々とマズいんじゃないか? 何も知らない国民や周辺国家の連中はアンタに幻滅すると思うぞ」


 国を守るためだとしても、魔王と同盟を組めば立場が危うくなると指摘されたフォルテドルは深刻そうな表情を浮かべる。

 支配下に入る属国と違って、同盟は同じ目的、思想を持つ者たちが手を組むこと。もし魔王であるゼブルと同盟を結べばフォルテドルは魔王に陶酔して同じように世界征服や全ての国の支配を狙っていると周囲は認識するはずだ。

 そうなれば国王としての信頼は失墜し、場合によっては貴族や国民たちによって内乱が起きるかもしれない。それはまさに国の存亡に関わる大問題だ。

 フォルテドルも同盟を結べば自身の立場が悪くなること、貴族や国民たちから反感を買うことは承知している。だが、ゼブルからセプティロン王国を確実に守るためには同盟を結ぶことが一番だと考えて同盟を結ぼうとしていた。

 しかしそれもゼブルによって拒まれ、同盟を結んで国を守るという選択肢は消えてしまった。


「国王って言うのは国民から信頼されてこそ意味がある。その信頼を失えば国は乱れ、誰もその国王について行こうとはしない。アンタも一国を治める立場なら国民から幻滅されるような選択はするな」


 ゼブルの発言にフォルテドルは驚いたような表情を浮かべながら顔を上げる。今の言葉はまるで自分に国王としての立場を理解し、間違った選択をするなと言っているように聞こえた。

 なぜ魔王であるゼブルが自分を正すような発言をしたのかフォルテドルには理解できなかった。だが、ゼブルに言われたことでフォルテドルは国と国民を守るための選択で、守るべき国民からの信頼を失うところだったと理解する。


「……確かに国王として間違った選択と言えるな」


 考えた結果、自分の過ちに気付いたフォルテドルは反省し、同盟を組むという考えを捨てる。

 フォルテドルの発言を聞いたアルシェスたちは小さく笑みを浮かべていた。フォルテドルが国のためにゼブルと同盟を結ぼうとしていたことは分かっていたが、やはり魔王と同盟を組もうという考えを受け入れることに抵抗があったため、その考えを捨ててくれたことで安心したようだ。


「しかし、同盟を組めないとなると、貴殿の国の属国にならなければならないということになる。正直、我々は魔王に支配されることには抵抗を感じているのだ……」

「別に強制する気は無い。アンタらが属国になりたくないのなら、ならなくてもいい。……ただ、その時は俺も別のやり方でアンタたちを支配下に置くつもりだ」


 別のやり方と聞いてフォルテドルはどんな方法を取るのだと、小さな不安を感じながら微量の汗を流す。


「俺は平和的にこの世界を征服すると言った。……だが、それも時と場合による。相手が俺に喧嘩を売って来たり、俺を怒らせるような行動を取った際は力でソイツらをねじ伏せるつもりだ」

「戦争を仕掛ける、ということか。……もしや貴殿は……」

「安心しろ、アンタらセプティロンに戦争を仕掛けたるつもりはない。少なくとも今の段階ではな。……もっともアンタらの方から宣戦布告をしたり、敵対するような行動を取った場合はこっちも全力で相手をするつもりだ」


 明らかな敵対行動を取れば確実に戦うことになる。フォルテドルはゼブルの発言から彼の恐ろしさを知り、目の前にいるのは間違いなく魔王だと感じていた。

 状況を整理すると今の段階では例え属国になることを拒んでもゼブルやその配下のモンスターたちと戦うことはない。しかしゼブルを挑発したり、戦争をほのめかす言動を取った際は戦うことになってしまう。

 フォルテドルたちが立場を悪くすることなく、安全に会談を終わらせる方法は属国になることを受け入れるか、属国になることを拒否し、その後にゼブルとできるだけ友好的に接しながら属国にならずに済む方法を考えるかのどちらかだった。


「改めて聞くが、俺が造る新国家の属国になるか? それともならないか?」


 ゼブルは目を薄っすらと黄色く光らせながら低い声でフォルテドルに尋ねる。

 フォルテドルはゼブルから感じられる威圧感に一瞬怯むが、すぐに真剣な表情を浮かべてゼブルを見つめた。

 現時点でフォルテドルにはゼブルと争う意思は無い。ただ、敵対するつもりが無くても魔王の国家、それもまだ存在していない国の属国になる気も無かった。

 ゼブルと友好的な関係を築くつもりだとしても、相手の都合のいいように動いたり、下に見られるわけにはいかない。


「……ゼブル殿、我々セプティロン王国は……」


 一国の王として、ゼブルを恐れずに属国に入る意思が無いことをフォルテドルは伝えようとする。

 その時、フォルテドルたちが部屋に入る際に通った扉が強くノックする音が響いた。


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