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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第2章  豪勇の冒険者
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第25話  薬草採取


 冒険者ギルドを出たバアルたちは寄り道せずに真っすぐ北門へ向かう。

 北門に到着して外に出る際、冒険者ギルドが発行した通行許可証を門番に見せたことでトリュポスに来た時のように通行料を払わずに済んだ。

 これで冒険者として町に入る際は無料で町には入れる。そう思いながらバアルは気分を良くするのだった。

 トリュポスを出たバアルたちはシロラグ草が生えている北西の森へ向かった。目的の森は北門からでも目視できる距離にあるため、徒歩でも十分ほどで辿り着くことができる。

 バアルは時間と森までの距離から明るい内にシロラグ草を採取し、トリュポスに戻って来れると確信しながら移動した。

 やがてバアルたちは森の前までやって来た。うっそうと茂っており、何の知識も持たない素人が後先考えずに入ったら間違いなく迷ってしまうような場所だ。


「この森にシロラグ草が生えてるのか」

「予想していたよりも広そうですねぇ」


 森の入口前に立つバアルとランハーナは周囲や森の奥を見ながら面倒に思う。

 情報ではシロラグ草は間違いなく北西の森に生えてはいるがあちこちに少量が生えているだけなので見つけ出すのにとても時間が掛かるそうだ。

 ただでさえ見つけるのが大変なのに森が広いため、バアルは目を細くしながら奥を見つめる。


「この森には危険なモンスターは棲みついていません。いるのは狼ぐらいでFランク冒険者でも問題なく入れるそうです」


 リーテは騎士団にいた時に得た森の情報を口にし、危険な場所でないことをバアルとランハーナに伝えた。

 獰猛な動物がいるのにFランク冒険者でも入れるというのはおかしいと思われるが、Fランク冒険者の全てが戦闘経験が無かったり弱いわけではない。それを考えるとFランク冒険者が入っても問題ないという点も納得できる。

 現にバアルたちもFランク冒険者だが実力はSランク冒険者を優に凌ぐため、森に入っても問題ない。万が一狼と遭遇してもバアルたちなら難なく狼を蹴散らすことができる。


「まぁ、戦闘の方は問題ないだろう。俺たちが気を付けなきゃならないのは森で迷ったり、別の薬草を間違えて持ち帰らないようにすることぐらいだな」


 これから入る森がどんな場所なのか殆ど知らず、薬草の知識も無いため、バアルたちにとっては狼よりも迷わずにシロラグ草を採取することの方が重要だった。


「一応、シロラグ草の絵の写しを受付の人から貰ってきましたので、この絵の薬草を探しましょう」


 リーテは服のポケットから受付嬢から受け取った小さな羊皮紙を取り出してバアルに見せた。羊皮紙には小さな白い花と丸みのある葉の絵が描かれてある。


「シロラグ草は花びらが白いので森の中では目立つと受付の人が言っていました」

「白か、それなら視界に入ればすぐに分かるな。……とりあえず、移動しながら白い花を探すか」


 羊皮紙をリーテに返したバアルは森に視線を向ける。広い森の中でシロラグ草をどれくらいの時間で見つけられるか、バアルは森の奥を見つめながら考えていた。


「よし、それじゃあ行くか」


 バアルが歩き出すとリーテとランハーナも後に続き、三人は森の中へ入っていった。


――――――


 森に入って十分ほど経った頃、バアルたちは森の中で立ち止まった。

 周りは薄暗くなり、足場も少し悪くなっている。だがそれでも移動には問題は無く、バアルたちはこのまま移動を続けるつもりでいた。

 ここまで歩きながら周囲を見回してシロラグ草を探していたが一つも見つからない。それどころか白い花すらも見つかっておらず、バアルたちは一度止まって近くを探してみることにした。


「ありませんね……」

「目的のシロラグ草だけじゃなく、他の薬草や木の実とかも見つからないなんてねぇ」


 リーテとランハーナは辺りを見回しながらシロラグ草が無いが確かめるがそれらしい物は見当たらない。

 まだ探し始めて十分ほどしか経っていないのだから見つからないに決まっていると普通は思うだろう。だがリーテとランハーナはもしかしたら運よく見つかるかもと小さな期待を抱いていた。

 バアルも肩に杖を掛けながら周囲を見回す。足下や近くだけではなく、遠くも確認してシロラグ草を探した。


「……こりゃあ、もう少し奥を探した方がよさそうだな」

「そうですね。奥へ行けばまだ誰も手を付けていない物があるかもしれませんからそっちに……」


 周囲を見回しながら喋っていたリーテが突然口を止めて一点を見つめる。

 数m先で木の根元に一つの白い花が咲いている光景がリーテの視界に入った。


「バアルさん、あれ!」


 リーテは白い花を指差しながらバアルに声をかける。

 バアルとランハーナはリーテが指差し方角を確認し、白い花を目にした。

 もしやと思いながらバアルは白い花に近づき、リーテとランハーナもそれに続く。近くまでやって来て花を確認するとそこには羊皮紙に描かれてあったシロラグ草と同じ物があった。

 リーテは姿勢を低くし、白い花を見ながら念のために羊皮紙に描かれている絵と見比べる。そして、シロラグ草で間違いないと判断したリーテは笑みを浮かべながらバアルの方を向く。


「間違いありません、シロラグ草です」


 目的の薬草を見つかったことでバアルはニッと笑みを浮かべる。

 予定よりも最初の一つを見つけるのに時間が掛かってしまったが、それでも発見できたので問題なかった。


「お手柄だぞ、リーテ」

「なかなかやるじゃないの」


 シロラグ草を見つけたリーテをバアルとランハーナは素直に褒めた。

 魔王と隷属の先輩に褒められてリーテは照れているのか小さく笑いながら頬を僅かに染める。


「それじゃあ、この調子でバンバン見つけていきましょう」


 一つ目を見つけたことでやる気が出たランハーナは少し力の入った声を出して気合いを入れる。

 やる気を出すランハーナをリーテは笑ったまま見つめる。


「いや、その必要は無い」


 バアルはそう言うと見つけたシロラグ草を摘む。

 シロラグ草を探す必要が無いというバアルの言葉の意味が分からず、リーテとランハーナは不思議そうな表情を浮かべた。

 

「このまま森の中を歩き回って探すのは時間が掛かるし効率が悪い。冒険者ギルドから高く評価されるためにもできるだけ早くシロラグ草を見つける必要がある」

「で、ですが、広い森の中で数の少ないシロラグ草を私たちだけで探すとなるとどうやっても時間が掛かってしまいます。とても短時間で五つ見つけるのは無理かと……」

「ああ、確かに時間はかかる。……俺たちだけで探したらな」


 リーテはまだバアルの考えていることが分からずに目を丸くしながら瞬きをする。

 シロラグ草を見つめるバアルは笑みを浮かべ左手を足下に向けた。


「短時間で集めるためにちょっとズルをする。雑兵生成Ⅰ」


 バアルの足元に横に長い楕円だえん形の濃い紫色の靄が広がり、靄から十体の昆虫族モンスターが出現した。

 現れた昆虫族モンスターは体長70cm前後のミツバチのような姿をしており、黒い大きな目を持ち、六本の脚や胸部からは無数の薄い緑色の毛が生えていた。腹部には緑と黒の縞模様が入っており、腹部と同じくらいの大きさの翅が付いている。

 十体の蜂のモンスターは触角を動かしながら周囲を見回し、バアルに気付くと一斉にバアルの方を向いた。


「あ~成る程。ファインドビーですか」


 ランハーナはバアルが生成した昆虫族モンスターを見てバアルの狙いに気付き、面白そうなものを見るように笑った。


「あ、あのぉ、このモンスターたちは?」


 ファインドビーのことを何も知らないリーテはバアルの考えていることが未だに分からず、気付いたランハーナに尋ねる。

 ランハーナは理解していないリーテに説明するため、ファインドビーたちを指差しながら口を開く。


「この子たちはファインドビーって言う下級の昆虫族モンスターよ。レベルは高くないけど、体が小さくて空も飛べるからEKTあっちの世界では偵察なんかによく使われているの」


 偵察用のモンスターだと聞かされたリーテは「へぇ」とファインドビーたちを見る。しかしどうして今偵察用のモンスターを生成したのかは分からなかった。


「ランハーナの言うとおり、ファインドビーは主に偵察などに使われるがそれ以外にも薬草や木の実と言ったアイテムの素材を集めるのにも使われるんだ」

「素材の?」


 バアルの説明を聞いたリーテは意外そうな反応を見せる。偵察用のモンスターがアイテムの採取にも使われるとは予想もしていなかったので少し驚いていた。


「ファインドビーには花や薬草の匂いを嗅ぎ分けてその素材を見つける技術スキルを持っているんだ。俺もEKTの世界にいた時はポーションなどの回復薬とかを調合をするための素材集めによく使っていた。……ここまで言えば、俺が何をしようとしているのか分かるよな?」


 ファインドビーの生態や技術スキル、シロラグ草を採取するという現状からリーテは小さく俯きながら考え、しばらくすると何かに気付いて顔をフッと上げた。


「ファインドビーたちにシロラグ草を探させるってことですか?」

「正解だ。匂いを嗅ぎ分けられて空も飛べるコイツらなら俺たちよりも早くシロラグ草を見つけられるはずだ」


 バアルの計画を聞いたリーテはこれが冒険者ギルドで難しくないと言っていた理由だったのだと納得の表情を浮かべる。

 確かに広い森の中を歩きながら三人で探すよりも空が飛べて花や薬草の匂いが分かるファインドビーがいれば短時間で集めることができるだろう。

 効率よくシロラグ草を採取できる方法を考えたバアルにリーテは感心する。この時のリーテは依頼を受けた時からバアルはファインドビーを生成してシロラグ草を集めさせるつもりだったのかもしれないと思っていた。

 バアルは姿勢を低くすると持っているシロラグ草をファインドビーたちの前に出す。

 ファインドビーたちはシロラグ草に顔を近づけて花の匂いを嗅ぎ始める。


「この森の中にこの薬草と同じ物がある。花の匂いを辿って探し出し、見つけたら取って戻って来い。見つからなかったとしても三十分後には帰って来い」


 指示を受けたファインドビーたちは一斉に飛び上がり、羽音を立てながら別々の方角へ飛んでいった。

 ファインドビーたちが飛んでいくのを見届けたバアルは最初に見つけたシロラグ草を無くさないようアイテムボックスに仕舞う。


「さて、ファインドビーたちが戻るまで何もしないわけにもいかねぇし、俺たちはこの近くを探すとしよう」

「そうですね。もしかしたら運良く見つかるかもしれませんし……」


 依頼書にはシロラグ草を五つ採取するよう書かれてあったが、それ以上採取してはいけないとは書かれていなかった。

 もし多く見つけることができれば冒険者ギルドに持ち帰った時に追加報酬を得ることができるかもしれない。

 追加報酬を得られなかったとしても魔王城に持ち帰って分析や大量生産できるかを調べることができるため、バアルたちにとっては多く採取できる方が都合がよかった。

 バアルたちはファインドビーたちが戻るまでの間、最初のシロラグ草を見つけた場所から半径30m以内にシロラグ草が生えていないか探した。

 木の根元や茂みの中、岩の陰など薬草が生えそうな場所は隈なく確認する。しかしやはり数が少ないためか、なかなか見つからなかった。

 探し始めてから十五分後、バアルたちは一度集まって成果を確認する。

 休まずに探し続けたが、結局誰も新しいシロラグ草を見つけることはできなかった。


「やっぱり近くには生えてないわねぇ」

「もう少し探す範囲を広げてみたらどうでしょうか?」

「そうねぇ。でも私たちがいない間にファインドビーが戻ってきたら色々面倒なことになりそうだから、あんまり遠くには行けないのよねぇ……」


 これからどのように探索するか、リーテとランハーナは難しい顔で考え込む。

 バアルも腕を組みながら俯いて探索範囲を広げるかどうか考える。すると遠くから小さな音が聞こえ、バアルは顔を上げて音が聞こえた方を確認した。


「……どうやら他の場所を探す必要は無さそうだ」


 森の奥を見つめるバアルは意味深な言葉を口にしながら小さく笑う。

 リーテがバアルを見た後に彼が見ている方角を確認すると四体のファインドビーが飛んでくる光景が視界に入った。

 僅か十五分で戻って来たファインドビーを見てリーテは軽く目を見開く。

 三十分経つ前に戻って来たということはファインドビーたちがシロラグ草が見つけたことを意味しているため、短時間でシロラグ草を見つけてきたことにリーテは驚いていた。

 戻って来た四体のファインドビーはバアルの足元に着地する。ファインドビーの口にはバアルたちが見つけたシロラグ草と同じ物が咥えられていた。


「ご苦労だったな」


 シロラグ草を見たバアルは笑みを浮かべながら姿勢を低くし、ファインドビーたちが咥えているシロラグ草を受け取る。

 最初に見つけた物を加えると目標の五つを手に入れた。本来ならこれで冒険者ギルドに戻り、依頼を達成したことを報告するべきだが、まだ戻ってきていないファインドビーがいる。

 バアルたちはその場を動かずに残りのファインドビーが戻ってくるのを待った。

 その僅か三分後、残りのファインドビーが全て戻って来た。

 全てのファインドビーはシロラグ草を咥えており、バアルたちは目標数の倍以上である十一個のシロラグ草を手に入れた。


「す、凄い。見つけるのが難しいと言われているシロラグ草を短い時間でこんなに沢山……」


 採取が大変な薬草をあっという間に集めたファインドビーたちにリーテは目を丸くする。


「人間とモンスターとでは嗅覚や身体能力が違うからな。短時間で見つけ、採取できるのは当然だ」

「それでも冒険者や薬師が見つけるのに苦労する薬草を短時間で見つけられるのは凄いことですよ」


 今までモンスターは人に危害を加えるだけの存在だと思っていたリーテもファインドビーの働きを見て、モンスターも危害を加えるだけではないのだと考え方を改めた。

 バアルは自分の周りでホバリングしているファインドビーたちからシロラグ草を全て受け取るとアイテムボックスに仕舞った。


「よし、これで目標は達成した。あとはギルドに戻って報告するだけだ」

「これだけ早くシロラグ草を集めたんですから、ギルドの連中もきっとバアル様を高く評価してくれるでしょうね」

「まぁ、見つけたのはファインドビーたちだけどな」

「いいんですよぉ。どんな方法でも薬草を手に入れたのは事実なんですから♪」


 ご機嫌なランハーナはバアルの方を見ながら満面の笑みを浮かべる。

 確かに自分自身で採取せず、モンスターを使って集めるのは少々卑怯と言えるだろう。しかしバアルたちの目的は少しでも早く階級を上げることなので、全ての依頼を誰もが認めるやり方で完遂させる気は無かった。

 リーテもゼブルが魔王としての使命を果たすためにはSランク冒険者になる必要があることを理解しており、使命のためならモンスターを使って依頼を完遂させるのも仕方がないと思っていた。

 そもそも冒険者にはモンスターや動物を使って薬草などを採取してはならないという決まりはない。

 職業クラスの中にはビーストテイマーのようなモンスターを手懐けて戦闘や探索などを行う職業クラスもある。

 異世界ではモンスターを利用する職業クラスを持つ冒険者も存在しており、彼らはモンスターの能力などを使って依頼を完遂しているのだ。


「それじゃあ、トリュポスに戻るとするか」

「バアルさん、この子たちはどうするのですか?」


 リーテは生成されたファインドビーたちを見ながら尋ねる。このまま放置したり、森に残しておくと後々面倒なことになるため、何かしらの対処をしておかなくてはならなかった。


「心配するな、ちゃんと考えてある。……連絡コンタクト


 魔法を発動させたバアルは左手を左耳に当てる。

 リーテはバアルが使った魔法の名前を聞いて再び目を見開いた。

 バアルが使用した魔法、連絡コンタクトは下級一等魔法の一つで遠くにいる者と会話ができる魔法だ。使用者が一度でも接触した存在であれば自分からいつでも連絡を入れることができ、情報交換や救援を求める際によく使われる。

 EKTでは同盟を結んだ他のプレイヤーと連絡を取ったりするために殆どのプレイヤーが修得していた。

 連絡するだけならメールを送ればいいと思われるが、メールは文字を一つずつ入力する必要があるため、戦闘中に使えば隙ができてしまう。

 連絡コンタクトなら使用した後に電話のように会話をすればいいので戦闘中に使用しても隙はできない。

 ゼブルも戦闘で隙を作らないため、エレメントウィザードを修得する前に別の魔法職で連絡コンタクトを覚えていたのだ。

 連絡コンタクトを修得したプレイヤーが増えたことから、EKTでは何時からか連絡コンタクトを使うプレイヤーがメールを使う回数が減ったと言われるようになったくらいだ。

 異世界でも連絡コンタクトは存在しているが、特殊な魔法職を修めた者しか習得できない。しかもその魔法職は修得が難しく、異世界で連絡コンタクトを使える魔導士は少ないと言われている。

 そのため、リーテはバアルが修得が難しいと言われている連絡コンタクトを使ったことに驚いていたのだ。


「アリス、聞こえるか?」

(魔王様? どうしたの?)


 連絡コンタクトを発動したバアルが喋ると頭の中にアリスの声が響いた。


「これから魔王城に俺が雑兵生成で作ったファインドビーが十体向かう。着いたらどこか適当な部隊に配置してくれ」

(ハーイ、分かったわ)


 アリスが明るい声で返事をするとバアルは連絡コンタクトを解除する。

 バアルはシロラグ草を採取した後、生成したファインドビーを魔王城で使うためにアリスに連絡を入れたのだ。

 なぜアリスに連絡を入れたのか、それはアリスが魔将軍の中で魔王城などの拠点の防衛などを担当しているからだ。

 魔将軍はゼブルが作り出した眷属として、ゼブルがEKTの世界にいた頃から戦闘や様々なことでサポートしてきた。そんな魔将軍たちにはそれぞれ戦闘能力で他の魔将軍よりも優れている点がある。

 セミラミスは物理攻撃と魔法攻撃を使い分けた近距離と中距離の戦闘を得意としており、魔将軍の中でも“近距離・中距離戦最強”の存在となっている。

 シムスは弓矢やボウガンと言った遠距離攻撃が可能な武器を使い、更に技術スキルで自身を強化する遠距離攻撃に優れた“遠距離戦最強”の魔将軍だ。

 テオフォルスはMPが多く、魔法攻撃力と魔法防御力が非常に高い上に多くの魔法を使用できることから“魔法戦最強”の魔将軍となっていた。

 そしてアリスはHPと全ての防御力が高く、相手の状態異常やステータス低下の力が優れているため“妨害・防衛戦最強”の魔将軍なのだ。

 魔将軍は各自、得意な能力を持っており、その特化した能力では魔王プレイヤーであるゼブルを超えている。

 万が一ゼブルが魔将軍全員を一度に相手にすることになれば勝つのはほぼ不可能。ゼブル自身もそれを理解している。

 防衛と妨害が得意なことからアリスはEKTの世界ではゼブルの本拠点を守る眷属として配置されており、異世界に転移した後も魔王城の防衛と守りのモンスターの指揮を任されていた。

 バアルがファインドビーのことでアリスに連絡コンタクトを使用したのも魔王城の防衛を任せているアリスにファインドビーを任せるためだった。

 アリスへの報告を済ませたバアルは周りにいるファインドビーたちの方を見た。


「俺たちは人間の町へ行く。お前たちは魔王城へ行き、その後はアリスの指示に従え」


 バアルが指示するとファインドビーたちは一斉に高く飛び上がり、周りの木より高いところまで上昇すると魔王城がある方角へ飛んでいく。

 異世界では雑兵生成などで作り出されたモンスターたちは能力を使用した者が持つ情報を得ているため、拠点や仲間の情報を理解している。

 だからバアルが教えなくても魔王城の位置が分かるため、迷わずに移動することができた。


「さてと、俺たちもトリュポスに戻るか」


 ファインドビーたちが行ったのを確認したバアルは森の出入口に向かう。

 リーテとランハーナもバアルの後をついて行き、森の出入口へ向かった。


――――――


 森を出たバアルたちは遠くに見えるトリュポスに向かって平原の中を歩いて行く。

 薄暗く見通しの悪い森から出たとはいえ、まだ気を抜くことはできない。バアルたちはモンスターなどがいないが周囲を見回しながら移動した。


「トリュポスに戻ってギルドに行った後はどうするんです? また新しい依頼を受けますか?」


 ランハーナが依頼を完遂させた後はどうするのかバアルに尋ねる。

 早くシロラグ草が集まったことで時間に余裕ができたため、他の依頼を受けるか、それとも別のことをするのかランハーナは気になっていた。


「そうだな。まだ明るいし、Fランクの依頼があれば受けるつもりだ」


 少しでも早く昇格するためにもできるだけ依頼を受けておくべきなのでバアルはトリュポスに戻り次第、次の依頼を受けるつもりでいた。

 ランハーナも自分たちなら新しく依頼を受けてもすぐに完遂できると思っており、依頼を受けることに不満を抱いてはいない。


「依頼が無ければ宿を探しながらトリュポスの街を見て回るさ」

「街を見て回るのでしたら私が案内します。騎士団にいた頃はトリュポスの色んな所に行っていますから」

「そうか。なら任せる」


 騎士団にいた時に得た知識と経験がバアルの役に立つことをリーテは誇らしく思う。同時にバアルが行きたがっている場所にちゃんと案内できるよう気合いを入れるのだった。


「街を見て回るとしたら、まずはどのような場所がご覧になられますか?」

「まずは冒険者たちがギルド以外で集まりそうな場所を見ておきたいな。そこで冒険者たちの繋がりや評判と言った情報を得たり、他の冒険者に挨拶しておきたい」


 冒険者同士で仲を深めておけば情報を提供してくれるようになるかもしれない。冒険者として活動するためにもバアルは他の冒険者と良い関係を築くつもりでいた。

 正体を隠しているとは言え、魔王が敵になるかもしれない冒険者と友好的になるのは変だと思われるだろう。だが、魔王としての使命を果たすために必要なことであるのなら、ゼブルは迷わずに冒険者たちと絆を作ろうと思っている。

 勿論、友好的になった冒険者と命懸けの戦いを繰り広げることになった時はゼブルも魔王として容赦なくその冒険者を倒すつもりでいる。

 仲を深めた者と殺し合いをするだけの覚悟が無ければ魔王の使命を果たすことなどできるはずがない。


「冒険者が集まりそうな場所と言えば、武器屋とか宿屋、後は資料館とかですね」

「資料館?」

「トリュポスで様々な書物を置いた場所です。そこにはトリュポスや大陸の歴史、モンスターや薬草などの情報が書かれた物が沢山ありますので、冒険者たちは情報を得るためによく訪れるんです」

「資料館か……冒険者の情報を得るだけじゃなく、この世界の歴史とかを調べるためにも一度行ってみた方がいいかもしれないな」


 異世界に転移して日が浅いとは言え、バアルは未だに異世界の歴史や国家の情報に疎い。

 今後冒険者として活躍するため、そして魔王ゼブルとして使命を果たすためにも一度資料館へ行っておくべきだと考えるバアルは真剣な表情を浮かべた。


「冒険者が集まる場所は分かった。……次は宿屋について教えてくれ。安くてFランク冒険者でも問題なく泊まれる宿屋ってのはあるのか?」

「そうですね……トリュポスには多くの宿屋がありますけど、一番良さそうなところは……」


 リーテは顎を親指と人差し指で挟みながら考える。そんな時、バアルたちが進む方向から高い鳴き声が聞こえてきた。

 鳴き声を聞いたバアルたちは一斉に立ち止まった。


「今の!?」

「トリュポスの方からだな」


 バアルたちが鳴き声が聞こえた方を見ると数百m先にトリュポスの北門が見え、その手前で大勢の人間が集まっているのが見える。ただその中で周りの人間たちよりも体の大きい何かが暴れるような動きをしていた。

 今まで聞いたことのない鳴き声や動いている何かを見てリーテは何か嫌な予感がし、深刻そうな表情を浮かべる。

 バアルとランハーナは状況からモンスターがトリュポスの北門前にいるのだと確信していた。ハッキリと姿は確認できないが、影の動きから凶暴なモンスターだと予想する。


「バアル様、とりあえず行ってみますか?」

「ああ、そうだな」


 これからトリュポスに戻るのに北門の前でモンスターに暴れられては迷惑だ。バアルは何が起きたのか確かめるため、北門に向かって走り出す。

 リーテとランハーナも遅れて走り出し、トリュポスの北門へ全速力で向かった。


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