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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第3章  救済の魔蟲
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第42話  認識される魔王


「……フォリナス伯、今何と言った?」


 最初はレテノールの言葉の意味が分からずに呆然としていたフォルテドルだったが、しばらくすると我に返ってもう一度尋ねた。


「魔王を名乗る者が現れ、我が領地に居座っています」


 聞き間違いではないことを確認したフォルテドルは愕然とし、周りにいるゾルテスたちも大きく目を見開いた。


「フォリナス伯、冗談にしては笑えませんよ? たった今魔王が造ったダンジョンの話をしていたのに魔王が現れたなんて……」

 

 レテノールの隣に立つ若い貴族が苦笑いを浮かべながら声をかける。貴族は二十代後半くらいで身長は165cmほど、濃い緑色の短髪に黄色い目をしており、青と白の貴族服を着ていた。

 若い貴族はモーガン・ゼス・イグリンド。セプティロン王国の伯爵で南西を領地としている。王国の領主の中で最も若いが領主としての才能は優れており、自身の領地の民からも強く信頼されていた。

 領地が隣接し、同じ伯爵位であることからレテノールとは歳が離れていながらも親しい間柄で何度か実家に招いたこともあった。

 レテノールはモーガンの方を向くと深刻そうな表情を浮かべながら無言で見つめる。

 モーガンはレテノールの顔を見ると苦笑いを消し、驚きの表情を浮かべた。


「……本当、なのですか?」

「陛下の前でこんな質の悪い冗談を言うはずがないだろう?」


 本当に魔王が現れたと知って室内にいた貴族たちは動揺を見せる。

 現在室内にいる者は全員、二百年前の魔王が勇者に討たれた後に生まれた存在であるため、魔王がどれほどの力を持ち、恐れられているのかは知らない。

 しかし先祖が残した二百年前の歴史などが記された資料を読んだり、親や祖父母から魔王が邪悪で恐ろしい存在だと聞かされていたため、二百年前の出来事を知らない者たちも魔王に対して強い警戒心を持っていた。それだけ魔王は人々に影響を与える存在として見られているのだ。


「皆、落ち着くのだ」


 ざわつき貴族たちにフォルテドルは少し大きめの声を語り掛ける。フォルテドル自身も魔王を名乗る者が出現したことで驚いているが、一国の王である自分までもが動揺するわけにはいかない。

 家臣を不安がらせないためにも国王である自分は冷静でいなくてはとフォルテドルは自身に言い聞かせて平常心を保っていた。

 フォルテドルに声を聞いた貴族たちは一斉に口を閉じる。いくら魔王が現れたからと言って、詳しいことを何も知らないのに取り乱すなど見っともないことだと気付き、貴族たちは醜態を見せた自分を恥ずかしく思いながらフォルテドルに注目した。

 貴族たちが落ち着くとフォルテドルはより詳しく話を聞こうとレテノールの方を向く。


「フォリナス伯、色々と聞きたいことがあるのだが、まずその魔王を名乗る者はどのような存在なのか教えてくれ」

「ハイ……その者は自らをゼブルと名乗っておりました。見た目は人型の昆虫族モンスターのような姿で恐ろしい雰囲気を漂わせておりました」

「……それはつまり、貴公はそのゼブルと言う者に会ったことがあると言うことか?」

「は、ハイ。領内に突然現れ、私が管理している領地を自分の物にするといい、それ以降居座るようになったのです。しかもゼブルはとんでもない力を持っており、並の戦士や魔導士では太刀打ちできないほどの実力者と思われます」


 僅かに表情を暗くしながら説明するレテノールを見て、フォルテドルは緊迫した表情を浮かべる。

 レテノールの様子からゼブルという存在は自分が想像する以上に厄介な存在である可能性が高い。フォルテドルはゼブルに対する警戒を少し強くした方がいいかもしれないと考えた。


「フォリナス伯、ゼブルは何時頃から貴公の領地に居座っているのだ?」


 バリズは目を僅かに鋭くしながらレテノールに尋ねる。

 詳しいことは分かってないとはいえ、魔王を名乗る者が自分たちの国にいるのは気分が悪い。いったい何時から我が物顔でセプティロン王国に居座っているのかバリズは気になっていた。

 レテノールはバリズやフォルテドルたちが見つめる中、表情を曇らせたまま小さく俯く。


「今から一ヶ月ほど前です……」

「一ヶ月ぅ!?」


 予想していたよりも前からセプティロン王国にいたことを知ったバリズは思わず力の入った声を出す。

 フォルテドルやゾルテスたちも居座っている期間の長さに目を見開いて驚いていた。


「そんなに前から国内にいたのに、なぜすぐ陛下に報告しなかったのだ!?」

「申し訳ない。自分のことを誰にも話す言われていたため、報告できずにいました。何よりも相手は魔王を名乗っているため、下手に動くのは得策ではないと思い……」


 刺激するような行動ができなかったので知らせることができなかったと語るレテノールにバリズは若干不満そうな顔をする。

 相手が魔王を名乗っているため、危険な存在であることは分かっている。だがそれでも気付かれないよう何かしらの方法で情報をフォルテドルや他の領主に伝えるべだったのではとバリズは感じていた。


「事情は分かった。確かに相手が魔王を名乗り、どれほどの実力を持っているか分からない以上、敵に回すような行動を取るべきだは無いな」


 報告できなかったことを咎めることなく、状況から考えて仕方がないとフォルテドルは納得する。

 レテノールは事情を理解してくれたフォルテドルを見て頭を下げながら心の中で感謝した。

 他の領主や貴族たちはゼブルが二百年前に現れた魔王と同じように自分たちを支配しようとしているのではと小声で隣にいる他の貴族と話し合う。

 貴族の大半はゼブルを警戒しているが、中にはゼブルの実力を知らずに二百年前に現れた魔王よりも弱く、ただ知能の高いモンスターが魔王を名乗っているだけなのではと過小評価している貴族もいる。そう言った者たちは同じ考えを持つ貴族と笑いながら喋っていた。

 再びざわつきだす貴族たちを見たフォルテドルは貴族たちに聞こえるよう大きな声で咳をする。

 貴族たちはフォルテドルの咳を聞くとまだ話は終わっていないことを思い出して一斉に黙り込む。


「フォリナス伯、ゼブルは今は何をしている? 領内の都市や村などを襲ったりなどしているのか?」

「いえ、今のところ町や村を襲ってはいません。現在はトリュポスの近くに拠点を造り、そこで暮らしております」


 国民に被害が出ていないと聞かされたフォルテドルは内心ホッとする。魔王を名乗る以上、国民に手を出す可能性は十分あるため、被害が出る前に何か対策を練る必要があった。


「それで、ゼブルは何が目的で其方の領内、いや我が国にやって来たのか分かったのか?」

「……そのことについてですが、実は魔王ゼブルから伝言を預かっております」

「伝言だと?」


 レテノールの口から新たに予想外に言葉が出たことでフォルテドルは立ち上がる。

 ゾルテスたちも魔王を名乗る者からの伝言と聞いて一斉に反応し、室内には緊迫した空気が漂う。


「いったい、どんな内容なのだ?」

「魔王ゼブルは陛下にお会いし、自分と王国との今後について話し合いをしたいそうです。会談を行うため、陛下にトリュポスまでお越しいただきたいそうです」

「会談?」


 直接会って話し合いたいという内容にフォルテドルは聞き返す。

 ゼブルについてまだ何も分かっておらず、一度も会っていないのにいきなり会談したいと言ってきたため、フォルテドルはゼブルが何を考えているのか全く分からずにいた。

 ゾルテスたちも魔王が会談を求めていると聞いて驚きの反応を見せている。

 今回の会議で魔王の話題が出てから一同は何度も驚かされており、今では何回驚いたのか分からなくなっていた。


「今後のために会談を開きたいとは、一体どういうことなのだ?」

「分からなん。もしかするとこの国を乗っ取るために陛下を呼び出し、暗殺しようとしているのでは?」

「暗殺? ……いや、向こうは今後について話したいと言っているのだ。その可能性は低いと思うが……」

「相手は仮にも魔王を名乗っているのだぞ。貴公は魔王が平和的なやり方をすると思っているのか?」


 貴族たちは会談でゼブルが良からぬことを実行しようとしているのではと疑いながら小声で話し合う。

 一ヶ月前に魔王と名乗りながら現れ、挨拶などもせずにいきなり会談を行おうと言ってくれば企んでいると疑いたくなるのも無理はない。

 正体が分からない者からの会談など参加する必要は無い、魔王を名乗っているのだからまずは何者か調べるのが先ではないかなど、貴族たちは思い思いのことを口にする。やはり相手が魔王を名乗っているため、貴族の殆どがゼブルを警戒し、自分たちにとって害でしかないと考えているようだ。


「皆、静かにしないか!」


 アルシェスは貴族たちを睨みながら大きな声を出す。少し前にフォルテドルから静かにするよう言われたのにざわつく姿を見てアルシェスは少し気分を悪くしていたようだ。

 怒鳴られた貴族たちは驚きながら黙り込み、険しい顔をするアルシェスを見て申し訳なさそうな反応を見せる。

 静かになった貴族たちを見てアルシェスは呆れた顔をしながら疲れたように溜め息をつくのだった。


「フォリナス伯、そのゼブルという者は王国との今後について話し合いと言っているようだが、具体的にどのような内容を話すつもりでいるのだ?」

「それは、私にも分かりません。詳しいことは何も聞かされていないので……ただ、陛下に危害を加える気は無いと話していました」

「……貴方は魔王を名乗る者の言葉を信用するのか?」


 アルシェスは僅かに目を鋭くしながら低い声でレテノールに尋ねた。

 この世界の人々は二百年前の戦いで魔王は恐怖をまき散らし、逆らう者は全て始末する恐ろしい存在と考えて忌み嫌っている。その魔王を名乗る者の言葉をレテノールが疑うことなく信じるような発言をしたため、アルシェスは少し機嫌を悪くしたようだ。

 レテノールも魔王がこの世界でどのように見られているか分かっているため、自分の発言でアルシェスが機嫌を悪くしたと悟っていた。


「確かにゼブルは魔王です。しかし二百年前の力で全てを支配しようとする魔王と同じとは限りません。初めて会った時も力や恐怖で従わせるような素振りは見せませんでしたし、会談の話を聞かされた時もゼブルから人間らしさを感じました。もしかすると、二百年前の魔王と違って話し合いができる存在なのかもしれないと思っております」

「魔王と話し合い? 申し訳ないが私は魔王が他種族と話し合いをするような知的な存在とは思えない」


 過去に魔王がしでかしたことを考えれば信用できないのは当然のこと。レテノールはアルシェスの発言を否定せずに無言で彼女を見ていた。

 ゾルテスや他の領主、貴族たちも魔王は警戒するべき存在だと思っているのか、表情を曇らせたり、疑うような顔をしながらレテノールを見つめている。

 どうやら会議室にいる者の殆どがゼブルのことを信用していないようだ。


「そもそも会談を開きたいのなら父上を呼び出すのではなく、自分から父上の下へやって来るのが礼儀というものだ。相手を呼び出そうとする時点でゼブルと言う者は信用できないな」

「よせ、アルシェス」


 フォルテドルは不満を口にするアルシェスを静かに止める。


「確かに魔王を名乗り、突然現れた者を疑うことなく信用するなど愚かな考えと言えるだろう。しかしどのような存在か知りもしないのに信用できないと決めつけるのも問題がある」

「父上、しかし……」


 危険な存在である可能性は十分あると考えるアルシェスはフォルテドルを見ながら若干複雑そうな顔をする。だがフォルテドルの言っていることも一理あると感じているため、フォルテドルの発言を否定できなかった。


「フォリナス伯、念のために聞くが、もし私が会談に参加することを拒否したらゼブルはどうするつもりなのだ?」

「……ゼブルは陛下やこの国と問題を起こすつもりはないと言っていました。会談も自分とこの国の今後のために行うつもりだそうです。……ただ、会談に参加しないのなら王国はゼブルと争う気があると判断し、それ相応の対処をする、と言っていました」


 参加するかしないかでゼブルのセプティロン王国に対する見方などが変わってくると聞かされたフォルテドルは難しい顔で黙り込む。

 アルシェスやゾルテスたちは参加しなければ敵対するかもしれないというゼブルの意思を知り、少々強引なやり方だと感じていた。


「……ゼブルが会談で私に危害を加える気は無いのだな?」

「ハイ、それは間違いないと思います」

「そうか……」


 フォルテドルはレテノールの返事を聞くと目を閉じながら俯く。

 レテノールたちはフォルテドルがどう判断するのか気にしながら無言でフォルテドルを見つめている。

 しばらくするとフォルテドルはゆっくり目を開けてレテノールの方を向いた。


「……分かった。会談に参加しよう」

「陛下!?」


 予想外の言葉を口にするフォルテドルにドザリックスは驚愕する。

 他の者たちも魔王を名乗る者に会いに行くことを決断したフォルテドルを見て目を大きく見開きながら驚いていた。


「陛下、本気で魔王を名乗る者にお会いになられるのですか? 危険すぎます」

「逆だ、ベルージャス侯。魔王を名乗る者の機嫌を損ねるようなことをすれば、それこそこの国や我々が危機的状況に立たされるかもしれん」


 相手が何をしてくるか分からない以上、保身のためにも会談には参加するべきだと語るフォルテドルにドザリックスは複雑そうな顔をする。


「それにゼブルという者はとてつもない力を持っているとフォリナス伯は言っていた。魔王を名乗り、とてつもない力を持っているとなると、私たちが想像している以上に厄介な存在かもしれない」

「し、しかし、それがハッタリである可能性もあります。情報が少ない相手の力を警戒しすぎると言うのは……」

「だからこそ直接会ってどのような存在か、どれほどの力を持っているか確かめる必要があるのだ。それが今後のセプティロンと民のためにもなる」


 セプティロン王国と国民のためにも会談に参加し、ゼブルがどんな存在でどれほどの力を持っているのか確かめなくてはならないとフォルテドルは力強く語った。

 ドザリックスはフォルテドルの意思を知り、国を治める者として素晴らしい勇気と想いがあると感服する。

 国と民のために自ら危険かもしれない場所を訪れようとするフォルテドルの覚悟を否定することはできないと感じたのか、ドザリックスはフォルテドルが会談に参加することに対してそれ以上何も言わなかった。

 フォルテドルはドザリックスを見て納得してくれたと悟る。


「ゾルテス、アルシェス、お前たちも私が会談に参加することに反対か?」


 王族であり、セプティロン王国でもそれなりの立場に立たされているゾルテスとアルシェスの意見も聞いておこうとフォルテドルは二人の方を向いて尋ねた。


「私は反対するつもりはありません」

「兄上?」


 ゾルテスの返事を聞いてアルシェスは意外そうな反応を見せる。父親が魔王を名乗る者と会談を開くのになぜ反対しないのだと疑問に感じながらゾルテスを見つめた。


「魔王を名乗る相手に会うのは確かに危険かもしれない。だが、父上の仰るとおり私たちはゼブルと言う魔王のことを何も分かっていない。友好的な関係を築くせよ、敵対するにせよ、もう少し相手の情報を手に入れるべきだ」

「だから、兄上は会談の参加に賛成すると?」


 アルシェスが確認するとゾルテスは無言で頷く。

 会談を行った後にどんな結果になるにせよ、自分たちや国民を守るためにもゼブルの情報を手に入れなくてはならない。

 アルシェスも情報が大切なのは理解しているため、ゾルテスの考えを否定しなかった。


「アルシェス、お前はどう思っておる?」

「……本心を申しますと、会談に参加することは反対です。魔王を名乗る以上、ゼブルが私たちの敵になる可能性は十分あります。そんな者の所へ父上を行かせたくはありません」


 情報を得ることが重要なのは分かっているが、ゼブルがどんな存在か分からない以上、危害を加えないという話も完全に信用することもできない。だからアルシェスが反対するのは当然のことだった。


「しかし、父上は国のために危険を承知で魔王と会談に参加することを決意されました。一国の王が覚悟を決めて会談に参加されるのにそれを否定するのは王国の騎士として、そして娘として非常に無礼なことです」

「では……」

「……父上、ご自分を危険に晒すような言動は決してなさらないでくださいね?」


 フォルテドルはアルシェスが会談に参加することを認めるとアルシェスを見ながら小さく笑う。


「ただ、一つだけ希望があります」

「希望? 何だ?」


 会談に行くことを許す代わりに何か条件を出そうとするアルシェスを見てフォルテドルは不思議そうな顔で尋ねた。

 アルシェスはフォルテドルを見つめながら腰のレイピアを握る。


「私も会談に同行させてください。セプティロンの王女としてゼブルがどのような存在なのか自身の目で確かめたいのです。何よりも私は王女であると同時に騎士でもあります。万が一の時は騎士として父上をお守りします」


 自分も会談に連れて行ってほしいと言うアルシェスにゾルテスたちは驚きの表情を浮かべる。フォルテドルだけでなく、王女のアルシェスまでもが魔王を名乗る者に会いに行くというのだから当然だ。

 ゾルテスたちが驚く中、フォルテドルは真剣な顔で自分を見るアルシェス無言で見つめる。いくら騎士とは言え、実の娘を魔王を名乗る者の下へ行かせるなんて父としてできるわけがない。

 だが、アルシェスは自分が危険な場所へ行くところを認めたのに、自分が認めないのはあまりにも勝手と言えるだろう。

 フォルテドルはしばらくアルシェスを見た後、軽く溜め息をついた。


「……仕方がないな」

「陛下!?」


 アルシェスの同行を認めたフォルテドルにバリズは目を見開いた。


「娘は私の覚悟を知って会談に参加することを認めた。それなら私も同行を認めねば父親、そして国王としての面目に関わる」

「し、しかし……」

「何よりもアルシェスは頑固な性格をしておる。反対しても勝手についてくるだろう。それなら同行を認めて一緒に行動した方がいい」


 フォルテドルは小さく苦笑いを浮かべながら何を言っても無駄であることをバリズに話す。

 バリズは複雑そうな顔をしながら兄であるゾルテスの方を向いて「よろしいのですか?」と目で尋ねた。

 ゾルテスもアルシェスの性格を知っていたため、反対しても無駄だと分かっているのか苦笑いを浮かべていた。

 同行することを止められないと悟ったバリズは疲れたような顔をしながら溜め息をつき、それ以上アルシェスが会談に参加することに対して何も言わなかった。

 話がまとまるとフォルテドルは黙って会話を聞いていたレテノールに視線を向ける。


「聞いたとおり、私は会談に参加する。私以外にもアルシェスと何人かを同行させるが、構わないか?」

「ハイ、ゼブルも誰を同行させても構わないと言っていました」


 レテノールもゾルテスのようにアルシェスの覚悟や意志の強さを理解しているため、アルシェスが同行することを反対せずに受け入れた。


「会談は五日後に行うとゼブルは言っていましたので、五日以内にトリュポスへお越しください。護衛についてですが、トリュポスまでの道中は何人同行させても構わないそうです。ただ会談の際は十人まで同行を認めるとのことです」

「分かった」


 会談の日取りと護衛の人数を聞かされたフォルテドルは低い声で返事をする。五日後の会談で魔王を名乗るゼブルは何を話すのか、フォルテドルは難しい顔をしながら考えるのだった。


「陛下、ゼブルのことや会談が行われることは民たちに伝えますか?」


 ドザリックスが考え込むフォルテドルに尋ねると、レテノールやゾルテスたちは反応する。

 魔王を名乗る者が出現したことは大陸に住む者たちにとって衝撃的な出来事だ。今後のためにも国民たちには魔王が現れたことを伝えるべきなのではとドザリックスは考えていた。

 フォルテドルは顔を上げてドザリックスの方を向くと真剣な顔をしながら首を横に振った。


「いや、民たちに伝えてはならない。ハッキリと分かっていないとはいえ、魔王を名乗る者が現れたと知れば民たちは間違いなく混乱する。ましてや今は公国との一件もある。絶対に民たちに知られてはならない」

「分かりました」


 ダーバイア公国の密偵が見つかって以来、セプティロン王国の都市、特に王都ミュリンクスと公国に近いリントスジンには緊迫した空気が漂うようになり、住民たちは不安がっている。

 そんな緊迫した状況で魔王を名乗る者が現れたこと、会談が行われることを伝えれば住民たちの不安は一気に高まって大騒ぎになりかねない。

 フォルテドルは民のためにもしばらくは内密に事を運ばせることにした。


「皆も今回のことは民たちに知らせないようにしてくれ。少なくとも公国との件が片付き、民たちが落ち着きを取り戻すまでは黙っているのだ」


 フォルテドルの忠告を聞いてレテノールたち領主、セプティロン王国の重役である貴族たちは無言で頷く。

 レテノールたちも国民が混乱して騒ぎになることは望んでいないため、ゼブルのことを伝えられるタイミングが来るまで待つことにした。

 貴族たちの反応を見たフォルテドルは近くにいる若い貴族を見て手招きし、自分の隣にまで来させた。


「会談は五日後だ。私と同行する者や護衛を務める騎士を選んでおいてくれ」

「承知しました」


 指示を受けた貴族は静かにフォルテドルから離れ、遠くにいる別の貴族たちに声をかけるのだった。

 それからフォルテドルは貴族たちとゼブルとの会談が終わった後にどんな対策を練るか、敵対した場合はどう動くかなど、悪い結果になった時にどう動くかなどを念入りに話し合った。

 貴族の中には魔王を名乗るのだから強大な力を持っているかもしれないので、敵に回すような行動はしない方が良いと考える者もいれば、名乗っているだけで恐れる存在ではないと考える者もいる。

 互いに相手側の考え方を間違いだ、考えすぎだと指摘しながら話し合いは行われたが、結局全員が納得する結果は出ずに会議は終わった。

 会議が終わり、王族のフォルテドルたちが退室するとその後に貴族たちが会議室から出ていく。

 部屋の中ではレテノールが自身が用意した羊皮紙を片付けながら貴族たちの後ろ姿を見ている。その表情は僅かに暗く、まるで貴族たちに対して何か後ろめたさがあるように見えた。

 気付くと会議室にいるのはレテノールだけとなっており、レテノールは羊皮紙を手に取ると早足で会議室から出た。


「フォリナス伯、ちょっといいか?」


 会議室を出た直後に声を掛けられ、レテノールは足を止めて声が聞こえた方を向く。

 声がした方向には腕を組みながら廊下の壁に寄り掛かっているアルシェスの姿があった。


「アルシェス殿下、自室にお戻りになられたのでは?」

「貴方と少し話がしたくて待っていたのだ」


 アルシェスはレテノールの方へ歩いて行き、目の前で立ち止まると自分より僅かに背の高いレテノールをジッと見つめる。

 王女であり、騎士でもあるアルシェスに見つめられてレテノールは緊張しているのか薄っすらと汗を流していた。


「それで、お話とは?」

「ああ、アナクシア殿とティリアは健在か気になってな」


 突然家族の話を切り出され、レテノールは一瞬軽く目を見開く。てっきりゼブルのことで何か聞かれるのではと予想していたので少し意外に思っていた。


「え、ええ、二人とも元気にしております」

「そうか、健在ならいい」


 真剣な表情を浮かべていたアルシェスはレテノールの返事を聞くと表情を少しだけ和らげて呟く。

 レテノールは迫力が消えたアルシェスを見たことで緊張が解け、軽く息を吐きながら肩の力を抜いた。

 アルシェスはレテノールの妻であるアナクシアや娘のティリアとは面識があり、過去にミュリンクスで行われた社交パーティーなどでよく会っていた。特にティリアと歳が近く気が合ったことで親しくなり、いつからか姉妹のような関係になっていたのだ。


「ゼブルが現れ、貴方に接触したと知った時はてっきりティリアやアナクシア殿を人質に取られ、従うよう強要されているのではと思ったぞ」

「い、いえ、二人は大丈夫です。会議でもお話ししたとおり、ゼブルは力や恐怖で従わせるようなことはしてません。ただ、機嫌を損ねないよう注意しながら行動していますが……」

「だから会談の話を私たちに伝えるよう言われた時も、仕方なく行動したということか」

「……ええ」


 レテノールは小さく俯きながら少し低めの声で返事をした。


「貴方たちの今後については父上がゼブルと話し合って何とかしてくださるはずだ。魔王を名乗る者が近くにいて大変かもしれないが、もうしばらく我慢してくれ」

「は、ハイ……」


 励ますアルシェスを見てレテノールは苦笑いを浮かべながら頷いた。


「では、私は失礼する。二人にも気をしっかり持つよう伝えてくれ」


 そう言うとアルシェスはレテノールに背を向け、自室に向かうために廊下を歩いて行く。

 自分たちを気遣ってくれたアルシェスの後ろ姿を見るレテノールは罪悪感を感じながら表情を曇らせる。


「……申し訳ありません、殿下。私とティリアは既に貴女と陛下、そしてこの国を裏切ってしまっています」


 レテノールはアルシェスを見つめながら小さな声で謝罪した。


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