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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第3章  救済の魔蟲
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第41話  王国の権力者


 セプティロン王国の中央には王都ミュリンクスがある。

 王都であることため、セプティロン王国の都市の中でも最大の広さで三つの強固な城壁で守られており、軍や騎士団の戦力も最大だ。

 一つ目と二つ目の城壁の間には平民たちの住宅区や商業区があり、娼館、共同墓地、軍の駐屯区が存在し、食料や物資の生産量が優れ、住人も多く暮らしている。

 冒険者ギルドもあり、所属している冒険者の数はセプティロン王国のギルドの中で最も多い。冒険者の中には最高と言われているSランク冒険者チーム“白銀の鈴”がおり、王族や貴族から多くの依頼を任されるほど信頼されていた。

 二つ目と三つ目の間には貴族が住む高級住宅街や倉庫区、神殿、騎士団の本部などがあり、平民たちが暮らしている場所と比べて人の数は少ない。更に高級住宅街の入口は貴族が住んでいることから騎士団によって守られており、住民以外は許可を得ない限り入ることはできないようになっているのだ。

 そして三つ目の城壁の先、王都の最奥には王城があり、都市全体が見渡せるよう高い位置に築かれている。王城の周りには円筒状の防衛塔が幾つもあるため、守りは完璧と言っていい。

 そんな完璧と言ってもいい王城では現在、国王とセプティロン王国で領主を任されている貴族たちが集まっている。理由は各領地の現状報告とセプティロン王国の今後の方針について話し合う会議を行っているからだ。

 王城の一室では大勢の貴族らしき人物が集まっており、中央にある長方形の机を囲むように立っている。

 今部屋に集まっている者たちこそ、王城で会議を集まっている領主や行政の関係者である貴族たちだ。貴族たちの後ろには数人の衛兵が待機しており、姿勢を正しながら無言で貴族たちを見守っていた。


「……以上が北西部の現状です。岩山で発見されたミスリル鉱石の量は僅かですが、奥に進めば発見できる可能性があるため、今後も採掘を続ける予定です」


 黄色い目で茶色い短髪、薄い口髭を生やし、身長160cm強で濃い緑の貴族服を着た三十代後半の貴族は手元の羊皮紙に書かれてある内容を静かに語った。

 貴族の名はバリズ・フォグ・スーチム。セプティロン王国の侯爵で北西部の領主であり、北西にある大都市ザリンの都市長を務めている男だ。

 ザリンだけでなく領内の村や町も管理し、ザリンの周辺にある森や岩山を所有しているため、バリズの資産は他の領主と比べると多い。

 王家に対する忠誠心は強く、王族が国や国民のために多少卑劣な行為を取ったとしてもその行為を否定したりはしない。


「分かった。ただ、あの岩山はモンスターが出現する上、過去に小規模とは言え山崩れが起きておる。採掘の際は注意し、冒険者に警護を依頼させるようにしてくれ」

「承知しました」


 バリズは返事をしながら視線の先で玉座に座る中年に頭を下げた。

 玉座に座っているのは身長160cm弱で四十代後半、肩に触れるか触れないかぐらいの長さの金髪と同じ色のロワイヤル型の髭を生やし、青い目を持っている。室内にいる貴族たちよりも高級感が感じられる服を着てマントを羽織り、頭には赤い王冠を乗せていた。

 玉座の男こそ、セプティロン王国の現国王であるフォルテドル・レイ・オルジムス。王国や国民に対して慈悲深く、無益な戦いを好まない性格をしている。

 しかし国と民を思う気持ちは強く、場合によっては国のために誇りを捨て、王族らしからぬ行動を取ることもある。

 国王として国と民を愛するという点から領主や貴族たちもフォルテドルを尊敬しているが、少々優しすぎるのではと考える者もおり、そう言った者たちはもっと厳しくするべきだと考える者もいた。


「他の領地でもミスリルのような特殊な鉱石の鉱脈が発見されるかもしれない。時間があれば鉱脈などが無いか近くの岩山などを調べてみてくれ」


 フォルテドルはバリズ以外の領主たちに自身の領地を調べるよう指示し、他の領主たちはフォルテドルを見ながら頷く。

 領主の中にはセプティロン王国の南部を領地とするレテノールの姿もあった。


「では次にベルージャス候、報告を頼む」

「ハッ、かしこまりました」


 声を掛けられた貴族は返事をしながら自分が持っている羊皮紙に視線を向ける。

 貴族は四十代後半ぐらいで身長170cm前後、濃い茶色の短髪に僅かに鋭い黄色の目をしており、青と白の貴族服を着ていた。

 羊皮紙を見る男、ドザリックス・リム・ベルージャスはセプティロン王国の北東と東に領地を持つ侯爵で領主を任されている貴族の中で最も広い領地を保有している。領地が広いことから多くの物資や金を所持しているがバリズと比べると資産は少ない。

 領主になる前に騎士隊長として王国のために尽くしており、その経験を活かして自身が都市長を務めるリントスジンの騎士団や兵士の強化している。そのため、リントスジンの騎士や兵士は他の都市の騎士や兵士よりも優秀なのだ。


「現在、リントスジンでは都市内の警備と都市に出入りする者たちの身元確認を強化しています。更に周辺の町や村などにも騎士団を派遣し、新しく移住した者がいないか細かく調べ、身元の確認などもさせております」

「身元確認……公国の密偵が潜んでいるか調べるためだな?」

「仰るとおりです」


 フォルテドルとドザリックスの会話を聞いて周りにいる貴族たちはざわつき、室内の空気もわずかに張り詰めた。

 先日、セプティロン王国の戦争相手であるダーバイア公国の密偵がリントスジンで発見され、王国と公国は険悪な状態となっている。

 前回の戦争で多くの損害を出した両国は自国を整えるため、互いに干渉しないという条件で停戦協定を結んだ。

 しかし、ダーバイア公国が密偵をセプティロン王国に送り込んだため、干渉しないという約束は破られる形となったのだ。

 密偵が捕らえらえた後、国王であるフォルテドルはなぜ協定を破って密偵を送ったのかダーバイア公国に抗議の親書を送った。

 その後で返ってきた返事の親書には「公国は以前の状態に戻ったため、戦争を再開するべきだと判断し、密偵を送った」と書かれていたのだ。

 停戦協定を結んだのであれば両国の代表が話し合って協定を解除し、その後に戦争を再開するべきだろう。だがダーバイア公国は話し合いなどをせず、一方的で協定を破って密偵を送り込んできた。

 ダーバイア公国の返事にフォルテドルは呆れ果てると同時に怒りを感じ、セプティロン王国と国民を守るために全力で公国と戦うことを決意する。

 その日以降、セプティロン王国ではダーバイア公国への警戒を強くし、いつ公国軍が攻め込んできても迎え撃てるよう軍を臨戦態勢にしておいた。

 特に東部は戦場にしていた大平原と隣接しているため、リントスジンでは公国軍の監視と都市を訪れる者たちの身元確認を強化するようにしたのだ。


「今のところ、公国側の新たな密偵は発見されておりません。公国も先日潜入させた密偵が捕まったことで警戒を強くし、これ以上密偵を送り込むべきではないと判断したのかもしれません」

「うむ、その可能性もあるな。……しかし、公国側か警戒せずに密偵を送り込み、その密偵がまだ発見されていないという可能性もある。引き続き、リントスジンや周辺の町、村に密偵がいないか調べるようにしてくれ」

「承知しました」


 これ以上ダーバイア公国の好きなようにはさせない。そう心に誓うドザリックスは低い声で返事をした。

 ドザリックスは東北とダーバイア公国と隣接している東側を領地としているため、公国の監視、警戒を任されている。公国の監視を任されている自分が管理するリントスジンに密偵の侵入を許したのはある意味でドザリックスの責任と言えた。

 これ以上の失敗すればセプティロン王国だけでなく自身の立場も危うくなると感じていたドザリックスは一切手を抜かずにダーバイア公国を監視し、密偵の調査を行うと意志を強くするのだった。


「因みにこちら側の密偵はどうしている? 何か有力な情報を掴めたか?」


 フォルテドルの言葉にドザリックスは反応し、他の貴族たちも一斉にフォルテドルに視線を向ける。

 ダーバイア公国は自分たちの国に密偵を送り込んだのだから、こちらも同じ方法でやり返して情報を手に入れようと考えたドザリックスはフォルテドルの許可を得て、軍の中でも情報収集の技術に優れた者を密偵として公国に派遣していた。


「ハイ、先日密偵が戻り、幾つか情報を持ち帰りました」


 ドザリックスは持っている羊皮紙の下の方に書かれてある文章に視線を向け、内容を確認しながら口を開いた。


「公国が我が国に進攻する際に拠点としている小都市ヴァリンでは、現在多くの公国軍の兵士や騎士が待機しており、こちらに攻め込む準備を進めているそうです。正確な数は分かりませんが、密偵の話では既に五千はいるとのこと……」

「五千人か。前回の戦いで公国軍が用意した戦力は二万だった。それと比べると遥かに少ないな」

「ハイ、ただこの五千と言うのは公国が侵攻準備を行っている際に確認した人数です。現在は倍近くの数になっていると思われます」


 前回の戦いでは二万の戦力でもセプティロン王国に侵攻できなかったのだからそれよりも少ない戦力で攻めてくるはずがない。間違いなく以前よりも遥かに多い戦力で攻めてくるはずだと感じた貴族たちは驚きの表情を浮かべながら再びざわつきだす。


「皆、静まるのだ」


 貴族たちを見たフォルテドルは少し力の入った声を出した。

 声を聞いた貴族たちは取り乱している姿をフォルテドルに見られていることに気付くと一斉に口を閉じる。

 静かになるとフォルテドルは静かに息を吐いてからドザリックスに視線を戻した。


「今は公国側の情報が少なすぎる。今後彼らが攻め込んできた際に対処できるよう、できるだけ多くの情報を入手する必要がある。……ベルージャス候、引き続き密偵に情報を集めさせてくれ」

「ハイ」


 ドザリックスは静かに返事をしながら軽く頭を下げた。


「……ゾルテス、お前はどう思う?」


 フォルテドルは右を向き、玉座の右隣に立っている青年に声をかける。

 青年は二十代前半ぐらいで金色の短髪と青い目をしており、若い女なら見惚れてもおかしくないくらいの美形だ。身長は170cm強で濃い青の貴族服を着ている。

 控えている青年はゾルテス・ロクト・オルジムス。セプティロン王国第一王子にして第一王位継承者だ。父親であるフォルテドルと同じように国民を大切に思っており、どうすれば国民が幸せになれるかを考えて行動するようにしている。

 今回の会談には次期国王という立場から政治や国同士の問題にどう接すればいいかを学ぶために参加していた。


「公国は自分たちが少しでも優位に立つよう協定を破って密偵を送り込みました。自分たちから協定を破った以上、敗北した後にこちらが情けを掛けたり、公国側の要望を聞き入れないことを彼らは理解しているはずです」

「うむ、間違いないだろう」

「となると、公国に残された道は戦争で勝つ以外にありません。彼らは自分たちが勝つために何らかの方法で以前よりも大きく、強力な戦力を用意して攻め込んでくると私は思っています」


 間違った選択をして引き返せない状況を作ってしまった者は前に進むしか道はない。

 フォルテドルは停戦協定を破ったダーバイア公国が保身のためにどんな手段を使っても勝とうとするだろうというゾルテスの予想を聞いて納得するのだった。

 貴族たちはフォルテドルとゾルテスの会話を聞いてダーバイア公国が手段を選ばずに攻めてはずだと知り、公国に対する怒りや苛立ちを強くするのだった。


「アルシェス、お前の意見も聞かせてくれるか?」


 ゾルテスの意見を聞いたフォルテドルは続けてゾルテスの右隣に立っている少女に声を掛ける。

 立っているのは金色の長髪で茶色の目をしており、身長は160cm弱、年齢は十代後半ぐらいの美少女だ。髪には小さな銀色の髪飾りを付け、薄紫の長袖と白の長ズボン姿で腰にはレイピアを吊るしている。部屋にいる王族や貴族と違い、若干平民寄りの格好をしていた。

 少女の名はアルシェス・ロクト・オルジムス。セプティロン王国第一王女でゾルテスの実の妹。王女ではあるが男勝りな性格で貴族令嬢のように上品に振舞うのを苦手としており、幼い頃から剣の修行を積んできた。

 既に並みの騎士では勝てないほどの力を身につけ、王女でありながらもセプティロン王国第一騎士団の第一小隊長を任されている。


「私も兄上と同じ考えです。敗北が許されない公国は死に物狂いで攻め込んでくるでしょう」


 アルシェスは両手を腰に回しながら前を向いてゾルテスと同意見だと語る。

 フォルテドルはアルシェスが何と答えるのか予想していたのか、納得したような顔をしながらアルシェスを見つめた。


「戦力を整えた公国はリントスジンに向かって侵攻を開始するでしょう。あの都市は我が国が大平原で公国と戦う際の防衛拠点として使っていますから」

「ああ、間違いないだろう。あそこを制圧すれば公国軍は一気に優勢になるからな」


 ゾルテスもダーバイア公国がリントスジンを狙うと考えており、真剣な表情を浮かべながらアルシェスの考えに同意する。

 防衛拠点として使用しているリントスジンは商業都市で、制圧できれば大量の物資や食料などが手に入る。セプティロン王国に侵攻するための拠点としては打ってつけであるため、ゾルテスとアルシェスは大平原を抜けたダーバイア公国の軍は必ずリントスジンを攻めると確信していた。

 逆にリントスジンを制圧されたセプティロン王国はダーバイア公国へ攻め込むことができなくなり、大量の物資を失うことになる。

 リントスジンが制圧されるなど、セプティロン王国側にとっては絶対に許してはならないことだった。

 ゾルテスとアルシェスの意見を聞いたフォルテドルはしばらく考え込んだ後に自分に注目しているドザリックスの方を向く。


「ベルージャス候、密偵の警戒だけでなく、リントスジンや周辺の町の防衛についても念のために見直しておいてくれ。万が一、公国が大平原を抜けて我が国の領内に侵攻してきたらリントスジンを狙う可能性が高いからな」

「承知しました。リントスジンに戻り次第、確認します」

「それと大平原に築かれている砦の防衛隊にも公国の動きを警戒するよう指示してくれ」

「ハッ!」


 セプティロン王国とダーバイア公国が戦闘を行う大平原には両国が砦を建てており、自国の砦に軍を送って戦闘時の拠点にしている。

 戦争が始まった時にセプティロン王国は大平原の王国側に砦を築き、そこに軍を駐留させてダーバイア公国の様子を窺いながら戦ってきた。現在も砦に部隊が駐留させ、大平原とダーバイア公国側の砦を見張っている。

 砦はセプティロン王国にとってダーバイア公国を王国領に侵入させないための最初の拠点。リントスジンを狙って侵攻してくる可能性が高い以上、公国に砦を制圧、突破させるわけにはいかない。

 公国の侵攻を止めるためにも砦の守りを強固にする必要があった。


「東部の状況と公国の戦力については分かった。他に何か重要なことはあるか?」

「いえ、私からは以上です」


 他にフォルテドルに伝えることは無いとはドザリックスは自身の報告を終わらせた。


「では、次にフォリナス伯。貴公の領地の現状報告をしてくれ」

「ハイ」


 声を掛けられたレテノールは自身の手元になる羊皮紙に目をやる。

 今回フォルテドルや他の領主、貴族たちに必ず報告しなければならないことが幾つかあり、レテノールはどれから先に報告するべきか考える。順番を間違えればフォルテドルが混乱、動揺する可能性があるため、よく考えて報告する話題を選ぶ必要があった。

 しばらくして報告する順番を決めたレテノールは顔を上げ、フォルテドルの方を向いて口を開く。


「王国南部では数日前からモンスターの数が増えてきており、第五騎士団や冒険者の大半がモンスター討伐に力を入れております。幸いモンスターは殆どが下級モンスターであるため、新入りの冒険者でも問題なく討伐でき、トリュポスや周辺の町、村に大きな被害は出ておりません」

「モンスターの大量発生か……南部は国内でもモンスターの数や種類が少ないはずだ。なぜ突然数が増えたのか、原因は分かったのか?」

「いえ、明確な原因はまだ判明しておりません」


 レテノールが複雑そうな顔で分かっていないことを伝えるとフォルテドルは何処か残念そうな表情を浮かべる。

 フォルテドルにとって国民は大切な存在であるため、国民が安心して暮らせるようモンスターの数が増えた原因を少しでも早く見つけてもらいたいと願っていた。


「ただ、原因かどうかは分かりませんが、モンスターが増えたことに関りがある可能性がある出来事がありました」

「何?」


 意味深な言葉を口にしたレテノールにフォルテドルは反応し、周りにいた者たちも一斉にレテノールに視線を向ける。


「実はモンスターが増える少し前、トリュポスの北西にある森の中でダンジョンが発見されたのです」

「何っ、ダンジョン?」


 予想外の言葉に黙って話を聞いていたバリズが思わず聞き返す。

 フォルテドルたち王族や貴族たちもレテノールを見ながら目を見開いて驚いていた。

 セプティロン王国でダンジョンが発見されたという報告は十年以上も無かったため、王国内にダンジョンが発見されたと聞かされて全員が衝撃を受けていた。


「ダンジョンが発見された……確かなのか?」

「ハイ、間違いありません」


 再確認するフォルテドルを見ながらレテノールは小さく頷く。

 真実だと聞かされた貴族たちは改めて驚き、同時にどんなダンジョンなのだろうと興味のありそうな反応を見せるのだった。


「まさか我が国でダンジョンが発見されるとはな。……その発見されたダンジョンがどのようなもの場所なのかもう調べたのか?」


 ダンジョンの詳しい情報が気になるフォルテドルはレテノールに尋ねる。

 レテノールはフォルテドルを見て一瞬驚いたかのように軽く目を見開くが、すぐに表情を暗くして小さく俯いた。


「ダンジョンの調査は発見されてからすぐに行いました。トリュポスでも優秀な三つの冒険者チームに調査を依頼したのですが……」


 暗い顔で口を閉じるレテノールを見たフォルテドルは不思議そうにしていたが、すぐに何か良くないことが起きたのではと悟り、真剣な表情を浮かべてレテノールを見つめる。


「……調査に向かった冒険者チームの内、二つは全滅。残る一つも一人の冒険者を残して全員死亡しました」

「何だと?」


 生きて帰った冒険者が一人だけと聞かされてフォルテドルは目を見開いた。

 ダンジョン調査で多くの冒険者が死亡したことには勿論驚いたが、同時に発見されたダンジョンがとても危険度が高いのかと疑問に思い、眉間に少しだけしわを寄せる。


「冒険者のほぼ全員が死亡とは……その発見されたダンジョンには幾つもの罠が仕掛けられているのか? それとも強力なモンスターが棲みついていたのか?」

「生き残った冒険者の話によるとダンジョンの構造はごく普通で罠の数もそれほど多くなかったとのことです。ただ、出現したモンスターの中に強力な存在がいたと報告を受けています」

「強力なモンスターか……因みに調査を行った冒険者のランクは?」

「BからDランクのチームを一つずつです。その内のBとCのチームが全滅しました」

「生き残ったのはDランクの冒険者一人ということか……」


 ランクの高い者たちが死亡し、ランクの低いチームの冒険者一人が生き残ったという結果を聞かされたフォルテドルはダンジョンがBランク以下の冒険者では攻略や調査が難しい場所だと感じる。


「そのダンジョンはどうして突然現れたのか、原因は分かったのか?」

「いえ、ダンジョンが現れる兆候などは一切無かったので原因は今も分かっておりません。ただ、生き残った冒険者がダンジョンの中でとんでもない情報を手に入れたそうです」

「どのような情報だ?」


 とんでもないと言うからには重要な情報なのかと予想しながらフォルテドルはレテノールに尋ねた。

 ゾルテスたちもどんな情報なのか気にしながらレテノールに注目している。

 フォルテドルたちが見つめる中、レテノールは真剣な表情を浮かべながら口を開いた。


「生き残った冒険者の話では、そのダンジョンに現れた知能の高いモンスターが自分は魔王の配下だと言ったそうなのです」

「何っ!?」


 魔王と言う単語に反応したフォルテドルは思わず上半身を前に乗り出す。

 ゾルテスたちも全く予想していなかった言葉を口にするレテノールを見て驚愕していた。

 二百年前に魔王が現れて以来、セプティロン王国だけでなく大陸に存在する全ての国の民たちにとって魔王は恐るべき存在として認識されている。

 その魔王の配下を名乗るモンスターがダンジョン内にいたため、フォルテドルたちは突然現れたダンジョンと魔王が何らかの形で繋がっているのではと推測する。


「魔王の配下を名乗るモンスターがダンジョンに棲みついていたというのか?」

「そのようです。私も直接見たわけではないのですが、生き残った冒険者がそう言っていたらしいので間違いないと思われます」


 真剣な表情を浮かべながら信用できる情報だと語るレテノールを見て、フォルテドルは目を見開きながら椅子のもたれかかった。


「まさか魔王の配下がダンジョン内にいたとはな。だとするとそのダンジョンは二百年前に現れた魔王が造り出し、南部に隠したと言うことになるな」

「ハイ、私もそう思っております」

「なら、そのダンジョンには二百年前に現れた魔王に関する情報や魔王が所持していた特殊な道具などが眠っているかもしれんな」


 二百年前に現れた魔王は強大な力を持ち、その力を使って多くの人々を恐怖させた。もし魔王に関する情報やマジックアイテムなどが隠されているのなら、それらを手に入れておけば何かの役に立つかもしれない。

 フォルテドルはセプティロン王国の今後のためにもレテノールの領地で発見されたダンジョンにBランク以上の冒険者たちを派遣して調査させるべきだと考えた。


「フォリナス伯、其方の領地で発見されたダンジョンはどうなっている? 調査させた冒険者以外にも他にダンジョンに入った者はいるのか?」

「いえ……そのダンジョンなのですが、生き残りの冒険者が帰還した直後に消滅したそうなのです」

「何? ダンジョンが消えた?」


 またしても予想外の言葉を耳にしたフォルテドルや室内にいる貴族たちは目を見開く。魔王に関係あるダンジョンが突然現れたと思ったら今度は消えたと聞かされたのだから一同が驚くのは当然だ。

 ダンジョンが消えたことで魔王に関する情報やマジックアイテムなどが手に入らなくなったと知ったフォルテドルは少し残念に思いながら静かに息を吐く。

 だが消えたことでこれ以上ランクの低い冒険者たちが命を落とすことが無くなったため、残念に思いながらも少しだけ安心していた。


「なぜダンジョンが消えたのか原因は分かったのか?」

「申し訳ありません。ダンジョンが出現した時と同じように原因は分かっておりません」

「そうか。……フォリナス伯、いくら時間が掛かっても構わない。其方はダンジョンが出現、消滅した理由を調べてくれ。もし何かのはずみでまたダンジョンが出現し、何も知らない者が侵入したら命を落とすことになる。そうなる前にダンジョンが出現する理由を突き止め、出現する前に対策ができるようにするのだ」

「ハイ」


 どんな状況でダンジョンが出現するのか分かれば、出現する前にダンジョンを調査するための準備をしたり、冒険者や国民たちにダンジョンが出現することを伝え、むやみに入らないよう忠告することができる。

 国民を守るため、そして冒険者たちが万全の状態でダンジョンを調査、探索できるようにするためにもダンジョンが出現、消滅する原因を解明させる必要があるとフォルテドルは考えていた。


「ところで、ダンジョン調査で唯一生き残った冒険者はどうしておるのだ?」

「ギルドマスターの話では仲間が死亡したことに最初は落ち込んでいたようですが、立ち直って冒険者として活動を続けているとのことです」


 生き残りが冒険者の活動を続けていると聞いたフォルテドルは少し意外そうな顔をする。

 チームメイトが死亡し、共に調査を行った冒険者たちも死んだことで生き残った冒険者は精神的に大きなショックを受けたはずだ。にもかかわらず冒険者を続けているため、フォルテドルは生き残りの冒険者が強い精神力を持っているのだと心の中で感心するのだった。


「その冒険者は今もトリュポスで活動しているのか?」

「いえ、私が今回の会議に参加するために王都へ向かう直前にトリュポスを出ました。何でもイルテ聖王国へ向かったとか」

「聖王国に?」


 どうしてわざわざ遠いイルテ聖王国に向かったのか、理由が分からないフォルテドルは不思議に思いながら聞き返す。


「これもギルドマスターから聞いたことなので詳しくは分かりませんが、その冒険者は今回発見されたダンジョンが二百年前に現れた魔王が関わっていると知り、魔王が造ったダンジョン、そして魔王に関する情報を手に入れるために聖王国へ向かったそうなのです」

「確かに聖王国は二百年前に現れた魔王を討伐するために異世界の勇者を召喚したり、魔王に関する情報を他国以上に集めていたそうだからな。あそこに行けば魔王が造ったダンジョンに関する情報も得られるかもしれん」


 フォルテドルは冒険者がイルテ聖王国へ向かった理由を知ると納得した表情を浮かべる。


「それだけではなく、生き残った冒険者は他にも魔王が造ったダンジョンが大陸中に隠されていると考えているそうです。もし他のダンジョンが出現したらそのダンジョンを攻略できるだけの力を得るために魔王の情報を持ち、勇者を召喚した聖王国へ向かったそうです」

「成る程……」


 ダンジョンの情報を得る以外に強くなるためにイルテ聖王国へ向かったと聞いたフォルテドルはレテノールを見ながら呟く。


「魔王に詳しい聖王国へ向かえばダンジョンを調査できる力を得られると考えたのか。……まさかその冒険者、新たな勇者になろうとしているのか?」


 黙って会話を聞いていたドザリックスは腕を組みながらレテノールに尋ねた。

 ここまでの内容からドザリックスは生き残った冒険者は魔王が造ったダンジョンを攻略し、勇者のような強くて周りから感謝されるような存在になろうとしているのではと考えていた。

 勇者はこの世界を救った偉大な存在であるため、もしも勇者のようになろうと考えているのなら、その冒険者はおこがましい性格だとドザリックスは感じており、若干不満そうな表情を浮かべている。

 レテノールはドザリックスの方を向くと首を小さく横に振った。


「いいえ、その冒険者は魔王が造ったダンジョンが原因で自分のように大切な存在を失う人を出したくない。ダンジョンが原因で人々が苦しむ姿を見たくない。だから聖王国で強くなると言っていたとギルドマスターから聞きました」


 生き残った冒険者が勇者になるためではなく、人々を守るためにイルテ聖王国へ向かったのだとレテノールは真剣な表情を浮かべながら答える。

 自分の領地で活動していた冒険者が欲のためにダンジョンを攻略しようとしていると思われたため、レテノールは少し気分を悪くしていた。

 ドザリックスはレテノールの表情を見て、自分の発言で気分を悪くしたのだと悟り、さり気なくレテノールから目を逸らす。


「とにかく、魔王の造ったダンジョンが南部で発見された以上、他の場所にもダンジョンが隠されている可能性がある。念のためにダンジョンが隠されていそうな場所がないか、各自調べておいてくれ」


 ダンジョンが隠されている可能性が少しでもある以上、気を抜いたり安心することはできない。フォルテドルは領主たちを見ながら念入りに調査するよう指示を出す。

 領主たちは真剣な表情を浮かべながらフォルテドルを無言で見つめる。彼らも自分の領地に二百年前の魔王の遺物があっては困るため、ダンジョンを探すことに力を入れるつもりでいた。


「さて、フォリナス伯、他に何か報告すべきことはあるか?」

「あ、ハイ……」


 返事をしたレテノールは軽く俯き、深刻そうな表情を浮かべる。

 レテノールの表情が暗くなったことに気付いたフォルテドルは不思議に思い小首を傾げた。


「フォリナス伯、どうした?」

「……陛下、先にお伝えさせていただきます。これからはお話しする内容は先程のダンジョンの件以上に重大な内容になっております」

「重大?」


 いったいどんな内容なのか、フォルテドルは目を僅かに細くしながらレテノールを見つめる。

 近くで控えているゾルテスとアルシェス、他の領主や貴族たちもダンジョン以上に重大な内容とは何なのか疑問を抱きながら注目していた。


「これは陛下だけでなく、この場にいる皆さんにお話しするべきだと考え、今回の会議でお伝えしようと思っておりました」

「フォリナス伯、前置きはいい。早く話してくれないか?」


 なかなか話さないレテノールを見てアルシェスは急かすように声をかける。

 アルシェスの言葉を聞いたレテノールはこれ以上待たせるのは失礼だと感じ、覚悟を決めて口を開いた。


「……現在、王国南部には魔王が居座っております」


 レテノールの言葉にその場にいた全員が黙り込み、室内は空気が張り詰めるような雰囲気となった。


本日から第3章の投稿を開始します。

ゼブルは世界征服と言う魔王の使命を果たすため、遂に異世界に自身の存在を広めようと行動に移ります。

第3章を一定の間隔で投稿していきますので、よろしくお願いいたします。

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